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【多発性脳梗塞+片麻痺】レポート・レジュメの作成例【実習】

2021年12月22日

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・看護師を目指す学生に向けた、レポート・レジュメの作成例シリーズ。

今回は、「多発性脳梗塞+片麻痺」の患者のレポート・レジュメです。

実習生にとって、レポート・レジュメの作成は必須です。

しかし、書き方が分からずに寝る時間がほとんどない…という人も少なくありません。

当サイトでは、数多くの作成例を紹介しています。

紹介している作成例は、すべて実際に「優」の評価をもらったレポート・レジュメを参考にしています(実在する患者のレポート・レジュメではありません)。

作成例を参考にして、ぜひ「より楽に」実習生活を乗り切ってください!

 

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今回ご紹介するレポートの患者想定

 

今回ご紹介する患者想定

  • 病院に入院中
  • 多発性脳梗塞

  • 左片麻痺,構音障害を呈する

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多発性脳梗塞+片麻痺のレポート・レジュメ作成例

A.症例紹介

【患者氏名】

【年齢】歳代

【利き手】右手  

【疾患名】新鮮脳梗塞(橋右側)、多発性陳旧性脳梗塞

【障害名】左片麻痺、構音障害

【合併症】左水腎症、頸髄症、外痔核、屈折異常(眼科)、便秘症

【現病歴】〇〇年〇〇月〇〇日起床時呂律不良、左上下肢の脱力が出現した。かかりつけのA病院に相談したところ脳梗塞が疑われたため、救急車を要請し来院となった。外来での頭部MRI上、橋に脳梗塞を認めたため、精査・加療目的にて同日B病院急性期病棟入院となった。

【既往歴】

〇〇年 尿管結石→尿管切除術

〇〇年 頚椎性頸髄症

〇〇年 白内障

〇〇年 尿失禁→内服治療中、腰椎椎間板ヘルニア

【主訴】左手と左脚が思うようにならない。重たい感じ。言葉がうまく話せないからもどかしい。

【患者のニード】左手足をうまく使えるようになりたい。思うように喋りたい。歩きたい。

【趣味】旅行

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B.社会的情報

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【家屋状況】

・一戸建て(2階)、住宅改修歴有り(段差解消、階段の蹴上げ低くする等)

・玄関:上がりかまちの段差ほとんど無し、手すり有(玄関に入って右側)

・主な居室:1階居間(トイレには廊下の突き当たりまで数メートル距離)

・寝室:トイレに一番近い6畳間に布団を敷いている

・トイレ:洋式

・廊下幅:内法寸法95cm

【自宅周辺の環境】

・坂道なし、住宅街で交通量多い

【病前の1日の生活習慣、果たしていた社会的役割】

・地域の役員として8年間活動

・飲酒習慣…1合×60年

・喫煙習慣…歳~禁煙

【発病前の状態】

・元々、動作が鈍い感じだった。

・運動量:週2回、かかりつけの病院へ通院のため近くのバス停まで徒歩で移動。

 

C.医学的所見

【診断名】新鮮脳梗塞(橋右側)、多発性陳旧性脳梗塞

【MRI所見】

(所見)拡散強調画面にて、橋右側に明瞭な高信号域を認め、新鮮梗塞の所見。その他、

両側基底核、大腦白質、視床、橋等に多数の陳旧性梗塞巣を認める。MRAで右椎骨動脈の描出が見られぬが、おそらく元々低形成と思われる。また右後大脳動脈近位部に高度狭窄を認める。

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【薬剤状況】

・「ザイロリック錠」100mg1日2回朝・夕食後

<作用>尿酸の生合成を抑制し、血中尿酸値及び尿中尿酸値を低下させる。また、主代謝物であるオキシプリノールもキサンチンオキシダーゼ抑制作用を有する。

<副作用>〈重大〉1)発熱、発疹に続き肝障害、腎機能異常等が認められ、さらにStevens-Johnson症候群等の重篤な発疹が出現2)Stevens-Johnson症候群、Lyell症候群、剥脱性皮膚炎3)発熱、悪寒、頻脈、皮疹、白血球増多、肝障害、腎機能異常等を伴う過敏性血管炎4)再生不良性貧血、無顆粒球症、汎血球減少5)腎不全、腎不全の増悪6)間質性肺炎(発熱,咳嗽,呼吸困難等)

 

・「メチコバール錠」500mg1日3回朝・昼・夕食後

<作用>生体内メチル基転移反応の補酵素として核酸やリン脂質の代謝に関連し、末梢性神経障害における神経の修復、再生機構に有用

<副作用>〈重大〉[注]アナフィラキシー様反応(血圧低下、呼吸困難等)

 

・「ユベラNソフトカプセル」200mg2Cap1日2回朝・夕食後

<作用>ビタミンEとニコチン酸とをエステル結合させた誘導体であり、微小循環系賦活、脂質代謝改善、血管強化、血小板凝集抑制、血中酸素分圧上昇などの作用があり、臨床的には高血圧症、動脈硬化症を基礎疾患とした循環器疾患で血行障害に伴う症状の改善及び脂質代謝異常の改善に有効である。

<副作用>1)消化器(食欲不振,胃部不快感,胃痛,悪心,下痢,便秘) 2)過敏症(発疹)

 

・「バイアスピリン錠」100mg 2錠1日2回朝・夕食後H18.2.13~23まで

 

・「リピトール錠」10mg1錠1日1回夕食後

 

・「ガスターD錠」20mg1錠1日1回夕食後

<作用>胃粘膜壁細胞のヒスタミンH2受容体に拮抗することにより強力かつ持続的な胃酸分泌抑制作用を示す。消化性潰瘍の攻撃因子である塩酸並びにペプシン分泌を抑制することにより、粘膜防御因子を相対的に優位にすると考えられている。

<副作用>〈重大〉1)ショック、アナフィラキシー様症状2)汎血球減少、無顆粒球症、再生不良性貧血〈重大(類薬)〉1)皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、中毒性表皮壊死症(Lyell症候群) 2)間質性腎炎3)不全収縮

 

・「コバシル錠」4mg1錠1日1回朝食後

<作用>プロドラッグであり、経口吸収後ジアジド体(ペリンドプリラート)に加水分解され、降圧作用はACEの特異的阻害によるアンジオテンシンⅡを介する昇圧系の抑制とキニン類を介した降圧系の増強によるものと考えられる。

<副作用>〈重大〉1)血管浮腫(呼吸困難を伴う顔面、舌、声門、喉頭の腫脹) 2)急性腎不全

 

・「バップフォー錠」2錠1日1回夕食後

<作用>平滑筋直接作用及び抗コリン作用を有し、主として平滑筋直接作用により排尿運動抑制作用を示すと推定

<副作用>〈重大〉1)急性緑内障発作(眼圧亢進から急性緑内障発作を惹起:嘔気,頭痛を伴う眼痛,視力低下等) 2)尿閉3)麻痺性イレウス(著しい便秘,腹部膨満等) 4)幻覚・せん妄5)腎機能障害(BUN,血中クレアチニン上昇)〈重大(類薬)〉AVブロック・心室性頻脈〔外国で類似薬(塩酸テロジリン)により徐脈,QT延長,AVブロック,心室性頻拍の報告〕

 

【生化学検査】

検査項目

検査値

基準値

意義

GOT(AST)

29IU/l

13~33 IU/l

肝臓や心筋・骨格筋・赤血球などに多く含まれる酵素。GPTの値と比較しながら疾患を推測。

GPT(ALT)

24 IU/l

6~30 IU/l

GOTと同じく殆どの臓器組織細胞中に分布している酵素。特に肝臓、次いで腎臓の細胞内に多く含まれている。GOTに比べて肝障害に特異性が高い。

LDH(乳酸脱水素酵素)

141 IU/l

119~229 IU/l

エネルギー代謝に関する酵素で全身の細胞に存在。どの臓器が損傷しても活性値が上昇。

ALB

3.4g/dl

4.0~5.0g/dl

 

CPK(CK)

51 IU/l

62~287 IU/l

動物が持つ酵素で、筋肉の収縮の際にエネルギー代謝に関与。骨格筋や心筋など興奮性を持つ細胞に分布。

CRP

7.6mg/dl

0.1~0.2mg/dl

1mg/dl以上は細菌感染症。リウマチ、悪性腫瘍、心筋梗塞、外傷など。

【他部門からの情報】

<Dr.>

・症状:5日目辺りで進行しているような状態だったが、その後落ち着いた。〇〇年〇〇月〇〇日のMRI所見で梗塞の拡がり無しと判断。

・治療:〇〇年〇〇月〇〇日まで点滴

・全身状態:特に問題なし。

・訓練施行上の注意点:特に禁忌事項無し。

 

<Nrs.>

・病棟実行ADL:車椅子(介助移動)、独りでベッド以外の場所へ自由に行く許可下りず薬、着替えは部分介助、入浴はしておらず清拭(タオルを渡せば自分で行うが、清拭を拒否することも度々)、トイレ動作は移乗は自立、衣服着脱は部分介助、後始末(ペーパーで拭く)は自立。薬によるコントロールで失禁なし。

・異常行動:無し

・看護目標:いずれ転院予定。それまでにリハビリテーションによるADL向上。

 

<ご家族>

・歩けるようになって欲しい。左麻痺が治って欲しい。

 

D.理学療法評価

【全体像】

・身長:cm

・体重:kg

・BMI:20.1

・血圧:収縮期血圧140mmHg、拡張期血圧69 mmHg

・脈拍数:85回/分

・性格:心を許した相手に対してはお話し好き。知的でしっかりした性格。リハビリテーションに対して積極的。焦らず無理せずじっくり取り組むお考えである。

・食生活:出された食事はきちんと召し上がる

・睡眠:7~8時間

・コミュニケーション:疲れている時以外はよくお話しされる。ご自分の興味のある分野の話だと盛り上がる。病棟では周りの患者様達とはあまり話されていない様子。

・知能状態:改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)13点/30点満点

 ※疲労しやすく、検査に対する患者様の協力があまり得られなかった。日頃の会話から、知能状態はかなり良いと推測されるので、この点数の信憑性は低いと思われる。

・障害老人の日常生活自立度(寝たきり度)判定:ランクB-2

屋内での生活は何らかの介助を要し、日中もベッドでの生活が主体であるが、坐位を保つ。介助により車椅子に移譲する。

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【検査・測定】

<Brunnstrom stage>

・上肢:stageⅤ…(分離運動が全般的に出現しているが、スムーズにはいかないためⅤと判断)

・下肢:stageⅣ…(分離運動が一部出現しているのでⅣと判断)

・手指:stageⅣからⅤへの移行期…(対向つまみができる指が数本あるので移行期と判断)

※assessment:発症後2週間でこのStageなら軽症の脳梗塞であると思われる。

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<四肢周径>

四肢周径

右側

左側

上腕(肘屈曲位)

26cm

24cm

  (肘伸展位)

23.2cm

23.5cm

前腕(最大部)

22cm

21.5cm

  (最小部)

15.5cm

15.5cm

膝蓋骨上縁

32.5cm

32.5cm

   5cm

34cm

33.5cm

   10cm

36cm

36.3cm

   15cm

38.9cm

39cm

下腿(最大部)

28.5cm

27.8cm

  (最小部)

19.5cm

18.5cm

※assessment:右(非麻痺側)に比べ、左(麻痺側)の上腕二頭筋、内側・外側広筋、腓腹筋において多少の筋萎縮が考えられる。今後廃用性症候群でさらに萎縮していく恐れがあるため予防が重要である。

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<関節可動域検査>

(単位 ゜) 疼痛:P       

  

参考角度

肢位

股関節

屈曲

125

125

105P

背臥位

 

伸展

10

15

15

腹臥位

 

外転

10

45

25

背臥位

 

内転

15

20

30

背臥位

 

外旋

40

45

40

背臥位

 

内旋

15

45

15

背臥位

膝関節

屈曲

130

130

130

背臥位

 

伸展

0

0

0

背臥位

足関節

底屈

75

45

65

背臥位

 

背屈

15

20

15

背臥位

肩甲帯

挙上

20

20

20

坐位

肩関節

屈曲

180

180

150

背臥位

 

伸展

50

50

55

坐位

 

外転

180

180

130

背臥位

 

内転

0

0(75別法)

0

背臥位

 

外旋

80

90(第2肢位)

80

背臥位

 

内旋

80

70(第2肢位)

80

背臥位

肘関節

屈曲

145

145

145

背臥位

 

伸展

5

背臥位

前腕

回内

90

90

85

背臥位

 

回外

90

90

90

背臥位

掌屈

90

90

90

背臥位

 

背屈

70

70

70

背臥位

 

橈屈

25

25

25

背臥位

 

尺屈

55

55

35

背臥位

※assessment:左側(麻痺側)上肢の前方・側方挙上に可動域制限がみられる。また、両股関節の外転にも可動域制限がみられる。

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<MMT>
 

運動方向

肢位

肩甲骨

挙上

坐位

 

内転

腹臥位

 

下制と内転

腹臥位

 

内転と下方回旋

坐位

 

外転と上方回旋

坐位

肩関節

屈曲

坐位

 

伸展

腹臥位

 

肩甲骨面挙上

坐位

 

外転

坐位

 

水平内転

背臥位

 

外旋

腹臥位

 

内旋

腹臥位

肘関節

屈曲

坐位

 

伸展

腹臥位

前腕

回外

坐位

 

回内

坐位

手関節

屈曲

坐位

 

伸展

坐位

体幹

屈曲

背臥位

 

伸展

腹臥位

 

回旋

背臥位

股関節

屈曲

坐位

 

伸展

腹臥位

 

外転

側臥位

 

内転

側臥位

 

外旋

坐位

 

内旋

坐位

膝関節

屈曲

腹臥位

 

伸展

坐位

足関節

背屈

坐位

 

底屈

立位・腹臥位

 

外がえし

坐位

 

内がえし

坐位

※assessment:全体的に左側(麻痺側)の上下肢に筋力低下が見られる。ただしStageⅣ、Ⅴ(前半)では抵抗を加えるほど力があるように見えるとの説があるので、今回の結果が随意的な筋収縮のみにより発揮された筋力とは言い切れない。体幹筋力の数値が際立って低いとの印象を受けるが日頃の坐位姿勢の安定性から考えると検査時の疲労の影響もあると思われる。

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<感覚検査>
〔表在感覚〕

触覚:はけを使用し、長軸方向に沿ってなでて検査。右側を10とした場合麻痺側(左側)はどれくらいで感じるのか答えてもらった。

 

〔深部知覚〕

運動覚:手指や足趾を上下に動かして検査。5回行って何回正しかったか答えてもらった。

検査部位

 右(/5)

判定

 左(/5)

判定

手指Ⅰ

  5

  正常

  5

  正常

  Ⅱ

  5

  正常

  5

  正常

  Ⅲ

  5

  正常

  5

  正常

  Ⅳ

  5

  正常

  4

  正常

  Ⅴ

  5

  正常

  2

  鈍麻

足趾Ⅰ

  5

  正常

  4

  正常

  Ⅱ

  5

  正常

  4

  正常

  Ⅲ

  5

  正常

  4

  正常

  Ⅳ

  5

  正常

  3

  鈍麻

  Ⅴ

  5

  正常

  4

  正常

※assessment:左(麻痺側)の手指Ⅴと足趾Ⅳが感覚鈍麻との結果になっている。また、左(麻痺側)下肢は全体的に正常域とはいえ正解4回が多いので、歩行時のバランスに影響を与えると考えられる。

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<反射検査> 

量的変化、質的変化を確認し、陽性(+)、疑わしい(±)、陰性(-)

※assessment:全体的に麻痺側(左上下肢)の反射がみられるが、亢進しているわけではない。もともと反射が出にくいが、錐体路障害により多少出やすくなっていると考えられる。

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<筋トーヌス>

静止時(被動性検査)背臥位

上肢:伸展時、左側に筋緊張の軽度の亢進が認められる。

下肢:伸展時、左側に筋緊張の軽度の亢進が認められる。

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<脳神経検査>

・視神経:正常

・動眼、滑車、外転神経:眼球運動に異常見られず、眼振も無し。

・三叉神経:感覚検査…正常、運動機能…噛合時の咬筋の動きは正常、開口時の下顎の偏倚無し。

・顔面神経:顔つき…左右対称、運動機能…上顔面筋の動きに異常無し、下顔面筋の動きも正常。

・聴神経:Rinne試験…正常。

・舌咽、迷走神経:軟口蓋・咽頭のカーテン徴候無し。

・副神経:上部僧帽筋の試験…正常。胸鎖乳突筋の検査…正常。

・舌下神経:舌の萎縮など異常無し。

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<高次脳機能検査>

「失行」

・肢節運動失行:食事の際、箸がうまく使用できていたので正常と判断。

・観念運動失行:じゃんけんのチョキができたので正常と判断。

・観念失行:はさみをうまく使えたので正常と判断。

・構成失行:自宅の間取り図を上手に描いていたので正常と判断。

・手指構成失行:キツネを手で模倣することができたので正常と判断。

・失算:HDS-Rにて計算できていたので正常と判断。

 

「失認」

・相貌失認:家族・スタッフの顔を認識しているので正常と判断。

・半側空間失認:線分二等分試験で正常と確認。

 

「身体失認」

・左右弁別障害:左手を右目に持ってくるよう指示、できたので正常と判断。

・身体部位失認:右手を左肩に置くよう指示し、できたので正常と判断。

・手指失認:自分の環指をPTSの環指に持ってくるよう指示、できたので正常と判断。

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<協調運動障害テスト>

・立位での全体像

「Romberg徴候」:開眼30秒、閉眼15秒→陽性

 

・四肢の運動失調一般試験

「鼻指鼻試験」:正常

「踵膝試験」:正常

 

・測定異常

「Arm stopping test」:示指を耳朶まで持ってくることができたので、正常

 

・反復拮抗運動不能

「手回内・回外試験」:左右差があったが(右が速い)、左片麻痺であることと、右手が利き手であることによる。

 

・運動分解

「示指―耳朶検査」:陰性

 

・協働運動不能・協働収縮異常テスト:リスクを考慮し検査せず

 

・書字試験

「大文字症」:陰性

「小文字症」:陰性

 

・スチュアートホームズ反張現象:陰性

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<バランス検査>
座位バランス

静的バランス(ベッドで端坐位)近位監視 自立レベル

・前額面

頭部・体幹ともに重心は正中線上に位置しているが、肩の高さは左側が2横指程下がっている。両足・両膝は開いており、体重は左右均等にかかっているように見受けられる。

・矢状面

頭部伸展・頚部軽度屈曲にて首をやや突き出したような格好となっているが、体幹は伸展している。両側上肢は大腿遠位部上に置いていたが時間経過とともにベッド上へ移動させたり挙上させたりしている。両肩は股関節上に位置する。頭部・体幹に動揺はみられない。

※assessment:無理な筋緊張が起きることもなく、坐位におけるバランスは安定していると感じた。両手を自由に動かしても何らバランスを崩す様子は無かった。左肩がやや下がっているのは麻痺の影響と考えられる。ただし重心線は正中を通っているので、坐位の支持基底面があれば麻痺により重心を偏らせるような影響は無いと思われる。

 

Push test(前後左右)

・前方へと骨盤に外乱…両上肢を後方挙上し平衡反応を示す。頭部・体幹は後方へと伸展させ立ち直り反応を示した。バランスを崩すには至らなかった。

・後方へと骨盤に外乱…両上肢を後方挙上し平衡反応を示す。頭部・体幹は前方へと屈曲させ立ち直り反応を示す。

・左側(麻痺側)へと骨盤に外乱…体幹の立ち直り反応、右上下肢側方挙上による平衡反応を示す。左上肢(麻痺側)での保護伸展反応も出現。

・右側(非麻痺側)へと骨盤に外乱…立ち直り反応は確認できず、最後に右上肢(非麻痺側)での保護伸展反応が出現。外乱に対する立ち直り反応や平衡反応はよく出ていた。ただし左上下肢において立ち直り反応が無いのは、麻痺の影響だと思われる。また、前方から後方への外乱に対し、平衡反応が後方に出るのは不自然である。おそらく自然な反応ではなく、本症例が「バランスをとろう」と意識することにより随意的に出現したものと考えられる。

 

能動的バランス(前後左右)

・前方へと能動的に重心移動…頭部の伸展による立ち直り反応を示し、両上肢を後方挙上させた平衡反応を示す。

・後方へと能動的に重心移動…頭部屈曲による立ち直り反応を示し、両上肢前方挙上させた平衡反応を示す。

・左側(麻痺側)への能動的重心移動…頭部・体幹を右に側屈させて立ち直り反応を示し、右上下肢を側方挙上させて平衡反応を示した。

・右側への能動的重心移動…頭部・体幹を左に側屈させて立ち直り反応を示し、左両上肢を側方挙上させて平衡反応を示した。

※assessment:麻痺側にも立ち直り反応が出現している。外乱(Push test)に対しては立ち直り反応が無かったことを踏まえて考えると、相対的に外乱より重心動揺が少ないことと、運動麻痺が軽度であることで出現したのではないか。

 

立位バランス(平行棒内、近監視)

静的バランス:25秒立位保持可能

平行棒内では安定している。

・前額面

後頭隆起・椎骨棘突起・殿裂・両側膝関節の内側中心・両内果間の中心を通る線がほぼ直線上にある。股関節軽度外転・軽度外旋により足部が10cm程離れている。

・矢状面

頚部軽度屈曲・体幹軽度屈曲・股関節軽度屈曲・軽度反張膝によりやや前傾姿勢を取る。耳垂を通る重心線が肩峰・大転子・膝関節前部・外果2cm前方を直線で結ばれると正常だが、本症例では肩峰約4横指後方、大転子約横指後方、膝関節前部8横指後方、外果2cm前方は7横指後方を通っており、重心が前に傾いていることが分かる。

※assessment:足部を開き支持基底面を広げることで立位の安定を図っていると思われる。前傾姿勢をとっているは、左側運動麻痺と、体幹・股関節周囲・足部・足趾での協調したバランス機能の衰えと、抗重力筋である脊柱起立筋の筋力低下によるものと思われる。それらを平行棒の把持で代償し、立位保持に至っている。

 

Romberg試験:開眼では30秒保持

バランスはやっと保っている感じで安定感は感じられない。閉眼では15秒保持。バランスを崩すとすぐ平行棒を握れるように手は平行棒の際まで近づけている状態。安定感は感じられない。

 

片足立ち試験:両側とも0.5秒ほどですぐバランスを崩した。左下肢での片足立ちはより不安定だった。

 

Push test(前後左右):リスクを考慮し行わず。

 

能動的バランス(前後左右):リスクを考慮し行わず。

 

機能的バランス

Functional Balance scaleFBS

端坐位からの立ち上がり:手を使用して一人で立ち上がり可能→3点

立位保持:数回の試行にて30秒間立位保持が可能→1点

坐位保持(両足を床に着け、もたれずに座る):安全に2分間の坐位保持可能→4点

着座:一人で座れるがしゃがみ込みを制御できない→1点

移乗:言語指示、あるいは監視下にて移乗が可能→2点

閉眼立位保持:監視下にて10秒間、閉眼立位保持可能

閉脚立位保持:自分で閉脚立位ができ、監視下にて1分間立位保持可能→3点

上肢前方到達:リスクを考慮し行わず→0点

床から物を拾う:リスクを考慮し行わず→0点

左右の肩越しに後ろを振り向く:振り向く時に監視が必要→1点

360度回転:回転中介助が必要(平行棒内で監視下にて行うのでこれに該当と判断)→0点

段差踏み越え:転倒を防ぐための介助が必要、または施行困難→0点

片足を前に出して立位保持:足を出す時、または立位時にバランスを崩す→0点

片脚立ち保持:検査施行困難、または転倒を防ぐため施行せず→0点

得点18点(/56点)

 

※急性期脳卒中患者のカットオフ値

家庭復帰:45.0~45.3点

一般病院からリハビリテーション病院への転院:27.3~32.9点

一般病院にとどまり:8.1~19.5点

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<動作分析>
寝返り

麻痺側への寝返り:背臥位→腹臥位 自立レベル

<第1相>(背臥位→麻痺側が下の側臥位)

頭部左回旋にて進行方向を向き、右肩甲帯前方突出、肩関節屈曲・内転・内旋により左上肢を超えて台に手をつく。右股関節軽度屈曲・内転・内旋と右膝関節屈曲にて足底で床を蹴り、右側骨盤の挙上および左回旋に持っていく。右肩関節の一層の内転・屈曲により肩関節から体幹のねじれが始まり全体へと拡がっていく。

<第2相>(側臥位→腹臥位)

右全腕が台上に前面着き、左上肢は体幹の下敷きにならぬよう左肩関節屈曲していく。続けて骨盤の回旋がさらに起こっていき、右股関節屈曲・右膝関節屈曲位のまま右下肢が左下肢を乗り越え台の上まで運ばれる。腹臥位になると同時に左上肢が体幹下から引き抜かれて終了。

※肩関節から体幹のねじれが骨盤へと拡がっていったのは、非麻痺側上肢により頭部・体幹の回旋を先行させ、その後非麻痺側下肢で骨盤を押し回す力を用いたためと考えられる。左上肢が体幹に巻き込まれなかったのは、麻痺が軽度であり多少の随意性がみられるためと考えられる。

 

起き上がり

非麻痺側への起き上がり:背臥位→長坐位 自立レベル

<開始肢位>背臥位。頭部軽度右回旋、右肩関節軽度外転・外旋、右股関節軽度外転・外旋で進行方向につま先が向きかけている。左肩関節軽度外転・肘関節軽度屈曲。左肩甲帯は軽度後退により麻痺側上肢がやや下がっている。左股関節伸展、左膝関節軽度屈曲位。

<第1相>(背臥位→肩肘をつくまで)

頭部をさらに右に回旋させつつ、右肩関節の外転角度を広げていき、左股関節軽度屈曲・内転、内旋および左膝関節軽度屈曲させて、左下肢を右下肢上まで持っていく。それにより骨盤の右への回旋が起こり、体軸のねじれが生じ始める。側臥位になるとともに右肩関節を内転して上肢を引き寄せ、右肘屈曲により肘をつく。側臥位を安定させるため両股関節・膝関節は屈曲位。

<第2相>(右体幹が下の側臥位で右肘をつく→起き上がり)

頭部の移動方向が右回旋から起きあがる左方向に切り替わる。右肘関節に重心をのせ、左肩関節外転・軽度屈曲にて起きあがる方向へと挙上。両股関節外転・両膝軽度屈曲にて一旦反動をつけるように側方に両下肢を挙上した後、体幹の力と右肘の力により体幹左側屈、そのまま起きあがっていく。頭部左回旋、体幹左回旋、左股関節外転・屈曲、左膝関節屈曲しながら左下肢を台の上につき終了。

※assessment:はじめは麻痺側である左肩甲帯が後退したままの開始で左上肢が残っていたが、左下肢の進行方向への動きによる骨盤の回旋と、挙上された下肢の重みにより左上肢をうまく右側へ運んでいる。意識して麻痺側をはじめに進行方向に持っていくようにすれば効率が上がると考えられる。

 

立ち上がり

平行棒内 車椅子坐位からの立ち上がり 自立レベル

<第1相>(車椅子坐位→重心を前方移動し足部へ荷重していく相)

両上肢は平行棒を把持している。頭部・体幹を屈曲させていき、両上肢で平行棒を引くようにして重心を前方移動して足部へ荷重していく。このとき足部は後ろに引いたりする動きはない。膝関節も軽度屈曲にとどまる。

<第2相>(重心を上方へ上げていく相)

頭部・体幹を伸展させ、股関節伸展・膝関節伸展させて身体を起こしていく。このとき両上肢によっても体幹を上方に引き上げる。

※assessment:両上肢で平行棒を把持することにより、体幹バランスを安定させ、立位に至るのに必要な下肢筋力の不足を補っていると考えられる。

 

移乗動作

車椅子からベッドへの移乗 近位監視 自立レベル

ベッドに対して車椅子は右側に止めている状態から始める。両側上肢は左右のアームレストをそれぞれ把持している。頭部・体幹を屈曲するとともに膝関節屈曲していき重心を前方へと移動させていく。両肘関節を伸展させつつ体重をさらに前方へ持っていき、右上肢をベッドの遠位におく。その直後、右下肢を斜め前方へずらし、体幹を左に回旋させてベッドに対して背を向けていく。股関節屈曲・膝関節屈曲・足関節背屈をしながら急速に殿部をベッドに降ろす。

ベッドから車椅子への移乗 近位監視 自立レベル

ベッドに対して車椅子は左側に止めている状態から始める。頭部・体幹前傾し、両上肢で遠位アームレストを把持する。両上肢で把持したまま、頭部・体幹の前傾をさらに行って重心を車椅子の方向へ移していく。同時に体幹の左回旋を行い、足底を軸にして身体全体を回していき、車椅子に対して背を向ける。左上肢を左のアームレストに持っていき把持。そのまま股関節屈曲・膝関節屈曲および足関節背屈を続けていき、殿部を急速に座面に降ろす。

※assessment:両上肢でアームレストを把持したまま移乗するのは、下肢筋力の低下による不安定性を上肢での代償で補っているからだと思われる。また、腰を降ろす際に急激に殿部が着床するのは、下肢筋力の低下により遠心性収縮ができず、重力の影響を大きく受けているからだと考えられる。

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<歩行分析>

平行棒内 近位監視レベル

頭部・体幹を軽度屈曲させやや前傾気味である。両上肢にて平行棒を把持している。視線は前下方に向けられている。前額面において重心線はほぼ正中を通っている。両上肢を交互に前方へと滑らせながら歩行開始。

左側(麻痺側)のheel contactは一瞬見られるものの背屈角度がほとんどなく、即座にfoot flatに移る。double knee actionがないままmid stanceへ移行し、ロッキングを呈する。heel off時、左下肢は十分な蹴り出しが見られない。左への重心移動が十分に行われないまま右下肢が振り出される。歩隔は狭い。右下肢もほとんど背屈がなされずheel contactの時間は短い。左下肢遊脚初期、背屈がほとんどないため左骨盤軽度挙上・左回旋、股関節軽度屈曲・軽度外転・軽度外旋によるひきずり歩行を呈する。左右の立脚相を比較すると、左下肢における立脚相のほうが短い。

※assessment:左側のheel contactがほとんど無いのは、麻痺による随意性低下で背屈がしにくいためだと思われる。double knee actionが見られないのは、股関節と膝関節の動きの協調性が低下しているためと考えられる。これは歩容に全体的に滑らかさがなくなる一因ともなっている。また、左側膝のロッキングの影響で蹴りだしが弱いため歩行に勢いが無くなっていると思われる。そのため重心移動がスムーズにいくよう体幹前傾にて代償し、前後の体幹の動揺を伴っていると考えられる。

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<ADL評価>

FIM運動項目

セルフケア:食事→7点、整容→5点、清拭→4点、更衣・上半身→3点、更衣・下半身→2点、トイレ動作→4点  

排泄:排尿管理→7点、排便管理→7点、移乗:ベッド・椅子・車椅子→4点、トイレ→4点、浴槽・シャワー→1点、移動:歩行・車椅子→1点、階段→1点

 

FIM認知項目

コミュニケーション:理解→7点、表出→6点  

社会的認知:社会的交流→7点、問題解決→7点、記憶→7点  

得点84点(/126)

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【問題点抽出】

Impairment(機能障害)

#1左上下肢の随意性低下

#2左上下肢の支持性低下

#3体幹筋力の低下

#4右股関節の周囲筋群の筋力低下

#5左上下肢の筋緊張の軽度亢進

#6左肩関節ROM制限

#7左足趾の運動覚鈍麻

#8肩甲帯の筋力低下

 

Activity limitation(活動制限)

#9立ち上がり能力の低下(近位監視)…#1、#2、#3、#4

#10移乗動作能力の低下(近位監視)…#1、#2、#3、#4

#11立位バランスの低下(平行棒内、近位監視)…#1、#2、#3、#4、#7

#12歩行能力の低下(平行棒内、近位監視)…#1、#2、#3、#4、#7

#13 トイレ動作困難(一部介助)…#1、#2、#3、#4、#11、#12

#14更衣動作困難…#1、#5

#15入浴動作困難…#1、#2、#3、#4、#7

 

Participation restriction(参加制約)

#16活動範囲の狭小化による活動制限(ベッド上のみフリー)

#17家庭復帰困難

 

Environmental Factors(環境因子)

#18病室前の廊下の傾斜

#19自宅に階段がある

#20自宅のトイレは居間から離れている

#21自宅周辺は交通量が多い

 

Personal Factors(個人因子)

#22 頚髄症の後遺症(表在感覚鈍麻)

 

【目標設定】

短期ゴール(2week)

・移乗動作自立(監視なし)

・立ち上がり能力向上-安全性・安定性・耐久性・遂行時間(平行棒内)

・歩行器による歩行自立

・トイレ動作自立(ベッドサイドのポータブルトイレにて)

 

長期ゴール(4week)

・立ち上がり自立(手すり)

・歩行器による歩行自立

・3脚杖歩行(近位監視)

・トイレ・更衣動作の自立、入浴(一部介助)にてスタート

 

【理学療法プログラム】

■ROMex(passive)

一箇所につき5回、1日2回、週5回

<目的>①正常な筋緊張の維持 ②軟部組織の癒着防止 ③関節拘縮の防止 ④循環改善 ⑤固有受容覚刺激による筋再教育

すでに制限のある(股関節・肩関節)は重点的に行う。自己他動もすすめる。骨の関節包内運動に留意する。→#6

 

■SLR運動(約10°)

左右交互に10回×2セットから始める、1日1回、週5回以上

<目的>左下肢の支持性低下および股関節周囲筋筋力低下にアプローチするために行う。大腿四頭筋のみならず腸腰筋、腹筋にも関係する。また、足部との協調も求められる。

うまく出来ないときは足関節と第1趾を背屈しながら行わせる。筋力は、通常12~20週の継続的運動で最大に達し、その後は1週に1回の割合で最大等尺性収縮訓練を続ければ、ほぼ最大レベルに維持される。12週未満で訓練を中止した場合には、その後急速な筋力低下をきたす、との報告がある。もし退院になっても12週まではホームプログラムとしてやって頂く必要がある。→#3、#4

 

■肘をついた側臥位における風船蹴り 

左右各10回×1セットから始める、1日1回

<目的>支えている側の中枢部の固定能力が増し、結果的に体幹の回旋や対側肢の運動性を向上させることができる。このことは肩甲帯の動きを伴った固定の改善にもつながる。

開始肢位はPTSが誘導し、安定させる。

体重を支えている右側は抗重力伸展活動を要求され、その完成度によって左下肢の運動範囲や巧緻性は影響を受ける。坐位・立位と同じく肘をついた側臥位でも荷重による効果は同じである。→#1、#2、#3、#4

 

■腰掛位からの立ち上がり練習

5回×4セットから始める、1日1回、週5回

<目的>立ち上がり実用性の向上・自立

立ち上がりの時にはバランスを失いやすく、概して立位保持も難しい。したがって歩行練習と平行して行う。一足下肢をやや後方に引き、腰を少し前に出しておく。下肢は肩幅程度に開脚し、重心が前方に移動しやすいように導く。平行棒または肋木に両手でつかまり頚部が伸展せぬよう注意しながら上半身をやや前方に倒し、重心を殿部から両下肢に移しながら立ち上がる。足元は見ないよう胸を張って立つ。はじめは平行棒または肋木につかまって行うが、平行棒・肋木に頼ることを徐々に減らしていき、つかまらずに立ち上がれるようにもって行く。この際、はじめは椅子の高さよりも高いところから立ち上がるほうが楽であり、次第に高さを低くしていく。注意点として、動作全体にわたって対称的姿勢の保持と、十分な麻痺側下肢への荷重が得られるようにする。→#2、#3、#4、#10

 

■平行棒または肋木につかまっての立位バランス訓練 

前後左右へ重心移動を各1回×2セットから始める、1日1回、週5回

<目的>立位バランス能力の向上

平行棒または肋木につかまって立ち、両足を軽く開き、体重を出来る限り左右均等にかけるようにする。平行棒にしがみつかず、軽く触れるだけで、殆ど両足だけで立っていられるような状態を目標に練習する。能動的に前後左右に身体を揺らしたり、上半身を左右に回旋させたりすることも練習する。安定してきたらPTSによる外乱や、ボールを下肢で転がす練習も加えていく。非麻痺側に荷重して麻痺側の骨盤を挙上する動きの能力向上は、歩行速度を速くし、麻痺側をスムーズに持ち上げる動きにつながる。→#2、#3、#12

 

■平行棒内にて歩行練習

2往復×3セットから始める、1日1回、週5回

<目的>歩行自立

平行棒は引っ張っても横方向に力を加えても安定しているので、立位バランス不良でも近位監視にて練習できる。徐々に両手支持から片手、軽く触れるだけ、と代償を減らしていく。

初めは距離やスピードよりも安定性に重点を置いて練習し、安定性が向上して(2~3往復、バランスを失うことなく歩行可能なら安定したと判断)から、徐々に耐久性(休まず歩ける距離)にポイントを移していく。

歩行器の準備としては平行棒内歩行を平行棒を握らずに、手指を開いて手掌で棒を押えただけでもできるようにする必要がある。上肢の運動麻痺が軽度で操作に問題ない場合は歩行器が使用可能。

歩行器での歩行が安定すれば、杖歩行へと移行する。初めて行う場合はT字杖で、握りの部分が彎曲せずに平らなものを選択する。不安定な場合は三脚杖を使用する。三脚杖は指示基底面が広く立位安定性が高まることにより、麻痺側の振り出しが容易になる。あるいは介助量の軽減を図る目的で、T字杖使用者であっても状況に応じて使い分けることも考慮する。

杖歩行の順序は3動作揃型歩行から開始して2動作歩行へと進む。この際PTSは麻痺側あるいは後方から指導する。→#1、#2、#3、#4、#12、#13、

 

【考察】

本症例は、橋右側脳梗塞により左片麻痺を呈した。麻痺による構音障害で会話に難渋している。しかし本来の話好きの性格から、心を開いた相手や興味ある内容なら積極的に会話に参加している。知的で考察力もある、しっかりした性格である。言葉さえ聞き取れれば、コミュニケーションは可能である。検査・測定には疲労感やモチベーションの低さを表出していたが、リハビリテーションに対する意欲、「歩けるようになりたい」との気持ちを強く持っている。

 麻痺は左上下肢Brunnstrom stage(上肢:stageⅤ、下肢:stageⅣ、手指:stageⅣからⅤへの移行期)なので、利き手である右上肢で食事動作などのADL動作を代償している。更衣・トイレ動作は一部介助、入浴はまだ許可されていない。基本動作能力は、寝返り・起き上がり自立、立ち上がりは平行棒内にて近位監視で行う。ベッド・車椅子間の移乗は、近位監視にて行っている。歩行は平行棒内で近位監視にて可能だが、実用性(安全性・安定性・耐久性・遂行時間)に乏しい。

 本症例はまだベッド上のみフリーの状態で、「早く病棟を自由に歩きたい」とのニードがある。活動範囲の狭小化による活動制限の要因には、立ち上がり能力の低下・立位バランスの低下・立位保持能力の低下・自立歩行困難が挙げられる。

立ち上がり能力低下の要因は、左上下肢の麻痺による随意性・支持性の低下、体幹筋力の低下、股関節周囲筋力の低下による立位バランス能力・立位保持能力の低下である。それを実現するためには体幹・股関節周囲筋力を増強し、立ち上がり動作を自立させ、立位バランスを安定させなければならないと考えられる。

また自立歩行困難の要因はまず、左上下肢の麻痺による随意性・支持性の低下、体幹筋力の低下、股関節周囲筋力の低下により、股関節伸展モーメントと足関節背屈モーメントを協調させて同時に起こすことが困難であることが考えられる。麻痺側立脚中期にロッキングが起きるのは左上下肢の支持性の低下によるもので、続く立脚後期での蹴りだしが弱くなる原因になっていると思われる。つまり麻痺側の股関節伸展モーメントの値が小さいため、重心移動がスムーズにいくよう体幹前傾にて代償し、体幹に前後方向の動揺が起きていると思われる。

これらの問題点から、短期目標は移乗動作自立(監視なし)、立ち上がりの実用性向上(安全性・安定性・耐久性・遂行時間)、歩行器による歩行自立、トイレ動作自立(ベッドサイドのポータブルトイレにて)と設定した。

二木らの予後予測基準では、入院後2週間時に新たにベッド上生活自立なら、歩行自立―その大部分が屋外歩行、その大部分が入院後2ヶ月以内に歩行自立―となっている。また発症後3ヶ月で片麻痺の回復は9割以上、ADL動作レベルは8割以上がプラトーとなると報告している。よって、現段階で短期目標に積極的に取り組むことで、自立歩行へと近づき、ADL能力の向上およびQOLの向上に結びつくと思われる。

 具体的な治療プログラムとして、SLR運動によって、大腿四頭筋のみならず腸腰筋や腹筋・足関節にも刺激を与え、立ち上がり・移乗動作の改善を図り、歩行能力の向上を図る。また、SLRは大腿四頭筋というよりも腸腰筋のトレーニングと理解したほうがよいとの文献があり、股関節周囲筋力が弱化している本症例には効果的なトレーニングだと思われる。ちなみに股関節角度はSLR10°で大腿直筋と内側広筋の筋活動が高く、SLR45°で外側広筋の筋活動が高いとされている。内側広筋は非使用によって容易に萎縮に陥るため、本症例において左側膝蓋骨上縁5cmの周径が右側より0.5cm小さいのは萎縮の可能性ありと考え、角度を10°に設定している。

肘をついた側臥位における風船蹴りや腰掛位からの立ち上がり練習、平行棒または肋木につかまっての立位バランス訓練、平行棒内の歩行練習は、それぞれの動作の中で体幹・股関節・膝関節・足関節周囲の筋肉を一度に筋力増強したり、協調性を高める効果がある。徐々に代償や介助量を減らしていくことで、より効果的なリハビリテーションの実現を目指す。

 本症例は以前ほかの疾患を患った際、住宅改造を行い、段差解消など住環境は整備されている。キーパーソンである妻をはじめ、息子も同居しており、体調不良時などのサポートも期待できる。

短期目標達成後は、杖歩行自立やトイレ動作自立、更衣動作自立などの獲得を目指し、プラトーに達するまで全力で問題点改善に取り組みたい。いずれは自宅に復帰して頂き、趣味のご旅行を夫婦で楽しめるようになって欲しいと願っている。

 

【参考・引用文献】

『運動療法Ⅰ 第2版』63、128頁2005.2.2 監修:千住秀明 ㈱神陵文庫 

『理学療法臨床の場で必ず役立つ実践のすべて』605~609頁 1999.12.14 編集:石川斎 ㈱文光堂

『発症部位別にみた 脳卒中者のリハビリテーション』147~149頁 2000.1.5   編者:長谷川 幹 ㈱日本医事新報社

『脳卒中・その他の片麻痺 第2版』162~172頁 2005.1.20 著者代表:福井圀彦 医歯薬出版㈱

『理学療法科学 17巻1号』3~10頁 2001 ―脳血管障害の歩行分析 山本澄子 

『PTジャーナル 第37巻第1号』5~9頁 2003.1月―脳卒中片麻痺患者の歩行能力改善の推移  丹羽義明 

『脳卒中リハビリテーションの再検討―脳卒中の予後予測:歩行自立度を中心に』理学・作業療法21  710~715頁 1987

『Journal of clinical rehabilitation vol,10 No.4』301~306頁 2001.4月―我々が用いている脳卒中の予後予測Ⅰ 井後雅之

『PTジャーナル 第38巻第9号』 2004.9月 ―筋力低下に対する運動療法の基礎

 

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疾患名
特徴
脳血管疾患

脳梗塞

高次脳機能障害 / 半側空間無視 / 重度片麻痺 / 失語症 / 脳梗塞(延髄)+片麻痺 / 脳梗塞(内包)+片麻痺 / 発語失行 / 脳梗塞(多発性)+片麻痺 / 脳梗塞(基底核)+片麻痺 / 内頸動脈閉塞 / 一過性脳虚血発作(TIA) / 脳梗塞後遺症(数年経過) / トイレ自立を目標 / 自宅復帰を目標 / 歩行獲得を目標 / 施設入所中

脳出血片麻痺① / 片麻痺② / 片麻痺③ / 失語症 / 移乗介助量軽減を目標

くも膜下出血

片麻痺 / 認知症 / 職場復帰を目標

整形疾患変形性股関節症(置換術) / 股関節症(THA)膝関節症(保存療法) / 膝関節症(TKA) / THA+TKA同時施行
骨折大腿骨頸部骨折(鎖骨骨折合併) / 大腿骨頸部骨折(CHS) / 大腿骨頸部骨折(CCS) / 大腿骨転子部骨折(ORIF) / 大腿骨骨幹部骨折 / 上腕骨外科頸骨折 / 脛骨腓骨開放骨折 / 腰椎圧迫骨折 / 脛骨腓骨遠位端骨折
リウマチ強い痛み / TKA施行 
脊椎・脊髄

頚椎症性脊髄症 / 椎間板ヘルニア(すべり症) / 腰部脊柱管狭窄症 / 脊髄カリエス / 変形性頚椎症 / 中心性頸髄損傷 / 頸髄症

その他大腿骨頭壊死(THA) / 股関節の痛み(THA) / 関節可動域制限(TKA) / 肩関節拘縮 / 膝前十字靭帯損傷
認知症アルツハイマー
精神疾患うつ病 / 統合失調症① / 統合失調症②
内科・循環器科慢性腎不全 / 腎不全 / 間質性肺炎 / 糖尿病 / 肺気腫
難病疾患パーキンソン病 / 薬剤性パーキンソン病 / 脊髄小脳変性症 / 全身性エリテマトーデス / 原因不明の歩行困難
小児疾患脳性麻痺① / 脳性麻痺② / 低酸素性虚血性脳症
種々の疾患が合併大腿骨頸部骨折+脳梗塞一過性脳虚血発作(TIA)+関節リウマチ

-脳血管疾患, 書き方, 病院, レポート・レジュメ