脳血管疾患 書き方 施設(老健など) レポート・レジュメ

【脳出血+移乗介助量軽減を目標】レポートの作成例【実習】

2022年1月3日

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・看護師を目指す学生に向けた、レポート・レジュメの作成例シリーズ。

今回は、「脳出血+移乗介助量軽減を目標」の患者のレポート・レジュメです。

実習生にとって、レポート・レジュメの作成は必須です。

しかし、書き方が分からずに寝る時間がほとんどない…という人も少なくありません。

当サイトでは、数多くの作成例を紹介しています。

紹介している作成例は、すべて実際に「優」の評価をもらったレポート・レジュメを参考にしています(実在する患者のレポート・レジュメではありません)。

作成例を参考にして、ぜひ「より楽に」実習生活を乗り切ってください!

 

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今回ご紹介するレポートの患者想定

 

今回ご紹介する患者想定

  • 施設に入所中
  • 脳出血を発症

  • 移乗介助量軽減を目標

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「脳出血+移乗介助量軽減を目標」の患者のレポート・レジュメ作成例

Ⅰ.はじめに

 本事例は約1年前に脳出血を発症し、入院を経て症状が安定したものの、自宅生活が困難とされ、本老人保健施設に入所してきた70歳代の女性である。家族状況から一人暮らしを余儀なくされ、自宅に戻るためには身のまわりのADLが自立する必要があり、現在も本施設での生活を送られている。そこで、今回は理学療法評価・治療を通じて、目標である自宅復帰にむけて現在の症例の抱える最も重要とされるトランスファー移乗時における回旋動作時の安定性について、麻痺側下肢の協調性障害に着目して考察していくこととする。

 

Ⅱ.症例情報

A.個人的情報

【年齢・性別】70歳代・女性

【介護度】要介護度3

【身体情報】cm 、kg

【趣味】手芸及び細かいこと

【HOPE】自宅に帰って生活したい

【NEED】手をもっと使えるようにしたい

【PT NEED】トランスファーの安全性向上

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B.医学的情報

【現病歴】右視床脳出血 

【症状】左片麻痺、感覚性運動失調、構音障害、白内障

【既往歴】心筋梗塞、脳梗塞、高血圧(服薬中)

【現在に至る経過】

発症前ADLは自立、兄弟とは別れて単身生活。〇〇年〇〇月〇〇日入浴中に左麻痺が出現、翌日PM3:00管理人によって発見され、近医救急搬送になる。保存的治療で経過観察後、〇〇年〇〇月〇〇日にリハ目的で、A病院へ転院になる。その後、単身での在宅復帰は困難であることから、当施設へ入る。

〇〇年〇〇月〇〇日 Barthel Index 30/100

ADL全介助レベル、ボディーイメージ低下による動作遂行障害、環境の変化による精神的不安定、排泄に対するこだわり

〇〇年〇〇月〇〇日 Barthel Index 60/100

ADL自立~軽介助レベル、食事常食(箸の利用)、排泄介助(昼;所内トイレ 夜;ポータブル)、記憶障害・認知障害軽度

【血液検査データ】

 

検査値

目的

Cr

K

BUN

UA

0.97

3.2

14.9

6.2

腎機能障害

腎障害

腎機能低下

腎機能低下

【投薬状況】

薬名

効果・効能

ディオバン80

アムロジン5

ザイロリック100

ラシックス40

バイアスピリン100

末梢血管拡大、血圧低下作用

冠状動脈拡大、狭心性予防

尿酸減少、痛風予防

利尿薬

血管収縮抑制、狭心症予防

【他部門情報】

看護士:現病歴として高血圧を持つが、入所後から1週間前までは血圧安定のために降圧剤の服薬を減らしていた。しかし、最近血圧の上昇傾向がみられ、降圧剤を増やして血圧安定を図っている。

介護士:精神的に不安定な時期もある。この際は、長く引きずること多い。日中はナースコールの利用はほとんどないが、夜間はトイレの際は監視、軽介助程度である。更衣も自立し、トイレ動作における大きな問題はない。

 

C.社会的情報

【職業】主婦(一人暮らし)

【住宅環境】

住居に手すりなし

トイレ;洋式

風呂;据え置き式(60cm)シャワーなし

ベッド;折りたたみ式 病室ベッドより低め

段差;部屋の継ぎ目に1cm~2cmの段差

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Ⅲ 理学療法評価

【全体像】

コミュニケーションは表出・理解ともに良好であり、温厚な性格である。リハビリに対して積極的であるが、疲労などにより精神的に不安定になる時もみられる。左上下肢に運動麻痺があるが、ADLは監視または軽介助である。日中は車椅子上で生活していることが多い。

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【バイタル】

血圧 収縮期130~140mmHg  拡張期70~80mmHg(降圧剤服用)

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【感覚検査】

※非麻痺側(右)を10とした時の数値

・表在感覚 麻痺側  大腿~下腿後面 1/10 重度鈍麻

           大腿~下腿前面 1/10 重度鈍麻

           足底      2/10 重度鈍麻

           坐骨       /10 

           上腕      6/10 鈍麻

           前腕      4/10 鈍麻

           手指      5/10 鈍麻

・深部感覚 麻痺側  足関節     0/5 重度鈍麻

           膝関節     0/5 重度鈍麻

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【片麻痺運動機能テスト】

・上肢Ⅳ ウェルニッケマン肢位であるが、上肢の随意運動(肩屈曲・肘伸展)は可能

・下肢Ⅳ 座位での背屈は可能であるが、立位であると困難

・手指Ⅳ 総握りは可能であるが、総伸展は完全には困難である

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【ROM】

※問題のある部位のみ記載

麻痺側 肩関節 屈曲90° 外転90°     

麻痺側 肘関節 伸展‐20°        

麻痺側 手関節 背屈 0°           

麻痺側 足関節 背屈 10°

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【非麻痺側MMT】

MMT4レベル (最大収縮時に麻痺側上肢の屈筋共同パターンが増大する)

握力 麻痺側5kg 非麻痺側27kg

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【姿勢観察】

背臥位

頚部:非麻痺側への側屈 肩甲骨:後退・後方回旋 上肢:肩関節内転、肘関節屈曲・回内 手関節掌屈・尺屈  胸郭:挙上・麻痺側へ回旋 骨盤:後傾・麻痺側へ回旋 下肢:股関節屈曲・膝関節屈曲

 

端座位(ベッド上)

頚部:非麻痺側への側屈・屈曲 肩甲骨:挙上・後退・後方回旋 体幹:屈曲位・胸椎後彎・非麻痺側への側屈 胸郭:挙上・非麻痺への回旋 骨盤:後傾位・麻痺側へ回旋 上肢:肩関節内転、肘関節屈曲・回内 手関節掌屈・尺屈 下肢:股関節屈曲、外旋・膝関節屈曲(非麻痺側>麻痺側)

 

立位

頚部:屈曲 肩甲骨:挙上・後退・後方回旋 体幹:屈曲位・胸椎後彎・非麻痺側への側屈 胸郭:挙上・非麻痺への回旋 骨盤:後傾位・麻痺側へ回旋 上肢:肩関節内転、肘関節屈曲・回内 手関節掌屈・尺屈 下肢:股関節屈曲、外旋・膝関節屈曲

 

分析 

症例のように重度の感覚障害を持つ場合、姿勢を保つ際に身体のあらゆる部位で固定が必要となる。その固定が全身に運動連鎖を引き起こす。症例の場合、麻痺側感覚障害によって非麻痺側の支持基底面内に重心を落とそうとする。このため、肩甲骨の挙上・後退・後方回旋が僧帽筋・大胸筋を牽引し、胸郭の麻痺側回旋、脊柱を介して骨盤の麻痺側回旋・後傾を引き起こしたと考えられ、股関節に影響を与え、姿勢の捻れを引き起こしたと考えられる。

 

【バランステスト】

○:出現 ×:出現せず △:一部出現

座位 立ち直り

頚部

体幹

特記事項

体幹 麻痺側への傾斜

×

×

麻痺側への傾斜によって、連合運動が出現し、体幹の固定性が増大した。一方、非麻痺側方向への傾斜は、上部体幹では立ち直りが出現するも、下部体幹や股関節での固定性が増大した。

体幹 非麻痺側への傾斜

体幹 後方への傾斜

体幹 前方への傾斜

立位 立ち直り

頚部

体幹

Stepping

特記事項

体幹 麻痺側への傾斜

×

×

×

座位同様に固定性が増大した。非麻痺側への傾斜においても、恐怖心を訴え、体幹の固定性が増大した。

体幹 非麻痺側への傾斜

×

×

×

体幹 後方への傾斜

×

体幹 前方への傾斜

×

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【ADL評価】

FIM 7;完全自立 6;修正自立 5;監視 4;最小介助 3;中等度介助 2;最大介助 1;全介助

FIM項目

実得点

セルフケア

A.食事

7

 

B.整容

4

 

C.入浴

2

 

D.更衣下肢

6

 

E.更衣下肢

6

 

F.トイレ動作

5

排泄コントロール

G.排尿

7

 

H.排便

7

移乗

I.ベッド

5

 

J.トイレ

5

 

K.風呂

5

移動

L.歩行

5

 

M.階段

3

コミュニケーション

N.理解

7

 

O.表出

7

社会的認知

P.社会的交流

7

 

Q.問題解決

5

 

R.記憶

7

得点(126点満点)

100

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Barthel Index項目

実点数

食事

10

更衣

10

整容

0

入浴

0

尿失禁

10

便失禁

10

移乗

15

トイレ移乗

10

歩行

5

階段昇降

0

得点(100点満点)

70

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【基本動作】

非麻痺側への起き上がり(自立~軽介助)

第1相 非麻痺側への寝返り

背臥位姿勢から、①頚部⇒②上肢⇒③体幹⇒④殿部⇒⑤⑥下肢の順で寝返り、非麻痺側側臥位となる。しかし、頚部伸展動作からの屈曲(①)・麻痺側肩甲帯後退(①⇒③)が観察され、麻痺側の連合運動が出現した。この際の支持基底面は、後頭部(①)、非麻痺側肩甲骨~上腕・前腕外側、麻痺側体幹外側、麻痺側殿部~麻痺側下肢外側であり、比較的大きな支持基底面が確立されている。


第2相 非麻痺側への起き上がり

非麻痺側肘関節~前腕をプラットフォームに支持基底面とし、①頚部屈曲⇒②体幹屈曲⇒③On Elbow⇒④On Hand⇒⑤体幹の正中位への重心移動、という順で動作を行う。①⇒②では、頚部の伸展・麻痺側肩甲帯後退が確認できる。支持基底面は、非麻痺側肩甲骨外側~前腕及び手掌内側、非麻痺側体幹外側、非麻痺側殿部~下肢外側である。②に際に、下肢の挙上及び非麻痺側上肢の過剰な努力によって起き上がりに困難をきたすことがある。

 

分析 

麻痺による感覚入力の低下から症例の身体は2分化され、麻痺側に支持基底面を感じることが出来ていない。このため、麻痺側の注意力低下状態で寝返りを行おうとするため、肩甲骨後退が出現する。肩甲帯を前方に引き出すよう誘導することで寝返り・起き上がりが容易になることから肩甲帯後退が動作の阻害因子の1つであると考えられる。さらに、第2相における非麻痺側上肢~肩甲骨外側がプラットフォームを押し付けるように寝返りを行おうとする動作が、麻痺側の連合運動(肩甲帯の引き込み)を引き起こし、寝返りを困難にしている。これは、麻痺側の感覚入力下によって、重心が麻痺側方向にある状態のまま寝返りをしようとしているからであり、全体として感覚低下によって引き起こされる麻痺側への注意力の不足が動作の大きく関わっていると考えられる。

 

麻痺側への起き上がり(中等度介助~重度介助)

第1相 麻痺側への寝返り

麻痺側への寝返りは、①頚部伸展⇒②頚部屈曲・回旋(麻痺側)⇒③非麻痺側足底による伸展運動、体幹屈曲⇒④麻痺側側臥位、という順序で行っている。支持基底面は後頭部、非麻痺側足底、麻痺側殿部後面、非麻痺側上肢~肩甲骨、及び麻痺側上肢~下肢までの外側である。①頚部伸展、②⇒③非麻痺側上下肢による伸展運動による肩甲骨の押し付けのために、麻痺側肩甲帯後退がみられ寝返りが困難な状態である。

 

第2相 麻痺側への起き上がり

①側臥位⇒②体幹を横切って非麻痺側上肢による伸展、非麻痺側足底による伸展動作⇒③体幹屈曲、伸展頚部、というように動作を行う。非麻痺側の伸展運動によって、麻痺側の連合運動が出現するため、麻痺側でのOn elbow・On handは困難な状態であるためにこのような戦略をとったと考えられる。

 

分析

人は動作をするにあたって、自分の身体が外部を接している支持基底面が必要である。支持基底面からの探索によって得られた知覚情報は、身体でフィードバックされ身体の軸及び運動がどのように起こっているのか感知する。しかし、麻痺側への寝返り・起き上がりのように感覚入力が低い場合、支持基底面が確立されず知覚情報がフィードバックされにくいことが予想される。このため、症例も同じように感覚障害より支持基底面を探索・知覚することが出来ず、非麻痺側が支持基底面となり伸展運動による動作戦略を引き起こしたと考えられる。

 

端座位からの立ち上がり(自立~軽度介助)

第1相 端座位から離殿まで  

端座位姿勢から、①麻痺側膝関節屈曲>非麻痺側膝関節屈曲の状態⇒②体幹屈曲・骨盤前傾⇒③非麻痺側荷重、麻痺側足尖部離床(踵骨への荷重)⇒④両膝関節伸展、という順序で動作を行う。①⇒③の荷重時に非麻痺側と麻痺側踵骨部のみで接地することで感覚入力を行い、立ち上がることが可能な状況を作り出す。

 

第2相 離殿~立位まで    

非麻痺側に重心がある状況で、①非麻痺側下肢伸展運動と同時に、麻痺側の屈曲運動パターン(股関節屈曲・外旋、膝関節屈曲、足関節内反)が出現⇒②非麻痺側への体幹傾斜、が確認できる。また、麻痺側上肢は連合運動が強まる傾向を示す。

 

分析

 感覚障害によって麻痺側下肢の知覚を得ることが困難であったために、立ち上がりの際の麻痺側上肢連合運動によって、肩甲帯後退が体幹の麻痺側回旋、骨盤麻痺側回旋、股関節屈曲という下肢にまで運動連鎖を引き起こしたことが、麻痺側の足底が床面に完全に接地することが出来なかったと考えられる。立ち上がる際の麻痺側連合運動によって、体幹の固定化を図ることで麻痺側の支持性を高め、非麻痺側の運動を容易にする歩行と類似する。

 

ベッド~車椅子へのトランスファー(自立~軽介助)

第1相 立ち上がりまで

非麻痺側上肢は遠位のアームレストを保持した状態から、①麻痺側膝関節屈曲>非麻痺側膝関節屈曲の状態⇒②体幹屈曲・骨盤前傾⇒③非麻痺側荷重、麻痺側足尖部離床(踵骨への荷重)⇒④両膝関節伸展、というように立ち上がる。立位後の支持基底面は、支持基底面は両側足底、アームレストを保持した手掌の3点である。

 

第2相 立ち上がり~方向転換

①手掌を軸に非麻痺側下肢のステップ⇒②麻痺側下肢のステップ⇒③非麻痺側方向への体幹の回旋、によって方向転換を行う。この際、頚部屈曲、麻痺側上肢ウェルニッケマン肢位、体幹前傾、股・膝関節軽度屈曲位から手掌を軸に方向転換を行うが、この際麻痺側膝関節~股関節にかけて協調性障害がみられ、膝関節・股関節が中間位での筋出力コントロールが困難で、転倒のリスクが高い。

 

第3相 ~車椅子座位

支持基底面は第2相と同様である。軽度膝関節屈曲位から座位となるが、この際、中間位にある膝関節によって体重を支持することが難しく、殿部から落ちるように座位となる動作がみられる。

 

分析

方向転換時に膝関節の協調性障害がみられ、転倒の危険性が高いと思われる。これは、視床出血による感覚障害によって、足底より探索・知覚が困難となることで筋活動に必要である筋出力のコントロールを行うことができなかったと考えられる。さらに、各関節の中間位での筋出力コントロールが困難であるために、支持基底面が狭い(両足底)立位よりも、トランスファーのような支持基底面が3点であっても中間位での筋出力コントロールが必要である動作に転倒のリスクを感じたと考える。このため、感覚入力に伴って、足関節・膝関節・股関節の協調的コントロールの練習が必要である。

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歩行(PickUp

 Pick Up歩行であり、3点揃え形である。①Pick Upの前方移動⇒②麻痺側下肢⇒③非麻痺側下肢の振り出しの順で行い、頚部は屈曲し、下方を見ることが多い。①では、Pick Upを前方に出す際にうまく把持ができず、把持しなおす際に後方にバランスを崩す動作がみられた。②においても、麻痺側下肢協調性障害は、麻痺側遊脚中期~立脚初期の足底接地までに強く見られ、歩幅が安定しない状態である。歩幅が狭くなる際には重心が前方へ移行し、反対に歩幅が広くなる際には後方に重心が移行する。このときに、体幹の伸展によって身体を固定することで、転倒を避けている。さらに、非麻痺側立脚期には、麻痺側下肢の屈曲共同パターンが出現し、股関節屈曲・外旋位を呈していた。最後に、方向転換して車椅子に着座する際に歩行器の位置をうまく誘導できずに介助を必要とした。

 

分析

 Pick Up前方移動の際に、肩甲骨前方突出・外転、肩関節屈曲、肘関節伸展の動作が必要であり、高いレベルの上肢分離運動が必要となる。このため、Pick Upの際に連合運動が出現することによって、うまくPick Upを持つことが困難であったと思われる。また、麻痺側遊脚相では、麻痺側安定性と非麻痺側運動性を獲得するために、体幹伸展によって体幹固定するという戦略をとっている。さらに、感覚的なフィードバック機構に乏しい症例は、頚部を屈曲させ下方を見ることで、視覚的フィードバック機構によって代償している。

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Ⅳ.問題点抽出

 

Ⅴ.目標設定

短期目標(2週後):トランスファー方向転換時の能力向上

長期目標(退所後):手すりや杖による5m以上の歩行安定性向上 階段昇降

 

Ⅵ.理学療法プログラム

 症例は麻痺側深部・表在感覚重度鈍麻であり、感覚入力が非常に乏しい。そのため、動作時の知覚・探索・運動という知覚循環が確立されず、運動障害をひきおこしている。

 このため、知覚・探索という分野にアプローチをすることが、正常に近づいた運動につながると考えられる。運動は安定性と運動性との2つの分野に大別することが可能である。このため、円滑な運動のためには、しっかりとした中枢部の安定性と末消部の運動性の双方が必要である。これらは、感覚フィードバックによって支持基底面を確立し、協調的な運動を得られると考え、以下に記載する理学療法プログラムもそのような趣旨で行う。

 

背臥位

背臥位における麻痺側連合運動は、体幹の麻痺側方向への体幹の回旋を引き起こすと考えられる。麻痺側の連合運動時、重心は麻痺側にあるはずであるが、感覚障害によって支持基底面は非常に狭いことが予想される。このため、非麻痺側方向への寝返りや起き上がりなどには、背臥位における非麻痺側の肩甲帯の支持基底面の確立が必要であると考える

・非麻痺側への寝返りを伴うリーチ動作

 

座位

非麻痺側へ体幹を傾斜する症例は麻痺側の支持基底面を探索できていないと考えられる。このため、座位において坐骨に荷重をかけるためにウェイトシフトやリーチ動作を行うが、この際どのような反応が症例から感じられるか評価しながら治療を進める

・バランスを伴う姿勢筋緊張のコントロール

屈曲優位の座位姿勢や腹部安定性の低下傾向である症例に対して、感覚入力が入りやすい手指~手背を把持し、肩関屈曲を行うことによって体幹の伸展が得られる。この際、体幹安定性も伴わなければ、頚部屈曲や体幹側屈などの代償運動が生じる。上肢のプレーシングを行いながら、麻痺側坐骨に荷重がかかるようにするが、非麻痺側に比較して麻痺側方向への重心移動は行きにくい。

 

立位

トランスファーや麻痺側立脚終期・遊脚中期など膝関節や股関節が中間位にある際の、麻痺側協調性をコントロールを獲得することがトランスファーや歩行の安定性に必要である。

・膝関節中間位での立位保持(協調性コントロール)

 

Ⅶ.考察

 本事例は約1年前に脳出血を発症し、入院を経て症状が安定したものの、自宅での生活がまだ困難とし、本老人保健施設に入所してきた70歳代の女性である。夫は40歳代で心不全により他界しており、キーパーソンである兄弟は隣県に移住していることから一人暮らしを余儀なくされ、自宅に戻るためには身のまわりのADLが自立する必要があり、現在も本施設での生活を送られている。そこで、今回は理学療法評価・治療を通じて、目標である自宅復帰にむけて現在の症例の抱える最も重要とされるトランスファー移乗の安定性について考察していくこととする。

現在、症例の病棟生活は車椅子上で1日を過ごすことが多く、転倒リスクが高いと思われる日常生活動作は移乗動作であると予想できる。移乗動作はトイレ、風呂などの日常生活中の様々な動作に必要不可欠な動作である。このため、上記に記した評価より、短期目標として「トランスファーの安全性向上」を掲げたのは、病棟での安全な生活及びHOPEである自宅復帰への準備を意図している。

しかし、症例は麻痺側上肢連合運動パターンや寝返り・起き上がり動作時の非麻痺の過剰な努力によって、非麻痺側の活動性の低下が非常に目立つ。このため、上腕二頭筋や円回内筋の短縮を招き、肘関節や肩関節のROM制限を引き起こしている。随意性の高い症例においてこの非麻痺側の活動性低下は、随意性低下によるものではなく、感覚入力低下による身体の状態を理解していないことに由来すると考えられる。起き上がり・寝返りにおける動作中にも症例は、麻痺側上肢を非麻痺側によって探索する動作が見られたこともその要因のひとつである。このため随意性のある上下肢の利用増大を促すことが必要であり、日常生活において麻痺側の参加がトランスファーの安定性向上や今後の自宅復帰における能力を変移させていくと考えられる。

評価からの症例の移乗動作時の特徴として、麻痺側下肢協調性障害がみられ、動作に不安定性をもたらしていた。この現象は、歩行時にも観察され、歩行と移乗との双方の問題となっていると考える。これらは、深部感覚や表在感覚が乏しいために、筋出力に対する足底からの情報を知覚できず、筋出力コントロールが困難になり協調性障害を引き起こしたと考えられる。このため、麻痺側上肢連合運動・下肢屈曲パターンを出現させ、麻痺側足底が床面に接地することが出来ないことによって、さらに感覚性フィードバックが困難になったと考えられる。このため、症例は動作時に支持基底面からの感覚性フィードバックよりも視覚的フィードバックを優位に運動していると考えられる。症例は、体幹の不安定性を補うために体幹固定によって代償しようとするが、運動が複雑になるにつれて代償することが困難になったと考えられる。立位保持は可能である症例であるが、感覚障害とそれに伴う動的な筋出力コントロール困難が、運動失調茸状が出現し、移乗動作時に身体の不安定性がみられ、動作が困難であったと考える。

このため、症例のプログラムとして静的な感覚入力よりも、動的な感覚入力が必要である。静止姿勢での感覚入力が可能な症例に対して、麻痺側への起き上がりやウェイトシフトによって、麻痺側への意識を促すと同時に、動的な感覚刺激を与えることが必要である。また、麻痺側へ感覚入力を図ることによって、麻痺側に支持基底面が確立し、足関節・膝関節・股関節の協調的コントロールの練習が必要であると考える。動的な感覚入力が可能になることで、トランスファーや歩行など動作時の安全性向上が達成できることが予想される。また、麻痺側への意識を促すことで、麻痺側にも支持基底面が確立され、端座位や立位における重心軸の変移や姿勢筋緊張抑制が図られると考えられる。

長期目標としては期間を退所後とし、転倒防止のための立位保持、室内移動手段のための5m杖歩行を提案した。転倒防止については、前述したように事例本人の能力の維持・向上を図るとともに、環境設定を行うべきと思われる。杖歩行5mの提案については、自宅内移動を確立し、出来るだけ活動性の低下を防止する必要があると思われる。要介護度3である症例の予後として、高血圧や心筋梗塞の既往より本施設のような介護保健施設の利用、訪問看護、家屋状況からもホームヘルプサービスの利用も必要であると考えられる。また、一人暮らしである症例に対して、デイケアなどにより人との交流や体操、レクリエーションを行うことによって活動性の向上、社会的刺激が必要であるだろう。

 

Ⅷ.おわりに

上記のような評価・プログラムを行った結果、介入前と直後の変化は確認することが可能であったが、2週間という期間において顕著な改善点はみることができなかった。これは、症例の病棟生活における麻痺側の活動性低下が挙げられる。上記したように感覚入力が乏しい症例は麻痺側の利用に対する感覚性フィードバックが困難であり、病棟で麻痺側を利用する動作を行おうとしても、どのような運動であるのか視覚的にしか情報をえることが難しい。そのため、非麻痺側の過活動によって動作を行うため連合運動パターンが出現してしまう。よって、日常生活において麻痺側への意識付けや麻痺側活動性の向上、起き上がりや寝返りなどの基本動作内での非麻痺側過活動の抑制を図ることができれば、更なる機能回復につながるであると考える。

 

Ⅸ.謝辞

今回このような貴重な実習をさせていただき、評価・情報収集に御協力してくださった利用者様、貴重な時間を割き多くの指導をしてくださった先生に深く感謝いたします。

 

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疾患名
特徴
脳血管疾患

脳梗塞

高次脳機能障害 / 半側空間無視 / 重度片麻痺 / 失語症 / 脳梗塞(延髄)+片麻痺 / 脳梗塞(内包)+片麻痺 / 発語失行 / 脳梗塞(多発性)+片麻痺 / 脳梗塞(基底核)+片麻痺 / 内頸動脈閉塞 / 一過性脳虚血発作(TIA) / 脳梗塞後遺症(数年経過) / トイレ自立を目標 / 自宅復帰を目標 / 歩行獲得を目標 / 施設入所中

脳出血片麻痺① / 片麻痺② / 片麻痺③ / 失語症 / 移乗介助量軽減を目標

くも膜下出血

片麻痺 / 認知症 / 職場復帰を目標

整形疾患変形性股関節症(置換術) / 股関節症(THA)膝関節症(保存療法) / 膝関節症(TKA) / THA+TKA同時施行
骨折大腿骨頸部骨折(鎖骨骨折合併) / 大腿骨頸部骨折(CHS) / 大腿骨頸部骨折(CCS) / 大腿骨転子部骨折(ORIF) / 大腿骨骨幹部骨折 / 上腕骨外科頸骨折 / 脛骨腓骨開放骨折 / 腰椎圧迫骨折 / 脛骨腓骨遠位端骨折
リウマチ強い痛み / TKA施行 
脊椎・脊髄

頚椎症性脊髄症 / 椎間板ヘルニア(すべり症) / 腰部脊柱管狭窄症 / 脊髄カリエス / 変形性頚椎症 / 中心性頸髄損傷 / 頸髄症

その他大腿骨頭壊死(THA) / 股関節の痛み(THA) / 関節可動域制限(TKA) / 肩関節拘縮 / 膝前十字靭帯損傷
認知症アルツハイマー
精神疾患うつ病 / 統合失調症① / 統合失調症②
内科・循環器科慢性腎不全 / 腎不全 / 間質性肺炎 / 糖尿病 / 肺気腫
難病疾患パーキンソン病 / 薬剤性パーキンソン病 / 脊髄小脳変性症 / 全身性エリテマトーデス / 原因不明の歩行困難
小児疾患脳性麻痺① / 脳性麻痺② / 低酸素性虚血性脳症
種々の疾患が合併大腿骨頸部骨折+脳梗塞一過性脳虚血発作(TIA)+関節リウマチ

-脳血管疾患, 書き方, 施設(老健など), レポート・レジュメ