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【脊髄小脳変性症】レポート・レジュメの作成例【実習】

2021年12月24日

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・看護師を目指す学生に向けた、レポート・レジュメの作成例シリーズ。

今回は、「脊髄小脳変性症」の患者のレポート・レジュメです。

実習生にとって、レポート・レジュメの作成は必須です。

しかし、書き方が分からずに寝る時間がほとんどない…という人も少なくありません。

当サイトでは、数多くの作成例を紹介しています。

紹介している作成例は、すべて実際に「優」の評価をもらったレポート・レジュメを参考にしています(実在する患者のレポート・レジュメではありません)。

作成例を参考にして、ぜひ「より楽に」実習生活を乗り切ってください!

 

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今回ご紹介するレポートの患者想定

 

今回ご紹介する患者想定

  • 病院に入院中
  • 脊髄小脳変性症を呈する

  • 家庭復帰を目標

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「脊髄小脳変性症」の患者のレポート・レジュメ作成例

A.はじめに

今回、脊髄小脳変性症の患者に対して評価を行う機会を得たので、以下に報告をする。

 

B.症例紹介

【患者氏名】

【年齢】

【利き手】右手

【主訴】足底のしびれ

【患者のニード】平行棒で歩くこと

【趣味】スポーツ観戦

【障害名】歩行障害

【発話】軽度構音障害(カルテより)

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C.医学的所見

【診断名】脊髄小脳変性症

【CT所見】小脳・大脳:軽度の萎縮が見られる 

*画像添付推奨

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【入院年月日】〇〇年〇〇月○○日 

【現病歴】脊髄小脳変性症(〇〇年〇〇月○○日)の診断をA病院で受ける。自宅から通院していた。週に一回のデイサービスと、訪問入浴を週3回行っていた。〇〇年〇〇月○○日高熱と伴に歩行が困難となりB病院に入院。〇〇年〇〇月○○日リハビリテーション目的で転院となる。

【既往歴】なし

【症状】歩行障害、体動困難

【薬剤状況】

薬名

作用

適応

副作用

レンデム

催眠,鎮静,抗不安

不眠症

呼吸抑制1)依存性2)精神神経3)肝臓(GOT・GPT・Al-P・γ-GTP・LDHの上昇) 4)循環器 5)消化器 6)過敏症 7)骨格筋(だるさ,倦怠感,下肢痙攣) 

カマグ

塩類下剤

1)便秘症2)尿路蓚酸カルシウム結石の発生予防

1)代謝異常2)消化器(下痢等) 

リボトリール

てんかん発作,ミオクロニー発作,体の不随意運動

1)小型(運動)発作2) 精神運動発作3) 自律神経発作

1)依存2)呼吸抑制,睡眠中の多呼吸発作(息苦しい、窒息感、翌朝の頭痛、頭が重い)

【薬剤状況】※今まで

薬名

作用

適応

副作用

メチコバール

しびれ、痛み、筋力の低下

末梢神経障害

発疹などの過敏症状、食欲不振、吐き気、下痢

ミオナール

筋肉を緊張させている神経をしずめる、筋肉の血流改善

筋萎縮性側索硬化症、脳性小児麻痺、脊髄小脳変性症、脊髄血管障害、スモン(SMON)、

眠気、ふらつき、脱力感、だるい、食欲不振、吐き気、発疹、かゆみ。

 

テルネリン

筋肉の血流改善

脊髄小脳変性症、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症。

血圧低下、眠気、頭痛、ふらつき、脱力感、食欲不振、吐き気、口の渇き、発疹、かゆみ。

 

ランドセン

抗てんかん

小型(運動)発作〔ミオクロニー発作、失立発作、点頭てんかん。精神運動発作、自律神経発作

眠気、イライラ、無気力、頭痛、ふらつき、めまい、けん怠感、脱力感、喘鳴、唾液増加、物が二重に見える、尿失禁 発疹

セルベックス

鎮痛薬など他の薬による胃の荒れを予防

胃潰瘍、次の疾患の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善//急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期

 肝機能値の異常

ロヒプノール

脳の神経をしずめる

不眠症

眠気、頭が重い感じ、頭痛、ふらつき、めまい感、けん怠感、脱力感、口の渇き

トリプタノール

セロトニンの増加

精神科領域におけるうつ病・うつ状態、夜尿症

 口の渇き、吐き気、食欲不振、便秘、眠気、けん怠感、めまい、ふらつき、立ちくらみ、低血圧、動悸、頻脈、不整脈、手のふるえ、動作がにぶる、口周囲の異常な動き、発疹

レンドルミン

睡眠薬

不眠症

 眠気、ボーッとする、頭が重い感じ、頭痛。ふらつき、めまい感、けん怠感、脱力感

ホルタレンSP

対症療法

鎮痛・消炎

 胃痛・腹痛、吐き気、吐く、食欲不振、口内炎、発疹、じんま疹、むくみ、肝臓や腎臓の働きが落ちる

【血液液査】                                                                                            

※異常がみられた項目のみ記載     

生化学検査

結果

Alb

3.8

AST

50

ALT

113

r-GT

40

S-Glu

114

T-Cho

181

P

4.6

【一般情報】

身長:cm

体重:kg           

BMI:

体温:36.2℃

血圧:110/75

脈拍数:60bpm

性格:明るい

 

【他部門からの情報】

Dr:進行は年単位で緩徐である。家庭復帰は難しいと考えている。足底の痛みは原因不明である。

Ns:転院した頃は、感情失禁がみられ夜間にナースコールをしていたが、現在では精神的に落ち着き感情失禁もなくなり、笑顔が見られている。

OT:発症時は全介助状態であったが、現在では車椅子の自走が可能である。今後の方針として現在の機能の維持と、車椅子上でのADL動作(整容、食事、更衣など)の獲得、また獲得した機能の維持としている。精神面では特別にアプローチすることなく、患者様が動作を獲得することで意欲の向上、精神的安定がとれている。

ケアスタッフ:精神状態も安定しており、病棟ではとても明るい。問題行動は見られないが、足底の夜間痛が激しい時は体位変換のためナースコール夜間頻回に使用することもある。

 

D.社会的情報

【家族情報】Key person:長女

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E.理学療法評価

評価開始日:〇〇年〇〇月○○日

評価場所:リハ室、ベッドサイド

 

【全体像】

病室のベッド上で寝ており、声掛けに対して明るく答えコミュニケーションは良好である。細身の方で、とても明るい方だが、時折病気に対して不安をみせることもある。リハビリに対しては積極的に行っており、理学療法学生(以下PTS)の評価に対しても拒むことなく協力的である。

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【検査・測定】

<意識障害>

Japan Coma ScaleよりⅠ-0(意識清明)

~アセスメント~

刺激しないでも覚醒している状態であり、日常会話や問診に答える等から判断しても、意識障害はないと考えられる。

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<認知症>

改訂長谷川式簡易知能検査(HDS-R)

26点/30点      

※不正解であった項目のみ記載

・数字の逆唱→3-5-2-9を“9-2-3-5 “と回答

・3つの言葉の遅延再生→植物、乗り物は正解するが、動物はヒントを与え回答

・言語の流暢性→“かぼちゃ・ほうれん草・ごぼう・高菜・ジャガイモ・タマネギ・にんじん・ねぎ”と回答  8/10

~アセスメント~

 本検査においては、20点以下が認知症と疑われるのに対し、26点という数値からと認知症の疑いはないと考えられる。検査・測定中、PTSの指示もしっかり理解しており、日常生活においても問題はないと考えられる。

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<高次脳機能検査>

検査項目

結果

模写

問題なし

線分2等分テスト

問題なし

計算

問題なし

指示動作(目をつぶる、舌を出す)
    (バイバイをする、チョキをする)
    (左手を右目に、右手を左肩に)

問題なし

模倣動作(キツネをつくる)

問題なし

~アセスメント~

 構成失行、半側空間無視、半側空間失認、構成失認、動作維持困難、観念運動失行、左右弁別障害、身体部位失認、手指失認などの問題はみられなかった。

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<脊髄小脳変性症(SCD)の重症度・障害の分類>

体幹・下肢運動機能ステージ:Ⅵ 寝たきり状態

(重症度分類)

1)下肢機能障害Ⅴ度…支えられても起立不能な状態。

2)上肢機能障害Ⅲ度…手先の動作は全般に拙劣で、スプーン等の補助具を必要とする。

3)会話障害Ⅲ度…障害は軽いが少し聞き取りにくい。

~アセスメント~

 下肢機能については筋のトーンが低く支えても全く立てない状態であったためⅤと判断、上肢機能は、食事や歯磨き等は自立して行っており、書字についても、線の揺れや、字の大きさが一定ではないがなんとか書ける状態だったので、Ⅲと判断、会話障害では普段のコミュニケーションは問題ないが、時折聞き取りにくいことがあるのでⅢと判断した。

 本症例は、発症して数十年たっており、また進行性の疾患であるので、機能の回復は難しいと考えられるが、基本動作、ADL訓練の練習で機能の維持は図れると考える。

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<反射検査>

腱反射

上腕二頭筋

±

±

上腕三頭筋

±

±

腕橈骨筋

±

±

膝蓋腱

++

++

アキレス腱

病的反射

ホフマン

トレムナー

バビンスキー

オッペンハイム

クローヌス

膝クローヌス

足クローヌス

(腱反射)

~アセスメント~

膝蓋腱反射軽度の亢進、膝クローヌスがみられた。しかし左右差がなく両側にみられるので異常がないと考える。その他の反射、病的反射は異常がないため錐体路障害はないと考えられる。

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<感覚検査>
表在感覚

触覚:上肢は上腕・前腕・手部のそれぞれ背側・腹側の左右、下肢は大腿・下腿・足部のそれぞれ背側・腹側の左右を検査した。

※右側

 

手掌

手背

前腕腹側

前腕背側

上腕腹側

上腕背側

触覚

5/5

5/5

5/5

5/5

5/5

5/5

痛覚

5/5

5/5

5/5

5/5

5/5

5/5

※左側

 

手掌

手背

前腕腹側

前腕背側

上腕腹側

上腕背側

触覚

5/5

5/5

5/5

5/5

5/5

5/5

痛覚

5/5

5/5

5/5

5/5

5/5

5/5

※右側

 

大腿腹側

大腿背側

下腿腹側

下腿背側

足部腹側

足部背側

触覚

5/5

5/5

5/5

5/5

5/5

5/5

痛覚

5/5

5/5

5/5

5/5

5/5

5/5

※左側

 

大腿腹側

大腿背側

下腿腹側

下腿背側

足部腹側

足部背側

触覚

5/5

5/5

5/5

5/5

5/5

5/5

痛覚

5/5

5/5

5/5

5/5

5/5

5/5

深部感覚

上肢:正常

下肢:正常

~アセスメント~

 触覚・痛覚において左右差はなく正常である。このことから、表在感覚は問題ないと考えられる。深部感覚も下肢は股間節、膝関節、足部、上肢は肩関節、肘関節、手部ともに問題がなかった。このことから、感覚の異常はないと考えられる。

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<筋緊張>
安静時(背臥位)筋緊張 

頚部:低下

体幹:低下

左右上肢→手関節:低下、肘関節:低下、前 腕:低下(回内・回外)

左右下肢→膝関節:低下、足関節:低下

 

車椅子筋緊張

頚部:低下

体幹:背側亢進 腹側低下

両上肢→手関節:低下、肘関節:低下、前 腕:低下

両下肢→膝関節:屈曲…低下 伸展…亢進、足関節:低下              

 

端坐位筋緊張

頚部:亢進

体幹:背側亢進 腹側低下

両上肢→手関節:低下、肘関節:屈曲…低下 伸展…亢進、前 腕:低下

両下肢→膝関節:屈曲…低下 伸展…亢進、足関節:低下

~アセスメント~

 背臥位では筋緊張は低下している。しかし、車椅子では膝関節の亢進がみられた。端坐位では膝関節、肘関節の亢進が見られた。姿勢が安定していれば筋緊張の亢進はみられないが、車椅子、端坐位と姿勢が不安定な状態になると、筋緊張が亢進すると考えられる。

 筋緊張の低下はγとα運動ニューロン活動の抑制と関連があり、拮抗筋群の反射抑制が遅いことが原因として考えられる。

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<疼痛検査>

部位:左の腋窩部と上腕の背側、右の腋窩部と上腕の背側、両側足底部の痛み

安静時痛:両足底部のみ(しびれるような痛み)

夜間痛:両足底部のみ(しびれるような痛み)

*足底部

 

運動時痛:自動、他動に肩関節外転・屈曲・外旋した時につっぱるような痛みが生じる。(左右)    

※左の腋窩部と上腕の背側

 

※右の腋窩部と上腕の背側

~アセスメント~

両上肢につっぱるような運動時痛が出現。安静時、夜間にはみられない。運動時につっぱるような痛みということと、触診や視診により拮抗筋の短縮が原因ではないかと考えられる。足底の痛みはDr.情報により原因不明と言われている。しかし夜間痛があるため睡眠に影響がでているのではないかと考えられる。今後、足底の痛みに対して考えていかなければならない。

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<協調運動障害テスト>

・鼻指鼻試験:測定過大、測定過少は特に見られないが振戦現象が見られる 

・線引きテスト:失調症のために線がゆがむ、測定過大、測定過少は見られない

・手回内・回外試験:左右共にスムーズではなく、左は顕著。左側の反復拮抗運動不能

・書字障害:線の揺れ、文字の大きさの不均一がみられる

~アセスメント~

本症例の疾患から振戦は、協調性の障害によるものと考えられる。

上記の試験と視診から判断した。測定障害、変換運動障害、共同運動障害、振戦、時間測定障害がみられる、食事動作で上手く口元に運べなかったり、食べ物がスプーンからこぼれたり、また手先を使用した整容や、細かな作業をする際などADL上問題をきたすと考えられる。

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<脳神経テスト>

嗅神経

嗅覚

正常

視神経

視力

正常

視野

正常

動眼神経

滑車神経

外転神経

眼瞼下垂

無し

眼球異常

無し

斜視

無し

眼球運動

正常

眼振

あり

三叉神経

咀嚼時、咬筋・側頭筋の左右差

無し

顔面のSensory

正常

顔面神経

顔つきの左右差

無し

ベル現象

無し

額のしわ寄せ、閉眼

可能

歯のむき出し、口をへの字

可能

マイアーソン徴候

無し

聴神経

耳鳴

無し

聴力

正常

舌咽神経

迷走神経

カーテン徴候

無し

嚥下反射

正常

副神経

胸鎖乳突筋

回旋可能

僧帽筋

挙上可能

舌下神経

舌の動きの異常

無し

~アセスメント~

眼振のみ見られた。本症例の疾患からこの眼振は小脳障害による失調性の眼球運動であると考えられる。その他の脳神経に異常はみられなかったため、問題はないと考えられる。

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<四肢周径・四肢長>

四肢長

 

左右差

上肢長

51.5

51.0

0.5

上腕長

28.5

28.5

 

前腕長

23.0

22.5

 

SMD(棘果長)

76.5

76.5

 

TMD(転子果長)

71.0

70.0

 

大腿長

31.5

32.0

0.5

下腿長

35.5

35.0

0.5

四肢周径

 

左右差

上腕(肘屈曲位)

18.5

18.5

 

   (肘伸展位)

17.0

17.0

 

前腕(最大部)

19.0

19.0

 

   (最小部)

12.5

12.5

 

膝蓋骨上縁

26.5

27.5

1.0

     5cm

26.5

26.5

 

   10cm

28.0

28.5

0.5

   15cm

28.5

29.0

0.5

下腿(最大部)

20.5

20.0

0.5

   (最小部)

16.5

15.5

1.0

~アセスメント~

 四肢長・四肢周径共にほとんど左右差はない。四肢周径からは全体的に筋萎縮が見られる。これは活動性の低下による廃用性の筋萎縮によるものと疾患によるものと考えられる。

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<関節可動域検査>

単位:゜ 疼痛:P

上肢

痛み

特記

 

active

passive

active

passive

肩関節屈曲

110

115P

105

110P

腋窩から上腕背側につっぱるような痛み

制限あり

     伸展

45

50P

40

45P

側臥位

     外転

105

105P

80

90P

制限あり

     内転

0

0

0

0

 

     外旋

40

45

10

15P

肩関節90°外転、肘関節90°屈曲位
左側特に制限あり

     内旋

80

90

85

90

 

肩関節90°外転、肘関節90°屈曲位

肘関節屈曲

150

155

150

155

  

伸展

0

5

0

5

  

前腕 回内

90

90

90

90

  

回外

80

85

90

95

  

手関節掌屈

75

85

70

80

  

背屈

75

80

70

70

  

下肢

痛み

特記

股関節屈曲

 

110

 

110

 

膝関節屈曲位

     伸展

 

10

 

10

 

側臥位

     外転

 

30

 

20

  

     外旋

 

0

 

5

 

制限あり

     内旋

 

45

 

45

  

膝関節屈曲

 

160

 

160

  

     伸展

 

5

 

5

 

背臥位にて測定

足関節背屈

 

10

 

10

  

     底屈

 

40

 

40

  

~アセスメント~

 関節可動域測定の際、両側の肩関節、屈曲、外転、左側肩関節外旋時に疼痛が見られた。可動域制限は両肩関節屈曲・外転・外旋にみられる。拮抗筋(三角筋・大円筋)の伸長痛による制限と考えられる。下肢では股関節外旋以外はとくに問題とするレベルではないと考える。外旋の可動域制限は廃用による拘縮、内転筋の短縮が原因によるものと考えられる。

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<GMT>
  

股関節

屈曲

2

2

 

伸展

行わず

行わず

 

外転

1

1

 

内転

2

2

 

外旋

1

1

 

内旋

1

1

膝関節

屈曲

行わず

行わず

 

伸展

2

2

足関節

背屈

1

1

 

底屈

行わず

行わず

肩関節

屈曲

3

3

 

伸展

行わず

行わず

 

外転

3

3

肘関節

屈曲

5

5

 

伸展

3

3

前腕

回内

3

3

 

回外

3

3

手関節

掌屈

3

3

 

背屈

2

2

体幹

屈曲

2

 
 

伸展

行わず

 
<MMT>

※MMTは各々の筋の分離運動可能な場合に用いるため、本症例は検査肢位がとれないものもあったので、GMT、握力として計測した。

上肢

屈筋群

4

3+

伸筋群

4

4

下肢

屈筋群

2

2

伸筋群

3

3+

体幹屈曲筋群

2

頚部屈筋群

3

握力

右8.4㎏,左7.1㎏

~アセスメント~

 全体的に筋力は低下しており、特に体幹・両下肢に筋力の低下がみられた。これは、不活動と臥床による廃用性の筋力低下、疾患によるものと考えられる。体幹筋群はバランスを保持する等のためには欠かせないものであり、寝返り等の基本動作、やADL動作、坐位におけるバランス不良など、なんらかの影響を与えるであろうと考えられる。

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<姿勢分析>

背臥位:頚部・頭部・体幹は正中線上にあり、両上肢は体側に置き、肘関節軽度屈曲、前腕は中間位である。下肢は股関節軽度外転内旋、膝軽度屈曲、足関節底屈内反位で、筋は弛緩している状態である。

車椅子坐位:頚部・頭部正中位、体幹はやや右に傾いている。右肩は挙上し、両肘関節は屈曲しアームレストの上にのせている。両股関節内旋位、両足関節底屈内反している。骨盤は後傾しており体幹が前方に崩れないように背もたれにつけている。重心はやや後方である。

端坐位:全介助レベル。頭頚部前屈、体幹やや前傾で右に軽度傾いている。上肢は下垂させ肘関節軽度屈曲、前腕中間位である。下肢は股間節屈曲・内転・内旋位、膝関節屈曲、足関節は底屈内反。骨盤をやや前傾にすると数秒支えなしで座れる。重心は後方にあり支えがないと後方に倒れてしまう。

~アセスメント~

坐位において骨盤が後傾し、体幹が前傾しているのは体幹の筋力低下が考えられる。また筋緊張が低いことから支持性もえられていないと考えられる。重心が後方にあるため、頭頚部前屈、体幹軽度前屈して代償している。

 

<動作分析>
寝返り

※右側への寝返り:正中位→右側を下にした側臥位(軽介助レベル)

始めに頚部を屈曲回旋させ、上肢先行のパターンの寝返りである。両股関節・両膝関節軽度屈曲位で、左上肢を右にふり、肩甲帯を上げ、体幹を回旋する。体幹の筋緊張が亢進し、骨盤帯は回旋できず、介助により回旋する。

 

移乗動作 

※全介助

ベッドから車椅子(介助レベル)※車椅子を向かって左側に準備

第1相:介助者の腰に手を通し、介助者につかまる(指示にて)。頭頚部・体幹屈曲、骨盤帯前傾。

第2相:介助者により持ち上げられ車椅子に移る。この時足部は内反底屈しており、まき込み、足を捻らないように気をつけなければならない。

 

車椅子からベッド(介助レベル)※車椅子を向かって右側に準備

第1相:自分で車椅子のブレーキをし、介助者の声掛けにより、車椅子のアームレストに手を置き前方に重心を移す。頚部・体幹屈曲、骨盤帯前傾。

第2相:介助者が腋窩の下に手をまわし、持ち上げてベッドに移る。この時介助者の服につかまっている。足部は内反底屈しており、まき込み、足を捻らないように気をつけなければならない。

 

移動動作

※車椅子自走(監視、軽介助レベル)

 体幹は右にやや傾いており、頚部軽度前屈している。車椅子駆動の際、肩甲骨挙上させ、肘関節屈曲位、前腕中間位、手関節軽度背屈、尺屈位から肩甲骨を下制させ、肘を伸展し前方に押し出す。股関節は内転・内旋位(特に左の股関節)である。傾斜があるところでは介助が必要である。また速度も遅く、真っ直ぐ進めず長距離駆動は困難である。

車椅子速度(10m)

1回目:52秒  2回目:43秒  3回目:47秒(通常) 平均47.3

1回目:36秒  2回目:25秒  3回目:26秒(早くこいだ時) 平均29秒

~アセスメント~

移動動作以外は全介助レベルである。筋力低下や筋緊張の低下により自立では行えないと考えられる。寝返りでは、体幹の緊張が亢進し、また体幹の筋が短縮していることにより出来ないと考えられる。移動動作では、平地では自立して行えるが、傾斜では介助を必要とすることから、筋力低下が原因と考えられる。また、真っ直ぐに進むこと、長距離の移動も難しいことから、易疲労性、筋持久力低下、運動失調が考えられる。速度が遅いことから、筋力低下と体幹の不安定性が考えられる。

10Mの車椅子速度(通常)が0.21m/secであった。文献より、10m歩行のスピードの50歳代の平均が1.30m/sec±0.20であることから車椅子速度は遅いと考えられる。

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<ADL評価>

(※しているADL)

 

評価項目

コメント

運動項目

セルフケア

 

 

排泄

コントロール

食事

5

自立しているが、エプロンをつけてもらう。床にも食べこぼしがみられる

整容

5

口腔ケア時うがいのみ介助が必要

清拭

1

全介助

更衣・上半身

2

両腕を通す動作のみできる

更衣・下半身

1

全介助

トイレ動作

1

ズボンを下ろす、拭く、上げる動作全介助

排尿管理

2

オムツ使用、尿意あり

排便管理

2

オムツ使用、便意あり

移乗

 

移動

 

ベッド・椅子・車椅子

1

全介助

トイレ

1

全介助

浴槽・シャワー

1

機械浴使用

歩行

実行できず

車椅子

4

自走、段差や坂の時介助

主な移動手段

車椅子

階段

1

実行できず

認知項目

コミュニ

ケーション

理解

7

問題なく理解

表出

6

意思を伝える事が可能

社会的認知

社会的交流

7

訓練を拒否することなく、協力的

問題解決

7

人に頼むことで解決できる

記憶

7

しっかりと認識している

 

合計点

61

 

(※できるADL)

 

評価項目

コメント

運動項目

セルフケア

 

 

排泄コントロール

食事

5

自立しているが、エプロンをつけてもらう。床にも食べこぼしがみられる

整容

5

口腔ケア時うがいのみ介助が必要

清拭

2

腹部・胸部・両上肢の清拭は出来る

更衣・上半身

2

両腕を通す動作のみできる

更衣・下半身

1

全介助

トイレ動作

1

ズボンを下ろす、拭く、上げる動作全介助

排尿管理

2

オムツ使用、尿意あり

排便管理

2

オムツ使用、便意あり

移乗

 

移動

 

ベッド・椅子・車椅子

1

全介助

トイレ

1

行わず

浴槽・シャワー

1

機械浴使用

歩行

実行できず

車椅子

4

自走、段差や坂の時介助

主な移動手段

車椅子

階段

1

実行できず

認知項目

コミュニ

ケーション

理解

7

問題なく理解

表出

6

意思を伝える事が可能

社会的認知

社会的交流

7

訓練を拒否することなく、協力的

問題解決

7

人に頼むことで解決できる

記憶

7

しっかりと認識している

 

合計点

62

 

~アセスメント~ 

 ADL評価では、運動項目での減点が顕著であるが、発症から数年経っているため、今以上の身体機能の回復は難しいと考えられる。残存機能を最大限に利用し、出来る事はなるべく本人に実行させ、また、動作のコツを指導することで、基本動作を中心に、“できるADL”を向上させ、介助量の軽減を図る必要があると考える。

 認知項目では問題はないと考えられる。

しているADLとできるADLの比較において、清拭の項目のみ違いが見られた。ベッド上で背臥位の姿勢で清拭の動作をやってもらい、両上肢と胸部、腹部は可能であると考える。しかし機械浴の形状から行っていないと思われる。

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F.問題点

Body function and structure

肯定的側面

・知的機能に問題がない

・感覚正常である

・上肢の随意性はある

 

否定的側面

・全身性の廃用性筋力低下(特に体幹、下肢)

・ROM制限(特に肩関節)

・軽度の構音障害

・異常筋緊張

・運動失調がある

・易疲労性がある

・体力、耐久性の低下

・筋萎縮

・眼振

・足底の痛み

・支持性低下

 

Activity

肯定的側面

・寝返り動作、肩甲帯の回旋は可能

・背もたれのある椅子での坐位保持可能

・平地での車椅子駆動できる

・トランスファー(前方への重心移動ができる)

・食事動作自立

・上半身の更衣動作で腕を通すことができる

・歯磨き動作可能 

・尿意・便意はある

・コミュニケーションは良好 

 

否定的側面

・寝返り動作、介助なしには不可能

・起き上がり動作介助なしでは困難   

・立ち上がり動作介助なしでは困難

・背もたれなしでは坐位保持困難

・立位保持は介助なしでは困難

・傾斜などは、軽介助・監視レベル                          

・重度の介助が必要                  

・準備が必要、食べこぼしがある

・頭を通すのに介助が必要である。下半身全て介助が必要

・うがいの時介助が必要である

・トイレに行くことができない

・入浴動作全介助

・コミュニケーションは良好             

 

Participation

肯定的側面

・社交的である

 

否定的側面

・寝たきりである

・家庭復帰困難

 

Environmental Factors

肯定的側面

・長女と二人暮らし

 

否定的側面

・介助者の負担の増加

・家屋改造困難

 

Personal Factors

肯定的側面

・明るい性格

・リハビリテーションに意欲的である

 

G.ゴール設定

S.G:背もたれなしでの坐位保持能力向上、車椅子駆動傾斜など監視レベル(持久力向上)、肩関節のROM拡大、寝返り動作自立、体幹・下肢筋力増強

L.G:車椅子上動作獲得(上半身の更衣、歯磨き、整容)車椅子駆動自立、生活範囲の拡大を図る(売店まで一人で行くなど)、介助量軽減(ADL)

F.G:家庭復帰(通所、在宅サービスなどを利用)

 

H.治療プログラム

①筋力維持・増強運動

目的:筋力低下がある体幹屈筋群や、骨盤を固定するために必要な骨盤周囲筋群の筋力増強することによって、背臥位、坐位だけでなく骨盤固定力の向上を狙う。下肢筋力増強により支持性を高め、介助量の軽減を狙う。

方法:背臥位で両膝を屈曲させ、足部を固定し、腹筋の収縮を意識させ上部体幹を上げる。背臥位で股・膝関節屈曲位から伸展させる遠心性収縮と(セラピストによる抵抗)、その逆の動き(求心性収縮)をさせる。屈曲・伸展する途中でとめる等尺性収縮をさせる。

回数:10回

 

②関節可動域運動

目的:車椅子坐位かベッド上での生活が主体である本症例の各関節の可動域改善と拘縮の予防をするため  

方法:各関節の他動運動を行う。 

回数:各関節15回

 

③ストレッチング

目的:四肢・体幹のROM維持、筋力維持

方法:特に短縮が見られる肩関節、体幹の筋を持続的に伸張させる。

 

④端座位姿勢訓練

目的:バランス能力の向上を図る、筋持久力の向上

方法:骨盤前傾位、左右対称姿勢を徒手的、動作により誘導。

 

⑤寝返り練習

目的:体軸内回旋を促す。ADL向上

方法:プラットホーム上で他動的に側臥位にさせる。そして上側骨盤をやや後方にひいた位置から、下部体幹の回旋による半臥位から側臥位までの運動を促す。骨盤に対し抵抗を加えながら上側肩甲帯の前方突出を同時に求め、頭部から尾部へ向かう分節的回旋を促し、より臥位に近い姿勢から側臥位までの動作を段階的に行い寝返り動作を獲得していく。

 

⑥車椅子駆動

目的:筋力維持・増強、体力・耐久性の向上、屋内、屋外における活動の増大

方法:車椅子駆動を行う。(リハビリ室を2週)

 

⑦ADL練習

目的:筋力維持、ROM維持、体幹筋群へのアプローチにも繋がる、ADLの向上

方法:車椅子上で出来るADL動作の練習。食事動作や整容動作、更衣動作の練習

 

⑧Tilt table

目的:筋力維持・向上、下肢の支持性の向上

方法:角度80°で15分行う

 

I.考察

小脳の障害では小脳大脳連関(大脳皮質→小脳→視床→大脳皮質)、オリーブ小脳系、前角制御系の問題があると考えられる。小脳大脳連関は、錐体路によって前角に命令を伝達して、運動を発言させると同時に、皮質小脳路を介して反対側の小脳に運動プログラムを伝える役目がある。次に、オリーブ小脳系は小脳に記憶された運動プログラムが大脳に伝達され、そのプログラムに沿った運動が行われる。その他脊髄の前角に向けて出力して下位運動ニューロンの制御(前角制御系)に関わっている。前角制御系の障害として、筋紡錘および腱紡錘で感受された情報はプルキンエ細胞に入力する。プルキンエ細胞は適切な筋緊張を算出して、小脳核、脳幹網様体、さらに網様体脊髄路を経由して前角のγ細胞へ投射する。γ細胞から出るγ線維が筋紡錘に至り、筋緊張を調節している。よって障害により、企図振戦(屈筋群と伸筋群の収縮力の差)、運動失調、筋緊張の低下、亢進がみられるとされている。

これらを念頭においた上で評価した結果をもとに考察とする。

本症例は、〇〇年〇〇月〇〇日に脊髄小脳変性症を発症した症例である。〇〇年〇〇月〇〇日に歩行困難となり、〇〇年〇〇月〇〇日にリハビリ目的で入院となる。本人は自宅に帰ることを望んでいるが、現段階では介助者の負担も多く難しいと考える。しかし本症例はリハビリテーションに対して意欲的で、積極的に取り組んでいる。今後の状態によっては自宅復帰も可能ではないかと考えられる。病棟では問題行動はなく、他者とのコミュニケーションも良好である。ベッド上での生活が主であり、寝返りに介助が必要なため、褥創予防としてクッションを置いたり、看護師やケアスタッフを呼び体位変換をしている。また足底に夜間痛があり、眠れないこともある。

今回の実習期間内において症例の拒否や、意欲の低下もみられることなく、PTSの評価に協力的であった。また、認知機能検査においてHDS-Rで26点あり評価結果も信頼できるものと考えられる。

本症例のBody function and structure、 Activity の問題点を踏まえ、現在の日常生活において改善できる動作や実行できる動作について考え、理学療法プログラムを立案してみた。また医師の所見では家庭復帰は困難とあったが本症例は家庭復帰を希望しており、最終目標として在宅サービスや通所サービスを利用した家庭復帰を挙げた。そのために長期目標として、車椅子上動作獲得(上半身の更衣、歯磨き、整容)車椅子駆動自立、生活範囲の拡大を図る(売店まで一人で行くなど)、介助量軽減(ADL)を挙げる。また長期目標を達成するために短期目標として、背もたれなしでの坐位保持能力向上、車椅子駆動傾斜など監視レベル(持久力向上)、肩関節のROM拡大、寝返り動作自立、体幹・下肢筋力増強、を挙げる。

評価結果より、筋力検査で体幹と下肢に顕著に低下がみられた。筋力低下は大脳皮質運動野の促通機能の欠落や随意運動時の脊髄運動ニューロンの活動性の低下が要因とされるが、本症例は進行性の疾患ではあるが、“OT情報より”廃用による筋力低下のため、今後のリハビリテーションによって機能の回復があると考える。体幹の筋力低下は、坐位保持困難や、車椅子駆動、ADL動作の制限、寝返り動作を受けていることが考えられる。下肢の筋力低下は、介助量の増大、坐位保持困難につながると考えられる。そこで体幹・下肢に対しての筋力増強のアプローチが必要であると思われる。具体的に背臥位で両膝を屈曲させ、足部を固定し、腹筋の収縮を意識させ上部体幹を上げる。背臥位で股・膝関節屈曲位から伸展させる遠心性収縮と(セラピストによる抵抗)、その逆の動き(求心性収縮)、屈曲・伸展させる途中で止める等尺性収縮運動をさせる。遠心性収縮は制御・安定作用として、求心性収縮では発現・遂行作用として、等尺性収縮では固定作用としての働きがある。これらの収縮運動は再学習という目的もある。体幹の安定を図り、坐位保持能力の向上、ADL動作の拡大(体幹が固定されることにより上肢が安定したリーチ動作を行える)、車椅子駆動の効率性の増大が考えられる。また、不安定の姿勢により筋緊張が亢進すると考えられる。体幹の安定により意図しない筋収縮を起こさず、易疲労性の予防につながると考えられる。

またROM制限(特に肩関節)がみられる。疼痛検査で両腋窩から上腕背側にかけてつっぱるような痛みがありVASで右7/10、左8/10であった。この検査結果から拮抗筋の伸長痛、筋短縮によるものと考えられる。筋が短縮位で固定され関節可動域をきたしていると思われ、これに対するアプローチとして節可動域運動、ストレッチングを行う。山本によると、ストレッチはIb抑制を利用し、筋緊張を低下させる。また、筋及び腱が原因の場合のストレッチは結合組織に作用させる事で柔軟性を回復させ、関節可動域の改善に繋がる。特に筋では萎縮の予防にも繋がると言われている。肩関節だけではなく、進行性の疾患であるため、全身性に拘縮による制限が起こると考えられ関節可動域の維持の目的で全身に行う必要があると考えられる。

筋力低下、異常筋緊張、背もたれのない椅子での坐位保持困難がみられた。姿勢筋緊張の検査から、安定した姿勢から不安定な姿勢になると筋緊張の亢進がみられる。姿勢分析から端坐位では介助者なしでは坐れず後方に倒れてしまう。この結果から坐位保持の獲得と安定、筋力向上を目的として坐位保持練習を行う。プラットホームで端坐位をとり、セラピストが重心の誘導を行い安定を図る。徐々に誘導する量を減らし、症例自ら行えるようにしていく。坐位保持が安定すると筋緊張亢進もなくなり、車椅子駆動も効率よくできる。また、トイレで便器に坐っての排泄ができると思われ、ADLの拡大、生活範囲の拡大になると考えられる。

体幹の筋力低下、動作時での筋緊張亢進により、寝返り動作が困難である。寝返り動作分析の際、体幹の筋緊張が亢進し、骨盤帯は回旋できない。寝返りの自立に向けて寝返り練習を行う。プラットホーム上で他動的に側臥位にさせる。そして上側骨盤をやや後方にひいた位置から、下部体幹の回旋による半臥位から側臥位までの運動を促す。骨盤に対し抵抗を加えながら上側肩甲帯の前方突出を同時に求め、頭部から尾部へ向かう分節的回旋を促し、より臥位に近い姿勢から側臥位までの動作を段階的に行い寝返り動作を獲得していく。寝返り動作の自立は、ADLの向上、褥創予防、足底の痛みに対して体位変換による痛みの軽減、また介助量の軽減になると思われる。

車椅子駆動は易疲労性による長距離の移動が難しいと考えられる。易疲労性は、小脳の障害により随意運動時に制御が乱れ屈筋群と伸筋群の収縮力の差によって、意図しない筋収縮が起こるために起こると思われる。これに対し車椅子駆動練習を行う。目的は体力・耐久性の向上、移動範囲の拡大、車椅子駆動の効率向上である。車椅子駆動で早くこいだ場合と通常のスピードで差があることから、このアプローチによって改善が見られると考えられる。

体幹が安定してくると車椅子上でADL練習を行う。ADLの検査から、「しているADL」「できるADL」伴に運動項目の点数が低い。ADL動作の獲得が介助量の軽減、家庭復帰につながると考えられる。車椅子上で上半身の更衣、整容(歯磨き、洗顔、整髪など)、食事動作(食事をする前の準備〈エプロンをつけるなど〉)。しているADLとできるADLの差が清拭でみられた。しかし、現状の入浴の形態(寝た状態)により行えていない。これはベッド幅が狭く転落する不安から両手はバーをしっかり握っているため両手が使えない状態である。している動作につなげるために、坐位による機械浴を使用し、両手を自由に動かせる状態にすることで可能になると考える。しかし、現状では病棟に坐位で行える機械浴がないので難しい。

筋力検査、ADL動作から下肢の筋力、支持性が低下していることがわかる。筋力、支持性の向上のためTilt tableを実施する。下肢の筋力、支持性が向上すると、トランスファー時の介助量軽減につながり、家庭復帰にもつながると考えられる。

また、本症例は進行性の疾患であるため疾患の進行を阻止するのは難しいと考えられ、機能の回復も限られてくる。よって獲得した機能に対しても継続的にアプローチをし、維持につとめなければならないと思われる。立案した理学療法プログラムを実施する上で、本症例の易疲労性、眼振によるめまいを考慮しなければならないと考えられる。

理学療法プログラム実施前にはバイタルチェックする必要があるのではないかと考えられる。本症例において、土肥・Andersonの基準を参考にした訓練中止の目安は、運動前に血圧が収縮期血圧200mmHg以上または拡張期血圧120mmHg以上、運動中に収縮期血圧が40mmHgまたは収縮期血圧20mmHg以上上昇したら中止する(本症例では収縮期血圧約200mmHg以上、拡張期血圧約100mmHg以上)。脈が、安静時120拍/分以上、運動中140拍/分以上であれば中止する。休息の目安として、運動中、脈拍数が安静時60拍/分の30%以上増加した場合(本症例では84拍/分)、120拍/分を越えた場合は休息させる。これらの運動中止・休息基準を把握して理学療法プログラムを適切に安全に行えるようにしていくことが重要であると考えられる。

最後に、症例のニードは「平行棒で歩きたい」である。しかし、進行性の疾患、体幹の安定性、下肢の支持性が低いことから現状では困難である。「平行棒で歩く」ことが実現できればQOLの向上、精神面での向上につながるのではないかと考えられる。現段階では長下肢装具着用での歩行練習が考えられるが、装具作製は経済的にリスクが大きい。また、進行性の疾患であり歩行を行っても実用性がないと思われる。よって今回は車椅子上での生活を考えての治療目標とした。

 

【参考・引用文献】

1)細田多穂 柳沢健 編集 「理学療法ハンドブック 改訂第3版 第3巻 疾患別・理学療法プログラム」協同医書出版社 2003

2)吉元洋一 森重康彦 千住秀明 編集代表 「理学療法評価法」 神陵文庫 2000

3)中村隆一 齋藤宏 著 「基礎運動学 第5版」 医歯薬出版株式会社 2002

4)義尾雅春編集 標準理学療法学 運動療法 各論 医学書院 2002

5)里宇明元 園田茂 道免和久 脳卒中患者の機能評価SIASとFIMの実際 欧文印刷株式会社 2004   

6)斎藤佳雄 ベッドサイドの神経の診かた 南山堂 2004 

7)山本双一 伸張運動、図解理学療法技術ガイド第2版 分光堂 2003

8) 中村隆一 臨床運動学第3版 医歯薬出版株式会社

 

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疾患名
特徴
脳血管疾患

脳梗塞

高次脳機能障害 / 半側空間無視 / 重度片麻痺 / 失語症 / 脳梗塞(延髄)+片麻痺 / 脳梗塞(内包)+片麻痺 / 発語失行 / 脳梗塞(多発性)+片麻痺 / 脳梗塞(基底核)+片麻痺 / 内頸動脈閉塞 / 一過性脳虚血発作(TIA) / 脳梗塞後遺症(数年経過) / トイレ自立を目標 / 自宅復帰を目標 / 歩行獲得を目標 / 施設入所中

脳出血片麻痺① / 片麻痺② / 片麻痺③ / 失語症 / 移乗介助量軽減を目標

くも膜下出血

片麻痺 / 認知症 / 職場復帰を目標

整形疾患変形性股関節症(置換術) / 股関節症(THA)膝関節症(保存療法) / 膝関節症(TKA) / THA+TKA同時施行
骨折大腿骨頸部骨折(鎖骨骨折合併) / 大腿骨頸部骨折(CHS) / 大腿骨頸部骨折(CCS) / 大腿骨転子部骨折(ORIF) / 大腿骨骨幹部骨折 / 上腕骨外科頸骨折 / 脛骨腓骨開放骨折 / 腰椎圧迫骨折 / 脛骨腓骨遠位端骨折
リウマチ強い痛み / TKA施行 
脊椎・脊髄

頚椎症性脊髄症 / 椎間板ヘルニア(すべり症) / 腰部脊柱管狭窄症 / 脊髄カリエス / 変形性頚椎症 / 中心性頸髄損傷 / 頸髄症

その他大腿骨頭壊死(THA) / 股関節の痛み(THA) / 関節可動域制限(TKA) / 肩関節拘縮 / 膝前十字靭帯損傷
認知症アルツハイマー
精神疾患うつ病 / 統合失調症① / 統合失調症②
内科・循環器科慢性腎不全 / 腎不全 / 間質性肺炎 / 糖尿病 / 肺気腫
難病疾患パーキンソン病 / 薬剤性パーキンソン病 / 脊髄小脳変性症 / 全身性エリテマトーデス / 原因不明の歩行困難
小児疾患脳性麻痺① / 脳性麻痺② / 低酸素性虚血性脳症
種々の疾患が合併大腿骨頸部骨折+脳梗塞一過性脳虚血発作(TIA)+関節リウマチ

-書き方, 病院, レポート・レジュメ, 難病疾患