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【腰部脊柱管狭窄症】レポート・レジュメの作成例【実習】

2022年1月3日

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・看護師を目指す学生に向けた、レポート・レジュメの作成例シリーズ。

今回は、「腰部脊柱管狭窄症」の患者のレポート・レジュメです。

実習生にとって、レポート・レジュメの作成は必須です。

しかし、書き方が分からずに寝る時間がほとんどない…という人も少なくありません。

当サイトでは、数多くの作成例を紹介しています。

紹介している作成例は、すべて実際に「優」の評価をもらったレポート・レジュメを参考にしています(実在する患者のレポート・レジュメではありません)。

作成例を参考にして、ぜひ「より楽に」実習生活を乗り切ってください!

 

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今回ご紹介するレポートの患者想定

 

今回ご紹介する患者想定

  • 病院に入院中
  • 腰部脊柱管狭窄症の患者

  • 排泄機能障害を呈する

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「腰部脊柱管狭窄症」の患者のレポート・レジュメ作成例

Ⅰ. はじめに

〇〇年〇〇月〇〇日に腰部脊柱管狭窄症による下肢筋力低下や排尿・排便障害をきたし、〇〇年〇〇月〇〇日よりADL能力向上と社会的交流の場として居宅サービスを利用している事例を担当させていただく機会を得た。通所・訪問リハにおいて理学療法士の専門性を理解し、積極的に働きかけることの重要さを学んだ。これまでの経過として自宅での家屋改修も行ってきており、自宅移動はつたい歩行で可能なレベルであるが、立ち上がり時に不安定な場面が見られ、妻が日中いない時間帯ではトイレの失敗経験もあるなど、日常生活で見守りや介助がいまだ必要な状況である。本人は居宅サービス利用時や食事の時以外はベッド上臥床しており、活動量が低い。1日の生活での活動量を今後どう増やすかが本事例のポイントであると考え、考察を加えた。以下に報告する。

 

Ⅱ. 事例紹介

【一般的情報】

<年齢>80歳代

<性別>男性

<身長>cm

<体重>kg

<BMI>19.1

<趣味>なし 

<職業>元新聞記者

<介護保険>要介護3

<Key person>妻

<障害高齢者の日常生活自立度>B2  

<認知症高齢者の日常生活自立度>Ⅰ   

<Need>端座位からの立ち上がり動作自立、1本杖歩行の安定化  

<本人Hope>近くのスーパーまで買い物に行きたい、屋内での動作をもう少しスムーズに行いたい。  

<家族Hope>おいしいものを食べに連れて行ってあげたい、自宅でお風呂に入れてあげたい。

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【医学的情報】

<診断名>

#1腰部脊柱管狭窄症(L2~L5)

<既往歴及び受傷前生活>

#2右耳下腺腫瘍(ope済) #3前立腺肥大(内服加療中) #4一過性脳虚血発作(内服加療中) #5高血圧(内服加療中)

<現病歴>

〇〇年〇〇月〇〇日 突然立ち上がり困難、尿・便失禁認め、近医往診。尿カテーテル挿入。便意はなく失禁あり。

〇〇年〇〇月〇〇日 #1診断

<経過>

〇〇年〇〇月〇〇日 市内の病院に入院

〇〇年〇〇月〇〇日 保存療法にてPT介入開始

〇〇年〇〇月〇〇日 自宅退院。転倒したことでその後熱発あり。臥床したことで体力低下をきたす。

〇〇年〇〇月〇〇日 2回/週のPTによる訪問リハ開始。訪問開始時には起居もやっと可能なレベルであったが、数日で回復が徐々に見られる。歩行に対する恐怖感強く、食事、排泄はベッド上にて行っていた。排尿・排便困難に対しては尿道カテーテルとオムツで対応。PTはベッド上での筋力増強エクササイズ、介助バー使用しての立位練習を実施してきた。

〇〇年〇〇月〇〇日 食事をリビングで摂取することやトイレまで移動して生活させることを目的として1回目の住宅改修を実施(室内・トイレに手すり設置)。

〇〇年〇〇月〇〇日 徐々に身体機能の改善が見られ、訪問リハを1回/週に頻度減、1回/週の通所リハ開始。

〇〇年〇〇月〇〇日 尿カテーテルの管理を目的として新たに1回/週の訪問看護開始。徐々に尿意・便意ともに生じてきたため主治医の判断により6/24にバルーン除去。

〇〇年〇〇月〇〇日 自宅で入浴できることを目的として2回目の住宅改修を実施(浴室に手すりを設置)。

〇〇年〇〇月〇〇日 訪問看護を利用して自宅で入浴開始。

 

<投薬情報>

・バイアスピリン(抗血小板薬) ・カルブロック(Ca拮抗薬)  ・ビタメジン(ビタミン製剤)    ・リマルモン(血管拡張薬)

 

【社会的情報】

<家族構成>妻と二人暮らし。三人の子供がいる。

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<家屋構造>

・スロープ、エレベータ付きマンションの7階。

・屋内段差は、あがりかまちは10cm、浴室に入る箇所には28cm。リビングの動線上にカーペットあり。

・浴室には高さ44cmの浴室内椅子があり、浴槽の高さは55cm。

・屋内の手すりは介護保険を利用して住宅改修を行って設置したものである。

・ベッドは電動式のため高さの調節が可能、ベッド柵あり。

・トイレは洋式であり、便座の高さは40cm。

 

<自宅周辺環境>

・自宅前の道路はバス通りとなり、交通量が多い。

・歩道はガードレールがなく、車道とつながっている。

・近所のスーパーに行く際には坂道があり、距離は200m前後である。比較的近くに公園がある。

<ご本人の1日の生活>

・ベッド上臥床してテレビを見ていることが多いが、徐々に離床時間が増えてきている。現在は離床するのは食事の際にリビングに行くことや、トイレ時のみである。

・通所リハの送迎には車椅子を利用している。

・自宅では常に裸足で過ごしている。

 <ケアプランの方針>

本人の意思を尊重し、安全かつ快適な自宅での生活が続けられるよう支援する。今後の変化に対応していけるよう病院や家族と連携を行う。

<現在使用中サービスとその目的>

□訪問看護→入浴備品の導入により自宅で入浴できるようにする

□訪問リハビリテーション→移動・歩行訓練、歩行補助具の活用と環境の改善

□通所リハビリテーション→他者との交流、心身への負担が少なく、不安の少ない方法での入浴

□住宅改修費の支給→環境整備により安全に移動ができ外出の機会を増やす

□福祉用具貸与(車椅子、電動式ベッド、歩行車、浴室内椅子)→転倒リスクを少なくする                        

 

Ⅲ. 理学療法評価

A. 全体像

 日中は椅子座位をとっており、他の利用者との会話をしている姿は少ない。頑固な部分があり、妻に介助してもらうことをあまり好まない様子。会話や行動を見る限りでは認知機能の低下は見られない。屋外での状況判断能力は良好であり、自分の身体機能に応じて危険をある程度予想できる。

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B. 関節可動域・筋力

(*n.p:特記事項なし) 

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C. 表在感覚・深部腱反射

<表在感覚>

・触覚検査のスクリーニングにて特記事項なし。

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<深部腱反射>

・背臥位での膝蓋腱反射、アキレス腱反射ともに(-)

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D. 立位バランス能力

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E. 起居動作

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F. 歩行・応用動作

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G. 日常生活動作(Activity of daily living:ADL)

<FIM(functional independence measure)得点>

113/126点(運動機能:78/91点 認知機能35/35点) 

・減点項目

①セルフケア(上・下半身更衣、トイレ動作) ②排泄コントロール(排尿、排便) ③移乗(ベッド・椅子、トイレ、浴槽) ④移動(歩行、階段)

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Ⅳ. 統合と解釈及び問題点の抽出

ICF(International Classification of Functioning,Disability and Health)に基づいた問題点の整理

〇〇年〇〇月〇〇日に腰部脊柱管狭窄症による下肢筋力低下、排尿・排便障害を呈し、市内の病院でのリハ後、〇〇年〇〇月〇〇日介護保険による居宅サービスを利用し始めた80歳代の男性である。サービス利用開始当初は食事をベッド上で行い、排泄も尿カテーテルやオムツを利用するなど、ベッド上での生活が主であった。徐々に身体機能や排尿・排便機能の向上が見られている。福祉用具貸与や手すり設置などの住宅改修も同時に進行することで現在ではリビングやトイレまでの移動はつたい歩きで可能、尿カテーテルやオムツも使用せず、リハビリパンツを使用して生活している。しかし、現在でも椅子からの立ち上がりや1本杖歩行は見守りレベルであり、トイレ動作に失敗が見られることもある。特に妻が日中不在の時間帯での転倒リスクやトイレ動作の失敗が懸念されるところであり、ご本人も「屋内での動作をもう少しスムーズに行いたい」と希望されている。

現在のケアプランの基本方針はご本人の意思を尊重して自宅での安全かつ快適な生活を支援することであり、身体機能の維持・向上や社会的交流の場として通所リハや訪問リハを週1回ずつ導入し、自宅での入浴希望に対しては週1回の訪問看護を実施している状況である。PTとしては通所リハで20分、訪問リハ30分と、一週間で計50分間の介入をしており、訪問リハにおいては天候に合わせて屋外歩行も積極的に実施している。

しかし、ご本人の1日の生活の多くはベッド上臥床であり、離床するのは食事の際とトイレ時のみである。趣味活動も行っていないために、通所・訪問サービスがない火・水・土・日の週4日は活動量が低い。そのため、身体機能の維持・向上がなされにくく、日差変動もある状況である。通所サービス利用時においても、全身持久力が低下しているために入浴とリハの時間帯は午前と午後で分けなければならない状況となっている。

歩行時には常時円背・骨盤後傾位で後方重心の構えから下肢を持ち上げるようにして振り出すが、股関節に対して常に外部からの伸展モーメントが加わるために腸腰筋が優位となり、大殿筋などの股関節伸展筋の筋収縮が生じにくい。この歩行の連続がより屈曲位での姿勢を強めてしまい、体幹や股関節伸展筋の筋力低下が生じるという悪循環に陥っていると考える。特に左立脚期において股関節外転位での荷重となり、体幹の立ち直りを伴った重心の移動が見られない。これは中殿筋の筋力低下の影響が大きいと考えられる。また、左遊脚期にtoe clearanceが不良であることも特徴であり、特に家屋内での動線上にカーペットがあり、そのわずかな段差に足先が引っかかる可能性がある。腰部脊柱管狭窄症の影響により左L5レベルのキーマッスル、特に前脛骨筋の筋力低下が大きく影響していると考えられる。本症例は排尿障害もあることから、尿意を感じてからトイレに移動する際に多少の焦りがあることも想定して、toe clearanceを今後改善する必要があると考える。

 立ち上がり動作に関しては、端座位姿勢が常に脊柱後彎、骨盤後傾位であり、立ち上がり時に重心の前方偏位が不足してしまうために、上肢による支持が必要になっていると考える。腰部脊柱管狭窄があるために脊柱管を拡大する意味で腰椎の後彎は改善する必要はないが、過度な脊柱の後彎や骨盤後傾位を改善することは立ち上がり動作の安定化に結びつくと考えられる。 

 

Ⅴ. ゴール設定

STG(2W後)

LTG(3M後)

①1日の生活の中でリビングにいる時間を増加させ、ベッド上臥床の時間を減少する。

②通所リハの送迎時に自宅マンションの1階~7階まで見守り下で杖を使用して移動できる。

③支持物があれば椅子からの立ち上がり動作を自立して行うことができる。

④入浴用福祉用具の活用と妻の介助があれば自宅で入浴できる。

①屋外用歩行器を使用して妻とともに近場のスーパー、公園に行くことができる。

②日中妻がいない時間帯でも自宅でのトイレ動作を失敗なく行うことができる。

③家庭内で何らかの役割を見つけることができる(留守番をする、電話に出る)。

Ⅵ. 治療プログラム

<通所リハ(毎週月曜日)>

①左下腿三頭筋のストレッチ 30秒保持×3セット

②左前脛骨筋の自動介助による筋力増強ex 10回×2セット

③MMT肢位で中殿筋の筋力増強ex 10回×2セット

④片側ブリッジ(膝屈曲70度)で6秒保持×10回

⑤両手に支持物ありでプラットホームからの立ち上がり×10回

⑥平行棒内での応用歩行(横歩き×2往復、段差昇降×2往復)

⑦自転車エルゴメータ(25W×10分)、⑧乗馬運動器×5分

 

<訪問リハ(毎週木曜日)>

①手すりを用いて左下腿三頭筋の自主ストレッチ30秒保持×3セット

②手すりを用いて立位での中殿筋の筋力増強ex 10回×3セット

③手すりを用いて床からの立ち上がり×3回

④屋外用歩行器を使用して公園への散歩、近所のスーパーへの買い物

⑤階段昇降5段×2往復

 

Ⅶ. 考察

 本症例の一番の問題点は1日の生活における活動量が低下していることであると考える。自分の考えに沿わないことに関しては自発的に動かないというキャラクターを有しており、この性格と、動作時の易疲労性が重なり、自宅内での活動量低下に結びついていると考える。活動量の低下は生活範囲を狭小化させることになり、特に家庭内での役割が欠如しているご本人にとって、自宅での生活だけでなく、近場でも良いから外出することが生活の質の改善に結びつくと考える。ご本人の口からも以前「散歩したい」との発言があり、自宅のマンションから200m程度離れた場所にスーパーや公園があり、そこまでの道のりに大きな段差がないことから本人のHope達成は可能な範囲であると判断する。

そのHope達成を現実的にするためには、動作時の疲労の原因になっていると考えられる体幹・下肢の筋力低下と全身持久力の低下を改善するとともに、まずは訪問リハの機会を利用して外出の機会を設けることが必要であると考える。妻のマンパワーを利用することも可能であるが、妻の介助量軽減を考えると、現段階で日常的に散歩に付き添うことは現実的でないと考える。ご本人の話によると以前外出した際に転倒を1度起こして、その際に臥床による体力低下が生じている。最近でも自宅内で足が滑って転倒しかける場面があり、仮に後方に殿部を打つようにして転倒した場合には脊柱圧迫骨折だけでなく、腰部脊柱管狭窄症のために脊髄や脊髄神経根を損傷する可能性があり、寝たきり防止のために転倒リスクは最小限にしなければならない。そのため、ご本人の意思を尊重して自宅での安全かつ快適な生活を支援するというチーム全体の方針の中で現段階のPT側の方針としては散歩などの外出の機会は訪問リハ時のみとし、訪問・通所リハを現状のまま継続することで身体機能の向上を図るべきであると考える。そして屋内での生活が見守りではなく自立レベルに向上してきたら徐々に屋外への外出へ妻が付き添う形にする方向が転倒のリスク管理、さらに介助量の軽減による妻の生活の質の向上にも結びつくと考える。屋内での動作が自立し、屋外へ妻の見守り下で散歩が可能となれば、訪問リハを停止し、通所リハを週2回にすることで、社会的交流の増大、妻の介助量の軽減を図ることが望ましいと考える。村田ら1)は、後期高齢者は前期高齢者と比較し特に立位バランスや下肢筋力の弱化が著明に現れ、転倒リスクの高さが伺えると報告している。本事例においてもその特徴に類似しているため、評価結果も踏まえ、まずは中殿筋や前脛骨筋を中心とした下肢の抗重力筋の筋力増強や支持基底面内で重心を随意的に動かす能力の向上を基本方針としていくべきだと考える。

治療プログラムの具体的な項目内容としては通所リハにおいては生活動作に直結しないエクササイズも多く取り入れた。この背景には、純粋に運動への関心を高め、達成感も得られやすいのでないかという考えがある。特に自転車エルゴメータの使用により全身持久力の向上が見込まれる上、走行距離、消費カロリー、歩数などが数値として表示されるため、経時的にその変化がご本人にも分かるという点でポイントであると考える。ただ、本事例の最終的な目標としては生活における活動量の増大やパフォーマンスの向上であるため、特に本症例において現在見守りレベルである立ち上がり動作や歩行をメニューに加えることで、動作そのものを練習することも必要であると考える。錘垂を用いた筋力増強よりもブリッジなどの自重を用いた筋力増強を取り入れた理由としては、大きなスペースをとらず、ホームエクササイズに向いていることや、パフォーマンス向上の効果が大きいとされているためである2)。市橋ら3)は健常男性12名(平均年齢:26.1±5.4歳)を対象に各種ブリッジ動作中の股関節周囲筋の筋活動量と各筋のMMT3の筋活動量を比較した結果、片脚ブリッジを等尺性収縮で3秒間保持すると大殿筋、中殿筋、大腿筋膜張筋においてMMT3よりも大きな筋活動を示すと報告している。本症例において大殿筋や中殿筋の筋力はMMTで3前後であるため、片脚ブリッジは筋力増強エクササイズとして有効であると判断した。さらに、健常男性16名(平均年齢20.2±1.6歳)を対象としてブリッジ動作1回あたりの時間、また膝関節の屈曲角度の違いによる筋活動を測定した橋本らの報告4)によると、時間3秒と6秒では、6秒の方が大殿筋を含む筋活動は有意に増大し、膝屈曲角度70度で高い値を示すという。今回は上記の両者の報告を考慮し、片脚ブリッジで6秒間保持することがより大殿筋、さらには脊柱起立筋の活動量を増大させると考え、治療プログラムとして取り入れた。

また左股関節内転位での荷重ができないことが支持基底面内での重心移動能力の低下や左片脚立位バランス困難につながり、歩行の左立脚期での不安定性を形成していると考えるため、まずは弱化している中殿筋の収縮を臥位で促すことで筋力を向上させていくことが必要だと考える。足関節の背屈制限も椅子からの立ち上がり時に重心の前方偏位を制限し、自立を妨げている可能性があるため、特に左足関節の背屈可動域制限になっていると考えられる下腿三頭筋の短縮を徒手的にストレッチしていくとともに前脛骨筋の収縮を促すことが必要であると考える。これはtoe clearanceを改善させ、歩行時の転倒リスク軽減にも結びつくと考える。

 一方、訪問リハにおいては自宅での運動スペースを考え、椅子や手すりがあれば簡易的に行える立ち上がり動作やストレッチ、筋力増強エクササイズを取り入れた。加えて見守りレベルでも屋外用歩行器での屋外歩行の機会を設けたが、これによって身体機能の向上による屋内動作の安定化を図るだけでなく、現在自分が屋外でどれほど活動できるだけの身体能力を有しているのかを本人自身に理解してもらう。また、居宅サービスがない日における活動量の増大を達成するには、現在の本人の機能レベルから考えると妻の協力が必須であり、妻の介助能力でも見守りで屋外歩行可能かどうかを判断する重要な材料にもなる。屋外平地歩行は現在、1本杖使用で見守りレベルであるが、自宅のマンションから歩道に出る際や近所のスーパーに行く際には坂道があるということを考慮すると、常時後方重心となっている動作パターンや左のtoe clearanceが低下しているご本人の歩行能力では転倒リスクがあり、妻の介助量軽減のためにも屋外用歩行器の使用が望ましいと考える。屋外用歩行器を使用することで杖歩行よりも支持基底面を広げ、かつ上肢の支持によって重心を前方偏位移動させることでより安定した歩行を獲得できると考える。ご本人の全身持久力の低下を考慮して途中で休憩することができる屋外用歩行器の使用はご本人の行動範囲を最も拡大できる歩行補助具であると考える。自宅周囲の道路環境としてガードレールがない歩道であり、横幅が狭く、交通量も多いことから危険性を考慮して、屋外用歩行器の種類としては左右への動揺を抑えられる後輪固定タイプが望ましいと考える。現在介護保険を利用してレンタルしているものは後輪固定タイプであるため、今後も継続して同様のタイプの屋外用歩行器を借りてもらう方針である。

 自宅内の環境に関しては住宅改修によって手すりを設置し、屋内はつたい歩きで可能であるため、現状維持で良いと考える。ただ、寺門ら5)の調査によると、訪問看護ステーションを利用している高齢者(年齢68.4±9.9歳、男性14名、女性5名)を対象としてサービス提供時間外の転倒・転落の発生状況を調査したが、転倒・転落する割合は全体の58%に及ぶとしている。その内容としては、転倒リスクが高い浴室や段差のある場所での転倒件数がほとんどなく、自室以外の居間・廊下の立位での応用動作での転倒・転落が多いとされている5)。このことから、本事例においても特にリビングの動線上にあるカーペットのわずかな段差に対しても注意を払い、移動する際には手すりもしくは椅子を必ず支持するようにご本人及び妻に説明を加えることがリスク管理につながると考える。身体機能の向上だけでなく、ご本人が自分自身でリスク管理を行えるようになることが屋内生活の自立度の向上に結びつき、妻の介助量軽減により妻の生活の質も高めることになると考える。

 現段階では福祉用具貸与や住宅改修は済んでおり、活動量の増大に向けた具体的なプランとしては、テレビをベッド上で見るのではなく、伝い歩きでリビングまで来てそこでテレビを見るよう提案することを考えた。また、通所リハの送迎は現在車椅子で行っているが、ケアスタッフがいればその送迎を見守りレベルの杖歩行で行ってもらうことで、目的を持った状態で屋外への外出の機会を増やすことができる。家庭内役割が欠如していることに関しては、留守番や電話に出ることをご本人の新しい役割としてまずは提案することを考えた。リビングでの家事動作の手伝いなどはご本人の性格に沿わず、現実的でないと考える。

本事例における訪問リハでの理学療法士としての専門性は、適切な住宅改修や福祉用具貸与に関与することで日中の活動量の増大を図る点や、下肢筋力や重心移動能力を中心とした身体機能の経時的変化を追い、転倒リスクが少ない形で妻と一緒に屋外歩行に行けるだけの能力があるかどうか判断する点、さらに本人の転倒に対する自己管理能力を高めるためのアドバイスを行う点の3点にあると考える。

 

Ⅷ. おわりに

 本事例の鍵となる人物は妻であり、ご本人や妻の希望、ご本人の身体機能や妻の介助能力を総合的に考えることの大切さを学ぶことができた。特に屋外歩行に関して妻のマンパワーを現時点で利用するべきかという点が焦点となり、チーム内で情報交換を積極的に行い、理学療法士として様々な視点からご本人や妻に提案することが生活をよりよいものにするために必須であることを理解した。自分の視点としてまだまだ不足している部分はあるが、生活場面を見ながら具体的な問題点に対してアプローチしていくというプロセスを学び、今回はその一部にわずかながら貢献できたのではないかと考える。

 

Ⅸ. 謝辞

 今回はこのような大変貴重な体験をさせていただき、誠にありがとうございました。実習にご協力して下さった利用者様やそのご家族、指導をして下さった先生方に心より感謝申し上げます。

 

~引用文献~

1)村田伸・大山美智江・他:地域在住高齢者の身体・認知・心理機能に関する研究.第11回日本在宅ケア学会学術集会講演集:143,2007.

2)対馬栄輝:自重による筋力増強.理学療法24(7):923-931,2007.

3)市橋則明・池添冬芽・他:各種ブリッジ動作中の股関節周囲筋の筋活動量―MMT3との比較―.理学療法化学13(2):79-83,1998.

4)橋本淳一・李相潤:在宅における効率的なブリッジ運動方法について. 第11回日本在宅ケア学会学術集会講演集:72,2007.

5))寺門敦子・吉田路子・他:訪問サービス提供時間外における自宅での転倒・転落の状況について.第27回関東甲信越ブロック理学療法士学会抄録集:74,2008.

 

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疾患名
特徴
脳血管疾患

脳梗塞

高次脳機能障害 / 半側空間無視 / 重度片麻痺 / 失語症 / 脳梗塞(延髄)+片麻痺 / 脳梗塞(内包)+片麻痺 / 発語失行 / 脳梗塞(多発性)+片麻痺 / 脳梗塞(基底核)+片麻痺 / 内頸動脈閉塞 / 一過性脳虚血発作(TIA) / 脳梗塞後遺症(数年経過) / トイレ自立を目標 / 自宅復帰を目標 / 歩行獲得を目標 / 施設入所中

脳出血片麻痺① / 片麻痺② / 片麻痺③ / 失語症 / 移乗介助量軽減を目標

くも膜下出血

片麻痺 / 認知症 / 職場復帰を目標

整形疾患変形性股関節症(置換術) / 股関節症(THA)膝関節症(保存療法) / 膝関節症(TKA) / THA+TKA同時施行
骨折大腿骨頸部骨折(鎖骨骨折合併) / 大腿骨頸部骨折(CHS) / 大腿骨頸部骨折(CCS) / 大腿骨転子部骨折(ORIF) / 大腿骨骨幹部骨折 / 上腕骨外科頸骨折 / 脛骨腓骨開放骨折 / 腰椎圧迫骨折 / 脛骨腓骨遠位端骨折
リウマチ強い痛み / TKA施行 
脊椎・脊髄

頚椎症性脊髄症 / 椎間板ヘルニア(すべり症) / 腰部脊柱管狭窄症 / 脊髄カリエス / 変形性頚椎症 / 中心性頸髄損傷 / 頸髄症

その他大腿骨頭壊死(THA) / 股関節の痛み(THA) / 関節可動域制限(TKA) / 肩関節拘縮 / 膝前十字靭帯損傷
認知症アルツハイマー
精神疾患うつ病 / 統合失調症① / 統合失調症②
内科・循環器科慢性腎不全 / 腎不全 / 間質性肺炎 / 糖尿病 / 肺気腫
難病疾患パーキンソン病 / 薬剤性パーキンソン病 / 脊髄小脳変性症 / 全身性エリテマトーデス / 原因不明の歩行困難
小児疾患脳性麻痺① / 脳性麻痺② / 低酸素性虚血性脳症
種々の疾患が合併大腿骨頸部骨折+脳梗塞一過性脳虚血発作(TIA)+関節リウマチ

-書き方, 病院, 整形疾患, レポート・レジュメ