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【一過性脳虚血発作+関節リウマチ】レポート・レジュメの作成例【実習】

2022年1月2日

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・看護師を目指す学生に向けた、レポート・レジュメの作成例シリーズ。

今回は、「一過性脳虚血発作+関節リウマチ」の患者のレポート・レジュメです。

実習生にとって、レポート・レジュメの作成は必須です。

しかし、書き方が分からずに寝る時間がほとんどない…という人も少なくありません。

当サイトでは、数多くの作成例を紹介しています。

紹介している作成例は、すべて実際に「優」の評価をもらったレポート・レジュメを参考にしています(実在する患者のレポート・レジュメではありません)。

作成例を参考にして、ぜひ「より楽に」実習生活を乗り切ってください!

 

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今回ご紹介するレポートの患者想定

 

今回ご紹介する患者想定

  • 施設に入所中
  • 一過性脳虚血発作を発症

  • 既往歴に関節リウマチあり

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「一過性脳虚血発作+関節リウマチ」の患者のレポート・レジュメ作成例

Ⅰ.はじめに

 当症例は診断名が一過性脳虚血発作により他院より転所されリハビリテーション(以下リハ)を受けている.現在は右下肢脱力感と診断され,麻痺もほとんどなく神経症状が認められないが,右下肢の筋力低下が認められる.一方で,慢性関節リウマチの罹患と右腕を欠損しており,整形外科領域に近い症例と考えられる.老人保健施設(以下老健)に入所されており,〇〇月中旬に自宅復帰を目指している.そのため機能障害のみならず,自宅復帰を見据えた治療を行う必要がある.このことから今回,これらを考慮した上での評価,治療,情報収集をさせて頂く機会を得たのでここに報告する.

 

Ⅱ.症例紹介

1.一般情報

【年齢・性別】80歳代,女性

【身長・体重・BMI】cm,kg,BMI:20

【介護度】要介護1

【入所日】〇〇年〇〇月〇〇日

 

2.医学的情報

【診断名】右下肢脱力感 

【健康状態・主原因】関節リウマチ(以下RA) 

【主訴】右足に力が入らない

【現病歴】〇〇年〇〇月〇〇日より右下肢脱力感出現〇〇年〇〇月〇〇日に救急車にてH病院に救急搬送.CTでは特に問題認められなかったが,リハ希望されたため入院.翌日,ほぼ自立にて退院し〇〇年〇〇月〇〇日より当施設に転入.翌日リハ開始.

【既往歴】

〇〇年〇〇月〇〇日 右腕欠損(戦争時の工場事故)

〇〇年〇〇月〇〇日 RA

〇〇年〇〇月〇〇日 左大腿骨頸部骨折(玄関にて転倒し,人工骨頭置換術施行)

【合併症】特になし

【服薬状況】アズレンスルホン酸ナトリウム2㎎ 3p/3×,メトトレキサート2㎎ 1c 1×(毎週木のみ),プレドニゾロン5㎎,フロセミド20㎎ 1T

 

3.社会的情報

【ニード】T-cane歩行自立

【本人Hope】歩けるようになりたい(散歩),生活の自立,ポータブルトイレを用いらずにトイレ動作自立

【家族Hope】排泄自立(自宅トイレ,ポータブルトイレの使用)

【生活歴】<喫煙・アルコール>なし

【家族構成(図1)】義理姉,甥(日中仕事),甥妻(キーパーソン・主介護者・日中仕事),甥妻の両親(母は片麻痺)の6人暮らし

【家屋構造・状況(図2・3)】一戸建ての2階建て.バリアフリー化はされているが既存のため,手すりの位置やスロープなど本人の能力に適合するかは不明.玄関外に2段の段差あり(高さ17㎝).玄関内の左壁には縦手すりあり.上りがまち16㎝.トイレの右側に横手すりと縦手すりあり.寝室は1階の洋室を使用.ベッドの高さは約40㎝.矢印部分が本人の寝室.タンスが2つあり,床に物が置かれている.生活動線は寝室から廊下を通り,台所に行くことが多い.

今後,変更点としては現在の寝室から台所の横にある部屋に移動すること,寝室の移動ができない場合,枕の位置を変えることや床に物を置かないことが望まれる.

図1 家族構成

※矢印は本人,◎はキーパーソン

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図2 家屋構造(1階のみ) 

図3 寝室の見取り図

 

【入所前ADL】T‐caneにて自立.入所前は当施設のデイケアを利用.入浴はデイケアにて.

 

4.他部門情報

【主治医】

<初期>RAの状態は,現在薬物によって進行は抑えられている状態.予後の判断は難しいが,廃用症候群に気を付けながらリハ介入処方.合併症に関しては詳細を検査することは困難なため,バイタルサインを適宜評価しながらとのこと.

<最終>変更なし.

 

【相談員】

<初期>金銭的な面からできるだけ自宅復帰をさせたい.家屋は新築でありこれ以上のバリアフリーは難しい.今後,家屋の詳細を調査予定〇〇年〇〇月〇〇日に近医の病院に受診予定のため,それまでに自宅復帰させたい.要介護度1であるが,現在再度申請中のため変更の可能性あり.

<最終>〇〇年〇〇月〇〇日に個室から大部屋に移動.枕の位置の変更は可能.〇〇年〇〇月〇〇日に家族から退所希望.金銭的にあまりお金をかけることは難しいものと考えられる.その他は,初期と変更なし.

 

【介護士】

<初期>移動に関して日中は車椅子フリー.食事は問題なし.トイレは右壁にもたれて衣類を直す.今までは夜間のみ監視にてトイレ動作を行っていたが,〇〇年〇〇月〇〇日よりフリーに移行.入浴は一般浴で拭けない部分を手伝う以外は自立.過去にベッド移乗で1回転倒あり.やや介護依存傾向が強くなってきている.

<最終>〇〇年〇〇月〇〇日よりフロアT-cane歩行開始後,杖を着いていないことがあり,持っているだけの時がある.また椅子に座る時に杖を机の上に置いてしまうことがある.他は変わらず.

 

【看護師】

<初期>現在処方している薬剤については今後変更する予定はない.入所時より殿部と大腿後面に発赤が認められた.〇〇年〇〇月〇〇日よりやや表皮剥離と症状悪化したため,薬を塗り様子を見る.かゆみや痛みなく,生活やリハには問題ないと考えている.現在は経過観察中.また,皮膚が弱いため傷が付きやすいので注意とのこと.

<最終>本人の希望で時々睡眠薬を投与している.殿部の発赤は薬を塗り経過観察中.その他は変更なし.

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Ⅲ.理学療法評価 

(初期:〇〇年〇〇月〇〇日 最終:〇〇年〇〇月〇〇日)

1.全体像

初期

最終

明るく表情は笑顔,礼義正しい.話すことが好きそうである.リハに対しては意欲的に取り組んでくれるが,物事に対して多少せっかちなところがある.疲労しやすい.

初期と大きな著変はないが,より活発的になってきた傾向がある.

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2.血圧

※全て数値はリハ開始前に測定.

日付

収縮期(mmHg)

124

126

124

126

122

118

126

130

124

124

122

122

130

132

拡張期(mmHg)

74

76

72

78

70

70

68

68

72

70

68

80

80

82

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3.認知機能検査(Mini-Mental State Examination:以下MMSE)

初期

最終

17/30 20点以下のため認知症疑い

【減点項目】日付,場所,逆唱,文章の繰り返しに難があり減点.

17/30点 20点以下のため認知症疑い

【減点項目】日付,場所,逆唱,記憶,文章の繰り返しに難があり減点.

<解釈>

 初期と同様に認知症の疑いも考えられるが,年相応の可能性も考えられる.また,同じような箇所での減点のため,認知症も進行しているとは考えにくい.初期では検査の質問で少し飽きてしまい,投げやりになり回答できなかったこともあったが,最終ではほとんど見られなかった.

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4.視診・触診

初期

最終

【背臥位】右下肢軽度外旋位.右肩甲骨が軽度前方回旋で軽度挙上.床から1~2横指程度前方回旋.右下腿に軽度腫脹は認められるがHomans徴候(-).指圧痕が多少残る.

左右膝蓋骨の可動性低下(Rt.<Lt.).各関節に変形は認められず.発赤,熱感(‐).

【座位】右側の僧帽筋,棘上筋,菱形筋,三角筋,大胸筋の筋硬結.右肩甲骨が上方回旋で軽度挙上.右上肢の切断部分は,肩関節は残存.

【背臥位】右下肢軽度外旋位.右肩甲骨軽度挙上.右下腿腫脹減少.指圧痕は残らない.

左右膝蓋骨の可動性低下(Rt.<Lt.).各関節の変形なし.発赤,熱感(‐).

【座位】右僧帽筋,棘上筋,大胸筋,左僧帽筋の筋硬結.右肩甲骨が軽度挙上.

5.疼痛

初期

最終

・動作時・荷重時の疼痛(-)

・各関節の圧痛(‐)

・安静時痛(+):時々,右上腕切断の患部に軽度の疼痛が出現

・股関節外転:Lt.:内転筋群伸張痛

・膝関節屈曲(腹臥位):大腿全面に伸張痛

・動作時・運動時の疼痛(-)

・各関節の圧痛(-)

・安静時痛(+):時々,右上腕切断の患部に軽度の疼痛が出現

・膝関節屈曲(腹臥位):大腿全面に伸張痛

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6.感覚検査

初期

最終

位置覚(下肢),触覚(大腿・下腿・足底):N.P

評価せず.

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7.形態測定

周径

Rt.

Lt.

Rt.-Lt.

上腕断端長(肩峰-断端末)

12/未実施

  

下腿最大周径

33.2/33.0

32.7/32.6

0.5/0.4

初期/最終(単位:㎝)

<解釈>

 右上肢について肩関節は残存しており,腋窩レベルよりも断端末が下方にあることからも上腕切断であると判断できる.周径は入所前の事前情報がないため,元からの左右差の可能性も含まれる.初期と比較すると浮腫は僅かながら軽減している.触診からも指圧痕がなくなり浮腫が軽減していることからも,足関節ROM改善の要因となる.しかしリハ以外の活動性は乏しく,循環状態が不良の可能性がある.

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8.関節可動域(以下ROM)検査

測定部位/運動方向

Rt.

Lt.

肩関節 屈曲

125/

 

    伸展

0/

 

股関節 伸展

10/10

10/10

    外転

15/15

10P/25

膝関節屈曲(股関節伸展位・腹臥位)

125P/125P

115P/120P

    伸展

‐10/0

‐10/0

足関節 背屈

0/10

0/5

    外がえし

0/5

0/0

※P:疼痛,初期/最終(単位:°)

※備考

○初期評価

・上肢:右肩関節は安静時屈曲‐60°.伸展は60°からの動き.左上肢:N.P

・股関節伸展:左右ともに大腿部前面伸長感あり

・膝関節屈曲:左右ともにEly test(+).いずれも最終域より出現.

○最終評価

・膝関節屈曲:左のみEly test(+).最終域より出現.床面と骨盤部に約3横指のスペース.

 

<解釈>

 足関節と膝関節伸展に制限が認められた.足関節の可動性低下は姿勢制御にも影響する.膝関節伸展制限は立位においてアライメント不良を引き起こす原因ともなる.その後,リハ介入によりROMが改善されたことにより立位姿勢や姿勢制御に改善につながるものと考える.

またEly test(+)ながら股関節伸展が出る要因として,代償動作が入ることと,腹臥位での膝関節屈曲がそこまで制限がないために伸展のROMが10°確保できているのではないかと考える.

その他の関節に関してはスクーリニングより著名なROM制限は認められない. 一方,右上肢に関しては動きに問題はないが安静時でも屈曲60°となっている.これは残存筋の三角筋,大胸筋の影響により屈曲しているものと考える.

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9.筋力検査(徒手筋力検査:以下MMT)

関節運動

Rt.

Lt.

体幹屈曲(座位)

3/3

 

  伸展(座位)

~3/~3

 

股関節 屈曲

3/4

4/4

    伸展

3/4

3/4

    外転

3/3

3/3

膝関節 屈曲

3/3

3/3

    伸展

3/4

3/4

初期/最終

※備考

・体幹伸展:動作および,端座位での徒手抵抗により判断.

○初期評価

・股関節伸展:持ち上がるものの,全可動域を動かせないため(‐)と表記.

○最終評価

・中等度の抵抗にはわずかに抗しきれないため4と表記.

・体幹屈曲は3であるが,初期と比較すると容易に動作が可能.

<解釈>

リハ介入により下肢筋力が向上したものと考える.また体幹筋もMMTの数値上は変化がないものの,動作においてスムーズさが出てきていることからも向上しているものと考える.このことから下肢筋力,体幹筋が向上することにより安定した立位や立ち上がり,起き上がり,歩行の獲得につながってくるものと考える.しかし,依然として左右の中殿筋が抵抗には打ち勝つことが難しいことからも片脚立位や歩行においてのまたぎ動作,歩行における代償動作も出現してくるものと考える.

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10.バランス検査

①timed up and go test(以下TUG)

T-caneを使用.速度は快適歩行.

初期

最終

【右回り】20秒34:ズボンを軽く持っての軽介助にて歩行.体幹の動揺は認められず.コーンをターンするときに1m付近から大きく膨らみ,大回りをして方向転換する.歩幅はさほど変わらず.着席時は左上肢を座面に置き,支持しながら着席する.

【左回り】20秒39:ズボンを軽く持っての軽介助にて歩行.体幹の動揺は認められず.右回りと同様にコーンをターンするときに1m付近から大きく膨らむが,右回りほど膨らまない.歩幅はさほど変わらず.着席時は右回りと同様.

【右回り】16秒39:介助なしで行う.体幹の動揺は認められず.コーンをターンするときの膨らみはなくなり,コーンのすぐそばを通る.歩幅はさほど変わらずに小刻みに歩行.着席時は杖を利用しながら,体幹前傾させ着席する.

【左回り】19秒76:介助なしで行う.体幹の動揺は認められず.右回りと同様にコーンをターンするときの膨らみ減少するものの,コーンを回るときは少し外側を歩く.歩幅は変わらず小刻み歩行.着席時は右回りと同様.椅子の手前で速度を落として着席.

<解釈>

 20秒がカットオフ値であり,この数値が地域での実用歩行の目安となる.初期と比較すると数値的に向上が認められる.左回りでは着席前にスピードを落としてしまったことや着座のときの方向転換に時間がかかったこと,コーンを回るときに軽度ながら膨らみながら歩行したことによって左右差が出現しているものと考える.だが体調などにより変化することも念頭に入れる必要がある.また方向転換も大回りすることがなくなってきた.これは振り向き動作や急激な方向転換に対し体幹を立て直す能力が向上してきたものと考えられる.

 

②Functinal Balance Scale

(以下FBS)

初期

最終

点数:32/56

【Functinal reach(前方)以下:FR】8㎝,上肢を前方に突き出すようにし体幹の前傾は少ない.

【振り向き動作】可能であるが,左右とも振り向くときに振り向く方向に下肢を後方に外転させ,頸部の回旋で後方を見る.

【Mann肢位】左右ともに足を出そうとするが保持することができない.

 

点数:40/56

【Functinal reach(前方)以下:FR】12.5㎝,上肢を前方に突き出すように行う.体幹の前傾を軽度であるが行う.

【振り向き動作】安定して可能.初期に見られた振り向くときに振り向く方向に下肢を後方へと外転させる動きはなくなった.頸部の回旋と体幹の回旋で後方を見る.

【Mann肢位】左右ともに足を出そうとするが保持することができない.手を壁や手すりで支持しながらであれば可能.

【360°回転】右回り:4秒62,左回り:3秒58.右回りのほうが若干足場を移動しながら回転する.

【片脚立位】片脚立位では何もつかまらない状態で下肢挙上困難.壁に触れながらであれば左右ともに挙上可能だが保持困難.杖では右下肢のみ挙上できるが保持困難.体幹が左側屈.

<解釈>

 45点を基準とし,それ以下が転倒の危険性が高くなる.初期と比較すると静止時立位や閉眼立位に関しては長時間安定して可能となった.これは様々な要因が考えられるが下肢・体幹筋力の向上,ROM制限の改善が要因と考えられる.しかし段差昇降や片脚立位,Mann肢位になるとバランスを崩したり動作困難となる.これは中殿筋の筋力低下や支持基底面が1足分に減少すると転倒の危険性があることが分かる.そのためまたぎ動作や歩行,方向転換時に注意が必要となる.

 

③外乱刺激(骨盤・肩甲骨プッシュ)

初期

最終

【立位での外乱刺激(前後左右)】保護伸展反応(+),背屈反応(-),左右前後ステップ反応(-),股関節ストラテジー優位,前方は膝関節屈曲でのバランスをとる.

【立位での外乱刺激(前後左右)】保護伸展反応(+),背屈反応(+),左右前後ステップ反応(+),平衡反応(+).股関節ストラテジー優位だが,大きく動揺することが減少し,体幹前傾減少.ステップ反応は2-3歩出てしまうことあり.

<解釈>

 初期では背屈反応やステップ反応が出現しなかったが,最終において反応が出てきている.また体幹の動揺に対しても減少し安定した立位保持が可能となっている.反応が出てきたことにより,バランスを崩したときにステップにより転倒を防ぐことができる.しかし,2-3歩出てしまい,その時につまずきや加速がついて転倒の危険性があり注意が必要となる.

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11.姿勢分析

①座位

初期

最終

【矢状面】頭部前方位.右肩甲骨軽度前方回旋,左肩甲骨軽度後方回旋.円背傾向で胸椎後弯増強.骨盤水平位(上前腸骨棘[以下ASIS]と上後腸骨棘[以下PSIS]の距離で判断.PSISが約2横指上方).

【前額面】右肩甲骨挙上,左肩甲骨下制.体幹左側屈.側弯増強傾向.骨盤左挙上,右下制(左右PSISより約1横指左側が上方).

【矢状面】頭部前方位.右肩甲骨軽度前方回旋.軽度円背で胸椎後弯減少.骨盤水平位(上前腸骨棘[以下ASIS]と上後腸骨棘[以下PSIS]の距離で判断.PSISが約2横指上方).

【前額面】右肩甲骨挙上,左肩甲骨下制(肩甲骨下角に1横指ほど左右差).体幹軽度左側屈.側弯軽減.骨盤水平位.

②立位

初期

最終

【矢状面】頭部前方位.右肩甲骨軽度前方回旋.円背傾向で胸椎後弯増強.骨盤水平位.両股関節軽度屈曲,両膝関節軽度屈曲位(Rt.<Lt.).

【前額面】右肩甲骨挙上,左肩甲骨下制.体幹左側屈.側弯増強傾向.骨盤左挙上,右下制.

【矢状面】右肩甲骨軽度前方回旋.軽度円背傾向で胸椎後弯.骨盤水平位.右膝関節軽度屈曲.

【前額面】右肩甲骨挙上,左肩甲骨下制.体幹軽度左側屈.側弯傾向.

12.動作分析

①起き上がり動作(背臥位‐端座位)

1)プラットホーム上

初期

【1相:背臥位】頭部に枕を使用.右下肢軽度外旋位.右肩甲骨軽度前方回旋・軽度挙上.左上肢は体側.

【2相:半臥位】はじめに左股関節外旋,右股関節軽度屈曲,膝関節軽度屈曲をさせる.その後,右肩を左回旋させながら,骨盤もともに左回旋(丸太様回旋)する.

【3相:半臥位-長座位】左肩関節軽度外転,肘関節軽度屈曲させ,その後手掌面をプラットホームで支持し,肘関節を伸展させながら体幹を起こしていく.体幹が起きてくると同時に徐々に両肩,骨盤を右回旋(丸太様回旋)し,長座位となる.

【4相:長座位‐端座位】左上肢で支持しながら,両股・膝関節屈曲させ,下肢を左側に向けながら床に下ろし,端座位となる.

最終

【1相:背臥位】頭部に枕を使用.右下肢軽度外旋位.右肩甲骨軽度挙上.左上肢は体側.

【2相:半臥位】はじめに両股関節軽度屈曲,両膝関節軽度屈曲をさせる.その後,体幹を起き上がらせながら右肩を左回旋させる.肩の回旋が起こると骨盤も軽度左回旋する.回旋してきたら左肩関節外転,肘関節屈曲,前腕回内位にする.半臥位であるが,完全に横に向いているのではなく,45°くらい傾いている.

【3相:半臥位-端座位】左肩関節軽度外転,肘関節軽度屈曲,前腕回内から手掌面をプラットホームで支持し,肘関節を伸展させながら体幹を起こしていく.体幹が起きてくると同時に下肢を台の外に下ろす.下肢を下ろしながら左回旋し,端座位となる.初期と比較すると長座位の過程がなくなり,スムーズさも出てきている.

2)居室のベッド上(手すりなし)

初期

最終

プラットホーム上と相違はない.しかし,ベッドが多少柔らかいため動きに多少時間がかかる.

プラットホーム上と相違はない.しかし,ベッドが柔らかいこととプラットホームと違って滑りやすさが違うため,下肢をベッドの外に出すスピードが落ちる.また半臥位での股・膝関節屈曲が増加,体幹を起き上がらすときに下肢を軽度持ち上げて起きる.

3)居室のベッド上(手すりあり)

初期

【1相:背臥位】頭部に枕を使用.右下肢軽度外旋位.右肩甲骨軽度前方回旋・軽度挙上.左上肢は腹部に置いている.

【2相:側臥位】あらかじめベッドの端により,左上肢でベッド柵に掴まる.股・膝関節を軽度屈曲させ,左上肢で引きつけるように肘関節を屈曲させながら,丸太様に回旋し側臥位となる.

【3相:側臥位-端座位】両下肢をベッドの外に下ろし,左上肢で柵に掴り引きつけながら,45°程まで体幹が起きあがったら,肘関節を伸展させ押しながら端座位となる.

最終

【1相:背臥位】頭部に枕を使用.右下肢軽度外旋位.右肩甲骨軽度挙上.左上肢は体側.

【2相:半臥位】あらかじめベッドの端により,左上肢でベッド柵に掴まる.股・膝関節を軽度屈曲させ,左上肢で引きつけるように肘関節を屈曲させながら,丸太様に回旋し半臥位となる.

【3相:半臥位-端座位】両下肢をベッドの外に下ろしながら,左上肢は肩関節外転,肘関節屈曲,前腕回内でベッドに着き,ゆっくりと肘関節を伸展させながら起き上がり端座位へと移行する.

②立ち上がり動作(端座位‐立位)

初期

【1相:端座位】右肩甲骨挙上,左肩甲骨下制.体幹左側屈.左上肢をプラットホームに置き,手掌面で支持している.股関節は軽度外転.

【2相:立ち上がり開始】体幹を60°程度前屈させるが,左側に軽度傾きながら行う.頭部は軽度屈曲し,視線は真下の床を見ている.前屈後,徐々に股・膝関節,体幹を伸展させながら離殿.その時に左上肢で支えながら,反動を付け離殿のサポートをしている.

【3相:腰を浮かしている状態】左手掌をプラットホームから離す.徐々に股・膝関節,体幹を伸展させていく.同時に屈曲していた頭部も伸展していく.体幹が伸展していくときに右肩甲骨を挙上させながら行う.重心が左側に偏位している.

【4相:立位】立位保持.右肩甲骨挙上,左肩甲骨下制.体幹左側屈.重心左偏位.

最終

【1相:端座位】右肩甲骨挙上,体幹軽度左側屈.左上肢を左大腿部前面で支持.股関節軽度外転.

【2相:立ち上がり開始】体幹を60°程度前屈させる.頭部の屈曲は軽減し,視線は前方の床を見ている.前屈後,膝関節が左右ともに内側に移動する.これは右側のほうが強い傾向にある.その後,徐々に股・膝関節,体幹を伸展させながら離殿.左上肢を大腿部で支えながら離殿のサポートをしている.

【3相:腰を浮かしている状態】徐々に股・膝関節,体幹を伸展させていく.同時に軽度ながら屈曲していた頭部も伸展していく.股・膝関節が伸展していくのと同時に膝関節が内側に位置するのも徐々に外側へと移動する.左上肢は大腿部で支持している.

【4相:立位】立位保持.右肩甲骨挙上,股・膝関節伸展位.重心の偏位もない.

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13.歩行分析(T‐cane使用)

初期

最終

左にT-cane使用の軽介助で歩行.杖は使用する時とない時がある.歩幅は左右とも2足半程度.

【矢状面】両膝関節は常に屈曲位,左右股関節軽度屈曲位.右肩甲骨軽度前方回旋.左右ともにheel contact(HC)から入り,foot flat(FF)-mid-stance(M-St)へ移行.M-ST-toe off(TO)より股関節伸展はしているが0°以上の伸展はない.両側のswing-phase開始時の股関節屈曲をするときに体幹軽度伸展(持ち上げるような動作).

【前額面】常に右肩甲骨挙上,左肩甲骨下制.体幹左側屈.M-Stの時に時々,動揺(よろめき)がある.動揺は右M-Stが強い.右swing-phaseでは軽度股関節を外転させながらHCする.左右ともに下腿軽度内旋位でHCする.

<解釈>

 切断された右上肢の影響と考えられるが,肩甲骨が挙上,回旋し,体幹も左側屈をしている.重心も軽度ながら右に偏位している.不良姿勢によるアライメント異常による重心偏位,バランス能力低下,下肢筋力低下により歩行の安定性が失われ動揺が出現し,自身も転倒への恐怖感も影響しているものと考えられる.また,杖を使用しない場合もあり,歩行速度も速いため,杖使用や速度調節の促しを行っていく必要がある.

左T-caneでの自立歩行.杖は使用する時とない時がある.歩幅は左右とも2足程度.

【矢状面】両膝関節は常に軽度屈曲位.右肩甲骨軽度前方回旋.左右ともにHCから入り,FF-M-Stへ移行.swing-phaseでは股・膝関節の屈曲が減少し,床面と足部の距離が近く,擦るように下肢を振り出す.

【前額面】常に右肩甲骨挙上,左肩甲骨下制.体幹軽度左側屈.M-Stの時に,体幹の左右後方への動揺(よろめき)がある.動揺は右M-Stが強い.左右ともに下腿軽度内旋位でHCする.歩隔を広めにし,ワイドベースで歩行する.

<解釈>

 切断された右上肢の影響と考えられるが,肩甲骨が挙上,回旋し,体幹も左側屈をしている.両膝関節を屈曲させることで重心位置を下げ,安定を図っていると考える.また床面をするように下肢を振り出す時があり,つまずきによって転倒する可能性がある.一方で初期と比較するとバランス,下肢・体幹筋力が向上し歩行に安定性が出てきた,しかし体幹のM-Stの体幹動揺は出現する.これは中殿筋の低下により起こる骨盤傾斜を補うために代償動作で起きているものと考える.また右上肢が欠損により保護伸展がないことからも転倒の危険性がある.

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14.日常生活動作(以下:ADL)検査

初期

最終

【FIM評価 106点/126点】

<整容 6点>自立はしているものの,車椅子着座にて行う.多少時間もかかるため減点.

<清拭 5点>シャワーチェア,手すり,右腕欠損のため届かない部分を清拭してもらう.

<更衣・上半身 6点>自立してできるものの,多少時間を要する.

<更衣・下半身 5点>衣服の乱れを指摘する必要がある.

<トイレ動作 6点>残存している右上肢で壁・手すりにもたれて,支えながら衣服を着脱する.

<移乗 6点>車椅子,手すりが必要.時々,車椅子のブレーキを忘れて移乗する時がある.

<トイレ 6点>手すりが必要.

<浴槽・シャワー 6点>手すりに掴りながら移動,立ち上がり.

<車椅子 5点>自走は可能だが,物にぶつかることもある.また50m以上の自走は困難で,多少の介助が必要な時がある.

<階段 5点>14段の階段昇降可能.手すりに掴り,一足一段で監視レベルにて可能.

<理解・表出 6点>やや時間を要する.

<問題解決 6点>やや時間を要する.

<記憶 4点>場所・時間・日付などを忘れ,時々間違えてしまう.

【FIM評価 108点/126点】

<整容 6点>自立しているが多少時間がかかる.立位で可能だが,安全のため台の端に寄りかかる必要あり.

<清拭 5点>著変なし.

<更衣・上半身 6点>著変なし.

<更衣・下半身 6点>衣服の乱れを指摘しなくても更衣可能.多少時間がかかる.

<トイレ動作 6点>残存している右上肢で壁・手すりにもたれて,支えながら衣服を着脱する.しかし,手すり無しでの立位でズボンの着脱可能.

<移乗 6点>車椅子の手すり,ベッド柵が必要.しかし,無くても起立着座は可能.安全面を考慮して必要あり.

<トイレ 6点>無くても移乗は可能だが,安全面を考慮し手すりが必要.

<浴槽・シャワー 6点>著変なし.

<T-cane歩行 6点>日中のみ(9時‐15時)フロア内T-cane歩行自立可能.休憩しながらなら長距離歩行可能.

<階段 5点>監視必要.昇る時は右足,降りる時は左足から.

<理解・表出 6点>著変なし.

<問題解決 6点>著変なし.

<記憶 4点>著変なし.

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Ⅳ.リスク管理

①左股関節の人工骨頭置換による禁忌肢位:術方法が不明なため詳細な禁忌肢位は明確ではないが,内転動作は控える.

②RA:著明な変形,疼痛はないものの,関節破壊が進んでいることも考えられるため,リハや生活において極力負担をかけないようにする必要がある.

③皮膚が弱いため,傷の注意.

 

Ⅴ.問題点抽出(ICIDH)

初期

最終

<impairment

♯1 左右の下肢筋(Rt.>Lt.)・体幹筋の筋力低下

♯2 右上肢切断

♯3 ROM制限(膝・足関節)

♯4 平衡・姿勢調節機能低下(平衡反応,立ち直り反応,保護伸展反応)

♯5 下腿の浮腫

♯6 右肩関節周囲筋筋硬結(僧帽筋,棘上筋,菱形筋,三角筋,大胸筋)

♯7 膝蓋骨の可動性低下・大腿直筋の伸張性低下

♯8 認知機能低下の疑い

<disability

♯9 歩行能力低下(転倒の危険):♯1-7

♯10 立位・座位の不良姿勢と不安定性:♯1-6

♯11 ADL能力低下(下半身着替え,入浴・清拭,トイレ動作):♯1・2・4・8

♯12 基本動作能力低下(寝返り,起き上がり,立ち上がり,物拾い):♯1・2・4

<handicap

♯13 介助・監視量の増大:♯9・10・11

♯14 生活範囲狭小化(家屋の手すり・段差の問題):♯9・10

♯15 介護度との不釣り合い(簡易ベッド,ベッド手すりの給付対象外):♯12

<impairment

♯1 左右の下肢筋(Rt.>Lt.)・体幹筋の筋力低下

♯2 右上肢切断

♯3 ROM制限(足関節)

♯4 平衡・姿勢調節機能低下(2-3歩のステッピング,右上肢の保護伸展反応)

♯5 右肩関節周囲筋筋硬結(僧帽筋,三角筋,大胸筋)

♯6 認知機能低下の疑い

<disability

♯7 歩行能力低下(またぎ動作も含め転倒の危険):♯1-4・6

♯8 立位・座位の不良姿勢:♯2・5

♯9 ADL能力低下(清拭,段差昇降):♯1・2・3・4・6

♯10 基本動作能力低下(寝返り,立ち上がり,物拾い):♯1・2・4

<handicap

♯11 一部の動作に介助必要(清拭,物拾い):♯9・10

♯12 生活範囲狭小化(家屋の手すり・段差の問題):♯7・9・10

♯13 社会的交流の減少(自宅に帰ると外出が減少し閉じこもり気味になる):♯7・9

Ⅵ.理学療法目標

初期

最終

【短期目標(4W)】

T‐cane屋内歩行自立,立位の動的動作時の安定性(監視レベル:振り向き方向転換),動作時の注意事項の意識づけ(歩行速度・階段昇降の速度)

【長期目標(8W)】

長時間立位自立(整容・更衣),T-cane屋外歩行自立,階段昇降自立(両手すりがないところでも)

【短期目標(2W)】

T‐cane屋内歩行完全自立(時間制限を設けないで),自宅の環境設定(枕の位置,部屋の整理,間取りの配置変更)

【長期目標(4W)】

シルバーカーでの屋外歩行自立,段差昇降自立(両手すりがないところでも)

Ⅶ.治療プログラム・治療経過

①治療プログラム

初期

最終

①バランス‐ex

・横歩き・つぎ足歩行:支持基底面を狭め,姿勢保持能力を改善させる.約5m×1往復

・バランスマット上での立位保持:裸足になってもらう.はじめは開脚して行い,次第に閉脚して行う.はじめは20秒.

・球突き:ゴムボールを用いて,球を突いてもらう.20回×2セット

・物の移動・輪投げ:立位の状態で,前左右のテーブルに置いてあるものを取ってもらう.またゲーム感覚で輪投げをしてもらう.

②歩行‐ex

室内歩行:疲労度によるが3週程度.

・コーンの周りを回り方向転換する.指導としては小刻みに回るように指示.

・歩行中の足隔を広げ,ワイドベースに歩くように指示.

③ROM-ex

・右肩周囲筋(僧帽筋,棘上筋,菱形筋,胸筋群)

・下肢のストレッチ:大腿直筋などの下肢全般

④筋力増強‐ex

・座位での膝関節伸展:最初は重錘なしの自重で行う.その後漸増的に負荷増大させBorg13程度まで.10回×2セット/1W

・座位での股関節屈曲:膝関節と同様.

⑤ADL‐ex

・立ち上がり・起き上がり練習(上肢の支持なし)

・段差昇降練習:台を使用して家の段差を想定して行う.3往復.その後,状態に応じて階段でも行う.

①ROM-ex

・左右肩甲骨周囲筋(僧帽筋,肩甲挙筋,胸筋群)のストレッチング

・下肢ストレッチ:足関節背屈・外がえし,膝関節伸展(ハムストリングスの持続的伸張)

②立ち上がり・着座-ex

・昇降台を用いて高さを変えての立ち上がり・着座(30・40・50㎝)

・支持面の硬さを変えての立ち上がり・着座(バランスマットを敷いて)

・動作の時に左上肢で支持して制御しながら動作の遂行の指導

③筋力増強-ex

・座位:股関節屈曲10回×2セット,膝関節伸展10回(徒手抵抗)

・側臥位:外転5秒保持×5セット(自重)

・背臥位:ブリッジ10回×2セット,SLR5秒保持×5セット(自重)

・立位:スクワット10回×2セット(自重)

④バランス-ex

・立位での外乱刺激:肩甲骨・骨盤部を左右前後にプッシュ

・円形バランスマット・バランスボール上での座位:足踏み,上肢挙上,膝関節伸展運動,重心の移動

・バランスマット上での立位(平行棒内):開脚,閉脚での立位保持,上肢の運動,足踏み

・横歩き・継ぎ足歩行:平行棒内2往復

⑤歩行-ex

・室内歩行:約30mの歩行

・またぎ動作:T‐caneを床に置いてのまたぎ練習

・杖の使用方法,ワイドベースの指導

・屋外歩行:約100m(ズボンを持って軽介助)

⑥ADL-ex

・階段昇降:手すり付き17㎝段を用いて

・ドアの開閉(引き戸,横開き戸)

・冷蔵庫の開閉と物の運搬

・手すり無しでのズボンの着脱(セラバンド使用)

②治療経過

 

ROM-ex

〇〇年〇〇月〇〇日:右肩甲骨挙上,前方回旋,肩甲挙筋,僧帽筋,三角筋緊張強く短縮傾向により肩関節周囲筋ストレッチ・マッサージ開始.

〇〇年〇〇月〇〇日:膝・足関節ROM制限によりストラテジー減少の可能性示唆.

♯ROM評価 足関節背屈 0°/0°,外がえし 0°/0°

〇〇年〇〇月〇〇日:膝・足関節伸展でハムストリングスストレッチ追加.

♯ROM評価 膝関節伸展 ‐10°/-10°.End feel:farm.

〇〇年〇〇月〇〇日:左右膝関節ほぼ伸展.end feel:hard.ハムストリングスの緊張なし.end feelからも完全伸展とし膝関節へのアプローチは終了.

〇〇年〇〇月〇〇日:「足が少しむくんでいる」という訴え.下腿部把持痛(-),足部むくみなし.下腿最大周径に初期と比較し軽度増加.休日明けのため活動量低下と考えられる.

〇〇年〇〇月〇〇日:左右肩甲骨周囲筋の筋硬結減少(特に僧帽筋).

 

立ち上がり・着座‐ex

〇〇年〇〇月〇〇日:座位から立ち上がり 5回,起き上がり(体幹屈曲MMT3)

〇〇年〇〇月〇〇日:立ち上がりで離殿時に両膝関節が内側に入る.外転筋の筋力低下示唆.

〇〇年〇〇月〇〇日:

①50㎝台(座面が柔らかい)で立ち上がり.上肢を大腿部に支持ありで可能.

②マット外しての40㎝台は可能だが困難.膝内側を接着させる.

③膝が内側に入ることに対し足部外転,ワイドベースで行った.pain(-),体幹動揺(+),立ちづらいと訴えている.従来通りの方法で指導.

〇〇年〇〇月〇〇日:30㎝台起立不可能(大腿部上肢支持でも).腰を持っての軽介助で可能.着座で勢いよく座ってしまう.

〇〇年〇〇月〇〇日:40㎝台で上肢支持なくとも起立可能.膝内側移動も減少(右knee in強).着座は右手を床や手すりに置いて支えながら,座っていくように指導.

〇〇年〇〇月〇〇日:

①30㎝台は手すりありで立ち上がり可能.着座は手すり使用でゆっくり可能.

②かがみこみ動作評価.スクワット動作(平行棒).手すりありでは膝関節60-70°前後で体幹前傾.無しは膝関節50-60°前後で体幹前傾増加.股関節屈曲角度増加で殿部を後ろに突き出すような姿勢.手すり無しで軽度動揺認め,前後に転倒の危険性.落ちた物を拾う動作はリスクがあり指導しない.

〇〇年〇〇月〇〇日:いざり動作(プラットホーム上).長座位で座位保持困難.左上肢で支持.左右への移動困難.前後はわずかに進む程度.体幹筋力低下,右上肢欠損によるバランスと推進力低下,下肢がうまく使用できていない.立ち上がり・着座練習は安定してきたので終了.

 

筋力増強-ex

〇〇年〇〇月〇〇日:重錘1.5㎏ 股関節屈曲,膝関節伸展20回×1セット開始.左右股関節屈曲時体幹伸展の代償出現

〇〇年〇〇月〇〇日:股関節屈曲,膝関節伸展10回×2セット本日から徒手抵抗.右側は指2本で行う.左側の方が抵抗量強め.

〇〇年〇〇月〇〇日:♯MMT股関節外転 3/3

〇〇年〇〇月〇〇日:ブリッジ運動10回×2セット,座位での後方からの起き上がり10回.股関節屈曲,膝関節伸展の抵抗は全指に変更.ブリッジ運動に介助必要.起き上がりはどの方向においても可能(30°前後).

〇〇年〇〇月〇〇日:着座のときの大腿四頭筋遠心性収縮弱化によりスクワット(平行棒内)追加.

〇〇年〇〇月〇〇日:

①股関節外転5秒保持(側臥位)プログラム追加.中殿筋収縮あり.保持可能.徐々に股関節屈曲が伴う.

②SLR約60°保持.大腿四頭筋収縮あり.体幹伸展での代償動作あり.

〇〇年〇〇月〇〇日:ブリッジ運動は介助なしで離殿可能(3横指ほど)となる.

 

バランス-ex

〇〇年〇〇月〇〇日:立位保持,バランスマット(平行棒内).

♯評価:立位での外乱刺激(前後左右):保護伸展反応(+),後方刺激背屈反応(-),左右前後ステップ反応(-),股関節ストラテジー優位,前方は膝関節屈曲でバランスをとる

〇〇年〇〇月〇〇日:立位での上肢動作(床面),ボールを取るリーチ動作(前方).上肢動作で開脚時は安定. 閉脚時では肩屈曲100°-120°で動揺(+).ボールを取るときに足部を動かしてしまうが動揺(-).

〇〇年〇〇月〇〇日:立位外乱刺激(左右前後).背屈反応軽度(+),前方ステップ反応(+)3回出現.ステップをしすぎて2歩ほど出てしまう.

〇〇年〇〇月〇〇日:円形バランスマット上での座位開始.両足底を床面に接地.動揺(+)(右側強い).上肢動作で動揺強くなる.両足踵上げ可能.

〇〇年〇〇月〇〇日:円形バランスマット座位で上肢支持なしでも動揺はさほどない.重心を左右に偏らせても動揺少ない.頸部・体幹の立ち直り(+).バランスマット上の立位(開脚).体幹動揺減少し安定.19秒32保持可能(支持なし).

〇〇年〇〇月〇〇日:円形バランスマット座位において片脚を上げた状態でも動揺なく保持可能になる.

〇〇年〇〇月〇〇日:外乱刺激で骨盤をプッシュ.前後方向にステップ反応が認められる.

〇〇年〇〇月〇〇日:外乱刺激で肩甲骨・骨盤にプッシュ.前後左右方向にステップ反応(+).後方は2 歩ほど動いてしまう.立ち直り反応(+).刺激では股関節屈曲をあまり伴わず,姿勢を制御.

〇〇年〇〇月〇〇日:

①円形バランスマット上で座位が安定してきたためバランスボールに変更.手すりありでは体幹動揺(-).なしでは動揺あるが大きくバランスを崩すほどではない.頸部立ち直り(+).

②2分間安全に立位可能(肩幅ほどの開脚).閉眼立位時も大きな動揺なく,10秒保持可能.閉脚立位は(3横指ほど足部を空ける)1分間安全に立位可能.

 

歩行‐ex

〇〇年〇〇月〇〇日:屋内歩行.

♯評価:T‐caneなしでは右mid-stanceで体幹右側屈.歩幅減少(約1足半).T-caneうまく使用できず.歩行速度が速くなる傾向あり.

〇〇年〇〇月〇〇日:2点1点支持歩行の指導.平行棒内で横歩き開始.体幹が回旋してしまう(骨盤は正面に向いている).中殿筋収縮あり(左弱)

〇〇年〇〇月〇〇日:コーン間の8の字歩行行う.動揺(-),回る時に内側を小刻みに歩行.杖の使用が上手に行えず.

〇〇年〇〇月〇〇日:

①横歩きで右mid-stance時に体幹が右側屈してしまう.

②コーン間の8の字歩行,小回り安定してきたためプログラム終了.

③4点支持杖をまたぐ.左swing-phaseのときに右側へ動揺.転倒の危険性があるので平行棒へ.平行棒内では動揺(-)可能.

④居室での伝い歩きは安定して可能.

〇〇年〇〇月〇〇日:

①横幅の狭い場所の歩行.体幹動揺(-).杖を使用しない時あり.

 ②片脚立位で手すりがあれば両下肢持ち上げ可能.ない場合は左右ともに困難.中殿筋の筋力低下示唆.

〇〇年〇〇月〇〇日:伝え歩きでは体幹軽度前傾.壁が右側ならば横歩きで行う.動揺なく行えている.

〇〇年〇〇月〇〇日:

①T-cane屋内歩行.体幹動揺減少.曲がる動作も動揺(-).右mid-stance時の右側屈は認められるが減少.wide-baseで歩くことを指導.

②横歩きから継ぎ足歩行(平行棒内)へ変更.手すりを離すと右側に動揺しバランスを崩してしまう.

③またぎ動作.40㎝間隔のテープをまたぐことは困難(振り出せない).ひとつのテープをまたぐことは可能.体幹の動揺(-).

〇〇年〇〇月〇〇日:

①日中のみ(9時‐15時)フロア内T-caneでフリー開始.それ以外は車椅子.下肢筋力向上,ステップ反応,保護伸展反応,立位姿勢安定してきたため対応変更.

②T-caneを床に置いてのまたぎ動作.動作可能.またぎ終えて右後方へ動揺(+).上肢平衡反応,立ち直り(+).杖を先に出し,その後に右足を振りだすように指導.

③独歩可能.歩幅約1足分.歩隔は広め.左上肢肩外転・屈曲位.右mid-stanceで左下肢を振り出すときに体幹右側屈.右に軽度動揺(+).

〇〇年〇〇月〇〇日:屋外歩行(約100m)開始.軽介助.約50m休憩.体幹動揺なく歩行可能.

 

ADL-ex

〇〇年〇〇月〇〇日:洗面台で整容動作.洗面台の端に寄りかかり安定させる.うがいや洗顔で体幹軽度屈曲(20°前後).端に寄りかからなくとも歯磨きは可能.動揺(-).

〇〇年〇〇月〇〇日:

①引き出し練習.リーチ動作可能,2㎏を台に乗せても可能.体幹動揺(-).

②冷蔵庫の開け閉め.上段から下段まで引き出し可能.体幹屈曲,膝関節軽度屈曲で物を取る.足部移動なし.

③ドアの開閉.ドアよりやや後方に立ち上肢の動きで開く.開くときも同様.体幹動揺(-).

〇〇年〇〇月〇〇日:自宅の玄関を考慮し階段昇降(17㎝)のプログラム追加.昇る時は右足,降りる時は左足から.右側の手すりのみ使用.昇る時に足がもつれそうになり転倒の危険性あり.

〇〇年〇〇月〇〇日:

①冷蔵庫からのお椀の取り出し.ドア開閉のときに後方ステップ動揺なく可能.方向転換動揺(-).お椀に水が入っていてもこぼさず運ぶことが可能.

②手すり無しでのトイレ動作(ズボン着脱).動揺なく可能.体幹前傾,股関節屈曲,膝関節屈曲させ膝程度の高さからズボンを上げることも可能.

 

○治療介入によって変化したこと
【できるようになったこと(向上した能力)】

<impairmentレベル>

・下肢,体幹筋力の向上(特に右下肢):左右差がなくなってきている

・膝関節,足関節のROM改善

・平衡反応,ステップ反応の出現増加

<disabilityレベル>

・車椅子生活からT-cane歩行の獲得(入所前のADLに戻りつつある)

・独歩,伝え歩きの動作獲得

・安定した立位(閉脚・閉眼時も)

・手すりや杖,左上肢を用いながら制御しての立ち座り(ゆっくり座ることで腰部への負担,後方への転倒のリスク軽減)

・階段昇降が可能(左右の手すり付き,昇りのほうから見て右側にある手すり付き階段で17㎝の高さ)

・ドアの開閉(引き戸)

・整容動作(洗顔・歯磨き)

・手すり無しでのトイレ動作(ズボンの着脱:膝くらいまでの高さ)

・冷蔵庫の開閉とお椀(水入り)の運搬可能

 

【残っている問題点】

<impairmentレベル>

・下肢筋力(特に中殿筋)と体幹筋の筋力低下(もう少し向上が必要)

・足関節ROMの制限(外がえし)

・平衡反応とステップ反応が出てきたが,2-3歩出てしまった時のつまずき

・振り向きや右腕が欠損のため保護伸展反応がなく,右への動揺により転倒する可能性が高い

<disabilityレベル>

・年齢的に高齢なため体力的に今後低下していくことが予測される

・体力低下により転倒のリスクが増加する可能性あり

・杖の使い方,またぎ動作の方法を指導しても忘れてしまう.活動量低下により認知機能の低下が進んでしまう可能性あり

<handicapレベル>

・ベッドの高さや枕の位置,部屋にあるものの整理(つまずきの原因となる)

・日中は誰も自宅におらず,一人きりになってしまうため,社会的交流が少なくなる.結果として寝たきりや活動性低下により体力が低下してしまう

・ご飯は家族が作ってくれる.それをレンジで温めるため,熱いものを持つことができるかどうか,レンジを開く動作は可能か判断できない

・屋外歩行可能だが,対向車を避けたり,傾斜がある道路ではバランスを崩すことがある

・自宅に帰りたいが,家族に迷惑をかけられない.少し遠慮している.帰るならしっかり歩けるようになってから帰りたいと訴えている

 

【今後の生活を含めた提案】

・デイケアによる外出と社会的交流の促進,ならびに体力・機能維持の継続

・趣味を作りだす(問診によって興味を与える)

・町内会などの行事の参加(社会的交流の促進).そのためには家族の協力も必要

・部屋の整理整頓,家族がいる時はなるべく家族団らん,部屋も家族が居るところに近づける

 

Ⅷ.考察

当症例は一過性脳虚血発作により下肢筋力低下が出現したが,麻痺がほとんどなく神経症状も認められない.一方で,RAを罹患しており,右腕も欠損しているため整形外科領域に近い症例であり,右下肢脱力の診断でアプローチを行った.また〇〇月中旬に在宅復帰の方向で話が進んでおり,それを見据えたアプローチが必要となってくる症例である.

初期評価での問題点としては①下肢・体幹筋の筋力低下,②右上肢切断,③右肩関節周囲筋の筋硬結,④平衡・姿勢調節機能低下,⑤ROM制限,⑥認知機能低下が挙げられた.座位姿勢は安定しているものの立位や振り向き,物を取るといった動的立位,歩行においての安定性に欠けていた.これは下肢・体幹筋力の低下により身体の安定を保つことが困難なこと,平衡機能や姿勢を調節する能力が低下してきたこと,右肩関節周囲筋の筋硬結によりアライメント不良を起こしていること,下肢のROM制限が要因となっていると考えた.バランスにおいては加齢や一過性脳虚血発作に伴う筋力低下が背景にあると考えた.また足関節のROM制限のために外乱刺激を加えバランスを崩した時に足関節ストラテジーが十分に活用できていないことも要因と考えられた.その他にもステップ反応や平衡反応の低下,右上肢切断による保護伸展反応の欠如,筋のアンバランスが少なからず影響を及ぼしているものと考えた.このような機能障害により転倒やADL障害を引き起こすものと考えた.

 ここからは初期評価で挙がった問題点を踏まえて治療介入を行った結果,どのように変化したかを述べていく.当症例はバランスを崩し転倒の危険性があるため車椅子の生活をしていた.渡辺1)は高齢者転倒の疫学を調査し,ほとんどの方に下肢筋力低下があったことを報告している.その他,山田2)によると高齢者のバランス能力低下には足関節のROM制限により足関節ストラテジーで維持する比率が減少することで姿勢制御機能が低下し転倒が起きると報告している.そのような報告を加味しバランスや筋力向上,ROM運動のアプローチを行った.その結果,機能面においては下肢・体幹筋力の向上したこと,膝・足関節のROMが改善されてきたこと,平衡反応やステップ反応の出現が見られるようになってきたことが成果として挙げられる.筋力に関しては初期と比較すると左右差がなくなってきている.藤澤3)は下肢・体幹筋の筋力向上により転倒の危険性は軽減することを報告している.今回のケースにおいても初期と比較すると急激な上昇はないものの,下肢筋力が向上している.また膝・足関節のROM制限を取り除いたことで足関節の動きが拡大され,ストラテジーが活用できるようになったものと考える.加えて,大きくバランスを崩した時に平衡反応やステップ反応が出現するようになったことで姿勢制御機能の向上や転倒のリスクの軽減につながる.これらの機能が改善されてきたことにより転倒のリスクが軽減され,安定した立位保持,姿勢制御が可能になってきたものと考える.

歩行や日常生活は外乱刺激や重心移動などでバランスを崩したり,移動させながら生活をする.バランス能力が向上したことにより今まで転倒の危険性があるために車椅子生活を行っていたがT-cane歩行へと移行することが可能になった.その他にも独歩,伝え歩き,手すり付きで17㎝の階段昇降の動作獲得にもつながったと考える.また安定した立位が得られたことにより整容動作(洗顔・歯磨き),ドアの開閉,手すり無しでのズボンの着脱,冷蔵庫の開閉と物の運搬が可能になったものと考える.特に洗顔動作では目を閉じての立位もある.FBSにおける閉眼立位は安定して可能であったことからも行えるものと考える.しかしもしものことを考え,洗面台の端に寄りかかるといった安全策も指導した.立ち上がりや着座においては筋力向上が影響し,手すりや杖,左上肢を用いながら制御しての動作であるがゆっくり座ることで腰部への負担,後方への転倒のリスク軽減することができたものと考える.

 一方で治療介入を行ったが解決されていない問題点もある.機能面では一つ目として下肢筋力と体幹筋力のさらなる向上である.下肢筋力では中殿筋が特に強化が必要である.筋力が向上しているとは言え,確実な安定が得られたとは言い難い.動作においても片脚立位が壁に触れながらではないと困難なことが挙げられる.これは日常生活において物や地面にスペースがありまたぐ時に片脚になる機会がある.そのような場面に遭遇すると片脚立位が困難なことからも触れるものがない場合,最悪転倒につながってしまうことが考えられる.歩行においては中殿筋の筋力低下により出現するTrendelenburg signの代償動作であるDuchennne歩行が出現していることが挙げられる.Trendelenburg signが著明に出ているわけではないが中殿筋の筋力低下は否めない.Duchennne歩行が出現することにより体幹の動揺が増え,転倒のリスクも増加してしまうことが考えられる.

二つ目は足関節ROMの制限である.渡辺4)らは60-80歳未満の健康人の可動域について足関節は平均背屈21°であると報告している.当症例は80歳代と対象から外れてはいるものの年齢が近いことからもこの数値を考慮する必要があると考える.筋の柔軟性や浮腫によりROM制限が認められていたが,end feelが筋性のもののため,さらなる向上が望めると考える.ROMが改善することにより姿勢制御機能がより向上するものと考える.

三つ目は平衡反応とステップ反応についてである.反応は出てきたが,強い外乱刺激を与えた時に2-3歩のステップが出てしまうことがある.初期ではステップ動作が出現しなかったため,出現するようになったことはひとつの成果である.しかしステップが何歩も出てしまうことで,その間につまずきや加速がついて転倒の危険性も考えられる.また右腕が欠損のため保護伸展反応がなく,右への動揺により転倒する可能性が高いことも考えられる.

 これらを改善するために今後も積極的な介入は必要であるが,在宅復帰によって現在の運動量を維持することは難しくなるものと考えられる.年齢的にも高齢なため体力的に今後低下していくことが予測される.そこで体力低下により転倒のリスクが増加する可能性も考えられる.在宅では日中は誰もおらず,一人きりになってしまうため,社会的交流が少なくなる.現在入所時でも寝ていることが多く,在宅では,なお寝ていることが多くなり結果として寝たきりや活動性低下により体力が低下してしまう.活動量低下により認知機能の低下にも影響を与える可能性が考えられる.また現在は屋外歩行可能だが軽介助が必要であり,今の段階でも対向車を避けたり,傾斜がある道路ではバランスを崩すことがあるため,体力低下が進むと難しくなるものと考える.

本人は「自宅に帰りたいが,家族に迷惑をかけられない」と少し遠慮しており,「帰るならしっかり歩けるようになってから帰りたい」と訴えている.そのため体力維持の環境設定は必要となってくる.

今後の生活を含めた提案としては在宅復帰後もデイケアによる外出と社会的交流の促進,ならびに体力・機能維持の継続をしていくことが必要であると考える.しかし,デイケアを毎日利用するのは経済的にも厳しい面がある.そのため町内会などの行事の参加によって社会的交流の促進し,閉じこもり生活から脱却する必要がある.そのためには家族の協力が必要となってくる.また自宅において一人でもできる趣味を作りだすことで活動量や役割を見出すことができるものと考える.これは問診によって聞き出す必要がある.その他にもベッドの高さや枕の位置,つまずきの原因となるため居室の整理整頓,家族がいる時はなるべく家族団らんを行い,居室も家族が居るところに近づけるべきと考える.一方で特別養護老人ホームへの入所や身体障害者手帳取得の申請を検討していく必要があると考える.

 機能面の維持や改善に留まらず,在宅復帰に向けた環境整備や協力体制も並行して行う必要があるのが今後の課題となる.

 

Ⅸ.おわりに

80歳代と高齢でありバランス能力低下,右腕欠損による筋硬結やアライメント不良によりADL障害が起きているものと考えられた.これらに対し,バランス練習,筋力増強練習,歩行練習,アライメント矯正といったアプローチを行いつつ,機能面だけでなく自宅復帰といった面も考慮しながらアプローチを行った結果,下肢・体幹筋力の向上,ROM改善,バランス能力が向上した.しかし,年齢や体力面,環境からも今後在宅に向けて整備や機能維持が課題となってくる.

学生という立場であり評価手順や技術,知識等に関してまだまだ未熟なところが多々あり痛切さを感じている.最後になりましたが,今回担当させていただいた患者様,ご家族,またご多忙の中ご指導して下さったスタッフの先生方に大変深く感謝申し上げます.

 

Ⅹ.参考・引用文献

1)渡辺丈眞:高齢者転倒の疫学.理学療法,18(9),pp841-846,2001

2)山田拓実:高齢者の平衡機能と運動療法.PTジャーナル,41(1),pp25-33,2007

3)藤澤宏幸:バランス障害の改善.総合リハ,33(7),pp621-626,2005

4)渡辺英夫 他:健康日本人における四肢関節可動域について.日整会誌,53,275-291,1979

 

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疾患名
特徴
脳血管疾患

脳梗塞

高次脳機能障害 / 半側空間無視 / 重度片麻痺 / 失語症 / 脳梗塞(延髄)+片麻痺 / 脳梗塞(内包)+片麻痺 / 発語失行 / 脳梗塞(多発性)+片麻痺 / 脳梗塞(基底核)+片麻痺 / 内頸動脈閉塞 / 一過性脳虚血発作(TIA) / 脳梗塞後遺症(数年経過) / トイレ自立を目標 / 自宅復帰を目標 / 歩行獲得を目標 / 施設入所中

脳出血片麻痺① / 片麻痺② / 片麻痺③ / 失語症 / 移乗介助量軽減を目標

くも膜下出血

片麻痺 / 認知症 / 職場復帰を目標

整形疾患変形性股関節症(置換術) / 股関節症(THA)膝関節症(保存療法) / 膝関節症(TKA) / THA+TKA同時施行
骨折大腿骨頸部骨折(鎖骨骨折合併) / 大腿骨頸部骨折(CHS) / 大腿骨頸部骨折(CCS) / 大腿骨転子部骨折(ORIF) / 大腿骨骨幹部骨折 / 上腕骨外科頸骨折 / 脛骨腓骨開放骨折 / 腰椎圧迫骨折 / 脛骨腓骨遠位端骨折
リウマチ強い痛み / TKA施行 
脊椎・脊髄

頚椎症性脊髄症 / 椎間板ヘルニア(すべり症) / 腰部脊柱管狭窄症 / 脊髄カリエス / 変形性頚椎症 / 中心性頸髄損傷 / 頸髄症

その他大腿骨頭壊死(THA) / 股関節の痛み(THA) / 関節可動域制限(TKA) / 肩関節拘縮 / 膝前十字靭帯損傷
認知症アルツハイマー
精神疾患うつ病 / 統合失調症① / 統合失調症②
内科・循環器科慢性腎不全 / 腎不全 / 間質性肺炎 / 糖尿病 / 肺気腫
難病疾患パーキンソン病 / 薬剤性パーキンソン病 / 脊髄小脳変性症 / 全身性エリテマトーデス / 原因不明の歩行困難
小児疾患脳性麻痺① / 脳性麻痺② / 低酸素性虚血性脳症
種々の疾患が合併大腿骨頸部骨折+脳梗塞一過性脳虚血発作(TIA)+関節リウマチ

-書き方, 脳血管疾患, 整形疾患, 施設(老健など), レポート・レジュメ