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【変形性股関節症+THA施行】レポート・レジュメの作成例【実習】

2021年12月28日

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・看護師を目指す学生に向けた、レポート・レジュメの作成例シリーズ。

今回は、「変形性股関節症+THA施行」の患者のレポート・レジュメです。

実習生にとって、レポート・レジュメの作成は必須です。

しかし、書き方が分からずに寝る時間がほとんどない…という人も少なくありません。

当サイトでは、数多くの作成例を紹介しています。

紹介している作成例は、すべて実際に「優」の評価をもらったレポート・レジュメを参考にしています(実在する患者のレポート・レジュメではありません)。

作成例を参考にして、ぜひ「より楽に」実習生活を乗り切ってください!

 

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今回ご紹介するレポートの患者想定

 

今回ご紹介する患者想定

  • 病院に入院中
  • 変形性股関節症の患者

  • THAを施行
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「変形性股関節症+THAを施行」の患者のレポート・レジュメ作成例

Ⅰ.はじめに

 今回,左変形性股関節症により人工股関節置換術(以下THA)を施行された70歳代の女性を担当させて頂いた.本症例は4年前に受傷した左中足骨骨折したことが起因ととなり,左股関節に歩行時痛を生じた方である.歩行することは可能であるが,疼痛により,歩行スピードの減少や趣味でもある旅行の制限が生じている方でもある.

本症例が自宅復帰され,Hopeである旅行を行なうためには,禁忌肢位を防いだ日常生活動作の獲得,T字杖歩行の獲得,THAに対する理解,重要であると考えた.また,本症例は1人暮らしのために,ADL動作の自立が重要であると考え、術前から利用していたヘルパーの利用を考慮し,それらに適応する事を目標に置き,評価を基に問題点の抽出,治療,退院指導を実施したので以下に報告する.

 

Ⅱ.患者紹介

一般的情報

  1. 身長:㎝
  2. 体重:㎏
  3. WBI:(㎏/m²)

医学的情報

  1. 診断名:左変形性股関節症
  2. 障害名:左下肢機能不全
  3. 入院日:〇〇年〇〇月〇〇日
  4. 手術日:〇〇年〇〇月〇〇日
  5. 手術名:左THA・内転筋切腱術
  6. 現病歴:4年前に左中足骨骨折を受傷したことがきっかけとなり,左股関節に疼痛が出現し,他院を受診した結果,左変形性股関節症と診断された.
  7. 既往歴:子宮筋腫【〇〇年〇〇月〇〇日】、左中足骨骨折【〇〇年〇〇月〇〇日】
  8. X線所見:
  9. X線画像: *画像添付推奨
  10. X線計測:

単位:°

社会的情報

  • 家族構成

○=女性 □=男性 ◎=本人 ●■=他界

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キーパーソン:次女

  • 生活状況:現在1人暮らし
  • 趣味:絵画・旅行・カラオケ・俳句
  • 家屋情報

  • 特記事項

ⅰ.玄関に2段の段差有り

ⅱ.玄関戸は押し戸

ⅲ.トイレ・階段・風呂場には手すりが設置してある

ⅳ.トイレは洋式

ⅴ.寝室にベッドで就寝している

 

  • ご自宅での過ごし方

時間

0:00

7:00

8:00

10:00

14:00

16:00

19:00

20:00

21:00

  

起床

朝食

外出

昼食

外出

夕食

帰宅

就寝

  • 外出は,友人と遊び(俳句・カラオケ)に行くことが多い.
  • 10:00~20:00の間は,ほぼ毎日外出している.
  • 外出の移動手段としては,自動車での移動である.
  • 術前は,正座をすることは可能であった.
  • 要支援に認定されている.
  • ヘルパーは週1回 10:00~12:30 掃除を依頼.

退院後は,今後のサービス利用について検討する事になっている予定.現在の様子を見ていると住宅改修は,必要ないと考える.ヘルパーの依頼は,風呂場の掃除では転倒のリスクが伴うために必要と考える.

 

他部門情報

  • Drより

【術前】

術後のリスクとしては,禁忌肢位による脱臼がある.術後の影響としては,脚長延長による筋のテンションの増加が挙げられる.

【術後最終】

退院としては,〇〇年〇〇月〇〇日を予定している.

  • Nrsより

 【術後初期】

精神的な不安より頭痛などの訴えが多々あるが,身体的な問題点としては考えていない.他の病室に行くことが多いが,それ以外では,ベッド上で過ごすことが多い.

  • カルテより

術中ROM

伸展0°・外旋30°

屈曲45°・内転0°・内旋60°

屈曲45°・内転20°・内旋55°

屈曲90°・内転0°・内旋55°

屈曲90°・内転20°・内旋50°

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Ⅲ.理学療法評価

(術前:〇〇年〇〇月〇〇日 術後初期:〇〇年〇〇月〇〇日 術後最終:〇〇年〇〇月〇〇日)

1.第一印象

 T-caneを使用して来室された.自己主張がとても強いだと感じたが,とてもこちらも質問や会話に対しても受け答えが良く,リハビリテーション(以下リハ)にもとても協力的だと感じた.年齢よりもとても若く感じ,元気な患者様だと思った.

 

2.全体像

【術前】

顔色もよくコミュニケーションもとても良好である.体格は,身長・体重ともに齢として平均的である.移動や歩行は,自立している.

【術後初期】

術後の影響のために,体調に関して心配されている.車椅子自走可能だが,不慣れなために上肢帯に筋肉痛が生じている.

【術後最終】

両松葉杖前型歩行院内にて自立している.自分の回復状況を気にしている.院内での生活範囲の拡大に伴い,活動性が増加している.

 

3.問診(本人より聴取)

1)主訴

【術前】

左股関節が長時間歩くと痛む

【術後初期】

左下肢に力が入らない

【術後最終】

左大腿部に突っ張る感覚がある

 

2)Hope

【術前】

旅行をしたい。他人と同じ位の速さで歩けるようになりたい

【術後初期】

速く歩きたい

【術後最終】

身近な場所を旅行したい

 

3)Need

【術後初期】

PT :疼痛除去,脱臼回避動作獲得,T-cane歩行獲得,股関節ROM・MMT向上

【術後最終】

PT :人工股関節に加わる負担への理解,脱臼回避動作獲得,股関節外転力向上,持久力向上

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4.バイタルサイン(血圧・脈拍)

【リハ開始時】

最高値:血圧118/68mmHg,脈拍88拍

最低値:血圧100/60mmHg,脈拍84拍 

※リハ室にて端坐位で計測

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5.日常生活動作(改変新Barthel Indexにて評価)

1)自宅での日常生活動作

【起居】自立.両下肢を挙上させ,降ろす反動で上半身を起こしていた.

【更衣】自立.靴下着脱は,長座位で左股関節屈曲・外転・外旋させて足部を体に近づけて行なっていた.

【排泄】自立.洋式トイレ使用.便器まで近づき座り込んで行なっていた.

【食事】自立.上肢の制限はないので,自由に行なえていた.

【移動】自立.自宅内は杖を使用しないで移動していた

【入浴】自立.浴槽内に台を設置している.手すりに掴まり左下肢から浴槽に入れ,次いで右下肢を入れて台に座り込んで入浴していた.足趾の洗体動作は,膝関節を屈曲さて体幹を前屈し,上肢を伸ばして行なっていたが,足趾に手が届き難く多少困難であった.

【整容】自立.爪きり動作は,左股関節屈曲・外転・外旋,左膝関節屈曲させて行っていたが,足趾まで手が届き難く,上手には切れない.

【階段昇降】手すりを把持し,1足1段で行なっていた.左股関節の荷重痛が重度の場合は,這って登っていた.

【日常生活関連動作】

・炊事:自立.約5分程度で調理を済ませる.立位を保持するときにはキッチンの台に腹部を接触させ寄りかかる.

・洗濯:自立.2層式洗濯機を使用して洗濯を行なう.長座位で全て洗濯ハンガーにかけてから,立位となり物干し竿に干す.畳むときは,長座位で行なう.

・掃除:風呂掃除や階段掃除はヘルパーに依頼.それ以外は週に1回自分で行なう.

・買い物:駐車場のあるスーパーマーケットに自動車で行き,食料品などを買う.

 

2)術後初期の病棟での日常生活動作

【起居】軽度介助.左下肢に力が入らないために,上肢を後方に支持し体幹を挙上させる.介助は,体幹を挙上させるときに必要とする.

【更衣】軽度介助.上半身更衣は自立している.下半身更衣は,術側下肢にROM制限や筋力低下があるために,下肢をコントロールでないことや足部まで上肢が届かないために介助が必要となる.

【排泄】自立.洋式トイレ使用.車椅子でトイレまで移動し行なう. 

【食事】自立.椅子に座り,食事を行なう.

【移動】軽度介助.車椅子の駆動に慣れていないために,長距離(病室~リハ室)は自走困難である.病棟では自走可能である.

【移乗】軽度介助.術側下肢の筋力低下に伴い,下肢のコントロールが困難であるために脱臼肢位になってしまう.介助は術側下肢の誘導や脱臼肢位にならないように行なった.

【入浴】未抜鉤のため清拭のみである.

【整容】軽度介助.爪切り動作が股関節ROM制限のために上肢が足趾まで届かないために困難である.爪切り動作以外は自立.

【階段昇降】未実施(困難).移動手段が車椅子のためや階段昇降困難と判断.

 

3)最終評価時での日常生活動作

【起居】自立.上肢でベッドを支持し,体幹を挙上させ長座位となる.長座位のままベッド隅まで下肢を動かし下腿を下垂させ,端座位となる.

【更衣】自立.ベッド隅で端座位となり,左股関節屈曲・外転・外旋,膝関節屈曲させ,ズボンや靴下を足趾に通す.次いで右下肢を挿入しズボンを持ち上げる.

【排泄】自立.洋式トイレ使用.両側にある手すりに掴まり,便器に座る.

【食事】自立.術後初期同様である.

【移動】自立.T-cane使用での歩行である.30分以上の歩行ではやや疲労感が生じる

【移乗】自立.背面にベッドを位置させ,右上肢で支持し体幹を屈曲させ殿部を下げる.左股関節が過屈曲しないように1歩後方へ退く.

【入浴】自立.両上肢で浴槽の縁を支持し,術側下肢を浴槽内へ入れる.次いで体を浴槽の縁と正対し,右下肢を入れる.立位の状態から左股関節屈曲,左膝関節伸展位にし,右股・膝関節を屈曲させながら殿部を下げる.殿部が浴槽に接地したら,右下肢を伸展させる.

【整容】自立.股関節屈曲・外転・外旋,左膝関節を屈曲させ,左上肢で左大腿内側を把持し,その肢位を保持させ爪切り動作を行う.

【階段昇降】T-cane使用.昇段は左側の手すりを把持し,1足1段での昇降する.降段は右側の手すりを支持し,1足1段で降段する.

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6.患部の状態

【術前】

熱感:(-)痛み:荷重時,左股関節屈曲時

腫脹:(-)発赤:(-)

【術後】

熱感:(+)痛み:左大転子部痛・左大腿内側部に伸張痛

腫張:(+)発赤:未確認 患部は手術による侵襲の為炎症している.

【最終】

熱感:(+)痛み:(-)

腫張:(-)発赤:(-) 術創部安定.手術による侵襲後,組織が回復し,炎症や術創部の疼痛(-)

 

7.疼痛評価

1)安静時痛

術前:(-)

術後:左大転子部にピリピリした感覚がある.

最終:(-)

 

2)運動時痛

術前:左股関節屈曲時に,股関節前面(鼡径部)に疼痛 

術後:左側大転子部の伸張痛,左股関節外転時に左大腿部内側部に伸張痛(+)

最終:(-)

 

3)荷重時痛

術前:左股関節内にズーンと響くような疼痛

術後:左側大転子部の伸張痛

最終:(-)

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8.形態測定

  • 下肢長 単位:㎝

  • 周径  単位:㎝

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9.関節可動域測定

単位:°

※「-」部は未計測である.

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10.徒手筋力テスト

※「-」部は術部の疼痛の為,未計測である.

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11.片脚立位

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12.10m歩行

 

13.姿勢分析

1)背臥位

術前

術後初期

術後最終

頭頸部は伸展位であり,右肩甲帯軽度屈曲・挙上位である.それに伴って,右鎖骨が挙上している.前腕は,両側共に回内位である.右上前腸骨棘が挙上しており,骨盤の左回旋が生じている.右股関節が,左側より外旋位にある.

頚部と両膝関節に枕を挿入しての観察となった.右肩甲帯屈曲・挙上位であり,鎖骨は共同して挙上位である.前腕は両側回内位である.両股関節屈曲位であり,骨盤は後傾である.また,両側股関外旋位で右側がより外旋位にある.両膝関節ともに軽度屈曲位である.

頚部は中間位であり,両肩甲帯が屈曲しており,右肩峰が左側より腹側にある.両肩関節軽度伸展位,前腕両側回外位である.骨盤は左上前腸骨棘が右側より頭側・腹側に位置している.右股関節軽度外旋位,両膝関節中間位である.重心は右側に位置している.

2)立位

術前

術後初期

術後最終

頭頸部は伸展位であり,右肩甲帯軽度屈曲・挙上位である.それに伴って,右鎖骨が挙上している.前腕は,両側共に回内位である.右上前腸骨棘が挙上しており,骨盤の左回旋が生じている.右股関節が,左側より外旋位にある.

自立した立位を取ることが不可能であるために,平行棒内での観察となった.両上肢での支持であり,頚部伸展位,両肩関節屈曲位,肘関節伸展位である.体幹はやや前傾しており,骨盤は後傾位である.股関節は両側共に屈曲・外旋位であり,膝関節は両側共に屈曲位である.

頚部伸展位であり,両肩関節は伸展位である.腰椎前弯が増強しており,骨盤は左上前腸骨棘が右側より頭側・腹側に位置している.右股関節軽度外旋位,両膝関節中間位である.重心は右側に位置している.

14.動作分析

1)歩行

術前

【自立】左右の立脚期を比較すると歩行周期において重心位置が常に右側にあり,左側の立脚期が減少している.右踵接地は,体幹前屈・左側屈位,左股関節軽度屈曲位,左膝関節伸展位で左足関節背屈位であり,足底全体の接地になっている.右側の踵接地から立脚中期までも体幹が前屈・左側屈位で前方への重心移動が減少している.その時足趾は屈曲している.左側遊脚期は股関節外旋位,膝関節伸展位,足関節底屈位で骨盤を右回旋することで下肢を前方へ振り出している.右立脚中期から足趾離地までの間も足趾は屈曲しており.前方への蹴り出しが減少している.また,この時の股関節の伸展も減少している.歩行周期中体幹の回旋も減少しており,上肢の振りもほとんど出現しない.左踵接地は,股関節外転・外旋位,膝関節伸展位であり,踵接地から足趾離地間での間股関節屈曲・伸展,膝関節屈曲は,ほとんど見られない.

術後初期

【自立】両肩関節を屈曲させ,平行棒を支持し,左踵接地を行なう.左踵接地は,両肘関節は伸展させ,上肢により体重をすることで,体幹伸展,左骨盤挙上させ,左股関節軽度屈曲位,左膝関節屈曲位,左足関節底屈で足趾からの接地となり,Double knee actionが減少している.左立脚中期で足底前面を床面に接地させ,この時に体幹は前傾位,左股関節軽度屈曲位,左膝関節軽度屈曲位,左足関節中間位である.体重は両上肢で免荷を行なっている.また,骨盤は右側へ変位する.左立脚中期から足趾離地まで,体幹は前傾位を保持している.左踵離地の時に右側の踵接地を行なっており,両側支持期が増大している.右踵接地も足底全面で行なわれている.この時に両肩関節伸展,両肘関節伸展,両手関節掌屈させ,前方への推進を補助している.右立脚中期は,右股関節屈曲位,右膝関節伸展位で,体幹を前屈させる.右立脚中期後に両肩関節を屈曲させ,平行棒での支持を行い,体幹を右側屈,左骨盤を挙上させて,左遊脚初期を行なっている.

術後最終

【自立】左踵接地と同時に杖を前方につく.左踵接地は,股関節屈曲・軽度外旋,膝関節屈曲,足関節背屈位で踵の接地となる.この時に骨盤が左側側方へ動揺し,右側に下制する.この現象は,T-cane歩行練習開始時より減少している.歩行速度の増加や荷重量の増加,長時間歩行での疲労により,増加する.左足底接地で左股関節屈曲位から中間位となり左立脚中期に移行するが,骨盤は右下制位の状態である.左踵接地から立脚中期において左膝関節は軽度屈曲位から伸展によりDouble knee actionが生じる.左立脚中期時に体幹は伸展する.左踵離地が消失し,左足趾離地時に股関節屈曲,膝関節屈曲,足関節背屈位で足底全体を床面から離地する.右遊脚初期は左立脚中期後に骨盤が後傾し,右股関節軽度屈曲,右膝関節軽度屈曲,足関節背屈で行い,左足趾離地前に右遊脚中・後期が生じ,右踵部からの踵接地となる.右踵離地後に左股関節屈曲,左膝関節軽度屈曲,左足関節背屈での左遊脚初期が出現する左踵離地から左足趾離地間での重心の前方移動が減少して,同時定着期が増加している.

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2)寝返り動作

術後初期

術後最終

【軽度介助】両上肢を右側へ移動させ,体幹の右回旋を行なう.この時に体幹の回旋の介助を行なう.そして,左下肢を把持し股関節内転・内旋位にならないように誘導することで,寝返りすることが可能である.

【自立】両股・膝関節を屈曲させ両内側上顆を合わせ状態で,体幹を右回旋させる.回旋している中で,左下肢を伸展させ内転・内旋しないようにコントロールし寝返る.

3)起き上がり動作

術後初期

術後最終

【軽度介助】両肩関節を伸展させ,肘で体幹を支持する.そして,肘関節を伸展させながら体幹を挙上させる.このとき上肢や体幹での起き上がりが困難なために体幹の挙上を介助することで長座位となるが,長座位を維持することが困難であるため,後方から介助をする.

【自立】両肩関節を伸展させ,肘で体幹を支持する.そして,肘関節を伸展させながら体幹を挙上させる.体幹を挙上させ長座位をとなる.長座位も介助なしで保持可能である.

4)階段昇降

術前(問診より)

術後最終

【自立】T-cane使用.昇段は左側の手すりを把持し,1足1段での昇降する.降段は右側の手すりを支持し,1足1段で降段する.疼痛が増悪しているときは,這って昇っていた.

【自立】T-cane使用.昇段時は左側の手すりを把持し,杖を1段上に付き,右下肢を挙上させ1段昇る.そして,術側下肢を挙上させ,同段に昇る.降段時は右側の手すりを把持し,杖と同時に術側下肢を1段下に降ろす.

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Ⅳ.問題点

1)術後初期

1.Impairment

#1 運動時の左大転子部(術創部)の疼痛

#2 左股関節ROM制限(屈曲・外転・外旋)

#3   筋力低下(股関節周囲筋・膝関節周囲筋)

#4 術創部の伸張性低下

 

2.Disability

#5 脱臼回避動作困難〔#1~#4〕

#6 歩行能力低下〔#1~#4〕

#7 起き上がり・寝返り動作困難〔#1~#4〕

#8 下半身更衣困難(靴下・ズボン)〔#1~#4〕

#9   階段昇降困難

 

3.Handicap

#10 院内における活動制限〔#1~##9〕

#11 自宅復帰困難〔#1~#9〕

 

2)術後最終

1.Impairment

#1 筋力低下(股関節周囲筋)

#2 ROM制限(左股関節)

#3 筋持久力低下

 

2.Disability

#4 トレンデンブルグ歩行〔#1~#3〕

#5   長距離歩行困難〔#1~#3〕

#6 歩行速度低下〔#1~#3〕

 

3.Handicap

#7 趣味の制限(旅行)〔#1~#6〕

 

Ⅴ.ゴール設定

1)術後初期

1.短期目標【2Weeks】

①起き上がり・寝返り動作自立

②両松葉杖歩行獲得

2.長期目標【5Weeks】

①T-cane歩行獲得

②日常生活動作の獲得

③自宅復帰

 

2)術後最終

1.短期目標【5Weeks】

①トレンデンブルグ歩行抑制

②自宅での生活への自信獲得

③自宅復帰

2.長期目標【5Weeks~】

①長時間歩行獲得(30分間)

②歩行速度60m/分獲得

③筋力維持・向上

④旅行

 

Ⅵ.術後プログラム

1)ROM-ex          

① 左股関節

【目的】下半身更衣や爪切り動作の獲得のためや拮抗筋に対するストレッチ効果を目的として行なった.

【肢位】背臥位

【方法】他動的に1Weeksは股関節屈曲・外転方向へ,2Weeksから内旋・外旋方向へ誘導を行なった.

【時間】end-feelに柔軟性が感じられるのを目安に行なった.

②左膝関節

【目的】膝関節屈曲することで,股関節屈筋群の伸張性の向上を目的とする.

【肢位】腹臥位

【方法】他動的膝関節を屈曲させる.仙骨への圧迫により股関節屈曲に伴う殿部の挙上を抑制する.

【時間】end-feelに柔軟性が感じられるのを目安に行なった.

③左足関節

【目的】術後の静脈血栓の予防のために他動的に足関節底背屈を行なう.

【肢位】背臥位

【回数】30回を目安にして行なった.

 

2)筋力トレーニング

① 股関節屈伸運動・外転運動・SLR運動

【目的】左遊脚相から立脚相への転換時での股関節や膝関節の安定性を向上させるために行なう.

【肢位】背臥位

【方法】2Weeksまでは,自動介助運動.3Weeksは自動運動.4Weeksからは抵抗運動で行なった.外転運動は側臥位でも行い,3Weeksから自動介助運動を開始し4Weeksから自動運動を行った.

【回数】15~30回を目安に行なった.

②Patella setting

【目的】左立脚期でのDouble knee actionの作用を発揮するために,内側広筋の等尺性収縮を行なった.

【肢位】背臥位・腹臥位

【方法】背臥位では,膝関節に枕を挿入し軽度屈曲位からの伸展を行い,腹臥位では足関節背屈位で膝関節軽度屈曲位から伸展を行なった.

【回数】15~30回を目安に行なった.

③ブリッジ運動

【目的】左立脚期での前方への推進力強化や股関節の安定性向上のために行なった.

【肢位】背臥位

【方法】股・膝関節屈曲位から殿部を挙上させるように行なった.

【回数】15~30回を目安に行なった.

④足関節底背屈運動

【目的】1Weeksは静脈血栓防止のために行い,2Weeksからは左踵離地から左足趾離地での重心の前方移動を向上させるために行なった.

【肢位】背臥位・立位

【方法】静脈血栓予防には背臥位での底背屈運動を自動で行い,重心の前方移動向には立位で左側に重心が加わるように誘導した.

【回数】15~30回を目安に行なった.

⑤股関節外旋運動

【目的】左踵接地期でのトレンデンブルグ様の現象を抑制するために行なった.

【肢位】背臥位・腹臥位

【方法】3Weeksでは背臥位での自動運動,4Weeksからはセラバンドによる抵抗運動,5Weeksは腹臥位での自動介助運動,背臥位での抵抗運動を行った.

【回数】15~30回を目安に行なった.

⑥股関節伸展運動

【目的】左立脚期での前方への重心移動の向上を目的に行なった.

【肢位】腹臥位

【方法】股関節を伸展するときに殿部が挙上しないように仙骨部を圧迫して抑制した状態で行なった.

【回数】15~30回を目安に行なった.

 

3)温熱療法

①Hot pack

【目的】温熱効果により筋スパズムの軽減や血流増加によるリラックス効果を目的とする.

【肢位】背臥位・腹臥位

【方法】背臥位・腹臥位共に左股関節に対して施行した.

【時間】約10分間施行した.

 

4)歩行練習

①平行棒内歩行

【目的】両松葉杖歩行の前段階として行なう.

②両松葉歩行

【目的】片松葉杖歩行の前段階として行なう.

③片松葉杖歩行

【目的】T-cane歩行の前段階として行なう.

④T-cane歩行

【目的】THAを施行したことや現在の股関節外転筋の状態を考えると退院後の歩行として獲得しなければならないため.

 

5)階段昇降

①リハ室階段階練習

段昇降能力の向上のため.

②病棟階段練習

自宅での階段を想定.

③エスカレーター練習

スーパーマーケットなどでの使用を想定

 

6)脱臼回避動作指導・ADL動作指導

①寝返り指導

【指導】両内側上顆を合わせて寝返るように指導した.また体幹の回旋に合わせて下肢を動かすと股関節内転・内旋しにくいと指導した.

②起き上がり指導

【指導】背臥位から体幹を回旋させ,腹臥位になり腹臥位から正座になるように指導した.体幹を回旋させるときは,左下肢を伸展させ足関節を背屈位にすることで左下肢を固定できると指導した.

③下半身更衣

【指導】端座位・長座位となり,左股関節を屈曲・外転・外旋させて足部を体に近づけて行なうように指導した.体幹が前屈すると過屈曲になってしまうために骨盤を後傾するように指導した.

④立ち上がり動作

【指導】床から立ち上がるには,正座位から四つ這い位となり,左下肢を後方に位置させ,右下肢に体重をかけ,上肢での支持を用いて立ち上がるように指導した.

 

7)退院指導

 

Ⅶ.考察

1.術創部について

術前は左股関節部の炎症症状がなく,筋疲労を伴うような活動性もなかった事が考えられる.術後初期は手術による侵襲による炎症が生じている.術後最終は術部の侵襲による炎症軽減や組織の回復により,術創部が安定し疼痛が出現していないと考える.術後初期の安静時痛は脚長延長により筋に張力を与える手術が成されている為,伸張痛が出現したと考える.術前の運動時は軟骨下骨層の破壊や硬化が考えられ,骨棘による疼痛も生じたと考える.

術後初期は組織の侵襲後であり,術創部が股関節屈曲により伸張されると疼痛が生じたのではないかと考える.また脚長延長よる筋に張力が与えられている為,伸張痛が出現していると考える.最終では術創部が組織回復により安定し,疼痛出現がないと考える.

 

2.最終評価時の状態について

【起居】

 術後初期時の起き上がりや寝返りは,軽度の介助を必要としていた.介助を行なっていた動作としては,起き上がりは体幹を挙上することが術創部の運動時痛や腹部の筋や股関節屈曲筋群の筋力低下,上肢でのプッシュアップ不足により,やや困難であったので体幹の挙上を介助した.寝返りは体幹を回旋するときに術側下肢の筋力低下のためにコントロール困難や疼痛による動作困難により,術側下肢が脱臼肢位になることを防ぐように介助を行なった.

 術後最終時の起き上がりや寝返りは,介助を必要とせず自立して行なうことが可能であった.起き上がりは,両肩関節を伸展させ,肘で体幹を支持し,肘関節を伸展させながら体幹を挙上させる.体幹を挙上させ長座位を動作の獲得が出来ていた.長座位も介助なしで保持可能な状態になっていた.寝返りは,両股・膝関節を屈曲させ両内側上顆を合わせ状態で,体幹を右回旋させ,回旋している中で,左下肢を伸展させ内転・内旋しないようにコントロールし寝返る動作の獲得となった.術後の股関節周囲筋の筋力強化や術創部の安定による疼痛の軽減や術後から実施した脱臼回避動作の指導を本症例の理解により自立した動作が獲得できたと考える.

【下半身更衣】

 術後初期の下半身更衣としての問題点は,股関節屈曲制限や股関節屈筋群の筋力低下による長座位保持の困難,股関節屈曲・外転・外旋可動域制限により,足部に上肢が届かない状態が上げられる.

 術後最終時の下半身更衣は,ベッド隅で端座位となり,左股関節屈曲・外転・外旋,膝関節屈曲させ,ズボンや靴下を足趾に通し,右下肢を挿入しズボンを持ち上げる動作の獲得により自立した.

 術後初期より左股関節ROM-exや左股関節筋力強化を行なうことで下半身更衣に必要な可動域や左股関節を屈曲・外転・外旋する筋力が獲得することが出来たと考える.しかし,股関節外転や外旋は下半身更衣に必要な角度や筋力を得ることができているが,得られた可動域や筋力では下半身更衣が余裕を持って行なうことが,左上肢での把持や本症例の努力が必要とする状態である.今後の股関節ROM-exや股関節周囲筋に対する筋力強化が必要となってくると考える.

【歩行】

 現在の歩行は,T-cane前型4/5PWBでの歩行である.現段階の歩行中の問題点として挙げられるのは,トレンデンブルグ様の歩行である.この現象は,長時間の歩行によって増悪する傾向がある.また,歩行速度が増加するに連れて悪化することが評価や治療の場面から観察することが出来る.このトレンデンブルグ様歩行は,左H.C~M.Sにかけて生じる.その為,M.S以降の歩行周期への影響が大きく,前方への重心移動の減少や右遊脚相へ影響を与えている.

 このトレンデンブルグ様歩行の原因として考えられることは,左股関節外転筋群の等尺性収縮の低下により,左H.Cでの骨盤を正中位に保持することが困難となり,右骨盤が下制,左骨盤が側方動揺すると考える.また,左股関節外転筋以外の股関節周囲筋の筋力低下や膝関節周囲筋の筋力低下により,股関節外転筋が充分に張力を発揮できる環境にないと考えられ,左股関節や左膝関節に股関節外転筋の作用を発揮するための安定性がないことも影響していると考えられる.左股関節外転筋の求心性収縮も低下していることで,下制した右骨盤を引き上げることが困難になっている.また評価は未実施だが,体幹筋の筋力低下も骨盤を正中位に保持するために必要であり,現象から体幹筋の筋力低下も推測される.

 歩行速度の増加や歩行時間の増加に伴い,この現象が悪化する.左股関節外転筋は,術後MMT2からMMT3に最終評価時には向上しているが,現在の歩行能力に対応するだけの筋力がないことが考えられる.

 この2つの問題点は,歩容を乱すことでTHAに対しても影響を与える恐れがある.それは,正常歩行から逸脱した動作は,一定の部位に負担をかけることである.THAに対して加わる荷重は,関節面に対して一定に加わらず局所的に加わることで,人工骨頭の摩耗の促進する.人工骨頭の摩耗する度合が増えることは,THAの寿命を低下させる恐れがある.THAの寿命が減少することは,本症例にとってデメリットとなる.そのデメリットとしては,再置換が挙げられる.現歳代である本症例と女性の平均寿命である85歳を考えると,そのデメリットは,防がなくてはならない.そのデメリットを防ぐためにも左股関節外転筋の筋力増強を主とし,股関節周囲筋の筋力増強が必要となる.また歩行速度の増加に伴い,現象が悪化することから,歩行速度の抑制が必要となる.歩行速度を抑制した状態ならば,トレンデンブルグ様の歩行を抑制することが出来るのは,歩行分析や治療の中から観察することが出来る.またトレンデンブルグ様の歩行は,正常歩行を逸脱した代償動作である.正常歩行から逸脱し代償動作が出現することは,左股関節以外にも与える影響があると考えられる.骨盤が側方動揺や下制などが生じることは,重心移動の増加が生じる.そのことにより,骨盤の上下に位置する腰部や膝関節,反対側股関節においても過剰な活動量が必要となり,腰痛や右股関節痛,膝関節痛などが生じる可能性がある.そして,これらの影響は,全身に対しても影響を与える.THAに対する負担やそれ以外の部位への負担を生じさせない為にもトレンデンブルグ様の歩容を抑制する必要がある.

 この2つのことが今後の歩行として考えなくてはならない点である.しかし,本症例のHopeとして他人とおなじ速さで歩きたいとの声がある.しかし,現状を考慮すると現段階において歩行速度の目標になるのは,屋外歩行で重要となる横断歩行の時間内での歩行を可能とする60m/分である.この速度を越えることは,THAにとってデメリットになることを充分に本症例に理解していただくことが必要になる.また,長時間歩行するためにも,左外転筋に対する負担の軽減を考えなくてはならない.長期的に考えるとトレンデンブルグ様の歩容からの代償動作を抑制しなければ二次的な障害が生じることも考慮する必要がある.その為にも,T-cane使用での歩行の獲得が必要となる.T-caneを使用すると股関節外転筋への負担が軽減すると言う報告がある.股関節外転筋への負担の軽減によりトレンデンブルグ様の歩容の抑制が可能になる.そして,代償動作により生じていた全身の過剰な活動量を減少させることができる.

 今後の歩行の方向性としては,トレンデンブルグ様の現象が生じさせない左股関節外転筋筋力強化を主とした股関節周囲筋や膝関節周囲筋,体幹筋の筋力強化,歩行速度への本症例の理解,長時間歩行する際には,T-caneを使用することが挙げられる.

 術後初期に消失していたDouble knee actionは,術後最終時にはわずかではあるが出現している.出現した理由として,術前や術後初期は左股関節や術創部に生じていた疼痛を回避するために,足趾からの接地となり荷重に対しての恐怖心や不安が,疼痛の消失により本症例の左下肢に体重を加重することの精神的安定が向上したことがある.また,左下肢の筋力が術後初期より術後最終が全体的に向上したことが,左下肢の荷重に対する支持能力の増強を生じ,精神的安定の向上やDouble knee actionを出現させた理由として考えられる.

【階段昇降】

術後初期は,筋力や歩行能力を考えると転倒の危険性があることから実施を行なわなかった.術前は,問診よりT-caneを使用する.昇段は左側の手すりを把持し,1足1段での昇降する.降段は右側の手すりを支持し,1足1段で降段する.疼痛が増悪しているときは,這って昇っていた.

術後最終時はT-cane使用する.昇段時は左側の手すりを把持し,杖を1段上に付き,右下肢を挙上させ1段昇る.そして,術側下肢を挙上させ,同段に昇る.降段時は右側の手すりを把持し,杖と同時に術側下肢を1段下に降ろす.

術側の筋力強化により術側下肢の安定性が向上したことや杖での体重支持が可能になったことが自立した階段昇降を獲得できたと考える.

 

3.治療プログラムについて

 治療プログラムの方針としては,術後初期は,自発的な運動を促すために主に自動介助で行なった.そして,股関節過屈曲や股関節屈曲・内転・内旋での脱臼肢位のリスクを重点に配慮した.また,術後初期の問題点であるROM制限や筋力低下に対して主として考え,プログラムを立案した.股関節屈曲や外転が自動で運動が可能になってから,次の段階に進む方針で筋力強化を行なったが,なかなか自動での股関節屈曲や外転が術後3Weeksまで可能にならない状態が続いた.ここで考えたのが,脱臼のリスクへの配慮が必要以上であり,本症例の能力を向上することが出来ていないことや,自動での運動が可能になるのを待つことで本症例に対して刺激が適切ではないと仮説を立てた.その仮説を考えてからは,最低限の脱臼への配慮や能力向上のために自動介助だけではなく,出来る範囲での自動運動を併用するプログラムとした.結果としては,術後3Weeks後半から筋力が全体的に向上する状態となった.ここで筋力が向上した原因として,仮説が証明されたことや筋力増強は2Weeksから効果を表すと言われている.術後3Weeks後半から筋力が向上したのは,本症例の年齢的なことも関係していると考える.また,股関節可動域の向上が見られ始めたのが2Weeks後半からであり,術前からの状況を考えると新たに獲得した可動域での筋力の発揮の方法が入力されていないとも考えられる.

 CKCでの股関節屈曲や外転が自動で可能になり,方針を歩行や動作での必要な動きを獲得するプログラムへ移行した.歩行での必要な動きとしては,左股・膝関節安定性やトレンデンブルグ様の歩容の抑制に重点に考えた.また,寝返りや立ち上がりの際の脱臼回避動作に必要な術側下肢のコントロール(股関節外転維持)を重点に考えた.結果としては,術後最終の記述からも把握できるように,脱臼回避動作に必要な術側下肢のコントロールの獲得が出来た.トレンデンブルグ様の歩容は,荷重量のコントロールや歩行速度の抑制の中では獲得できたと考える.しかし,逆に考えれば歩行速度を抑制しなければならないことや,荷重をコントロールしなければならないことを考えれば,トレンデンブルグ様の歩容を抑制するだけの左股関節外転筋や股関節外転筋の収縮を発揮できるだけの股関節周囲筋の筋力が獲得できていない.今後獲得するためにも,退院後の自宅での筋力強化が必要となる.

 

4.留意した点として

 本症例は,リハ開始時においてこちらからの説明や話に対して,集中して聞いてくれる状態であった.リハ最終時に近づくに連れて,自分の話をすることが多くなり,こちらからの説明を本当に理解してくれているのか疑問に思うことがあった.また,自分での判断が多くなり,リスクが伴う動作を行なうことがあった.この状態で退院することが,脱臼や再置換の可能性が高まると考え,理解してする必要のある点の説明を行なうときは,本症例の話をさえぎっても普段より強めの口調で説明することや注意をするように心掛けた.その結果,本症例の受け答えもいい方向に変化した.

 

5.Needに対して

【術後初期】

PT :疼痛除去,脱臼回避動作獲得,T-cane歩行獲得,股関節ROM・MMT向上

pt :歩行速度向上,階段歩行獲得,疼痛除去

【術後最終】

PT :人工股関節に加わる負担への理解,脱臼回避動作獲得,

股関節外転力向上,持久力向上

pt :脱臼回避動作獲得    

上記のNeedと術後最終の状態を考えると,術後初期の疼痛除去や脱臼回避動作獲得,T-cane歩行獲得,股関節ROM・MMT向上,階段昇降は,獲得できている.しかし,股関節ROMの左股関節外転・外旋では,前述した通り下半身更衣や爪切り動作など困難だった動作を獲得することが出来でいるが,まだ今後向上が必要とする状態である.また左股関節外転筋力を筆頭に股関節周囲筋の筋力増強は結果としては向上しているが,動作から見るとまだNeedとしてのゴールまでには,到達することは出来ていない.持久力も自宅内での歩行や動作では充分に獲得できているが,屋外歩行やHopeにもある旅行をするだけの能力は獲得できていない.人工骨頭に加わる負担への理解については,こちらからの説明に対しては理解を示しているのだが,実際の行動や動作からでは理解が不十分であると考えられる.

 

6.今後の生活について

 本症例は,自宅では1人暮らしであるために,自分のことは自分で行なわなくてはいけない状況にある.しかし,本症例は介護保険の要支援に認定されており,ヘルパーの依頼が可能である.術前から風呂掃除や階段掃除などはヘルパーに依頼していた.今後も術前同様に風呂掃除や階段掃除は脱臼肢位になるリスクや転倒のリスクがあるので,ヘルパーへの依頼が望ましいと考える.住宅改造は,現段階では現状のままで充分に対応することができると考えるが,風呂場の椅子は術前使用していたものは脱臼肢位になることから使用できないので,ケアマネージャーと相談する必要がある.その他の物も,今後加齢による能力低下により,介護用品が必要となる可能性があるので相談が必要である.

 歩行としては,今後自宅での筋力強化により股関節外転筋力の向上が考えられ,杖無しでの歩行が可能となるが,人工骨頭への荷重による負担を軽減するために,杖の使用が今後必要となってくる.

 また現在は術部や左股関節に疼痛は生じていないために,自発的な活動が増加していた.活動性が増加するに伴いADL指導や脱臼回避動作の指導を行なった.退院後は,指導した脱臼回避動作やADL動作をより自分のものに出来るように,反復して行なうことが必要である.また,筋力や可動域は増加したが,靴下の着脱時に見られる上肢での左下肢の把持や必要以上の努力が見られることから充分とは言えない.長座位での靴下の着脱には,股関節屈曲124°外転19°外旋15°膝関節屈曲106°必要である.しかし,股関節90°以上になることは脱臼のリスクを生じる.現在の本症例は股関節約90°屈曲位外転約10°外旋約10°膝関節約120°で行なっている.可動域的に考えると個々の可動域では到達しているので動作としては可能になる可能性が高い.現状では動作を努力下で行なっていることから,複合的な股関節の可動域制限やその肢位で保持するための股関節屈曲・外転・外旋,膝関節屈曲筋郡が不十分であることが考えられる.このことから本症例が靴下着脱動作を無理なく行なうためには,股関節屈曲90°での外転19°以上外旋15°以上,膝関節屈曲120°以上が必要となる.そこで,退院時に指導したことを,定期的に実践することが必要となる.そして,現状の維持はもちろんのこと今以上に脱臼のリスクが少ない動作の獲得を得ることが,今後の自宅での活動性向上につながると考える.そして,脱臼せずに日常生活をすごして頂きたい.

 

7.反省点として

 局所的な状態の把握や評価しかできておらず,全身の把握や評価が不十分になってしまい,問題点の抽出も局所的な問題点となり,本症例の全てを把握することができなかった.

 必要とした評価として,既往歴に関連してくる足趾の評価がある.必要であった理由としては,歩行周期中踵離地から足趾離地での蹴り出しに足趾が関与してからである.足趾を考えなくてはいけなかった点は,歩行中での足趾の可動域や筋力の状態を評価することで,歩行中にどう影響しているのかが挙げられる.足関節や足趾に可動域制限があるならば,踵離地や足趾離地が困難になる.また,足趾の筋力低下を生じているならば足趾離地での蹴り出しが困難になる.本症例の訴えにも左足部で蹴り出しを行なう際に足趾が屈曲しているとの訴えがあった.また,踵離地が消失していることも足趾での問題点があることを示して状態であったのに,優先順位を左股関節に重点を置いていた点から,足趾の状態を把握するための評価が未実施となった.しかし,局所的な問題点を解決するためにも全体的な問題を考える必要があったと考え,次回からはもっと全身状態を評価できるように心掛けたい.

 足趾以外にも着目が必要であった点として,股関節の筋力だけでなく股関節周囲筋や膝関節周囲筋,足関節周囲筋,体幹筋の評価が必要であったと考える.なぜならば,股関節の問題点が周囲の関節や筋に対して影響を与えているからである.その点を考えなくては,本当に適切な治療プログラムの立案が困難になってしまうからである.次回からは運動を総合的に考え,適切なプログラムを立案できるようにしたい.

 

Ⅷ.おわりに

 今回,左変形性股関節症のためにTHAを施行した本症例に対して,術前から退院まで,評価・治療を行わせて頂いた.本症例は,とても自分のことを話してくれるが,こちらからの指示に対してどれ位理解して下さっているのか,把握が難しい方であった.しかし,こちらから何回も説明を繰り返し,こちらが真剣に訴えようとするとこちらの話にも耳を傾けてくれることがあった.また,なかなか状態が良くならないことに不安があったように感じられたが,脱臼回避動作の獲得や新しいことを行なうと素直に喜んでいた.そして,術後5Weeksで退院を迎えられた.

 今後は,術前の疼痛もなくなり,歩行することや自宅内での活動性が増加すると思うが,脱臼に対する注意事項や筋力強化を実行することで,THA施行した状態の中でもQOLが向上することを願う.

 

Ⅸ.参考文献

1)中村隆一,齋藤宏/基礎運動学 第5版/医歯薬出版株式会社/2002

2)中村隆一,齋藤宏/臨床運動学 第3版/医歯薬出版株式会社/2004

3)山崎勉/整形外科理学療法の理論と技術/株式会社メディカルビュー/2003

4)丸山仁司/ザ・歩行/アイペック/2004

5)鈴木重行/IDストレッチング/三輪書店/2005

6)石井清一 他/標準整形外科学 第8版/医学書院/2003

7)石川齋/理学療法技術ガイド 第2版/文光堂/2005

 

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脳出血片麻痺① / 片麻痺② / 片麻痺③ / 失語症 / 移乗介助量軽減を目標

くも膜下出血

片麻痺 / 認知症 / 職場復帰を目標

整形疾患変形性股関節症(置換術) / 股関節症(THA)膝関節症(保存療法) / 膝関節症(TKA) / THA+TKA同時施行
骨折大腿骨頸部骨折(鎖骨骨折合併) / 大腿骨頸部骨折(CHS) / 大腿骨頸部骨折(CCS) / 大腿骨転子部骨折(ORIF) / 大腿骨骨幹部骨折 / 上腕骨外科頸骨折 / 脛骨腓骨開放骨折 / 腰椎圧迫骨折 / 脛骨腓骨遠位端骨折
リウマチ強い痛み / TKA施行 
脊椎・脊髄

頚椎症性脊髄症 / 椎間板ヘルニア(すべり症) / 腰部脊柱管狭窄症 / 脊髄カリエス / 変形性頚椎症 / 中心性頸髄損傷 / 頸髄症

その他大腿骨頭壊死(THA) / 股関節の痛み(THA) / 関節可動域制限(TKA) / 肩関節拘縮 / 膝前十字靭帯損傷
認知症アルツハイマー
精神疾患うつ病 / 統合失調症① / 統合失調症②
内科・循環器科慢性腎不全 / 腎不全 / 間質性肺炎 / 糖尿病 / 肺気腫
難病疾患パーキンソン病 / 薬剤性パーキンソン病 / 脊髄小脳変性症 / 全身性エリテマトーデス / 原因不明の歩行困難
小児疾患脳性麻痺① / 脳性麻痺② / 低酸素性虚血性脳症
種々の疾患が合併大腿骨頸部骨折+脳梗塞一過性脳虚血発作(TIA)+関節リウマチ

-書き方, 整形疾患, 病院, レポート・レジュメ