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【くも膜下出血+認知症】レジュメ・レポートの作成例【実習】

2021年12月24日

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・看護師を目指す学生に向けた、レポート・レジュメの作成例シリーズ。

今回は、「くも膜下出血+認知症」の患者のレポート・レジュメです。

実習生にとって、レポート・レジュメの作成は必須です。

しかし、書き方が分からずに寝る時間がほとんどない…という人も少なくありません。

当サイトでは、数多くの作成例を紹介しています。

紹介している作成例は、すべて実際に「優」の評価をもらったレポート・レジュメを参考にしています(実在する患者のレポート・レジュメではありません)。

作成例を参考にして、ぜひ「より楽に」実習生活を乗り切ってください!

 

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今回ご紹介するレポートの患者想定

 

今回ご紹介する患者想定

  • 病院に入院中
  • くも膜下出血を発症

  • 認知症を合併

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「くも膜下出血+認知症」の患者のレポート・レジュメ作成例

Ⅰ.症例紹介

1.一般情報

1)氏名:

2)年齢:歳代

3)介護認定:4

4)家族構成:長男 長女 次女

5)キーパーソン:近所に住む長女 週3回ほど見舞いにこられる

6)居環境:一軒屋

7)趣味:テレビ観賞

8)主訴:麻痺側に生じる疼痛

9)ニード:孫と遊びたい

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2.医学的情報

1)診断名:くも膜下出血

2)障害名:右半身不全麻痺

3)現病歴:〇〇年〇〇月〇〇日発症。A病院にてSAHにてクリッピング静注、V-Pシャント造設にて治療。退院後、〇〇年〇〇月〇〇日特別養護老人ホーム施設Bへ入所。今回、継続的治療を行いながら今後の方針決定のためA病院へ入院となる。

4)既往歴:狭心症、胆石症

5)合併症:高血圧、認知症、症候性てんかん、嚥下障害、便秘

6)入院時バイタル: 脈拍72回/分 血圧120mmHg/70mmHg 体温35.5℃

7)BMI:26.4

8)投薬状況:

ⅰ)重酸酸化マグネシウム

効果:腸内に水分を引き寄せ便を軟化、増大させる制酸作用があり、胃などの粘膜を保護する

副作用:何便、下痢、高マグネシウム血症(だるい、吐き気、筋力低下など)

ⅱ)デパケンシロップ

効果:痙攣発作を抑える

副作用:まれに肝機能障害を起こす

ⅲ)コニール錠2

効果:血圧を下げる

副作用:顔のほてり、潮紅、頭痛、動悸、過度の血圧低下

ⅳ)ニトロダームTTS

効果:狭心痛をおさえる

副作用:頭痛、掻痒、発赤

9)他部門からの情報

Dr.より:左前頭葉から頭頂葉にかけて出血がみられる。右麻痺の原因とはなるが疼痛の原因とはならない。疼痛は麻痺の影響からくる違和感を表現しているものであり、病変からの影響は少ないと考える。理学療法を実施するにあたってはてんかん、高血圧に注意する他、麻痺側に腫れや傷ができていないか観察する。今後の方針としては、積極的治療は行わず経過観察、リハビリ目的の入院を続ける。家族の要望があれば入所できる施設を探す。

 

Ns.より:リハビリ、食事、整容、入浴のときのみベッドから離れるがあとはベッド上での生活を送っており、自分からベッドを離れることは望まない。TV観賞で一日のほとんどを送っており、認知症の影響で話がかみ合わないことから同室の患者様との会話はほとんどない。家族の訪問を楽しみにされており、そのときは大きな声をだして歓迎する。

 

STより:発語、聞き取り、書字、読字のテストを実施したところ、発語での問題が生じる。舌の麻痺など、口の機能的な問題がないため、発声のプログラミングの過程が障害されていると考えられ、運動性の失語が疑われる。現在確認されている失語の種類としては、純粋語唖、口部顔面失行がある。

 

Ⅱ.理学療法評価

〇〇年〇〇月〇〇日

1.全体像 

 会話では簡単な返答や相槌をうたれる程度だが、笑顔をよく見せてくださる大変社交的な印象。一方、麻痺側に触れられることを極端に嫌がり、大声をあげることがある。刺激の有無に関わらずしばしば疼痛を訴え、検査、測定の支障となることがある。体に触れることのない検査に関しては非常に協力的で、質問に対してはすぐに回答を得られる。「桜」や「炭坑節」などを歌われ、セラピストや看護師の評判もよい。

*感情の起伏が激しいが、それが表に出るため対処がとりやすい。感情の状態に合わせて治療を進めていくとよいと考える。

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2.バイタルサイン 

1)脈拍数:評価前72回/分 評価後78回/分

2)血圧:評価前128mmHg/86mmHg  評価後132mmHg/90mmHg

*高血圧の既往があるため治療の際には血圧が上がりやすい等尺性運動や、排便時や立ち上がりの際のいきみ等に注意が必要。また、本症例の特徴として大声を連続して発することがあるため注意する。このようなケースには息をとめないようにカウントしながら運動を起こすように指導することで対応するとよいと考える。

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3.Brunnstrom stage 

右上肢:stage3~4 明らかな関節運動を伴う屈曲共同運動、伸筋共同運動の出現。手関節の底背屈、前腕の回内外がわずかながら分離して可能であり、stage4の要素を持ち合わせている。肩関節は軽介助で90°近く屈曲可能である。

右手指:stage3 全手指屈曲がわずかに出現。示指から小指にかけては疼痛が強く運動を促すのが容易ではないが、拇指は分離して橈側外転が可能である。

右下肢:stage3~4 明らかな関節運動を伴う屈曲共同運動の出現。車椅子のフットレストから足をおろすとき、靴をはくときに膝関節の90°以上の屈曲みられるが、股関節との共同パターンである。

 

*疼痛により指示通りの動作は引き出しにくく、上肢は更衣動作、下肢は靴を履く際に現れる運動からの判定となる。指示すると疼痛を意識し本来可能な動作を確認できないが、日常動作からは確認できる。

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4.痛みの評価

安静時に、麻痺側上肢においては肘関節より遠位にしびれるような疼痛(本人はびりびりすると表現)があり、手部に最も強い疼痛が生じる。麻痺側下肢においては全体的にしびれがあり、特に膝関節、足部が強い。これらは触れることにより疼痛を訴え、触れていなければ疼痛を訴えることはない。ただし、1度触れるとしばらく持続した疼痛を訴えることがある。

運動時、麻痺側上肢においては肘関節より遠位、特に手部に、麻痺側下肢においては膝関節に強い痛みを生じる。自動介助運動よりも他動的な関節運動で疼痛が増強し運動時には上肢近位部にも及ぶ。運動後すぐに疼痛を確認すると、運動時の痛みはすぐに消える模様。

 

*ADLを最も阻害していると考える。疼痛を回避するために運動を拒否する傾向が強く、麻痺側の手指は誰にも触れさせないため屈曲拘縮の予防が非常に困難であり、廃用性の筋力低下、末梢循環障害が生じる可能性がある。可能と思われる上着の更衣動作において、疼痛が少しでも生じると動作をやめ、他者に依存してしまう。また、検査、訓練の意識がないと訴える疼痛の大きさ、頻度が低下することから、心因性の痛みとも考えられる。痛みに関しての情報は主観的なものに頼らざるを得ないが、認知症やオーバーリアクションがみられるため信憑性にかける。

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5.感覚テスト

表在感覚

1)触覚:顔面→正常5/5   右上肢→正常5/5 左上肢→正常5/5

     頚部→正常5/5   右下肢→正常5/5 右下肢→正常5/5

     体幹→正常5/5     

 

2)温度覚:顔面→正常5/5 右上肢→正常5/5 左上肢→正常5/5

      頚部→正常5/5 右下肢→正常5/5 右下肢→正常5/5

      体幹→正常5/5     

 

3)痛覚:顔面→正常5/5    右上肢→正常5/5  左上肢→正常5/5

     頚部→正常5/5    右下肢→正常5/5  右下肢→正常5/5

     体幹→正常5/5     

 

深部感覚

検査に対する理解ができず、適当な回答が得られないため実施せず。

*表在感覚に検査上の問題は現れなかったが、左右の感覚に違いがあるか問うと「右がおかしな感じ」と回答。感覚に異常は確認されなかったため、麻痺による違和感を表現したものと考える。なお、認知症のため検査の信頼性を疑うが、刺激を加えてないときに刺激の有無を問うと「なんともない」と回答することから、信頼性はあると考える。

深部感覚の検査は行わなかったが、麻痺側手首を非麻痺側上肢で把持することがあり、これはよそ見をしながら可能であることから位置覚は正常であると考える。

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6.反射テスト

〈腱反射〉

部位

大胸筋

(-)

(-)

上腕二頭筋

(-)

(+)

上腕三頭筋

(-)

(-)

腕橈骨筋

(+)

(-)

大腿四頭筋

(++)

(+)

アキレス腱

(+)

(+)

両下肢に亢進がみられた。

 

<病的反射>
 

ホフマン反射

トレムナー反射

ワルテンベルグ反射

バビンスキー反射

チャドック反射

オッペンハイム反射

膝クローヌス

足クローヌス

背臥位にて測定

*錐体路徴候である腱反射亢進、病的反射の出現が予想されたが、今回の検査では出現しなかった。

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7.ROM検査

単位は(度)

 

頚部屈曲

60

 

体幹屈曲

30

 

伸展

40

 

伸展

20

右50

側屈

左50

右40側屈

左30

右50

回旋

左50

右30

回旋

左30

関節名

関節名

40

肩関節屈曲

160

115

股関節屈曲

95

20

伸展

30

-15

伸展

測定不可

40

外転

70

15

外転

30

0

内転

0

10

内転

15

60

外旋

60

20

外旋

20

-20

内旋

20

25

内旋

15

110

肘関節屈曲

130

115

膝関節屈曲

110

-20

伸展

-5

-60

伸展

-50

測定不可

前腕回内

90

-10

足関節背屈

10

測定不可

回外

70

30

底屈

30

四肢は背臥位、passiveで計測

頚部、体幹は座位、activeで計測 

四肢の最終域ではいずれも疼痛を訴える 

右前腕の回内、回外は疼痛による逃避が激しいため測定を断念 

左股関節伸展は腹臥位が困難なことと麻痺側を下にした側臥位が危険なことから測定不可

右肩関節屈曲、外転、内旋、右肘関節屈曲、伸展、右股関節屈曲、外転、左右膝関節伸展、右側関節背屈に著明な制限

 

*計測値にみられる関節可動域の制限は、最終域で疼痛が現れることによるもので、実際の関節の可動域は計測値より大きくなると考える。最終域で感じる抵抗感は軟部組織性のもので、筋の短縮によるものと考える。

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8.MMT

1)非麻痺側の測定

関節

体幹  屈曲

         伸展

         右側屈

         左側屈

         右回旋

         左回旋

4

4

4

3+

4

3+

頚部  屈曲

         伸展

         右側屈

         左側屈

         右回旋

         左回旋

4

4

4

4

4

4

肩 屈曲 

  外転

  内転

  外旋

  内旋

  水平内転

  水平外転

4

4

3+

3+

3+

3+

3+

肘 屈曲

       伸展

4

4

手 屈曲

  伸展

4

3+

股 屈曲

       伸展

  外転

  内転

  外旋

  内旋

4

3+

3+

3+

3+

3+

膝 屈曲

  伸展

4

3+

足 背屈

  底屈

4

3+

座位にて測定 股関節伸展のみ背臥位で股関節軽度屈曲位より測定

非麻痺側の握力:3.5kg

 

2)麻痺側の粗大筋力

上肢)屈筋群:2+~3 伸筋群:2+~3

屈曲、伸展共に共同運動パターンによる運動で、分離した測定は不可能である。屈曲、伸展共に抗重力運動は可能であるが、抵抗に抗して運動することはできない。

下肢)屈筋群:3~3+ 伸筋群:2+~3

屈曲、伸展共に共同運動パターンによる運動で、分離した測定は不可能である。臥位にて股関節、膝関節を90°近く屈曲させることができ、短時間であれば抵抗に抗ずることもできる。

 

*非麻痺側上肢に関しては良好で、身のまわり動作獲得に大きく貢献する。移乗動作に必要な筋力はあるものの、疼痛による運動の拒否、介助者への依存、可動域制限により普段はその筋力を発揮できていないと考える。非麻痺側下肢の筋力は立位をとるときの介助量に大きく関わり、その支持力は指示の有無によって大きく変化する。

 体幹の筋力は座位保持や居起動作に問題なく使用できる程度有しており、耐久力もあると考える。麻痺側下肢筋群は一般的に伸筋群優位だが、膝関節伸展時に疼痛を訴えるため、屈筋群優位の結果となると考える。

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9.四肢長

(単位はcm) 

 

左 

左右差

参考

上肢長

測定不可

63.5

 

肩峰~中指先端

45.5

46.5

1.0

肩峰~橈骨茎状突起

上腕長

30.0

29.0

1.0

肩峰~上腕骨外側上顆

25.0

26.5

1.5

上腕骨大結節~上腕骨外側上顆

前腕長

22.0

22.0

0

上腕骨外側上顆~橈骨茎状突起

下肢長

74.5

76.5

2.0

SMD(上前腸骨棘~脛骨内果)

62.5

64.5

2.0

TMD(大転子~腓骨外果)

大腿長

39.5

38.5

1.0

大転子~大腿骨外上顆

38.5

39.5

1.0

大転子~膝裂隙

下腿長

30.5

40.0

0.5

大腿骨外上顆~外果

36.5

35.5

1.0

膝裂隙~外果

上肢長(肩峰~中指先端)は手指伸展を疼痛により拒否され測定不可とする

 

*下肢長に左右差がみられ、これは右側大腿四頭筋の短縮や疼痛による股関節、膝関節の伸展制限によるものと考えられる。骨の長さの著明な差は認めないため、ROM訓練により改善していくと考える。

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10.四肢周径

(単位はcm)

 

左右差

上腕周径

伸展位上腕周径

27.5

29.0

1.5

屈曲位上腕周径

29.5

31.5

2.0

前腕周径

最大前腕周径

22.5

23.0

0.5

最小前腕周径

14.0

15.0

1.0

大腿周径

膝蓋骨上縁より0cm

36.0

41.5

5.5

膝蓋骨上縁より5cm

36.5

40.0

3.5

膝蓋骨上縁より10cm

37.5

43.0

6.5

下腿周径

最大下腿周径

31.5

32.5

1.0

最小下腿周径

19.0

20.0

1.0

背臥位 膝90°屈曲位にて測定

 

*大腿周径差が生じたのは廃用や麻痺による運動ニューロン障害による筋萎縮によるものと考える。右下肢は介助立位においてほぼ荷重がない状態であるのに対し、左下肢は介助立位において大きな荷重がかかっているほか、車椅子駆動、いざりにも用いるため筋萎縮がおこりにくいため左右差が生じていると考える。

 

11.改定長谷川式簡易知能評価スケール 

1)年齢:即座に回答。点数1 名前などご自分のことは質問に答えやすい模様。

2)日時の見当識:西暦は即座に回答。点数1   月、日付は答えられず、寒さやイベントなどのヒントを与えてもピンとこない。それぞれ点数0 

3)場所の見当識:自発的な回答はないものの、自宅・病室・リハ室の選択肢を与えると迷わず回答。 点数1

4)3つの言葉の記憶:猫・桜・電車の言葉を復唱してもらい、記憶してもらう。すぐに記憶することができた。点数3

5)計算:100-7の計算を試みたが答えられなかったため、10-7としてみた。それでも答えられなかった。 点数0

6)数字の逆唱:初め3桁の数字を提示。答えられなかったため2桁の数字を示したがそれも答えられなかった。 点数0

7)3つの言葉の想起:言葉を覚えたことは覚えていたが、何を覚えたかはわからなかった。それぞれ動物・植物・乗り物とヒントを与えても答えられなかった。 点数0

8)5つの物品記憶:鍵・ハンカチ・定規・時計・ペンを復唱してもらいながら記憶。この際、鍵を指しながら時計と言う失語が出現。なお、再度確認すると言い直すことができた。物を隠して何があったか尋ねると鍵・ハンカチ。時計を言い当てた。 点数3

9)野菜の名前:野菜の名前を尋ねると考え込む様子で、好きな野菜はと尋ねると2つ(キャベツ、ネギ)名前があがった。他にと促すとチューリップと回答。 点数0

 

以上9項目の評価で、合計9点(年齢1点 西暦1点 場所の見当識1点 言葉の記憶3点 物品記憶3点) やや高度の認知症があると判断する。

 

*検査中、復唱の障害や語健忘、錯語がみられるなど運動性失語の徴候が出現。認知症により指示が通りにくくなり、訓練に支障が生じると予想される。記憶の障害があると動作獲得のための教育に時間を要する可能性がある。

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12.高次脳機能検査

1)模写:簡略化した家の絵を提示。全体的に歪みがあり、完成させることができない。→構成失行

2)線分2等分:一本の直線を示し中央に印をつける。特に問題はなく完成。→半側空間失認はない。

3)塗り絵:りんごの絵を示し、何の絵か、どんな色かを問う。共に正解を答え色も塗り残しなく完成。→物体失認、色彩失認、半側空間無視はない。物体失認に対しては、先日ペンと時計を間違えたため、バナナ、ペン、時計を見せたところ今日は間違えなく答えた。

4)復唱:指示文の復唱。日常のあいさつ、短い言葉(リハビリ、車椅子など)はスムーズに答えるものの、「今日は二月です」や「外は雨が降っている」など文になると復唱できない。→認知症の影響も考慮しながら失語を疑う。

5)計算:10-7、5+8を提示。意味が理解できずわからない。→認知症の影響を考慮しながら失算を疑う。

6)見取り図:白紙の日本地図を見せ、北海道、東京、長崎、大阪、沖縄を指さしするよう支持。迷うことなく正解を指す。→地誌的記憶障害はない

7)指示行動:目を閉じるように、次に舌を出すよう指示し、それを維持するよう指示。どちらも10秒以上維持可能。→動作維持困難はみられない。敬礼、バイバイの動作、じゃんけんのチョキをするように指示。スムーズに行動に移すことができた。→観念運動失行はない

8)物品操作:鍵、ブラシの使い方を問う。どちらも間違いなく用途の通りに使用できた。→観念失行はない。

 

以上の検査項目より、構成失行・失語・失算を疑う。

 

*失語・失算に関しては認知症の影響も考えられ、判断には注意を要する。失語によるコミュニケーション障害があると指示の通りが悪くなるほか、錯語や語健忘により質問に対する回答を正確に把握できないという問題が生じると考える。

日常会話に失語の症状が時折出現し、簡単な言葉の言い間違いや質問に対して回答できないことがある。一方、質問を2択にすると答えやすい様子で、語健忘で言葉がでてこないためと考えられる。STによると会話への理解力があるため感覚性失語の徴候はなく、発声に障害が現れるため運動性失語を疑う。また構成失行を疑ったが、パズルを完成させることから形は把握していると考えられ、1)では利き手の交換による絵の描きにくさも影響していると考える。

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13.脳神経テスト

1)嗅神経(一側の鼻口を手で圧迫し、他側にタバコを近づけにおいを感じるかどうか):正常

2)視神経

〈視力〉(眼前の指の数を数えさせる):正常

〈視野〉(対座試験):正常

3)動眼,滑車,外転神経

〈眼瞼の観察〉:眼瞼下垂はみられない

〈眼球の観察〉:内斜視,外斜視はみられない

〈瞳孔の観察〉:瞳孔不同はみられない

〈眼球運動〉(指を頭を動かさず眼だけで追わせる):正常

4)三叉神経

〈角膜反射〉:正常

〈顔面皮膚の感覚〉:上顎神経の支配領域で感覚鈍麻がみられる

5)顔面神経〈顔つきの対称性〉:正常

6)聴神経(振動させた音叉を前額部の中央にあてる):音叉がないため測定不可

7)舌咽,迷走神経(口をあけさせ「アーアー」といわせる):軟口蓋,口蓋垂の健側偏位なし

8)副神経(僧帽筋と胸鎖乳突筋の筋力をみる):(右)上部僧帽筋の筋力低下

9)舌下神経(舌をまっすぐに出させる):正常

顔面の下顎神経の支配領域で感覚鈍麻がみられた以外は、異常所見はみられなかった。

 

*顔面の感覚鈍麻に関しては、筆が触れたのはわかるが、わかりにくいという軽度のものでADLに対しての支障はないと考える。

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14.姿勢・動作分析

1)姿勢分析 (ベッド上端座位)

ⅰ)前額面:頚部・体幹は座位での正中線よりやや非麻痺側に偏位している。麻痺側肩甲帯は軽度挙上し、麻痺側上肢は肩関節軽度屈曲、肘関節屈曲、手関節屈曲、前腕回外位をとる。麻痺側の足底接地がなく、尖足位をとる。

ⅱ)矢状面:麻痺側肩甲帯は軽度後退し、体幹は軽度屈曲しており麻痺側に軽度回旋が見られ、麻痺側骨盤はやや後傾しているが、仙骨座りではない。

 

*非麻痺側臀部よりの荷重で一見すると不安定な印象を受けるが、安定しており自立。麻痺側の足底接地ができれば重心を正中よりに戻すことができると考える。

 

2)動作分析

ⅰ)ベッド上端座位~背臥位 (両下肢の介助必要)

a)非麻痺側上肢on handで支持しながら頚部右側屈、体幹左側屈、左回旋させていき、on elbowとなる。

b)非麻痺側肘関節の屈曲と同時にそのまま倒れこむように側臥位となる。このとき頚部、体幹を中間位にもどす。側臥位になる際に自分でベッドの上に乗せることはできないため、介助が必要。

*動作中に麻痺側の随意運動はみられない。非麻痺側の上肢と下肢でベッドを押して丸太様にドスンと背臥位になる。非麻痺側下肢を自力でベッド上にあげるように訓練した後、麻痺側下肢を非麻痺側下肢でフックすることにより両下肢を自力でベッドにあげるよう指示すると起居動作の自立がはかれると考える。

 

ⅱ)寝返り(背臥位~左側臥位 ベッド柵の利用) 自立

a)頚部左回旋、軽度屈曲、体幹左回旋、軽度屈曲し、非麻痺側肩関節屈曲、肘関節軽度屈曲、前腕回内位にてベッド柵を把持。その時麻痺側上肢は肘関節屈曲、手関節掌屈曲、麻痺側下肢は股関節軽度屈曲、膝関節軽度屈曲している。

b)頸部屈曲、体幹を前屈し、非麻痺側肩関節の伸展、肘関節の屈曲、股関節の伸展を利用しつつ肩甲帯、骨盤帯の順に左側への体軸内回旋により寝返る。

*現状ではベッド柵なしでの寝返りが困難であるため、ベッド柵のある環境が必要となる。自力で側臥位がとれることにより、起き上がりの際に非麻痺側上肢を利用して介助量の軽減がはかれると考える。

 

ⅲ)いざり(非麻痺側へ) 自立

a)身体を非麻痺側上肢on handで支持する。

b)非麻痺側上肢の屈筋力、下肢の伸筋力を利用し、頚部の屈曲軽度右回旋、体幹を右側屈、前屈しながら身体を下方へ押す。

c)頚部、体幹を正中位へ戻すことで生じた慣性力で非麻痺側の殿部があったところに麻痺側の殿部がくる程度移動。その時麻痺側下肢は股関節屈曲、膝関節屈曲の肢位をとっており、移動に用いる様子はみられない。この動作を繰り返し、移動していく。

*安定して行え、バランスを崩すことはない。非麻痺側上下肢の筋力トレーニングとしても利用できると考える。非麻痺側へのいざりは殿部挙上が不可能であり、移動できない。

 

ⅳ)起き上がり(側臥位~ベッド上端座位) 両下肢の介助必要

a)非麻痺側上肢on elbowとなり、体幹、頚部を軽度屈曲。

b)体幹、頚部を右側屈させ、非麻痺側上肢on handとなり、腰部から頭部にかけてをベッドから挙上する。

c)介助者がかかえるように体幹を屈曲させ、臀部を支点として回転させながら下肢をおろし、体幹を正中にもどして端座位となる。

*下肢の運動がみられず、ベッドから自力でおろすことができない。側臥位になる際にベッド端になるべく近づき、下肢を下ろしやすい状態をセッティングし、麻痺側下肢を非麻痺側下肢にフックして同時に下ろすように指導することで自立できると考える。また、背臥位から起き上がるように指示しても側臥位をとらずに起き上がろうとするが、上手くいかないため、1度側臥位をとるように指導する。

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15.バランステスト

ベッド上端座位にて測定

1)静的:骨盤後傾にて安定、骨盤は非麻痺側に傾く。麻痺側の肩甲帯後退。  

2)動的:坐位:(肩甲帯より外乱を加える)

ⅰ)前方への外乱には頸体、下肢の伸展などの平衡反応

ⅱ)後方への外乱には体幹前屈などの平衡反応がみられる

ⅲ)麻痺側への外乱に頸の立ち直り反応。健側下肢や体幹も平衡反応がおこるが強度の刺激では耐え切れず患側へと倒れそうになる。

ⅳ)非麻痺側への外乱には頚の立ち直りのほか、下肢の平衡反応や健側上肢の保護伸展反応が見られる。

 

*体を安定させるために非麻痺側on handのことがある。しかし、たとえ非麻痺側on handで支持基底面を広くとらなくとも、体幹のバランスは制御されている。非麻痺側へは恐怖心もなく容易に体幹を傾けていくが、非麻痺側へは検者が非麻痺側に座り受け止めるようにしなければ恐怖心から外乱に対して抵抗しようとする。ベッド上端座位中に麻痺側へとバランスを崩したときに転倒、ベッド上から転落する危険がある。

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16.ADL評価

Barthel Index

1)食事 10点/10点  スプーンにて自立

2)車椅子とベッド間の移乗 5点 /15点  座ることはできるが介助量が多い

3)整容 5点/5点  自発的に行える

4)トイレ動作 0点/10点  オムツの使用

5)入浴動作 0点/5点  全介助にて入浴

6)平面歩行 0点/15点  車椅子自走可能だが実用的でない

7)階段昇降 0点/10点  行わず

8)更衣動作 5点/10点  袖の大きな上着は軽介助で可能 下肢は全介助

9)排便の管理 0点/10点  オムツの使用

10)排尿の管理 0点/10点  オムツの使用

以上、合計25点/100点となる。

 

FIM

1)食事 5点/7点  スプーンにて完全自立

2)整容 3点/7点  自発的に行えるが中程度の介助が必要

3)清拭 1点/7点  全介助で入浴 

4)更衣・上半身 2点/7点  袖口の広い服であれば右上肢を自力で通した後、左上肢に届くよう最小限の介助が必要

5)更衣・下半身 1点/7点 全介助にて更衣

6)トイレ動作 1点/7点  オムツの使用で行わず

7)排尿管理 1点/7点  オムツの着脱、後始末を全介助

8)排便管理 1点/7点  オムツの着脱、後始末を全介助

9)ベッドからの移乗 1点/7点  立ち上がり後の非麻痺側での体重支持のみ行う

10)トイレへの移乗 1点/7点  オムツの使用で行わず

11)浴槽への移乗  1点/7点  ストレッチャー使用の全介助入浴で行わず

12)車椅子移動 1点/7点  わずかに自走可能だが全介助にて移動

13)階段 1点/7点  行わず

14)コミュニケーション理解 3点/7点  複雑な言い回しは理解が難しい

15)コミュニケーション表出 2点/7点  簡単な言い回しで会話できる

16)社会的交流 3点/7点  スタッフ、他の患者様との関係良好

17)問題解決 1点/7点  依存心が強く他者にゆだねる

18)記憶 3点/7点  人の顔の記憶は良好だが、前日のことをたずねてもわからないことがある

以上、32点/126点となる。

 

*座位は安定しているためズボンの上げ下げ、後始末と移乗を介助すれば排尿、排便に点数の増加が期待できる。下肢筋力の状態から指導により軽介助、または自立できると考える。病棟では介助の効率上、全介助の量が多くなってしまうが、上記のように訓練により改善できる項目はあると考える。

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Ⅲ.問題点

Impairment Level

#1.右上下肢疼痛

#2.右上下肢随意性低下

#3.右上下肢痙性

#4.関節可動域制限

#5.認知症

#6.失語症

 

Disability Level

#7.起立困難 ←#.1,2,3,4,5

#8.移乗動作困難 ←#.1,2,3,4,5

#9.起居動作困難 ←#.1,2,3,4,5

#10.車椅子移動困難 ←#.1,2,3,4,5,

#11.更衣動作困難 ←#.1,2,3,4,5

#12.コミュニケーション困難 ←#5,6,

#13.トイレ動作困難 ←#.1,2,3,4,5

#14.入浴動作困難 ←#.1,2,3,4,5

 

Handicap Level

#15.家庭復帰困難 ←#.7,8,9,10,11,12,13,14

#16.介護の負担 ←#.7,8,9,10,11,12,13,14

#17.活動範囲減少 ←#.7,8,9,10,12,13

 

Ⅳ.Goal Setting

Short Term Goal

移乗動作→立位の際に非麻痺側への荷重を指導。介助量の軽減をはかる

起居動作→非麻痺側上下肢の使い方指導。介助量の軽減をはかる

車椅子移動→自走する環境のセッティング。自走する機会を増やし習慣化する。

 

Long Term Goal

移乗動作→非麻痺側下肢の支持性を向上させ、手すりなどを用いて自立する。

起居動作→動作の指導により、ベッド上端座位から臥位へ、臥位からベッド上端座位を自立する。

車椅子移動→効率的駆動動作の獲得により、屋内移動の自立。

 

Ⅴ.PTプログラム

ROM訓練 

ホットパック 

動作指導(移乗動作、起居動作、車椅子駆動) 

STによるアプローチ

ADL訓練(住宅改修を視野にいれ、身のまわり動作の獲得)

 

Ⅵ.考察

 本症例はくも膜下出血の脳出血後遺症の右片麻痺、認知症を呈する患者様である。くも膜下出血とはくも膜と軟膜の間、すなわちくも膜下腔に出血する状態である。脳動脈瘤、脳血管奇形、頭部外傷、高血圧性出血などに起因し、病巣とは反対側の顔面、手足、体幹といった半身全体の麻痺が生じ、優位半球の障害では失語を認めることがある。多くは手術適用となり、本症例はクリッピング術(動脈瘤の根元をクリップで固定し、瘤の中に血液が進入するのを防ぎ破裂を予防する)とV-Pシャント術(脳室と腹腔をチューブで連結し、髄液を腹腔内に流すことにより、髄液の吸収障害に陥った脳室の機能を補助する)での治療が施されている。

今回評価を行い、結果より右片麻痺、疼痛、認知症、失語が確認された。そのためADL能力、コミュニケーション能力が低下し、在宅での生活が困難となっている。

 運動麻痺については、Brunnstrom stage3~4で、分離運動が行えないこと、下肢においては足関節背屈制限も加わり支持性がないことから、現状では実用性に乏しい。また、麻痺側の他動運動の際に上肢なら上肢全体に、下肢なら下肢全体に激しい疼痛を訴え、触れることさえ拒否し始めるというように、麻痺側に対する保護的傾向がみられる。運動に対するモチベーション低下の最大因子であるため、評価、治療の際には疼痛に対するケアが必要となる。例えば評価は非麻痺側から始め、麻痺側へと進む際には疼痛の発生しにくい箇所から始める。そうすることにより疼痛による逃避が少なくなり、評価がスムーズになる。また、疼痛を避けられない部位においては会話をしながら行うなど、評価していることを意識させないことで疼痛を訴える回数を減らすことができる。麻痺側の自動運動を引き出す際に、指示をだすと疼痛を意識し有する能力を発揮できないが、靴をはく、上着の袖を通すといった日常動作の際には有する能力を発揮している。また、打腱器に興味を示しこれを手渡すと、非麻痺側大腿部を叩き始めた。このとき麻痺側下腿を叩くように促すと、頚部、体幹を屈曲させ、麻痺側股関節、膝関節を屈曲し叩くことができた。このときの麻痺側下肢の動きに注目すると、指示を出しての動作より明らかに運動範囲、強度の高い動きを確認できる。よって訓練に日常動作や遊びの要素を取り入れることにより、疼痛の影響を抑えることができると考える。また、疼痛に対して考えられる具体的治療として、ここでは物理療法を挙げている。物理療法ではホットパックを用いた温熱療法で痛覚域値を上昇させ鎮痛効果を得ると共に、筋の伸張性が増す、筋緊張を軽減させるといった効果も期待する。疼痛が軽減する事で治療時間が延長される事や、疼痛により治療に対する集中力が散漫になりがちになる事を防ぐ事を狙うものとする。一方、認知症と感覚障害の疑いがあるため、ホットパック使用中、使用後に皮膚状態の確認をし、火傷を起こさないよう注意する必要がある。

 失語症については、病棟や訓練中に歌を歌うなど発声は良好であるものの、語健忘、錯語がみられ時々復唱が困難になるなどの症状があるため運動性失語を疑う。STによると純粋語唖(発語の構音に関するプログラムのみの重症度障害)、口部顔面失行(音声模倣,口形模倣困難となる)がみられ、実際に会話がとりにくいことから発言をあきらめることがしばしばみられる。ただし認知症の影響もあると考えられるため判定には注意を要するものとする。また、オウム返しが多いため、検査における質問と回答には注意を要する。{例えば、麻痺側に触れて「痛いですか」と問えば「痛い」と答えるが、時間をおいて同じよう触れて「痛くないですか」と問えば「痛くない」と答える}このように発語に際して問題があがるが、一方こちらの指示はよく通り、他の患者様との会話に際してあいづちをうつことから、聴覚的理解力は高いと考える。会話からよく笑われ、発言できなくとも集団の中で楽しむことができる明るい性格の持ち主である。

 病棟でのADLは食事、整容以外ほぼ全介助であるが、ベッド上動作、起立動作、移乗動作、車椅子移動に関しては指導により自立できると考える。現状では起立や移乗時に依存心の高さからか非麻痺側を有効に使えておらず、介助量が非常に大きい。起立に必要な筋力は有していると考えられるので、非麻痺側上肢で手すりを有効に使うこと、非麻痺側下肢に荷重することを指導すれば介助量が大きく減少すると考える。介助量を減らしていき、依存心を軽減していけば、手すりやベッド柵など環境を整えることでベッド周辺の動作は自立できると考える。なお、BMIが26.4と肥満傾向にあり、介助者はもちろん移乗の際の本人の負担にもなりかねないので減量効果もねらって車椅子の自走は奨励する。効率的な駆動方法の指導により、同時に屋内での移動能力の改善を図る。

 Goal設定に移乗動作、起居動作、車椅子駆動の向上、自立をあげている。これらの動作が困難となっている原因は動作によって起こる疼痛や依存心によるもので、これは効率的な動作の獲得により軽減すると考える。そこでShort Term Goalとして、疼痛の生じにくい動作を指導し、動作に対しての積極性をひきだしながら徐々に介助量を減少させていくことを目指す。麻痺側の使い方を理解し介助量が口頭指示、監視レベルに達すれば、Long Term Goalとして、移乗の際の立位不安定、起居動作の際のベッドからの転落、車椅子移動を阻害する段差といった問題点をベッド柵や段差の解消により改善し、安全性を確保した上で最終的に自立を目指す。このとき、やや高度の認知症があるため動作獲得に時間を要すると考えられるが、繰り返しの指導で習慣化すると効果的であると考える。

 以上のように、ADLを最も阻害しているものは疼痛であると考える。疼痛の減少なしにADLの向上は望めないほか、治療を実施する際にも問題となる。訓練における疼痛の問題を最小にするために、疼痛の発生しにくい非麻痺側による動作獲得を優先し、麻痺側は現状維持を目標とする。そして麻痺側の疼痛が減少した際にROM制限の改善を図るようにするなど、疼痛を考慮した治療プログラムを作成する必要があると考える。

 

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疾患名
特徴
脳血管疾患

脳梗塞

高次脳機能障害 / 半側空間無視 / 重度片麻痺 / 失語症 / 脳梗塞(延髄)+片麻痺 / 脳梗塞(内包)+片麻痺 / 発語失行 / 脳梗塞(多発性)+片麻痺 / 脳梗塞(基底核)+片麻痺 / 内頸動脈閉塞 / 一過性脳虚血発作(TIA) / 脳梗塞後遺症(数年経過) / トイレ自立を目標 / 自宅復帰を目標 / 歩行獲得を目標 / 施設入所中

脳出血片麻痺① / 片麻痺② / 片麻痺③ / 失語症 / 移乗介助量軽減を目標

くも膜下出血

片麻痺 / 認知症 / 職場復帰を目標

整形疾患変形性股関節症(置換術) / 股関節症(THA)膝関節症(保存療法) / 膝関節症(TKA) / THA+TKA同時施行
骨折大腿骨頸部骨折(鎖骨骨折合併) / 大腿骨頸部骨折(CHS) / 大腿骨頸部骨折(CCS) / 大腿骨転子部骨折(ORIF) / 大腿骨骨幹部骨折 / 上腕骨外科頸骨折 / 脛骨腓骨開放骨折 / 腰椎圧迫骨折 / 脛骨腓骨遠位端骨折
リウマチ強い痛み / TKA施行 
脊椎・脊髄

頚椎症性脊髄症 / 椎間板ヘルニア(すべり症) / 腰部脊柱管狭窄症 / 脊髄カリエス / 変形性頚椎症 / 中心性頸髄損傷 / 頸髄症

その他大腿骨頭壊死(THA) / 股関節の痛み(THA) / 関節可動域制限(TKA) / 肩関節拘縮 / 膝前十字靭帯損傷
認知症アルツハイマー
精神疾患うつ病 / 統合失調症① / 統合失調症②
内科・循環器科慢性腎不全 / 腎不全 / 間質性肺炎 / 糖尿病 / 肺気腫
難病疾患パーキンソン病 / 薬剤性パーキンソン病 / 脊髄小脳変性症 / 全身性エリテマトーデス / 原因不明の歩行困難
小児疾患脳性麻痺① / 脳性麻痺② / 低酸素性虚血性脳症
種々の疾患が合併大腿骨頸部骨折+脳梗塞一過性脳虚血発作(TIA)+関節リウマチ

-書き方, 脳血管疾患, 病院, 認知症, レポート・レジュメ