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【THA+TKA施行】レポート・レジュメの作成例【実習】

2022年1月3日

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・看護師を目指す学生に向けた、レポート・レジュメの作成例シリーズ。

今回は、「THA+TKA施行」の患者のレポート・レジュメです。

実習生にとって、レポート・レジュメの作成は必須です。

しかし、書き方が分からずに寝る時間がほとんどない…という人も少なくありません。

当サイトでは、数多くの作成例を紹介しています。

紹介している作成例は、すべて実際に「優」の評価をもらったレポート・レジュメを参考にしています(実在する患者のレポート・レジュメではありません)。

作成例を参考にして、ぜひ「より楽に」実習生活を乗り切ってください!

 

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今回ご紹介するレポートの患者想定

 

今回ご紹介する患者想定

  • 病院に入院中
  • 変形性膝関節症の患者

  • THA+TKAを施行

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「THA+TKA施行」の患者のレポート・レジュメ作成例

Ⅰ、はじめに

左変形性膝関節症(以下膝OA)によって、左人工膝関節全置換術(Total knee Arthoplasty:以下TKA)を施行した症例について、術前評価に次いで、術後評価を行わせていただく機会を得たのでここに考察とともに報告する。

 

Ⅱ、症例情報

A.一般的情報

1)性別:女性

2)年齢:70歳代

3)身長:cm

4)体重:kg(BMI:28)

5)主訴:左下肢下腿後面、膝関節の痛み

6)HOPE:歩きたい(T-cane使用)、旅行に行きたい

7)NEED:持久性のある安定した歩行獲得のための筋力、歩容改善

8)職業:主婦(家事全般)

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B.医学的情報

1)診断名:左変形性膝関節症

2)現病歴:

〇〇年〇〇月〇〇日 右人工股関節全置換術後に膝痛出現

〇〇年〇〇月〇〇日 初診

〇〇年〇〇月〇〇日 入院

〇〇年〇〇月〇〇日 術前評価

〇〇年〇〇月〇〇日 OPE

〇〇年〇〇月〇〇日 ベッドサイドリハ開始

〇〇年〇〇月〇〇日 術後評価

3)既往歴:

〇〇年〇〇月〇〇日 虫垂炎

〇〇年〇〇月〇〇日 高血圧

〇〇年〇〇月〇〇日 右変形性股関節症により右人工股関節全置換術(Total Hip Arthoplasty:以下THA)

〇〇年〇〇月〇〇日 白内障手術

4)バイタル:体温 36.1、P 80、BP 154/80

5)合併症:高血圧

6)リスク管理

血圧が140/90mmHg以上を高血圧という。高血圧による脳血管障害、心不全、狭心性などを予防には有酸素運動が効果的で、無酵素運動などの強度の高い運動は避けるべきである。本症例の場合、すでに血圧の高い状態での評価となる。気分が優れなかったり、頭痛・動悸が出現した際は中止し安静とする。

7)術式:TKA(cementless)、Para Patellaアプローチ

8)OPE所見

オペ所要時間1:01

切開創 13.5cm~15.5cm。

ACL機能消失、PCL機能残存。膝関節OA著明だったので異所性骨化がみられた。膝関節内側の骨化が著明であった。Patellaは置換せず。

9)画像所見

術前立位

術前ローゼンバーグ撮影法

左膝関節の内側の関節裂隙の狭小化および骨硬化が観察できる。また左膝関節内側に異所性骨化がみられる。

※ローゼンバーグ撮影法

日常生活で最も接触圧が高くなる膝屈曲45°肢位で撮影することにより、立位正面像よりも関節裂隙の狭小化が著名な変化としてみられる。それに加え、骨棘形成や骨硬化像も十分に観察できる。

術後左膝関節前額面

術後左膝関節矢状面内側

10)血液データ(術後1日目)          

Hb:11.6g/dℓ(正常値14.8±2.4)

CRP:3.43mg/dℓ(正常値0.4)

D-D:12.5(正常値≦1)

 

C.社会的情報

1)家族構成

長男と2人暮らしである。夫は60歳代でくも膜下出血により他界。90歳代の母親がおり、施設に入所している。

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2)キーパーソン:長男

3)家屋構造・周辺環境

居宅はマンションの11階である。寝室はベッド、トイレは洋式である。トイレ、浴室には手すりが設置されている。浴槽は腰よりも低い程度の高さであり、浴槽に入る際は台に乗って入り、浴槽の中にも台を置いている。周辺状況としては買い物にはマンションの1階がスーパーになっており使用している。バスに1時間乗車し、通院されていた。

 

4)術前ADL

朝6時に起床、8時に朝食、10~12時に家事全般、12時に昼食、14時に買い物、18時に夕食、22~24時の間に就寝しているのが術前の日常的な生活習慣である。また、プールにて水中歩行を週2、3回行っている。

5)身体障害者手帳:4級

 

Ⅲ、理学療法評価

〇〇年〇〇月〇〇日術前評価、〇〇年〇〇月〇〇日術後評価

 

A.全体像

術前評価

リハビリに積極的・協力的である。コミュニュケーションも良好で、自分から話をしてくれる明るい印象を受ける。 

術後1日目

体温は37.5℃と若干高く、表情から疲労感が伺える。初期の明るい印象とは少し異なり、気力は低下している。

食事の時、臥位から座位になったが目眩はなかったが、時々少し苦しくなる。 

術後4日目

体温は36.7°と少し高く、疲労感もみられる。

●バイタルチェック

リハビリ前BP:129/74、P:88、SpO2:95.8%

リハビリ後 BP:136/73、P:87、SpO2:98%

術後5日目

昨日と同様疲労感がみられる。全身が火照り、よく眠れなかったとのこと。昨日のリハの影響による炎症はなかった。

●バイタルチェック

リハビリ前BP:129/66、P:80、SpO2:97%

リハビリ後 BP:144/87、P:87、SpO2:98%

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B.視診、触診

術前

術後

発赤:なし
熱感:左膝関節内側部
筋緊張亢進:両側下腿後面、右大腿外側、左大腿外側・前面
腫張:右膝関節内側部

発赤:確認できず
熱感:左膝関節全面、膝窩部
筋緊張亢進部位:両下腿後面、右大腿外側、左大腿前面、外側、内側
腫張:左膝関節全面

Patellaの内側・頭側・尾側への可動性低下

分析

後に示す周径からもわかるように術後の腫張は著明であった。

熱感は術後4日目と5日目であまり差はなく、著明な熱感が認められた。これは術創部の炎症症状によるものであると考えられる。

筋緊張では術前、術後ともに下腿後面の筋緊張亢進がみられた。術前より、歩行において股関節・膝関節の代償として過剰に働いていたことが考えられる。右大腿外側の緊張に関しては右股関節THAを施行しており、術前のOAの影響により骨頭が上方へ変位しており大転子に停止部のある中殿筋の正常な筋緊張が保持できなくなることによる収縮不全の代償として大腿筋膜張筋が働いていたことが考えられる。術後も大腿筋膜直筋が過剰に働いていたことによって現在も大腿外側に筋緊張亢進が認められた可能性がある。術後の左大腿前面・外側ではTKAにより狭小化していた裂隙が引き伸ばされて伸長されたことによって大腿四頭筋および大腿筋膜張筋の緊張が高まったことが考えられる。

 

C.疼痛評価(Numerical Rating Scale:以下NRS) 

1)術前評価(左図)

安静時痛

運動痛

歩行時痛

自動運動

他動運動

なし

・左膝関節伸展時に膝関節内側部~膝蓋骨下部6/10

・右股関節外転時に大腿後外側部

・左膝関節屈曲時に膝関節内側部~膝蓋骨下部6/10

・左膝関節伸展時に膝関節内側部~膝蓋骨下部6/10

歩行開始初期には痛みは出現しないが、疲労を感じた頃に左膝関節内側部~膝蓋骨下部

2)術後評価(右図)

安静時痛

運動時痛

歩行時痛

自動運動痛

他動運動痛

なし

・左膝関節伸展、 股関節屈曲・外旋・内旋時に膝関節部

膝関節伸展8/10

股関節屈曲8/10

股関節外旋8/10

股関節内旋6/10

・左膝関節屈曲時に膝関節部6~7/10

・左股関節外旋時に膝関節部5/10

なし

分析

術後の疼痛は全ての動作において膝関節全体的に痛みを感じられていた。術後炎症が生じておりその影響で疼痛が生じていると考えられる。左膝術創部の疼痛に関しては、まだ抜鉤が済んでいない状態であり、術創部の侵襲により疼痛が生じているからである。また、左膝関節屈曲ROM評価時の疼痛に関しては皮膚の動きが悪く皮膚が伸張されたために疼痛が生じたと考えられる。右大腿外側部の痛みでは触診によりこの部位に緊張亢進が認められている。部位から考えると、大腿筋膜張筋、外側広筋などの存在する部位であるが、術後は疼痛がみられていない。これは術前の右股関節外転MMT測定時に急激に強い負荷をかけてしまったことによるものと考えられる。

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D.形態測定(cm

下腿周径に関しては弾性ストッキングの上から測定。衣服のため未測定。

分析

術前に比べて術後は左大腿周径が増していた。視診、触診により左膝関節部には熱感、腫張が確認されており炎症が生じていると考えられる。炎症が生じるということは循環障害が生じているということである。また、本症例は肥満傾向にあり、体型的にも循環はあまりよくないと考えられる。これらのことから、左大腿部の周径の変化は炎症により腫張、循環障害により浮腫をきたしたために周径が増しているということが考えられる。下腿周径では最大膨隆部において術後に周径が減少していた。これは手術による廃用性の筋委縮が下腿三頭筋に起こったのではないかと考えられる。また、下肢長に関しては非術側も長くなっている。これは測定時に骨盤のアライメントを確認しなかったことによって、骨盤の前後傾による見かけ上の脚長差が原因ではないかと考えられる。

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E.FTA(°)

術前

術後

178

185

178

178

右側の内反膝が手術により改善されたことがわかる。

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F.ROM(°)

pは疼痛

Pasのみ、またはAct/Pas

 

術前

術後

股関節

屈曲

95

100

著変なし

80p

伸展

20

30

15

20

外転

25

30

20

20

内転

10

15

15

10

外旋

20

25

25

20p

内旋

※1

25

※1

20

膝関節

屈曲

130

95/105p

著変なし

45/70p

伸展

0

-5/-5p

0

0

足関節

背屈

0

0

0

0

底屈

50

50

著変なし

著変なし

※1:脱臼肢位なので未実施

術前:左膝関節passive屈曲および伸展時pは膝関節内側部~膝蓋腱部6/10

術後:左股関節屈曲・膝関節屈曲時pは膝関節部6~7/10、左股関節外旋時pは膝関節部5/10

分析

術前と術後の可動域を比較したところ、左膝関節・股関節の屈曲の可動域制限が著明に認められた。原因は大腿四頭筋の筋緊張亢進、膝関節部の軟部組織の可動性の悪さが原因になっていると考えられる。触診によって大腿前面の筋の筋緊張亢進の亢進が認められるが組織の伸張感がend feelであり疼痛も発生しているので術創部の皮膚の伸張による疼痛ものと考えられる。

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G.SLR(ROM/MMT

術前

術後

45/3

60/4 

55/3+

55/2+ 

術後左下肢SLRでは補助によって持ち上がり、数秒程度保持できたので2+とした。

 

H.extension lag(術後評価のみ)

右:15°、左35°

 

I.MMT

 

術前

術後

股関節

屈曲

3+

4

3+

2+p

伸展

3

3+

3以上

3以上

外転

3p

4

3+

3

内転

3

3+

3+

2+

外旋

3

3

3

2+p

内旋

3

3+

4

2+p

膝関節

屈曲

3以上

3以上

3以上

2+

伸展

4

3+

5

2+p

体幹

屈曲

未実施

3以下

右側股関節THA術を施行しているので、脱臼のリスク管理のため、右股関節内転MMTは側臥位内転0°、内旋MMTは座位で内旋0°で測定。

両膝関節屈曲MMTを3以上としたのは膝関節屈筋に腓返しを起こしてしまったので、抵抗をかける事を控えたためであり、動作から判断。術後右側も同様に動作から判断。

膝関節伸展に関しては自動完全伸展不可により軽度屈曲位で測定。

術前:右股関節外転時pは大腿外側

術後:股関節屈曲・外旋、膝関節伸展時は膝関節部8/10、股関節内旋時は膝関節部6/10

分析

術前と術後の筋力を比較すると、左下肢では全体的に筋力低下がみられた。筋力低下の原因は疼痛、手術による影響があると考えられる。左股関節屈曲・外旋・内旋、膝関節伸展では評価時に疼痛が生じていた。筋を収縮させることで膝関節部の自由神経終末が侵害刺激を受容し、求心性神経に伝導し疼痛が生じる。よって、疼痛が消失すれば筋力を発揮できることも考えられる。股関節外旋・内旋に関しては筋の付着部が膝関節ではないが、抵抗を加えた位置が下腿部であるために膝関節に剪断力が働き、疼痛を引き起こしていたのではないかと考えられる。

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J.片脚立位

術前 右:11秒  左:18秒

術後 右:14秒  左:全荷重負荷のため未実施。

左足片脚立位時には右側へ骨盤の低下がみられるTrendelenbrug徴候がみられた。

分析

左股関節外転MMT4に対して、右股関節外転MMTは3なので右足片脚立位時もTrendelenbrug徴候が出ているのではないかと考えられるが観察することができなかった。

右側の片脚立位時間が術後の方が高かった原因としては、術後の測定では左下肢を十分に挙上させることができずにほとんど床クリアランスがない状態だったので重心の変位が少なく、片脚立位を保てたことが考えられる。

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K.荷重量

術前:片脚立位においてFull weight可能であるので未実施。

術後4日目:左足35kg、右足はFull Weight可能であるので未実施。

術後5日目:左足50kg、右足はFull Weight可能であるので未実施。

術後4、5日ともに痛みによる制限。

また、術後の荷重量の測定中の姿勢は体幹右側屈位であった。

 

L.10m歩行(術前のみ評価実施)

T-cane歩行にて実施。

時間(秒)

歩数(歩)

速度(m/s)

ケイデンス(歩/秒)

8

14

12.5

1.75

M.姿勢分析

1)背臥位

術前

術後

頭頚部正中位

両股関節屈曲・外旋位

両膝関節屈曲位

頭部正中位

股関節軽度外転位

両膝関節伸展位

2)座位

術前

術後

頭部前方突出

胸椎後彎増強

骨盤後傾位

頭部前方突出

右膝関節屈曲角度>左膝関節屈曲角度

骨盤前傾

3)立位

術前

術後

頚部 正中位

肩甲帯 肩峰右側低位

体幹 右側屈

骨盤 後傾

股   両股関節屈曲位、左股関節外旋位

膝   両膝関節屈曲位

肩甲帯 肩峰右側低位

体幹 右側屈

骨盤 前傾

股関節 両股関節屈曲位、左股関節外旋位

膝関節 両膝関節屈曲(左>右)

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N.歩行分析

 

術前

術後

全体像

T-cane使用による自立レベルである。2点1点歩行前型である。両側それぞれの立脚相の時間も変わらない。両足ともToe offは確認できたがHeel contact は消失し、足底で接地していた。Mid Swing時に足関節が背屈できていないので、代償として股関節の屈曲角が大きくなっている。また両側立脚期共に体幹の動揺が見られ、遊脚側へ体幹が傾斜するTrendelenbrug徴候がみられた。
左下肢Mid Stance時においてlateral thurstがみられた。膝関節は常に屈曲位であり、最終伸展位までは伸展しない。常時膝屈曲位であるために、ダブルニーアクションの出現低下が見られる。

 平行棒内歩行監視レベルであり、2点1点そろえ型歩行である。立脚期は右側に比べ左側は短い。左下肢にあまり荷重をかけておらず常時右側屈位になっている。下肢の前方で上肢支持しているので体幹は常時軽度前傾位である。左側Pre Swing時の股関節・膝関節屈曲が少なく床クリアランスがほとんどなかった。また左側Terminal Stance時の股関節伸展筋による推進力もみられず、骨盤の後方回旋による代償がみられた。左足遊脚期に分廻し歩行がみられた。また左足立脚期では膝関節をロックして荷重を可能にしていることがみられる。

歩行観察(左足の歩行週期)

Pre Swing

体幹前傾姿勢
右膝関節屈曲位

体幹前傾姿勢

右膝関節軽度屈曲

Mid Swing

体幹右側屈位
右膝関節屈曲位

体幹右側屈位

右膝関節屈曲角度減少により床クリアランス減少

右股関節軽度外転位

分廻し歩行

Termial Swing

体幹右側屈位
右膝関節屈曲位

右膝関節伸展位、軽度外転位 

体幹右側屈位

Initial Contact

体幹左側屈、膝関節屈曲位でheelとtoeがほぼ同時に接地

体幹右側屈位

膝関節伸展位で接地

Heel Contactはみられた

Roading Response

体幹左側屈、右膝関節屈曲
左膝関節屈曲・内反位

膝関節伸展位

体幹右側屈

Mid Stance

体幹左側屈
左膝関節屈曲・内反位

膝関節伸展位

体幹右側屈

Terminal Stance

左骨盤前方回旋
左股関節伸展出現低下

膝関節軽度屈曲位

体幹右側屈位

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O.ADL評価

 

術前

術後

備考

食事

10

10

 

移乗動作

15

15

 

整容

5

5

 

トイレ

10

10

 

入浴

5

0

介助

移動

15

10

車いす移動自立、平行棒内歩行監視レベル

階段昇降

10

5

不可

更衣

10

5

介助

排便

10

10

 

排尿

10

10

 

合計

100

80

 

※術前では長時間の歩行により膝関節内側に疼痛出現。

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Ⅳ、統合と解釈

まず疼痛に関して、左膝関節内側の疼痛では、変形性膝関節症による関節面の狭小化から生じているもの、骨棘によって引き起こされた滑膜炎によるものが考えられる。術後ではアライメントが矯正され、膝関節内側にかかるストレスや刺激が減少し、膝関節内側部の疼痛は消失すると考えられるが、術後の疼痛は膝関節全体的に感じられていた。術後の炎症が生じておりその影響で疼痛が生じていること、TKAにより内反変形が矯正され、結果的に筋(大腿四頭筋および内転筋群、大腿筋膜張筋)や関節包、軟部組織が伸長されたことによって緊張が高まり、疼痛を引き起こしたことが考えられる。しかし、現在は筋や関節包、軟部組織の伸張による疼痛よりも術創部炎症の影響が強いと考えられる。術創部に関しては、まだ抜糸が済んでいない状態であり、術創部の侵襲により疼痛が生じていると考えられるからである。左膝関節屈曲ROM評価時の疼痛に関しても大腿四頭筋の筋緊張が亢進していることは触診からも認められるが、術創部の軟部組織の動きが悪く軟部組織が伸張され、術創部の炎症部位に刺激が加わり、疼痛が生じたことが一番の要因だと考えられる。

右大腿外側の疼痛に関しては右大腿外側(大腿筋膜張筋、外側広筋)の筋緊張亢進が考えられる。症例は右股関節THAを施行しており、術前のOAの影響により骨頭が上方へ変位しており、大転子に停止部のある中殿筋の正常な筋緊張が保持できなくなることによって、収縮不全の代償として大腿筋膜張筋が働いていたことが考えられる。その影響により術後も中殿筋の十分な収縮力が得られず、大腿筋膜張筋に過剰な負荷がかかり筋緊張亢進がみられたと考えられる。しかし、術後には筋緊張亢進は認められるものの疼痛が消失していることから疼痛発生要因としては股関節外転MMT測定時に急に強い負荷をかけたことにより強い伸張刺激が加わったことが原因ではないかと考えられる。

術前と術後の可動域を比較したところ、左膝関節・股関節の屈曲の可動域制限が著明に認められた。原因は大腿四頭筋の筋緊張亢進、手術の影響による膝関節部の軟部組織の可動性の悪さが原因になっていると考えられる。触診によって大腿前面の筋の筋緊張亢進の亢進が認められるが組織の伸張感がend feelであり、疼痛も発生しているので術創部の軟部組織の伸張による疼痛であると考えられる。

術前から股関節、膝関節において疼痛による制限がなくとも両下肢全体の可動域が低下している。この要因としては変形性股関節症および変形性膝関節症では関節内圧が最も低い軽度屈曲位2)をとりやすい。その状態で疼痛回避のため不動の期間が続いたことによる筋や軟部組織の短縮が考えられる。

また、術後にPatellaの内側・頭側・尾側への可動性の低さも触診によって感じられた。この要因としては大腿直筋、外側広筋、膝蓋靱帯の拘縮、緊張亢進が考えられる。もう1つの要因として変形性膝関節症による内反膝の影響でPatellaの動きも内反膝に合わせ正常の動きから逸脱した軌跡を辿っていた可能性があり、TKA術を施行したことによって正されたアライメントと適合不全を起こし滑走不全を起こしていることが考えられる。

 筋力に関して、術前では股関節周囲筋が全体的に左側よりも右側の筋力が低下している。この要因としては右股OAに既往が影響していると考えられる。股OAにより疼痛回避のため股関節周囲筋の活動を骨盤および膝関節によって代償し、股関節の動きを極力少なくしていた可能性があり、廃用性の筋力低下をもたらしたのではないかと考えられるからである。術後では、左下肢のMMTの結果が低下している原因として、廃用性の筋力低下のほか、術創部の疼痛によって筋力を発揮することができない、疼痛が出現することへの不安感のほか、アライメントが変化したことによって筋の伸張性や緊張が変化したことによる筋の収縮不全が考えられる。また付着部が術創部ではない左股関節外旋、内旋時にも疼痛が生じている。股間節外・内旋のMMT測定では座位で抵抗を下腿に加える。よって膝関節に剪断力をもたらしたことによって結果的に術創部の膝関節に刺激を与えてしまい、疼痛が生じたのではないかと考えられる。

 歩行において術前ではHeel Contactの消失がみられた。この要因としてはまず下腿三頭筋の筋緊張が亢進していることによる足関節の背屈可動域の低下が考えられる。下腿三頭筋の筋緊張が亢進していることの要因としてはTerminal Stance~Pre Swing時における推進力の代償が考えられる。Terminal Stance~Pre Swing時における推進力では大殿筋による股関節伸展、大腿四頭筋(特に内側広筋)による膝関節伸展、下腿三頭筋による足関節底屈による力が必要となる。しかしMMTおよびextension lagからもわかるように右股関節OAの左膝関節OAの影響により股関節伸展、膝関節伸展の十分な筋力を発揮することができないので、下腿三頭筋に過剰な負荷が加わり続け、筋緊張亢進をもたらしたのではないかと考えられる。また、左膝関節の疼痛緩和のために関節内圧が最も低い軽度膝屈曲位をとるために、常時膝屈曲位であり、Initial Contact時に膝伸展位でHeel Contactができず足底接地になっていたことも考えられる。さらに常時膝屈曲位であるのでDouble Knee Actionがみられず、衝撃吸収が効率良く行われずに関節にかかる圧力を増大させ、膝関節の変形を助長していた可能性も考えられる。

左下肢Mid Srance時にはlateral thurstがみられた。このlateral thurstの原因としては左膝関節OAにより内側の関節裂隙が狭小化していることが画像所見からも確認されるように、外側への動揺が大きくなっていることが考えられる。また、外側への動揺により外側副靱帯が伸張されて緩むことによって、さらに外側への安定性が低下するという悪循環が起こっていると考えられる。また、lateral thurstを抑制させるためには膝の安定性に関与する大腿四頭筋、ハムストリングス、大腿筋膜張筋、内転筋群の働きが重要である。特に外側への安定性に働く内転筋がlateral thurstを抑制させるために過剰に働くことによって筋緊張亢進がみられ、股関節外転ROM時のend feelとして伸張感を与えていたことが考えられる。

両側共にMid Stance時においてTrendelenbrug徴候がみられた。この原因として、MMTの結果からも外転筋、特に中殿筋の弱化がみられる。膝常時屈曲位であったので大腿筋膜張筋が優位に働き、中殿筋の筋力が低下したことによってTrendelenbrug徴候がみられたと考えられる。

術後の歩行では左側への荷重が少なく、体幹が常に右側屈位であった。術後の荷重量が50kgであることからも疼痛回避のために左側へ荷重をかけられていないことがわかる。

また左側遊脚期において床クリアランスが減少しており、分廻し歩行もみられた。左膝関節・股関節屈曲角度減少および背屈可動域の低下の影響によるものと考えられる。背屈可動域制限に関しては上記した理由による下腿三頭筋筋緊張亢進の影響が考えられ、左膝関節・股関節屈曲角度減少に関しては、可動域では歩行に必要な膝関節屈曲60°、股関節屈曲40°、伸展20°は既に獲得しているので、activeで膝関節・股関節を屈曲させることができないことがわかる。その原因としては純粋に筋力低下の問題よりも疼痛により筋力を発揮できないのではないかと考えられる。

左側Terminal Stance~Pre Swing時に骨盤による後方回旋で推進力を代償していることがみられた。上記したようにTerminal Stance~Pre Swing時における推進力では大殿筋による股関節伸展、大腿四頭筋(特に内側広筋)による膝関節伸展、下腿三頭筋による足関節底屈による力が必要となる。疼痛の影響により股関節伸展、膝関節伸展の十分な筋力を発揮することができないので、骨盤によって代償しているのではないかと考えられる。

 左足立脚では膝関節をロックすることによって荷重を可能にしていた。これはInitial Contact時には重心が膝関節よりも後方に位置しているので、膝関節屈曲方向にモーメントが働き、膝折れを防ぐために対抗する大腿四頭筋の遠心性収縮が必要となる。しかし術後では疼痛によってMMTの結果からも膝関節伸展筋力を発揮できていないことがわかる。そのため荷重をかけることによる膝折れを防ぐために膝関節をロックした状態での歩行になっていると考えられる。

 

Ⅴ、問題点

♯:ネガティブ因子、♭:ポジティブ因子

術前評価

術後評価

心身機能・身体構造

♯1 右膝関節内側部~膝蓋骨下部疼痛

♯2 右膝関節内側部腫張

♯3 両下腿後面、右大腿後面の筋緊 張亢進

♯4 左下肢内反膝

♯5 左膝関節屈曲伸展制限

♯6 両側ハムストリングス筋力低下

♯7 両側股関節伸展筋力低下

♯8 右側股関節外転筋力低下

♯9 左膝関節伸展筋力低下

♯10 BMI28

♯11 高血圧

♭1 両下肢full weight可能

♯1 術創部の炎症による膝関節術創部の疼痛

♯2 両側下腿後面の疼痛

♯3 左大腿前面・外側、右大腿後面、両下腿後面の筋緊張亢進

♯4 左膝、股関節屈曲ROM制限

♯5 左膝屈曲・伸展筋力低下(大腿四頭筋)

♯6 体幹筋(腹直筋・腹斜筋)の筋力低下

♯7 両股関節周囲筋群筋力低下

♯8 左足荷重量制限50kg

♯9 BMI28

♯10 高血圧

♭1 右下肢full weight可能

活動

♯12 歩行耐久力低下

♭2 T-cane使用により歩行自立

♯11  歩行能力低下

♯12 ADL能力低下

参加

♭3 家事
♭4 週2~3回の水中歩行

♭2 リハ室でのリハビリ

環境因子

♭5 トイレ、浴室に手すり、浴槽の中と外に台設置

♭6 自宅マンション1階スーパー

♭7 エレベーター有り

♭3 トイレ、浴室に手すり、浴槽の中と外に台設置

♭4 自宅マンション1階スーパー          

♭5 エレベーター有り

個人因子

♯13 右THA

♭8   明るく、協力的

♯13 右THA

♭6 疲労感はあるが明るく、協力的

Ⅵ、GOAL設定

S.T.G(2週間)

院内ADL自立のための動作獲得

・疼痛の軽減

・左膝関節屈曲60°(Active)

・筋力増強(大殿筋・中殿筋・外旋筋・腸腰筋・腹直筋・大腿四頭筋・ハムストMMT3以上)

・病棟内T-cane歩行自立

L.T.G(4週間)

退院に向けた動作獲得

・筋力増強(大殿筋・中殿筋・腸腰筋・大腿四頭筋・ハムストMMT3+以上)

・階段昇降自立

・屋外T-cane歩行自立

・爪切り動作、40cmの跨ぎ動作獲得

 

Ⅶ、プログラム立案

A.術創部に対するアイシング

術創部の疼痛緩和、腫張軽減、炎症症状の鎮静、運動による炎症症状活性防止。

手術侵襲による炎症でも過度になると発熱や循環障害、腫張を伴い損傷部位周辺の組織壊死を起こす。冷却による細胞内のATP受容が減少することで酸素需要も減少し、低酸素下でのダメージを少なく抑える。

 

B.ホットパック

大腿四頭筋・大腿筋膜張筋のリラクゼーション効果により、筋柔軟性の向上を目的とする。上記の筋短縮を予防し、筋スパズム軽減のために施行する。

 

C.軟部組織モビライゼーション

筋の過活動による筋緊張亢進がある部位に対する筋緊張軽減及び改善、筋肉痛の起こっている部位の循環促進、術創部周囲の炎症修復過程の癒着の防止、下肢循環状態低下防止、リラクセーションなどリハビリの前処置として行う。局所の循環改善がなされることによって筋緊張の改善と筋組織における代謝を促進する。炎症による代謝産物の吸収を促進し、外科的侵襲後の癒着を剥離させる。

 

D.足関節底背屈自動運動

廃用性の筋力低下および関節拘縮、深部静脈血栓症の予防。背臥位にて足関節の自動での底背屈運動を行う。効果は血液循環促進、筋ポンプ作用による、足部の浮腫の予防および改善。

 

E.ROM.Ex

股関節および膝関節屈曲、足関節背屈ROM Ex.を行う。

術後膝関節を動かしていないことによる組織の癒着防止、関節可動域の減少を最小限に留めるために痛みのない範囲でROM拡大を図る。

 

F.タオルつぶし

膝窩部にタオルまたはセラピストの手を置き、それを膝窩部で押し付けるようにする。大腿四頭筋の廃用性による筋力低下の予防を目的とする。

 

G.ゴムチューブ、ゴムボールを使用した股関節内転・外転・内旋・外旋トレーニング

ゴムチューブ、ゴムボールを用いて抵抗を加え股関節の安定化に重要な筋群を鍛える。

 

H.殿部挙上

大殿筋の筋力強化を目的に行う。大殿筋の収縮がなされているかどうか触知しながら行う。

 

I.脊柱安定化 Ex.

背臥位で膝関節屈曲し骨盤を挙上させる。腹腔内圧の上昇による体幹、骨盤の安定性改善、立位、歩行時の脊柱安定化による下肢の振り出し・支持性の向上、歩行の安定化を目的とする。

 

J.端座位でボールを足を挟んで膝伸展

この運動を行うことにより内側広筋を優位に働かせ、鍛えることができる。

 

K.中間位での下肢の振り出し

平行棒内で片脚立位になり、徒手的に内外旋・内外転中間位での下肢の振り出しの練習を行い、正常な下肢の振り出しの感覚を覚えてもらう。

 

L.歩行練習

正常歩行で起こっている骨盤の挙上・下制、側方移動、回旋を徒手的に誘導し、意識させて歩行練習を行う。また、鏡を使用し、視覚的フィードバックも行う。

 

MADL動作練習

自宅内ADL動作(跨ぎ動作など)について指導および練習を行う。

 

Ⅷ、考察

A.安定した歩行獲得へのアプローチ

本症例は10年前の右股関節THA術後に左膝痛を呈し、今回左TKAを施行した70歳代女性である。本症例の変形性膝関節症の発症要因として考えられるのは不良姿勢による形態学的問題、右股関節THAによる代償としての膝関節の負担増大、肥満による膝関節の負担増大であると考えられる。そして10年前から膝関節痛が悪化を辿り、膝関節内側にストレスがかかり長時間の歩行時や膝関節屈伸運動時にも痛みを生じ、今回手術を施行するに至った。本症例のHOPEは歩きたい、旅行に行きたいということであり、それに伴いNEEDは安定した歩行獲得のための筋力、歩容改善とした。そのための前段階としてS.T.G(2週間)では院内ADL自立を目標に、L.T.G(4週間)では退院に向けた動作獲得を目標に掲げ、最終的には中距離を歩行することができる能力を獲得し、旅行に行きたいというHOPEに繋げていくこととする。そのために必要な能力を獲得するにあたっての問題点を抽出し、解決策を見出し、今後行っていくアプローチについて以下に記していく。

まず、現在の最も大きな問題点として疼痛があげられる。術後ではROM、MMTにおいて膝関節に力が加わると術創部の疼痛が発生しており、疼痛により可動域制限、筋力は発揮できていないことがみられた。歩行に関しても荷重を増やすことができないのは疼痛に拠るところが大きい。よって、まず疼痛除去を目的に運動前後にアイシングを行っていき、筋力強化、関節可動域の拡大、骨盤の安定性を高めていくこととする。アイシングでは、炎症の軽減による逃避歩行の抑制を目的とする。炎症症状は炎症性浮腫(腫張)伴う疼痛を引き起こし、疼痛による活動性低下よりROM制限を助長し、歩行障害を引き起こす。このため、寒冷療法によって病理的・物理的な傷害を除去し、損傷や破壊を受けた組織を置き換え、正常な組織構造の再生を促進し、機能を取り戻すことを目的とする。足趾低背屈運動をすることで下肢循環促進を促し、炎症によって生じる疼痛物質プログラテシンなどの除去、深部静脈血栓症の予防を目的とする。

触診により左大腿四頭筋、大腿筋膜張筋、内転筋群、両側下腿三頭筋の筋緊張が亢進していることがみとめられる。その要因として1つはTKAにより内反変形が矯正され、結果的に筋(大腿四頭筋および内転筋群、大腿筋膜張筋)や関節包、軟部組織が伸長されたことによって緊張が高まり、疼痛を引き起こしたことが考えられる。軟部組織モビライゼーションを行い循環促進、リラクゼーション効果により筋緊張の軽減を図り、結果として疼痛を軽減させる。

術前と術後の可動域を比較したところ、左膝関節・股関節の屈曲の可動域制限が著明に認められた。この原因は大腿四頭筋の筋緊張亢進、手術の影響による膝関節部の軟部組織の可動性の悪さが原因になっていると考えられる。触診によって大腿前面の筋緊張の亢進が認められるものの、組織の伸張感による疼痛がend feelであるので術創部の軟部組織の伸張による疼痛であると考えられる。よって上記したように寒冷療法、軟部組織モビライゼーションを行うことによって左膝関節・股関節屈曲の可動域制限の軽減を図る。また、術前から股関節、膝関節において疼痛による制限がなくとも両下肢全体の可動域が低下している。この要因としては変形性股関節症および変形性膝関節症では関節内圧が最も低い軽度屈曲位2)をとりやすく、疼痛回避のために関節を不動状態を保っていたことによって筋の短縮や関節包、軟部組織の伸張性低下によってROM制限につながったことも考えられる。さらに、両側ともに足関節背屈可動域制限がある。この要因として下腿三頭筋の筋緊張亢進が考えられる。関節包、軟部組織の伸張性を増大させるため及び筋緊張を和らげ可動域を拡大させるためにホットパック、軟部組織モビライゼーションを行う。

また、膝関節の可動性に関して、軟部組織の伸張性、筋の筋緊張亢進だけではなく、Patellaの内側・頭側・尾側への可動性の低さも触診によって感じられた。この要因としては大腿直筋、外側広筋、膝蓋靱帯の拘縮、緊張亢進が考えられる。もう1つの要因として変形性膝関節症による内反膝の影響でPatellaの動きも内反膝に合わせ正常の動きから逸脱した軌跡を辿っていた可能性があり、TKA術を施行したことによって正されたアライメントと適合不全を起こし滑りにくくなっていることが考えられる。Patellaモビライゼーションを行い正しいアライメント上をスムーズに滑走できるように促していく。

筋力に関して、術前では股関節周囲筋が全体的に左側よりも右側の筋力が低下している。この要因としては右股OAに既往が影響していると考えられる。股OAにより疼痛回避のため股関節周囲筋の活動を骨盤および膝関節によって代償し、股関節の動きを極力少なくしていた可能性があり、廃用性の筋力低下をもたらしたのではないかと考えられるからである。術後では、左下肢のMMTの結果が低下している原因として、廃用性の筋力低下のほか、術創部の疼痛によって筋力を発揮することができない、疼痛が出現することへの不安感のほか、アライメントが変化したことによって筋の伸張性や緊張が変化したことによる筋の収縮不全が考えられる。本症例では術側だけではなく、右THAの既往歴があることも影響し、両下肢共に筋力低下がみられる。よって両側の股関節筋群、膝関節伸展筋群、体幹筋の強化を行っていく。

左側遊脚期において床クリアランスが減少しており、分廻し歩行もみられた。これは左膝関節・股関節屈曲角度減少および背屈可動域の低下の影響によるものと考えられる。背屈可動域制限に関しては上記した理由による下腿三頭筋の筋緊張亢進の影響が考えられ、左膝関節・股関節屈曲角度減少に関しては、可動域では歩行に必要な膝関節屈曲60°、股関節屈曲40°、伸展20°は既に獲得しているので、activeで膝関節・股関節を屈曲させることができないことが問題である。その原因としては純粋に筋力低下の問題よりも疼痛により筋力を発揮できないのではないかと考えられるので上記したように疼痛除去することによって改善されると考えられる。

左側Terminal Stance~Pre Swing時に骨盤による後方回旋で推進力を代償していることがみられた。疼痛の影響により股関節伸展、膝関節伸展、足関節底屈の十分な筋力を発揮することができないので、骨盤によって代償しているのではないかと考えられる。本来、Terminal Stance~Pre Swing時における推進力では大殿筋による股関節伸展、大腿四頭筋(特に内側広筋)による膝関節伸展、下腿三頭筋による足関節底屈による力が必要となる。

 大殿筋に対しては殿部挙上を行うことにより筋力強化を図り、膝関節伸展に関してはlagを改善させるために、内側広筋の働きを促すため、座位でボールを足で挟んで膝を伸展させる訓練を取り入れる。また、Lagを改善し、歩行時の膝の完全伸展を可能にすることはDouble Knee Actionの獲得につながってくる。Double Knee ActionによってInitial Contact時の衝撃の軽減および重心の上下方向の振幅を減少させることができる。

術前の歩行では両側共にTrendelenbrug徴候がみられ、MMTの結果からも外転筋、特に中殿筋の弱化がみられ、術後にもTrendelenbrug徴候がみられることが考えられる。ゴムチューブを用いた外転運動により中殿筋の強化を行うだけではなく、腹部深部筋を体幹安定化Ex.によって強化、大殿筋を殿部挙上によって強化することによって骨盤のアライメントを正し、中殿筋が収縮しやすい姿勢を獲得する。同時に股関節の求心位を保つのに重要な役割を担う股関節外旋・内旋筋に対してもゴムチューブを使用したトレーニングを行い、筋力強化を図り骨盤の安定性を獲得する。

また上記のプログラムを施行し、歩行を自立するために必要な筋力、可動性が得られていても正しい運動、つまり協調性が獲得できなければ安定性のある歩行を獲得することはできない。歩行により近い実践的な骨盤の回旋を意識した歩行練習を徒手的な骨盤の誘導または鏡を用いた視覚的フィードバック取り入れることによって筋収縮のタイミングや力の程度について理解していただく。特に下肢の振り出しに関しては、術前内反膝でありPre Swing時に外側に振り出していた。そのような歩行を続けると外側広筋が優位に働くことによる筋緊張亢進、内側広筋の委縮、重心の移動量が増えることによって歩行に余分なエネルギーが必要になってしまうことなどが考えられる。よって正しい歩行について再学習を促すようなプログラムを取り入れていき、歩行能力の向上および歩容の改善を目指す。

 

B.退院後に生活について

本症例は右THA後に膝の痛みを呈し、左膝OAを発症したことから右THAの影響により左膝関節(膝関節の生理的外反のため、特に内側部)に負担がかかり、変形を進行させていったのではないかと考えられる。よって今回の左TKA術後も左膝へかかる負荷を避け、他の関節に過剰な負担を与え変形や摩耗を生じるという悪循環をもたらすことが問題として考えられる。特に本症例の特徴である肥満は、歩行時に唯一地面と接する足底からの床反力を大きくする。そのため、下方からの床反力と上方からの荷重が関節に大きな負担をかけることが予想できる。このため、肥満体系は動作の効率性を低下させ、関節への負担の直接的な軽減のために運動療法と食事療法でもアプローチをしていくべきである。一般に人工関節の寿命は10~20年と言われており、それらは膝関節にかかる荷重や活動量によって変化するため、肥満に対するアプローチは必要である。さらに、運動効率の低下は家事にも影響を与えるため、有酸素運動によって脂肪代謝を活性化し、減量を図る必要もある。そのための運動療法として、術前行っていた水中歩行では浮力により体重による股関節合力を減少させることにより関節への負担も少なく、全身に流体抵抗がかかるため代謝改善目的の運動処方として継続していただきたい。

また、HOPEである旅行に行きたいという目標を達成するためには長距離の歩行を可能にすることが必要である。本症例の肥満体系や、人工関節および他関節への負担を考えると独歩で歩行速度を向上させるよりも、T-cane歩行で関節への負担を軽減し、歩容に関しても正しい歩行を獲得することによって重心の移動を抑え、衝撃吸収能を獲得することによって荷重分圧を促し、歩行時に必要なエネルギー消費および関節への負担を最少にし、術前は生じていた長時間の歩行における疼痛の除去を目指す。

 

Ⅸ、謝辞

今回の症例報告書作成に当たり、理学療法評価をさせて頂いた患者様、ご指導してくださった先生方、その他病院関係者皆様に感謝申し上げます。

 

参考文献

1)石井清一・平澤康介ほか:標準整形外科学 第9版,医学書院,2006,pp466-526

2)山嵜勉(編):整形外科理学療法の理論と技術 メジカルビュー社,2006,pp115-143

3)中村隆一・斎藤宏:基礎運動学 第6版,医歯薬出版社,2003,pp361-366

4)井原秀俊・他(訳):関節・運動器の機能解剖 下肢編.協同医書出版社,東京,2005,pp2-56

5)居村茂幸:系統理学療法学 筋骨格障害系理学療法学.医歯薬出版株式会社,2008,pp67-90

6)武田功・他(訳):ペリー歩行分析 正常歩行と異常歩行.医歯薬出版株式会社,2008,pp51-97

7)島田智明・他(訳):筋骨格系のキネシオロジー.医歯薬出版株式会社,2008,pp4

 

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疾患別のレポート・レジュメ作成例

疾患名
特徴
脳血管疾患

脳梗塞

高次脳機能障害 / 半側空間無視 / 重度片麻痺 / 失語症 / 脳梗塞(延髄)+片麻痺 / 脳梗塞(内包)+片麻痺 / 発語失行 / 脳梗塞(多発性)+片麻痺 / 脳梗塞(基底核)+片麻痺 / 内頸動脈閉塞 / 一過性脳虚血発作(TIA) / 脳梗塞後遺症(数年経過) / トイレ自立を目標 / 自宅復帰を目標 / 歩行獲得を目標 / 施設入所中

脳出血片麻痺① / 片麻痺② / 片麻痺③ / 失語症 / 移乗介助量軽減を目標

くも膜下出血

片麻痺 / 認知症 / 職場復帰を目標

整形疾患変形性股関節症(置換術) / 股関節症(THA)膝関節症(保存療法) / 膝関節症(TKA) / THA+TKA同時施行
骨折大腿骨頸部骨折(鎖骨骨折合併) / 大腿骨頸部骨折(CHS) / 大腿骨頸部骨折(CCS) / 大腿骨転子部骨折(ORIF) / 大腿骨骨幹部骨折 / 上腕骨外科頸骨折 / 脛骨腓骨開放骨折 / 腰椎圧迫骨折 / 脛骨腓骨遠位端骨折
リウマチ強い痛み / TKA施行 
脊椎・脊髄

頚椎症性脊髄症 / 椎間板ヘルニア(すべり症) / 腰部脊柱管狭窄症 / 脊髄カリエス / 変形性頚椎症 / 中心性頸髄損傷 / 頸髄症

その他大腿骨頭壊死(THA) / 股関節の痛み(THA) / 関節可動域制限(TKA) / 肩関節拘縮 / 膝前十字靭帯損傷
認知症アルツハイマー
精神疾患うつ病 / 統合失調症① / 統合失調症②
内科・循環器科慢性腎不全 / 腎不全 / 間質性肺炎 / 糖尿病 / 肺気腫
難病疾患パーキンソン病 / 薬剤性パーキンソン病 / 脊髄小脳変性症 / 全身性エリテマトーデス / 原因不明の歩行困難
小児疾患脳性麻痺① / 脳性麻痺② / 低酸素性虚血性脳症
種々の疾患が合併大腿骨頸部骨折+脳梗塞一過性脳虚血発作(TIA)+関節リウマチ

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