理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・看護師を目指す学生に向けた、レポート・レジュメの作成例シリーズ。
今回は、「原因不明の歩行困難」の患者のレポート・レジュメです。
実習生にとって、レポート・レジュメの作成は必須です。
しかし、書き方が分からずに寝る時間がほとんどない…という人も少なくありません。
当サイトでは、数多くの作成例を紹介しています。
紹介している作成例は、すべて実際に「優」の評価をもらったレポート・レジュメを参考にしています(実在する患者のレポート・レジュメではありません)。
作成例を参考にして、ぜひ「より楽に」実習生活を乗り切ってください!
レポート・レジュメの書き方!完全まとめ【記載例70以上】
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今回ご紹介するレポートの患者想定
今回ご紹介する患者想定
- 病院に入院中
原因不明の歩行困難の患者
- 精密検査のため入院
「原因不明の歩行困難」の患者のレポート・レジュメ作成例
Ⅰ.基礎情報
患者氏名:
年齢:90歳代
性別:男
Ⅱ.医学的情報
診断名:歩行困難、糖尿病
障害名:歩行障害、四肢機能障害
現病歴:〇〇年〇〇月中旬頃より歩行困難となり、ADLの低下が始まる。トレーニングパンツを使用していたがほとんど汚染するようになる。食事は自分で摂取できている。筋力低下が見られたため、原因の解明とリハビリテーションを目的に入院された。
主訴:歩行困難
要望:歩けるようになりたい
薬剤情報:
薬名 | 効用 | 副作用 |
ファスティック | 糖尿病 インスリンの分泌を促進 | 〈重大〉心筋梗塞 〈その他〉低血糖症状(めまい、動悸、脱力感など) |
ベイスン | 糖尿病 食後の過血糖の改善 | 〈重大〉低血糖症状、腸閉塞様症状、肝障害など 〈その他〉下痢、腹痛、消化不良、嘔吐、めまい、動悸、貧血、浮腫、脱力感、しびれ、発汗など |
生化学検査:
| 検査結果 | 正常値 |
| 検査結果 | 正常値 |
比重 pH 蛋白定性 糖定性 | 1.03 5.5 (+) (+) | 1.010~1.030 5.0~7.5 (-) (-) | アルブミン GOT GPT LDH ALP 総ビリルビン | 3.7 44 31 279 634 1.8 | 4.0~5.0 10~40 5~40 230~460 80~260 0.2~1.0 |
【実習】「一般情報」のポイントを解説!【書式無料ダウンロード】
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Ⅲ.社会的情報
家族構成:
【実習】家族構成(ジェノグラム)のルールと書き方【無料ダウンロード】
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Keyperson:長女
家族状況:長女の家族と2世帯で暮らしている
利き手:右
趣味:読書、テニス
嗜好品:特になし
受入れ状況:家族は施設への入所を希望しており、申込みの申請をしている
家族の要望:検査結果や歩行状態を見て、長期療養型施設の入所を希望している
Ⅳ.他部門からの情報
Ns:コミュニケーションにはそれほど問題ないが、時より返答がおかしなときが見られる。また、強情なところもあり、感情の起伏が激しく、日内変動が大きい。食事は自分で食べているが、まったく食べないときもあり差が激しい。
Ⅴ.理学療法評価
全体像
声掛けや話に対しては良好に答えるが、認知症の傾向があり、時折まったく関係のない返答することもある。意思の表示は比較的はっきりしており、訓練や疲労感、疼痛の有無に関しても訴えることができる。
しかし、日内変動が激しく、昼間は比較的、拒否反応があるが、夕方になると素直に受け答える傾向がある。また、食欲があまりなく、摂食の差が激しく、食事が取れているときは意欲や元気もあり、積極的であるが、食事が取れていないときは、元気がなく消極的である。
【実習】患者への「問診」の方法を解説!【書式無料ダウンロード】
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精神機能
短期記憶の障害があり、数分前に話した内容や自分の言ったこと事柄を覚えていないことがある。その日の昼食の内容なども覚えていないことが多い。会話においても、時折突飛な発言があったり、返答がないこともある。日内変動もあり、昼間は対抗的な発言や態度が見られるが、夕方は比較的素直に応じる傾向が見られる。
【実習】認知機能の評価ポイント!HDS-R/MMSE【評価用紙】
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ROM-T
(単位:度)
運動方向 | 右 | 左 | 肢位 | |
股関節 | 屈曲(125) | 85 p | 100 p | 背臥位 |
| 伸展(15) | 5 p | 5 p | 側臥位 |
| 外転(45) | 35 | 40 | 背臥位 |
| 内転(20) | 20 | 20 | 背臥位 |
| 外旋(45) | 35 p | 35 p | 背臥位 |
| 内旋(45) | 20 | 20 p | 背臥位 |
膝関節 | 屈曲(130) | 125 p | 125 | 背臥位 |
| 伸展(0) | -5 p | 0 | 背臥位 |
足関節 | 底屈(45) | 35 | 35 | 背臥位 |
| 背屈(20) | 5 | 10 | 背臥位 |
肩関節 | 屈曲(180) | 125 p | 160 p | 背臥位 |
| 外転(180) | 120 p | 155 p | 背臥位 |
肘関節 | 屈曲(145) | 135 | 135 | 背臥位 |
| 伸展(5) | 0 | 0 | 背臥位 |
手関節 | 掌屈(90) | 80 | 75 | 背臥位 |
| 背屈(70) | 60 | 65 | 背臥位 |
| 橈屈(25) | 20 | 20 | 背臥位 |
| 尺屈(55) | 45 | 50 | 背臥位 |
*すべて背臥位で、passiveにて実施
*実施した箇所のみ記載
〈Assessment〉特に、右側の股関節、肩関節に大きな可動域制限が見られた。痛みを訴えているが、四肢を動かしただけで痛いということもあり、その時々により訴えの有無があるため、信頼性は低いと考えられる。
【実習】関節可動域検査の評価ポイント!【カンペ付き評価シート有】
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MMT
運動方向 | 右 | 左 | 肢位 | |
肩甲骨 | 挙上 | 4 | 4 | 坐位 |
肩関節 | 屈曲 | 3- | 4 | 坐位 |
| 外転 | 3 | 4 | 坐位 |
| 水平内転 | 3 | 4 | 背臥位 |
肘関節 | 屈曲 | 4 | 4 | 坐位 |
| 伸展 | 3 | 3 | 坐位 |
前腕 | 回内 | 3 | 4 | 坐位 |
| 回外 | 3 | 4 | 坐位 |
手関節 | 掌屈 | 4 | 4 | 坐位 |
| 背屈 | 3 | 3 | 背臥位 |
股関節 | 屈曲 | 3 | 4 | 坐位 |
| 外転 | 3- | 3 | 側臥位 |
| 内転 | 3- | 4 | 側臥位 |
| 外旋 | 3 | 3 | 坐位 |
| 内旋 | 3 | 3 | 坐位 |
膝関節 | 屈曲 | 3 | 4 | 坐位 |
| 伸展 | 3 | 4 | 坐位 |
足関節 | 背屈 | 3 | 4 | 坐位 |
| 底屈 | 4 | 4 | 坐位 |
〈Assessment〉右側の肩関節と股関節周囲の筋力に低下が見られた。股関節内転・外転では、測定では3レベルと判断していたが、ベッドへ背臥位となる動作の際に、下肢をベッド上に上げられないことから、3-と判定した。右肩関節の屈曲は、坐位での挙上ができるが不安定であり、動揺が見られたため3-と判定した。
【実習】筋力検査の評価ポイント!【カンペ付き評価シート有】
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・看護師を目指す学生に向けた、評価ポイント解説シリーズ。 今回は、「筋力検査」です。 筋力検査は、歩行やADLの自立度に直結するため、臨床上とても大事な評価項目になり ...
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反射テスト
(1)腱反射
| 右 | 左 | 肢位 |
上腕二頭筋腱反射 | + | + | 背臥位 |
上腕三頭筋腱反射 | ++ | ++ | 背臥位 |
腕橈骨筋腱反射 | + | + | 背臥位 |
膝蓋腱反射 | + | + | 背臥位 |
アキレス腱反射 | + | + | 背臥位 |
(2)病的反射
| 右 | 左 | 肢位 |
ホフマン反射 | - | - | 背臥位 |
トレムナー反射 | - | - | 背臥位 |
バビンスキー反射 | - | - | 背臥位 |
〈Assessment〉上腕三頭筋腱反射に軽度の亢進が見られたが、他の腱反射には亢進や消失は見られず、病的反射も出現しなかった。
【実習】反射検査の評価ポイント!【カンペ付き評価シートあり】
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・看護師を目指す学生に向けた、評価ポイント解説シリーズ。 今回は、「反射検査」です。 反射検査は、錐体路障害・錐体外路障害を見分けるなど、臨床上とても大事な評価項目に ...
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動作分析
寝返り:左上肢にて、ベッドの端や移乗用手すりを使用することで可能である。しかし、上肢、体幹、下肢の体軸内回旋がうまくできず、左手で移乗用バーかベッドの端を握り、肘関節の屈曲により寝返る。また、右側のみしか行えていない。左上肢の筋力のみに頼っている傾向にあり、右上肢の使用がほとんど見られない。
起き上がり(背臥位~長座位):左上肢にて、ベッドの端や移乗用手すりを使用することで可能である。しかし、左上肢の筋力のみに頼っている傾向にあり、右上肢の使用がほとんど見られない。
起き上がり(背臥位~端坐位):左上肢にて、ベッドの端や移乗用手すりを使用することで可能であるが、かなりの時間を要し、安定性も低い。下肢をベッドへ下ろすタイミングがうまく行えず、左上肢の筋力のみに頼っている傾向にあり、右上肢の使用がほとんど見られない。
端坐位~背臥位:両下肢を自力でベッドへ上げることはできず介助を要する。両下肢を上げた状態から背臥位になる際に、背部や頭部をゆっくりと接地させることができないときもある。
坐位保持:左上肢の支持により安定しているが、体幹が軽度後傾しており仙骨座りになっている。上肢の支持なしでも坐位保持は可能であるが、安定性はなく耐久性も低い。
移乗動作:体重移動がスムーズではないが、指示によりほぼ可能である。しかし、右下肢への荷重移動が不十分であり安定性に欠けている。
立ち上がり:左上肢の支持により立ち上がろうとするが、右膝関節が完全伸展せず、常に屈曲位であり膝折れが見られるため、右膝関節の支持の介助が必要である。また、両足底部に均等の荷重がかけられていない。
【実習】動作分析のポイント!【無料評価シートダウンロード可】
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・看護師を目指す学生に向けた、評価ポイント解説シリーズ。 今回は、「動作分析」です。 動作分析は、患者の自立を目指すため、問題点を把握するためなど、臨床上とても大事な ...
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歩行:平行棒での上肢の支持により可能であるが、常に右膝関節は屈曲位であり膝折れが見られるため、一部介助が必要であり、転倒の危険性も高く見守りが必要である。また、右足部は常に外旋して足底部全体での接地になっており、右股関節の伸展はほとんど見られず、歩幅も小さくなっている。
【実習】歩行分析のポイント!【図付き評価シートダウンロード可】
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・看護師を目指す学生に向けた、評価ポイント解説シリーズ。 今回は、「歩行分析」です。 歩行分析は、歩行自立を目指すためなど、特に理学療法の業界ではとても大事な評価項目 ...
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ADLテスト
Barthel Index:合計30点
項目 | |||
1.食事 | 全介助 0 要介助 5 自 立 10 | 10 | 準備が必要 |
2.車椅子からベッド又はその逆の動作 | 全介助 0 要介助 10 自 立 15 | 10 | 時間がかかり、見守りが必要 一部介助が必要なときもある |
3.整容(洗面、整髪、髭剃り、歯磨き) | 全介助 0 要介助 0 自 立 5 | 0 | |
4.トイレ動作 | 全介助 0 要介助 5 自 立 10 | 0 | ポータブルトイレへの移乗介助とおむつを併用 |
5.入浴動作 | 全介助 0 要介助 0 自 立 5 | 0 | 全介助にてシャワー浴 |
6.平面歩行(歩行不能時、車椅子駆動) | 全介助 0 ・0 要介助10・0 自 立15・5 | 0 | 全介助にて車椅子 |
7.階段昇降 | 全介助 0 要介助 5 自 立 10 | 0 | 実施していない |
8.更衣動作 | 全介助 0 要介助 5 自 立 10 | 5 | ズボンを引き上げられない |
9.排便の管理 | 全介助 0 要介助 5 自 立 10 | 0 | オムツ使用 |
10.排尿の管理 | 全介助 0 要介助 5 自 立 10 | 0 | オムツ使用 |
合計 | 30 |
【実習】ADL評価ポイント!【カンペ付き評価シート有】
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・看護師を目指す学生に向けた、評価ポイント解説シリーズ。 今回は、「ADL評価」です。 ADL評価は、在宅復帰を目指す患者に対してなど、臨床上とても大事な評価項目にな ...
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Ⅵ.問題点
<Impairment Level> | |
#1 | 右下肢筋力低下 |
#2 | 右上肢筋力低下 |
#3 | 右股関節ROM制限 |
#4 | 認知症 |
<Activity Limitation Level> | |
#5 | 立位保持能力の不安定 |
#6 | 歩行困難 |
#7 | ADLの自立困難 |
<Paticipation Restriction Level> | |
#8 | ADLの介助量が多い |
#9 | 在宅復帰困難 |
<Environmental Factor> | |
#10 | 家族の協力がない |
<Personal Factor> | |
#11 | モチベーションの低下 |
Ⅶ.ゴール設定
Short Goal:立位保持の自立、ポータブルトイレでの排泄の一部介助(移乗動作自立)
Long Goal:平行棒内での歩行自立
Final Goal:福祉用具(杖や歩行器など)を使用しての歩行自立
Ⅷ.治療プログラム
1)ROM制限のためのアプローチ
①四肢のROM訓練:他動運動にて、ゆっくりとした伸張法により痙性を抑制し、ROMの拡大と維持を図る。運動回数は、各々の関節の運動方向に10回程度、1日に2回程度行う。特に、右肩関節、右股関節は制限が大きいため念入りに行う必要がある。
②hold relaxの手技を利用したストレッチ:痙縮筋の拮抗筋が、最大収縮後に弛緩することを利用して、痙性の抑制とROMの拡大と維持につなげる。
2)筋力低下に対するアプローチ
①股関節周囲筋の筋力増強訓練:膝屈曲位でのブリッジ運動を10回、2セット程度実施することで大殿筋の筋力増強を図る。また、背臥位での下肢の外転、内転の抵抗運動を10回、2セット程度実施することで中殿筋、内転筋群の筋力増強を図る。股関節周囲筋群の筋力増強により、起き上がり際の下肢の動作の向上とともに、立ち上がりの際の体重の支持能力の向上を目指す。
②膝関節周囲筋の筋力増強訓練:マッスルセッティングを10秒、5回程度実施することで大腿四頭筋の筋力増強を図る。また、下腿に1kgの重錐を付け、膝関節の屈伸の自動運動を10回、2セット程度実施することで大腿四頭筋、ハムストリングスの筋力増強を図る。それにより、立ち上がりの際の体重の支持能力の向上を目指す。
③上肢の筋力増強訓練:棒に1kgの重錘を付け、両手で把持させて肘関節伸展位で上肢の挙上の自動運動を実施することで、三角筋の筋力増強を図る。
3)移乗動作の自立へのアプローチ
①立ち上がり訓練:平行棒内での立ち上がり動作を行い、動作の方法を獲得させる。また、体重の移動の感覚や運動方向、力の入れ具合などを獲得させると同時に、下肢筋力の増強を図る。
②移乗動作訓練:具体的な移乗動作(車椅子-ベッド間、ベッド-ポータブルトイレなど)を訓練することにより、効率の良い方法や姿勢、動作方法を獲得させる。
4)平行棒内での歩行訓練
上肢で支持を行いながら、右膝の膝折れを起こさないように注意しながら歩行訓練を行う。平行棒内で数回繰り返しながら、歩行の安定性や耐久性を獲得するとともに、次第に上肢に支持を少なくして歩行できるように指導していく。
Ⅸ.考察
本症例は、歩行困難となり精密検査とリハビリテーションのため入院された、右上肢と右下肢に主な筋力低下がみられる男性である。ADLに関しては食事以外は部分介助もしくは全介助を要している。コミュニケーションや意思表示には大きな問題はないが、短期記憶の障害があり、数分前に話した内容や自分の言ったことを覚えていないことがある。
その日の昼食の内容なども覚えていないことが多い。会話においても、時折突飛な発言があったり、返答がないこともある。日内変動もあり、昼間は対抗的な発言や態度が見られるが、夕方は比較的素直に応じる傾向が見られる。本人は歩けるようになりたいと望んでいるが、リハビリテーションには消極的であり、疲れやすく、すぐに何らかの痛みを訴える傾向が強い。家族は歩行状態によっては施設での入所を希望しており、施設への申し込みも済ませている。しかし、以前のように歩行が改善され、ADLの介助量の軽減ができれば、在宅復帰も可能ではないかと考えられる。
本症例では立ち上がりや移乗動作の安定性に欠けており、歩行が困難であるため、介助の必要性がでてきている。昼夜ともにオムツ使用の状態であるため、排泄は全介助を要している。ポータブルトイレへの移乗動作が可能となれば、排泄も一部介助レベルになるのではないかと考えられる。
立位保持を困難にしている要因としては、右上肢、右下肢の筋力低下が考えられる。筋力増強により体重の支持性を向上させ、安定性と耐久性を図る必要がある。歩行を困難としている要因は、右下肢の筋力低下とROM制限にあると考えられる。現状は右の膝関節に膝折れが見られ、股関節の伸展制限のため、下肢の振出が十分に行われず、歩幅が小さくなっている。筋力の増強とROMの可動域の改善により体重の支持性を高め、下肢の運びがスムーズに行えるよう、歩行動作の獲得を目指す。ADLの自立を困難としている要因は、上・下肢の筋力低下が考えられる。筋力の増強を図るとともに、現実的なADL動作の訓練を実施することにより、動作の獲得を目指し、介助量の軽減を図る。
これらの要因に対してアプローチするために、下記のような治療プログラムを立案した。ROM制限のためのアプローチとして、①四肢のROM訓練、②hold relaxの手技を利用したストレッチにより、ROMの維持・拡大を図る。筋力低下に対するアプローチとして、①股関節周囲筋の筋力増強訓練、②膝関節周囲筋の筋力増強訓練、③上肢の筋力増強訓練により、起き上がり際の下肢の動作の向上とともに、立ち上がり、歩行動作の際の体重の支持能力の向上を目指す。移乗動作の自立へのアプローチとして、①立ち上がり訓練、②移乗動作訓練により移乗動作の方法を獲得させ、体重の移動の感覚や運動方向、力の入れ具合などを獲得させると同時に、下肢筋力の増強を図る。また、平行棒内での歩行訓練を行い、歩行の安定性や耐久性を獲得するとともに、耐久性の向上を図る。
本症例では、高齢であることや、本人のモチベーションが低く、リハビリテーションに消極的であることから、はじめから多くのことを実施せず、少しずつリハビリテーションを行っていく必要がある。また、精神機能に関しては、日内変動があることからも、比較的受け入れが良好な夕方の時期に実施することが効率的であると考えられる。しかし、全身的な体力の低下も見られ、食事の有無により状況も大きく変化していることから、食事の摂取状況を考慮しながらリハビリテーションを実施していく必要があると思われる。
残念ながら、現在は体力の消耗が著しく、リハビリテーションを実施する状況ではなくなったが、体力が回復次第、徐々に開始していくことが望まれる。
【参考文献】
1)米本 恭三,他:リハビリテーションにおける評価 Ver.2,医歯薬出版(株),2004
2)奈良 勲,他:運動療法学各論,(株)医学書院,2005
3)田崎 義昭,他:ベッドサイドの神経の診かた,(株)南山堂,2004
4)市橋 則明,他:筋力低下の予防,総合リハビリテーション33巻7号,2005
5)千住 秀明:運動療法Ⅰ 第2版,(株)神陵文庫,2005
6)市橋 則明,他:筋力低下に対する運動療法の基礎,PTジャーナル38巻9号,2004
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疾患名 | 特徴 | |
脳血管疾患 | 脳梗塞 | 高次脳機能障害 / 半側空間無視 / 重度片麻痺 / 失語症 / 脳梗塞(延髄)+片麻痺 / 脳梗塞(内包)+片麻痺 / 発語失行 / 脳梗塞(多発性)+片麻痺 / 脳梗塞(基底核)+片麻痺 / 内頸動脈閉塞 / 一過性脳虚血発作(TIA) / 脳梗塞後遺症(数年経過) / トイレ自立を目標 / 自宅復帰を目標 / 歩行獲得を目標 / 施設入所中 |
脳出血 | 片麻痺① / 片麻痺② / 片麻痺③ / 失語症 / 移乗介助量軽減を目標 | |
くも膜下出血 | ||
整形疾患 | 変形性 | 股関節症(置換術) / 股関節症(THA) / 膝関節症(保存療法) / 膝関節症(TKA) / THA+TKA同時施行 |
骨折 | 大腿骨頸部骨折(鎖骨骨折合併) / 大腿骨頸部骨折(CHS) / 大腿骨頸部骨折(CCS) / 大腿骨転子部骨折(ORIF) / 大腿骨骨幹部骨折 / 上腕骨外科頸骨折 / 脛骨腓骨開放骨折 / 腰椎圧迫骨折 / 脛骨腓骨遠位端骨折 | |
リウマチ | 強い痛み / TKA施行 | |
脊椎・脊髄 | 頚椎症性脊髄症 / 椎間板ヘルニア(すべり症) / 腰部脊柱管狭窄症 / 脊髄カリエス / 変形性頚椎症 / 中心性頸髄損傷 / 頸髄症 | |
その他 | 大腿骨頭壊死(THA) / 股関節の痛み(THA) / 関節可動域制限(TKA) / 肩関節拘縮 / 膝前十字靭帯損傷 | |
認知症 | アルツハイマー | |
精神疾患 | うつ病 / 統合失調症① / 統合失調症② | |
内科・循環器科 | 慢性腎不全 / 腎不全 / 間質性肺炎 / 糖尿病 / 肺気腫 | |
難病疾患 | パーキンソン病 / 薬剤性パーキンソン病 / 脊髄小脳変性症 / 全身性エリテマトーデス / 原因不明の歩行困難 | |
小児疾患 | 脳性麻痺① / 脳性麻痺② / 低酸素性虚血性脳症 | |
種々の疾患が合併 | 大腿骨頸部骨折+脳梗塞 / 一過性脳虚血発作(TIA)+関節リウマチ |