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【脊髄カリエス+腰椎圧迫骨折】レポート・レジュメの作成例【実習】

2021年12月28日

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・看護師を目指す学生に向けた、レポート・レジュメの作成例シリーズ。

今回は、「脊髄カリエス+腰椎圧迫骨折」の患者のレポート・レジュメです。

実習生にとって、レポート・レジュメの作成は必須です。

しかし、書き方が分からずに寝る時間がほとんどない…という人も少なくありません。

当サイトでは、数多くの作成例を紹介しています。

紹介している作成例は、すべて実際に「優」の評価をもらったレポート・レジュメを参考にしています(実在する患者のレポート・レジュメではありません)。

作成例を参考にして、ぜひ「より楽に」実習生活を乗り切ってください!

 

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今回ご紹介するレポートの患者想定

 

今回ご紹介する患者想定

  • 病院に入院中
  • 脊髄カリエスを呈する患者

  • 腰椎圧迫骨折を合併している
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「脊髄カリエス+腰椎圧迫骨折」の患者のレポート・レジュメ作成例

【主訴】

腰に激しい痛みを患い、特に腰を曲げたとき、あるいは長時間同一姿勢を保つと強く痛む。また、手(特に左手)に痺れがあり把持力も弱化し車椅子駆動がしづらい。足にも痺れがあり歩きづらい(自分の足ではないみたい)とのこと。膝(右内側)にも痛みがあり寒い時は特に痛む。

 

【Hope

早く一人で歩けるようになり、故郷に帰り自宅で生活を送りたい。

 

【症例紹介】

氏名: 

年齢

診断名:脊椎カリエス、睡眠時無呼吸症候群、パーキンソン症候群

現病歴

高カリウム血症、腎障害、狭心症、膝OA、腰椎(L1・L2)圧迫骨折でA病院に入院。

その後リハ目的でB病院に転院。

〇〇月より転勤で当院に転院された。

既往歴

〇〇年〇〇月〇〇日:腎のう胞 ope

〇〇年〇〇月〇〇日:脊椎カリエス、DM、高カリウム血症、腎障害、狭心症、膝OA、腰椎(L1・L2)圧迫骨折でA病院入院。

〇〇年〇〇月〇〇日:子宮癌全摘出 ope

社会的背景:

現在無職。

2階建ての一軒家で2階へ続く階段部分は13段で少し高さがある。

1階部分は段差がなく、W/C移動が可能。

性格:リハ室でも他の対象者の方々と話しをされるなどとても明るく社交的で、思ったことは口にされる方である。とても几帳面であり真面目な性格で、検査やリハビリに対しても協力的である。

バイタル:BP:134/65mmhg 脈拍:69回/min 呼吸数21回/min

 

【他部門からの情報】

主治医:

パーキンソン症候群、DMともに現段階では異常はない。パーキンソン症候群は薬物(ドパコール)の副作用により出現する症状であり心配はない。DMに関してもHbA1cの値も5.5と正常範囲にある。腎機能に問題はあり、慢性腎炎と診断をくだしているものの、現在は特に治療を施しておらず、経過観察の状態。転院当初は機能回復が見られたが、ここ最近はほぼプラトーな状態で、今後の展望としては日常生活の中でリハビリを行っていく予定である。

リハDr

腰痛の主因としては陳旧性の腰椎(L1.L2)圧迫骨折の既往や体重やストレスによるもの。この痛みに対しては週1度の注射(ネオビタカイン、ノイロトロピン)を注射して痛みを一時的に軽減している。また、OAの影響で膝裂隙の狭小化が起こり軟骨の変性から骨の磨耗が起き、この他膝蓋骨に骨棘ができているなどの要因で膝(特に内側)に痛みを感じる。臀部から下腿、足部にかけての痛みは変形性脊椎症、もしくは腰部脊柱管狭窄症の可能性が高いと考えるが、対象者の体内に置き針があるためMRI撮影が出来ず、明確な診断を下すことは出来ない。浮腫や末梢の痺れに関しては、抗結核薬の副作用疑いもあったが現在は服用していないためにその要因ではなく、高齢による循環障害であると考えている。これら症状はほぼ安定しており、リハビリなどでなるべく疼痛を除去しながら今の状況を維持していく方針である。

看護師:

病室ではベッド上で編み物をしているか、寝転がって生活しているがADLは自立している。夜間はポータブルトイレを使用し排泄をされている。夜間、睡眠時無呼吸症候群の治療のため使用している機器に不慣れなために眠れないときがある。しかしこれに対しては眠剤を用意する程度で、本人がナースコールを鳴らすことはない。

OT

リハビリには積極的である。訓練として坐位保持を行うため、また精神状態のフォローアップのため対象者の趣味でもある手芸を行っている。徒手的療法としては頚椎の動き、肩こりやRAで上肢・手指機能に制限が見られるのでこれを抑えるために可動域訓練を行っている。

MSW

キーパーソンである第一子との話では、今後は当院系列の施設に入所を希望されており現在申請中で空き状況をみて入所するか、もしくは当院周辺の施設を探している。また近々引越しをされ3年後には同居を考えているとのこと。本人はご実家に帰り独居を希望されているが、そのことに関してキーパーソンはできれば実現させてあげたいが現実は難しいと言われている。この他の選択肢として本人は当院で現状のリハビリを続けたいとおっしゃっている。介護保険-要介護度3。

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【服薬状況】

・メルクレメジン

・コリネール

・Ca拮抗薬 特徴:持続性 適応:狭心症、本態性高血圧

・チーカプト

・ヒスタミンH2受容体拮抗薬 適応:胃潰瘍、十二指腸潰瘍 副作用:ショック、アナフィラキシー症状、肝障害

・チワン

・選択的抗ムスカリン薬 適応:胃炎、十二指腸潰瘍、運動機能亢進 副作用:頭痛、口渇、悪心・嘔吐、動悸、過敏症

・ドパコール 適応:パーキンソン病、パーキンソン症候群 副作用:悪性症候群、錯乱・幻覚・抑うつ、胃潰瘍・十二指腸潰瘍の悪化

・カユチ

・セネバクール 適応:便秘症 副作用:過敏症、消化器(腹痛、悪心・嘔吐、腹鳴など)

・ネオビタカイン(週1回の注射)

・局所麻酔薬 適応:症候性神経痛、筋肉痛、腰痛   

・ノイロトロピン(週1回の注射)

・局所麻酔 適応:腰通症、変形性関節症 副作用:胃部不快感、眠気、めまい、浮腫

 

【検査・測定】

Ⅰ.四肢周径   

 

下肢長(SMD)

78

77

(TMD)

69

68

大腿長(大転子~膝裂隙)

35

35

下腿長(膝列隙~外果)

36

35

大腿周径(膝蓋骨上縁より0cm)

36

34

(膝蓋骨上縁より5cm)

36.5

34.5

(膝蓋骨上縁より10cm)

40

36.5

下腿周径(最大下腿周径)

31

29.5

(最小下腿周径)

22

21.5

<Assessment>

四肢周径では大腿・下腿周径に上記の差が見られた。これは左の下肢の筋萎縮によるもので、触診によってもそれは明らかであった。このほか下腿には浮腫がみられ、その影響もある。

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Ⅱ.ROM(他動運動による)

手指

母指

 右

 左

示指

中指

橈側外転

60

40

屈曲(MP)

20

65

屈曲(MP)

70

90

尺側内転

 0

 0

伸展(MP)

20

-15

伸展(MP)

15

-25

掌側外転

55

45

屈曲(PIP)

60

70

屈曲(PIP)

85

85

掌側内転

0

0

伸展(PIP)

-5

-10

伸展(PIP)

-5

-10

屈曲(MCP)

40

60

屈曲(DIP)

40

45

屈曲(DIP)

40

65

伸展(MCP)

25

20

伸展(DIP)

-10

-20

伸展(DIP)

-10

-10

屈曲(IP)

70

45

 

伸展(IP)

25

35

 

環指

小指

屈曲(MP)

50

80

屈曲(MP)

70

85

伸展(MP)

20

-20

伸展(MP)

20

-10

屈曲(PIP)

80

90

屈曲(PIP)

85

75

伸展(PIP)

5

5

伸展(PIP)

5

5

屈曲(DIP)

35

50

屈曲(DIP)

30

45

伸展(DIP)

0

10

伸展(DIP)

30

45

 

体幹・上肢

 

体幹(屈曲)

40

肩甲帯(屈曲)

25

20

(伸展)

-10

   (伸展)

(回旋)

40

50

肩関節(屈曲)

160

155

 

(伸展)

30

35

 

(外転)

100

90

 

※1(内転)

40

30

 

(外旋)

40

20

 

※2(内旋)

80

40

 

(水平外転)

40

35

 

(水平内転)

100

80

 

肘関節(屈曲)

150

140

 

(伸展)

-20

-10

 

前腕(回内)

90

85

 

(回外)

110

100

 

手関節(挙屈)

80

95

 

(背屈)

60

60

 

(橈屈)

30

40

 

(尺屈)

40

20

 

SLR:

(右)90(P)※3

(左)80(P)

※1.15°屈曲位にて測定

※2.肩関節内旋はセカンドポジションにて施行

※3.P:Pain

 

下肢

 

股関節(屈曲)

90

80

(伸展)

-10

-5

(外転)

30

25

(内転)

25

10

(外旋)

60

40

(内旋)

20

25

膝関節(屈曲)

120

120

(伸展)

-20

-25

足関節(底屈)

50

70

(背屈)

10

10

(外がえし)

20

20

(内がえし)

20

40

<Assessment>

上肢・手指:肩こりによる痛みがひどく、肩関節外転に関しては制限が見られる。しかしこの可動域制限がADL上問題点とはなっていない。肘関節に伸展、手指では2~4指にスワンネック変形がみられ伸展に制限がみられる。

下肢・体幹:主に可動域制限の見られる部位は、股関節伸展、膝関節伸展、体幹屈曲・伸展に制限がみられた。下肢の可動域制限に関しては股関節では大腿直筋の筋緊張により制限を受けており、体幹は脊椎のアライメント異常によるものと考えられる。

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Ⅲ.MMT

 

 

肩甲骨外転・上方回旋

肩関節水平内転

5

5

肩甲骨面挙上

肘関節(屈曲)

5

5

肩甲骨内転

5(伸展)

4

4

肩甲骨内転と下方回旋

前腕(回外)

5

5

肩関節(屈曲)

(回内)

5

5

(伸展)

手関節(掌屈)

5

5

肩関節外転

(背屈)

4

4

肩関節水平内転

体幹屈曲

3

股関節(屈曲)

4

4

膝関節(屈曲)

(伸展)

4

4

(伸展)

股関節外転・膝屈曲位での外旋

4

4

足うち返し

股関節(外転)

5

4

足関節背屈ならびに内返し

(内転)

5

5

足の底屈また背屈を伴う外返し

股関節屈曲位からの外転

5

4

足関節底屈

股関節(外旋)

4

4(P)

 

(内旋)

4

4

 

握力:右 12.1kg 左 7.8kg

P:Pain

<Assessment>

特に体幹(体幹屈曲)、下肢(股関節内旋、膝関節屈曲、足関節底屈)に筋力低下が見られた。体幹に関しては、腰椎圧迫骨折の既往がありその影響で腰椎が円背を呈し起立筋群の緊張を高めているため、腹筋群の緊張が低下していると考える。

下肢の筋力低下に関しては、主にハムストリングス、下腿三頭筋の筋力低下が見られた。これはパーキンソン症候群の出現で全体として立位が前傾姿勢となったため体重を前方の筋群で支えようとして、大腿前面、下腿前面の筋が過剰に活動し大腿後面、下腿後面の筋の不活動によるものと思われる。

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Ⅳ.感覚検査

1)表在感覚(触覚)

上肢:C6-軽度鈍麻、C7・8-中等度鈍麻

下肢:T1-軽度鈍麻、L3・4・5-中等度鈍麻、S1-感覚脱失

 

L3

7/10

8/10

C6

9/10

9/10

L4

7/10

8/10

C7

7/10

8/10

L5

7/10

8/10

C8

7/10

8/10

S1

0/10

7/10

T1

9/10

9/10

L4

7/10

8/10

異常感覚:下肢の外側(腓骨神経領域 → 坐骨神経領域にかけて)の痺れるような痛みを常に感じる。

 

2)深部感覚(位置覚・運動覚)

上下肢ともに異常なし

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Ⅳ.筋緊張検査

大腿直筋、右内転筋、下腿三頭筋に高緊張がみられた。臀部にも高緊張がみられ、その中でも中殿筋、梨状筋、大腿方形筋に筋硬結様の硬さが感じられた。 

坐位では腰椎後彎、腹部の筋緊張が低下し、背部の筋緊張は高まっている。

<Assessment>

大腿直筋に過緊張があり、これは腰椎圧迫骨折の影響で腰椎が前彎しているため重心線が前方に移動し、それを大腿前面で支えようとしているために大腿直筋に高緊張があると思われる。殿筋群の筋緊張も同様の原理で高緊張になっていると考えられる。

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Ⅴ.疼痛評価

膝:膝内側に痛みを感じる

荷重時痛 (+) 動作時痛(+)  VAS 5/10

 

腰:右側L1~L5の最長筋、腸肋筋にかけて強い痛みを感じる

常時痛み(+) 運動時痛(+)  VAS 9/10

異常筋緊張として股関節~右臀部~下腿~足部の外側にかけて張りが感じられ強い痛みがあるという。

<Assessment>

腰の痛みは脊柱圧迫骨折により腰椎後彎が増強し、そのため起立筋群(最長筋、腸肋筋)に過緊張がおこり、それにより発生する痛みである。

下腿の外側(腓骨神経領域、坐骨神経領域)に強く痺れを感じる。

これらは変形性脊椎症の影響で馬尾神経症候群によると考えられる。

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Ⅵ.浮腫の評価

(自覚症状の聴取、Web Space Lift、shape of fingertoe swelling)

左右の下腿~足部(+)

自覚症状を伺ったところ、痺れて冷たい感じがするとのことだった。また、むくみがありジンジンした感じがして痛みが走るとのこと。Web Space Lift、shape of fingertoe swellingを行ったところ、右は両試験とも陽性であり左に関してはshape of fingertoe swellingのみ陽性であった。

<Assessment>

高齢ということもあり、末梢循環の悪循環により起きたものであると考えられる。

また、薬剤(ノイロトロピン)の副作用によるものも考えられる。

 

Ⅶ.バランス評価

坐位:静的バランス-安定

動的バランス-やや不安定

立位:静的バランス-安定

動的バランス-不安定  軽度の外乱でバランスを崩してしまう

坐位では全体として反応が少なく、同側の平衡反応のみ見られ、対側の反応は見られなかった。

立位では静的バランスは安定しているが、前後左右に体幹を他動的に動揺させたとき、腰の痛みで耐え切れずバランスを崩してしまう。

<Assessment>

この対象者のバランス不安定性は中枢神経系に原因があるのではなく、筋骨格系に起因するものであると考えられる。具体的には、腰部の痛みにより自分の圧中心点を支持基底面の外側に出すことが腰部の痛みが原因となり不可能となっていると考えられる。この痛みにより、本来備えている筋力を十分に発揮することが出来ないことがバランス不安定性の主因であると考えられる。

動的坐位バランスでは同側の平衡反応のみがみられ、対側の反応は見られず、側方に腕を伸ばしてバランスを見ると、骨盤の回旋で代償していることがわかった。

このほか姿勢不良による筋の協調性不良もバランス能力低下に関係していると思える。

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Ⅷ.姿勢分析

臥位:両肩が浮き、骨盤は左回旋し、ウェストは右がくびれており、踵と臀部で体重を支えている様子。これにより過剰な筋緊張が見られる。

立位:下位胸椎彎曲の減弱、上位腰椎後彎、下位腰椎前腕が大きく、それに伴い腰仙角も大きくなっている。

<Assessment>

背筋群、殿筋群を中心に筋の高緊張が見られ、それらの要因がアライメントの異常に影響しているのではないかと考える。このアライメントの異常により、臥位・立位での異常姿勢が見られる。また、この緊張は痛みにより高まることがある。

 

Ⅸ.動作分析

寝返り:自立レベル 

左に寝返る時、右下肢でベッドを蹴るようにして、まず頸と肩甲帯と上肢が左側に回旋し、その後下肢が回旋し最後に骨盤が寝返るという形をとる。顕著な体軸内回旋は見られない。

右に寝返るときは左に向くときとは異なり、下肢の蹴りはあまりなく上肢先行型で寝返る。左に向くときと同様に体軸内回旋は顕著に見られない。

 

起き上がり(臥位 → 長坐位):自立レベル

1)対称的に体を起こし長坐位になることは不可能。両手を使用した場合では対照的に起き上がり坐位確保が可能となる。この形が使用頻度が多いと思われる。

2)非対称的な協同収縮により体幹を回旋させながら起き上がることも可能

 

立ち上がり:重心移動は行えているものの、腰部の痛みが強いために遂行時間を要し、また杖やベッドなど何か体重を支える補助的なものが無いと立ち上がれない。

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歩行:T‐Cane使用の場合は近監視レベル

右下肢と杖を同時に運ぶ2動作歩行である。体幹前傾、股・膝関節の軽度屈曲が見られHead、肩の左右動揺が見られる。歩幅は左右の比較では右足の歩幅が小さい。

30m程度歩くと腰部、膝(右内側)、右股関節外転筋周辺に痛みを訴える(疼痛性跛行)。

リハ室内のみT‐Caneを使用している。W/Cからプラットホームまでへの短い距離の移動はT‐Cane使用で可能であるが、長い距離を歩くと徐々に苦悶の表情をされ、腰の痛みが増強するためか肩がすくみ始め、歩行速度も減速していく。

歩幅:平均0.29m 、10m歩くのにおよそ37歩を要する。

歩行の耐久性能力測定:2分04秒と、とても短い時間しか歩行を持続することが出来なかった。

 

シルバーカーでの歩行:自立レベル

T-Cane歩行と比較して、頭部・肩の左右動揺は少ないが、正常歩行でみられる骨盤回旋はT-Cane歩行と同様に見られない。また、T-Cane使用時よりも足の振出がしやすいため歩幅も増幅し安定性があがる。

 

歩行器での歩行:自立レベル

シルバーカーと同様に頭部・肩の左右動揺は見られない。歩幅も広がり足もよく振り出せておりスムーズに歩く。遊脚期・立脚期の差は見られない。

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車椅子駆動:自立レベル

左手が強く痺れており、第2~4指がスワンネック変形を呈しているためにハンドリムが握りにくく、そのため駆動速度が遅い。また肘関節伸展が十分に行えないことも駆動効率を悪くしている。

 

<Assessment>

寝返り(左):特徴としてはベッドを下肢で蹴って寝返ることがある。寝返りは支持基底面の広い臥位から支持基底面の狭い側臥位になる。これは体幹を回旋させる筋力が対象者には備わっていないために、ベッドを蹴ることでその床反力を利用し回転モーメントを発生させ寝返るものと考えられる。

体幹筋弱化のために頚部、上肢、体幹、下肢も一連の動きのタイミングが合わず、これは正常な協調機能の破綻の結果といえる。

 

寝返り(右):下肢の蹴りを利用し回転モーメントを発生させるほど筋力弱化がなく、上肢筋、体幹筋、下肢筋の筋力を十分に発揮できているといえよう。

 

起き上がり:体幹屈曲に関わる筋力弱化により、本来は補助的に用いられるべき上肢が主に働いている。正面から起き上がろうとして努力し、腰部に痛みを感じることが頻繁に見られる。

 

坐位→臥位:腹筋群の筋力弱化により体幹を支える遠心性収縮が不可能となり、補助的に上肢を用い臥位へと移る。

 

立ち上がり:体幹を十分に屈曲できないため、膝へのウェイトシフトが遅れる。

 

歩行:T-Cane歩行の場合、安全性・安定性・耐久性が欠けているため近監視レベルで行う必要がある。歩容は、スピードを得るための2動作歩行であるが歩幅が短く、且つWide Baseで歩行するために力の分散方向が左右方向へとなり、それが頭部・体幹の左右動揺に現れているのではないかと考える。またこの他、高齢者特有の歩行である重複歩距離の短縮・歩隔の広がり・足関節の動きの減少もWide Baseとなり頭部・体幹が左右に揺れる要因であると考えている。

シルバーカー、歩行器はT-Cane歩行と比較し安定性もあり、安定性は増大し遂行時間も杖歩行よりもかなり短縮されていた。これはT-Caneでは支持力が少ないのに対し、シルバーカー、歩行器は支持基底面も広く安定しているため下肢を振り出しやすい環境が作られたためであると考えられる。

自由速度での75~79歳女性の平均の歩行速度は、0.95であり歩幅は0.50mであった。しかし今回の本症例の場合、歩幅は0.29、歩行速度は0.21m/秒であり、平均を大きく下回っていた。また、連続歩行耐久時間も2分04秒ととても短い。しかしこれは、歩行能力に関与する筋の筋力低下ではなく、腰痛から来るものであると考えている。歩行時間が増すごとに苦痛の表情をされ、痛みのせいか肩がすくみ、徐々に歩行速度が減速していった。

 正常の歩行と比較してみると、骨盤回旋に関しては正常歩行(片側4°)と変わらないが、骨盤の側方移動は正常では3cmの移動がみられるが、本症例の場合先ほども述べた通りWide Baseで歩行するために力の分散方向が左右方向にいくため、また高齢者特有の歩行である重複歩距離の短縮・歩隔の広がり・足関節の動きの減少もWide Baseとなり頭部・体幹が左右に揺れるため骨盤傾斜角度が正常に比べ増加すると思われる。

 立脚相にみられる15°の膝屈曲も、もともと膝の伸展制限がみられるため、歩行時にその角度以上に膝を屈曲させようとしない。そのため膝の緩衝作用である二重作用がみられず、膝に必要以上のストレスを感じるため少なからず膝の痛みが影響していると考えられる。

 足関節に注目してみると、正常では膝関節が屈曲すると足関節は底屈し、膝関節が伸展すると足関節は背屈するというメカニズムがみられる。本症例の場合、下肢筋力弱化のために上手く足底で地面に接地することが出来ないために膝・足関節のメカニズムが働いていない。これは歩行中の転倒にも繋がりかねない。

 

Ⅹ.ADL評価(BI.FIM

Barthel Index:80/100

全体として自立しており、補助用具(車椅子、T-Cane)があれば介助を必要としないレベルである。注目すべき得点の低い項目は『入浴』、『階段昇降』である。

 

FIM:107/126

BIと同様、高得点でほとんどが自立している。しかし整容において口腔ケア・整髪・手洗い・洗顔のうち、手洗いと洗顔は介助を必要としているが、実際は肩や肘関節の可動域も十分あり手指の巧緻動作も十分に行えるが、洗面台の高さの関係上現在は行っていないため50%自立とした。

他にもBIと同じように移乗の項目の『風呂・シャワー』、移動の項目の『階段』が低い得点を示している。『風呂・シャワー』に関しては下肢筋力低下や下肢の痺れがあるために、風呂場へ移動する際は足元がすべるのではないかと心配しているため介助を必要としているが、浴槽に入る動作は自分で出来るため50%自立とした。

『階段』においても下肢筋力低下、下肢の痺れが見られるために現在は行えない状況。

<Assessment>

BI、FIMのどちらにおいても階段昇降、整容の項目に減点がみられた。

これらは腰痛、下肢の神経痛、下肢筋持久力の低下などが要因として挙げられるために現段階では行っておらず、また行おうにも行えないのであるで。

整容に関しては洗面台など周辺環境の調節により、本症例の筋力からして実際に行えるものと考えられる。しかし階段昇降に関しては筋持久力の低下により現段階では難しい。本人のHOPEでもある実家で生活は、階段昇降はあまり必要ないと考えられるが、実際にそれを行えるだけの筋持久力は必要であるためアプローチするべきであると考えられる。

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ⅩⅠ.精神機能面

HDS-R:24/30

コミュニケーション:理解・表出ともに問題なし。

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【問題点】

Impairment(機能障害)レベル

#1 腰の痛み

#2 両上下肢の感覚障害(痺れ)

#3 股関節~足部にかけえての神経痛

#4 膝の痛み(特に右内側)

#5 股・膝関節伸展制限、足関節背屈制限

#6 体幹筋力低下

#7 下肢筋持久力低下

#8 両上下肢の浮腫

 

Activity Limitation(活動制限)レベル

#9 バランス能力低下(#1、#2、)

#10 屋内歩行の耐久性低下

#11 整容(洗面)動作能力低下

 

Participation Restriction(参加制約)レベル

#12 在宅復帰困難

 

Environmental Factor(環境因子)

#13 家族の対応としては、今後在宅復帰は困難とのことなので、第4子の勤めている老健への入所を希望している

 

Personal Factor(個人因子)

#14 睡眠時無呼吸症候群の影響でいびきが大きく他人に迷惑をかけていることを気にされている

 

【ゴール】

S.T.G:疼痛の軽減・筋持久力増大(1M)

L.T.G:ADL(整容動作)能力の向上(2M)

F.G:在宅復帰

 

【PTプログラム】

#1 腰背部・下肢筋のマッサージ

:腰背部(最長筋、腸肋筋、中殿筋、大腿方形筋、)・下肢の外側(大腿筋膜張筋、ハムストリングス、下腿三頭筋)

#2 腰背部・下肢筋のストレッチング

:腰背部(最長筋、腸肋筋、中殿筋、大腿方形筋、)・下肢の外側(最長筋、腸肋筋、中殿筋、大腿方形筋、大腿筋膜張筋、ハムストリングス、下腿三頭筋)

#3 体幹・下肢の筋持久力増強

:腹直筋、大腿四頭筋、下腿三頭筋の収縮を促す訓練

1セット10~15回  対象者の状況をみてセット回数の増減を行う

#4 足関節のモビライゼーション

#5 牽引療法:18kg  間歇牽引 

#6 温熱療法(ホットパック):腰部

#7 浮腫の軽減

#8 装具療法(軟性コルセット)

 

【統合と解釈】

本症例は、脊椎カリエスにより腰の痛みと上下肢の痺れを訴えられている方である。

ADLはほぼ自立されており、整容動作、入浴動作の一部を除き介助を必要としない。

日常の生活手段としてはW/Cで移動され、リハ室内での移動は主にT‐Caneを使用されている状況である。

対象者は強く自立歩行を望まれているが、これらを困難にしている阻害因子として腰痛・下肢の痺れ・膝の痛みが挙げられる。

Drからの見解、PTからみたこれまでの回復具合を見ても、ここ数ヶ月ではこれといった改善は見られず、症状はほぼプラトーな状態になったとも判断できるのだが、対象者のリハビリに対するモチベーションは高く、毎日積極的にリハビリに取り組んでいらっしゃるため、今以上の機能を獲得できるようにリハビリを実施していき実際にその機能を獲得することは可能であると考えられる。しかし、ご家族の受け入れがあまり積極的ではなく福祉施設に入所を希望している。このため今以上のADL能力を獲得し、施設内でも自立したADLを行えるようにアプローチしていく方針である。そのためのPTプログラムとしては上記のものを施行していく予定である。      

歩行の阻害因子である腰痛・下肢痛・下肢の痺れに対しては除痛を目的としたマッサージとストレッチングを行っていく。対象となる筋は、腰背部では強い高緊張がみられた最長筋、腸肋筋、下肢筋では体幹前傾により重心線が前方に移動するためにそれを抑えようとして働く大腿後面のハムストリングス、下腿後面の下腿三頭筋のマッサージを行い、除痛を図る。また脊柱管狭窄症、もしくは変形性脊椎症の影響で馬尾神経痛が起きていると考えられる下肢の外側(中殿筋、大腿方形筋、大腿筋膜張筋)のマッサージを行う。マッサージ施行前には温熱療法(ホットパック)を施行する。マッサージの具体的施行方法はMTアプローチと呼ばれるもので、このアプローチは痛み・痺れおよび筋緊張を調整し、ROMおよび筋効率を変化させ、ADLおよびQOLの向上を図り精神的苦痛を改善させる一助とするものである。このMTアプローチを用いたMTストレッチングは疼痛を抑制しながらⅠb抑制を利用して行うストレッチングであり、MTアプローチの手技の一つである。Ⅰb抑制の効果は、拮抗筋の弱い随意収縮によって増大し、リラクゼーションが起こりやすい。また、ゆっくりとした伸張は、筋の過剰収縮の抑制、Ⅰb抑制および相反性抑制の相乗効果を高めることが出来る。このマッサージはストレッチング効果も併用しているため、股関節伸展制限であるハムストリングス、足関節背屈の制限になっている下腿三頭筋の高緊張軽減にも有効であると考えられる。

歩行能力向上のための体幹・下肢筋力増強のための訓練としては腹直筋、大腿四頭筋、下腿三頭筋に行い、方法は次の通りである。強度は各セット10~15回の繰り返し回数で、Borg指数(原型)では12から13(ややきつい:ATの運動強度に相当)の範囲で行う。今回の対象者の場合では計測を行ったところ、体幹屈曲は最高で15回行うことができ、Borg指数では7.0(修正スケール:原型スケールでは17程度)であったためこの強度が適切であると考え、この回数・強度で行うこととする。しかし、腰痛・下肢の痺れ感を訴えられることがあるので施行中はその点に注意しながら行っていく。

下肢筋持久力向上には低い強度(1RMの50%以下、もしくは通常の速さの運動として20回程度反復可能な強度)で、運動の持続時間は個々の筋に数秒間とする。反復回数休息時間は1セット10回以内として計3セット、セット間は30秒以内とする。これらを行いやすい設定で開始し、慣れるに従い多角的に負荷を漸増することも可能である。

足関節背屈制限には骨のモビリティが十分でないため、また下腿三頭筋の高緊張がみられるために起こっているものである。不十分なモビリティに対しては、足関節のモビライゼーションを中心に、また下腿三頭筋の高緊張が見られるための背屈制限あるため、MTストレッチにより下腿三頭筋の高緊張軽減を行いながら足関節のモビライゼーションを進めていく方針である。

牽引療法は18kgの間歇牽引にて施行。椎間孔開大、椎間腔の開大、椎間関節の開大による関節包のストレッチング、陥入した滑膜の整復、筋緊張の除去などを狙って行う。

温熱療法は筋の短縮が見られる腰部(最長筋、腸肋筋)に対し行う。血管運動神経性の作用により血行の促進から局所の新陳代謝を盛んにし、炎症などからの回復力を高め、組織の柔軟性も高めるとされている。疼痛の緩解、循環の改善、リラクセーションなどの効果がある。特に今回の本症例のような慢性の腰痛にはほとんどの場合、筋のスパズム・筋性疼痛が伴っているので温熱療法は有効であると述べられている。

装具療法としては、現在使用している軟性コルセットを継続して使用していく。

腰椎コルセットの効果は腰部の動きを制限し、腹圧を高めて腰椎へのストレスを軽減させることにあるとされ、臨床的にも有効性が認められている。Morrisによると前屈位で物を持ち上げりとき、腹筋により腹圧が上がり胸腔内圧も上昇するため、脊柱の前面に梁が出来て腰椎部に対するストレスが半減されると述べている。コルセットはこの腹圧の上昇を補うことにより効果を示す。高齢者で体幹筋の弱化が腰痛の原因となっているとい方に対しては有効であるため、今回の本症例に対しても施行していくこととする。

現在、在宅復帰を困難としている因子としては腰痛、下肢の神経痛・痺れ、膝関節の痛みによる歩行能力低下、バランス能力低下がある。ADL能力は全体として自立しているが、この能力の低下によりご本人の希望であるご実家での生活は現段階では困難であると考えられる。

以上の治療プログラムを施行していき腰痛の軽減、体幹・下肢筋持久力の増大を行い、L.T.Gに掲げたADL能力向上を狙い、最終的にF.Gに掲げた在宅復帰を目標にする。

在宅復帰後は社会資源などを上手く活用しながら地域社会で生活を送っていただき、本症例の今以上のQOL向上を実現したいと考えている。

 

(参考文献)

  1. 高田治実 他 : 理学療法-疼痛筋に対するストレッチング- 2004.12 21巻12号 p1456~1467
  2. 鈴木重行 他 : 理学療法-筋短縮改善のためのストレッチングの手技とその効果- p1448~1455 2004.12 21巻12号
  3. 市橋則明 他 : 総合リハ-筋力低下の予防-2005.7 33巻7号  p627~632
  4. 小森博達 : PTジャーナル-高齢者の腰痛-2000.3 vol.9 NO.3
  5. 岩谷 力 他 : 障害と活動の測定・評価ハンドブック 2005.7 南江堂
  6. 冨士武史 他 : 整形外科疾患の理学療法 金原出版  2005.2
  7. 林 久恵 他 : 理学療法21巻6号 -いわゆる下肢のむくみ・冷え性と理学療法-  2004.6    
  8. 丸山 仁司 : 臨床運動学第4版 p211~251 アイペック 2005.3

 

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疾患名
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脳梗塞

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脳出血片麻痺① / 片麻痺② / 片麻痺③ / 失語症 / 移乗介助量軽減を目標

くも膜下出血

片麻痺 / 認知症 / 職場復帰を目標

整形疾患変形性股関節症(置換術) / 股関節症(THA)膝関節症(保存療法) / 膝関節症(TKA) / THA+TKA同時施行
骨折大腿骨頸部骨折(鎖骨骨折合併) / 大腿骨頸部骨折(CHS) / 大腿骨頸部骨折(CCS) / 大腿骨転子部骨折(ORIF) / 大腿骨骨幹部骨折 / 上腕骨外科頸骨折 / 脛骨腓骨開放骨折 / 腰椎圧迫骨折 / 脛骨腓骨遠位端骨折
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脊椎・脊髄

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その他大腿骨頭壊死(THA) / 股関節の痛み(THA) / 関節可動域制限(TKA) / 肩関節拘縮 / 膝前十字靭帯損傷
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種々の疾患が合併大腿骨頸部骨折+脳梗塞一過性脳虚血発作(TIA)+関節リウマチ

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