”訪問看護における”フィジカルアセスメントの事例集。
今回、想定するシチュエーションは、呼吸苦を訴える利用者に対するフィジカルアセスメントです。
今回想定するシチュエーション
訪問すると「ちょっと苦しい…」と訴える利用者に対するフィジカルアセスメント
肺炎や呼吸器疾患などがある利用者は、呼吸苦を訴えることがあります。
病院ではすぐに検査ができますが、訪問では限られた方法で重症度・緊急度を評価しなければなりません。
この記事では、呼吸苦を訴える利用者に対するアセスメントの方法をお伝えするとともに、報告のポイントまでご紹介してまいります。
このような事例をもっと知りたい!という方は、記事の最後に18事例をまとめたリンクを記載しておくので、ぜひ日々の業務にご活用ください。
呼吸苦を訴える利用者に対するアセスメントのポイント
呼吸苦を訴える利用者に対するアセスメントのポイントは、以下が考えられます。
- アセスメントのポイント
- ・バイタルサインの変化
・低酸素に伴う症状は出ているか
・日常生活にどのような影響が出ているか
・すぐに医師に報告するのが望ましいか
このポイントを頭に入れながら、フィジカルアセスメントをしていきましょう。
呼吸苦を訴える利用者に対するフィジカルアセスメントの方法
フィジカルアセスメントは、基本形(問診(主観的評価)→フィジカルイグザミネーション(客観的評価)→アセスメント(評価分析)→ケア・報告)に則って進めてまいります。
そもそもフィジカルアセスメントって何?どうやって進めていくの?と悩んでいる人は、まずはコチラの記事(訪問看護における"フィジカルアセスメントの目的と順番)を見てみよう!
"訪問看護における"フィジカルアセスメントの目的と順番【事例まとめ 】
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問診(主観的評価)
まずは問診をしていきましょう。
聞くべき内容は、以下が考えられます。
- いつから苦しくなったか
- どのような経過を追っているか(少し良くなった、悪くなっているなど)
- 姿勢によって変わるか(楽になる姿勢・悪くなる姿勢がある)
- 呼吸苦以外の症状はあるか
- いつもの内服薬は飲めているか
- 昨日はいつも通り眠れたか
- 日常生活はいつも通りできているか(トイレに行けているか、食事はできているかなど)
もし、呼吸苦が強い場合は会話だけでも負担になってしまいます。
状況に合わせて、必要最低限の問診にすることが望ましいでしょう。
本人から聞けない情報は、家族から聴取するようにしましょう。
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フィジカルイグザミネーション(客観的評価)
問診の精度にかかわらず、フィジカルイグザミネーション(客観的評価)を行うことが重要です。
その際、共通して以下の点に留意をして評価していきましょう。
- 客観的評価をする時に気をつけること
- ・前回訪問時との変化
・左右差の有無
・できるだけ数値化をする
バイタルサイン・意識レベル
呼吸苦を訴える利用者に対しては、まずはSpO2を測定しましょう。
もし、SpO2が低下しているのであれば低酸素状態であることが推察され、循環器系の問題や、肺・呼吸器系の問題を疑います。
呼吸数の増加や脈拍・血圧の上昇などにも留意して測定しましょう。
血圧 | 収縮期血圧:〜120mmHg |
拡張期血圧:〜80mmHg | |
脈拍 | 50~80回/分 |
体温 | 36.0度~36.9度 |
呼吸数 | 12~20回/分 |
以下の場合は、緊急度が高いと判断をします。
- 頻呼吸:24回以上/分
- 徐呼吸:10回以下/分
- SpO2の低下:90%未満
また、低酸素状態が悪化すると意識障害を生じることがあります。
意識レベルは「Japan coma scale(JCS)」や「Glasgow coma scale(GCS)」といった標準化されたもので評価しましょう。
Ⅰ.刺激しないでも覚醒している状態(1桁で表現) delirium、confusion、senselessness | 1.だいたい意識清明だが、今ひとつはっきりしない |
2.見当識障害がある | |
3.自分の名前・生年月日が言えない | |
Ⅱ.刺激により覚醒、刺激をやめると眠り込む状態(2桁で表現) stupor、lethargy、hypersomnia、somnolence、drowsiness | 10.普通の呼びかけで容易に開眼する. |
20.大きな声または体を揺さぶることにより開眼する.簡単な命令に応ずる. | |
30.痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すとかろうじて開眼する | |
Ⅲ.刺激をしても覚醒しない状態(3桁で表現) deep coma、coma、semicoma | 100.痛み刺激に対し、払いのけるような動作をする |
200.痛み刺激で少し手足を動かしたり、顔をしかめる | |
300.痛み刺激に反応しない |
覚醒状態により3群に分類、次に各群を各種刺激に対する反応で3段階に分類、全体で9段階に分類されています。
不穏状態があればR(restlessness)、失禁があればI(incontinence)、無動性無言があればA(akinetic mutism、apallic state)をそれぞれ数字の後につけます(100-I、20-RIなど)。
観察項目 | 反応 | スコア |
開眼 eye opening | 自発的に開眼 spontaneous | 4 |
音声により開眼 to speech | 3 | |
疼痛により開眼 to pain | 2 | |
開眼しない nil | 1 | |
最良言語反応 verbal response | 見当識あり orientated | 5 |
錯乱状態、会話混乱 confused conversation | 4 | |
不適当な言葉、言語混乱 inappropriate words | 3 | |
理解不能な声 incomprehensible sounds | 2 | |
発語しない nil | 1 | |
最良運動反応 motor response | 命令に従う obeys | 6 |
疼痛部認識可能 localises | 5 | |
四肢の逃避反応 flexes withdraws | 4 | |
四肢の異常屈曲反応 abnormal flexion | 3 | |
四肢の伸展反応 extends | 2 | |
全く動かない nil | 1 |
言語や疼痛刺激に対する開眼反応・言語反応・運動反応の3項目について、その反応性をスコアの合計(E+V+M)により評価をします(15点満点、最低3点)。
視診
視診では、主に「顔面・皮膚の色」と「呼吸パターン」に着目します。
いつもより顔色が悪い、皮膚にチアノーゼが見られていたら、少なからず酸素の供給が不十分であることが推察されます。
また、チアノーゼは中心性か末梢性かもみておきましょう。
- 中心性チアノーゼ:くちびるが青っぽくなっている。心機能の低下で出現
- 末梢性チアノーゼ:手足が青っぽくなっている。血管系の狭窄・閉塞で出現
中心性チアノーゼを認める場合は速やかに酸素を投与する必要があるため、その場で医師に報告をすることが望まれます。
次に呼吸パターンです。
呼吸パターンは、以下の点に留意して視診しましょう。
- 口すぼめ呼吸(口を閉じて鼻から息を吸い、口を細めて細く息を吐く呼吸)の有無
- 鼻翼呼吸(息を吸うときに小鼻が開く呼吸)の有無
- 奇異呼吸(吸気時に胸郭が収縮し、呼気時に拡張する呼吸)の有無
また、長期間酸素不足になるとバチ状指が見られることがあります。
バチ状指とは、左右の爪同士を合わせたときに爪同士がくっつかない状態を指します。
これは酸素不足により軟部組織が肥大している結果であり、心不全や呼吸器疾患が隠れている可能性があります。
触診
呼吸苦における触診は、胸郭の拡張性と気管の位置、呼吸補助筋を中心にみると良いでしょう。
まず胸郭の拡張性です。
正常な場合は胸郭に左右差は認めませんが、胸水や気胸、片側のみの肺炎がある場合は左右差を認めます。
また、正常な場合は深呼吸の呼気時に約4~6cm胸郭が拡張しますが、肺気腫や慢性閉塞性肺疾患(COPD)がある場合は拡張性が低下します。
次に気管の位置です。
正常であれば、喉に気管がまっすぐと位置していますが、以上がある場合は左右どちらかに偏位します。
- 気管が右側に偏位している:右肺の虚脱もしくは左肺の液体貯留
- 気管が左側に偏位している:左肺の虚脱もしくは右肺の液体貯留
最後に呼吸補助筋です。
胸郭の動きが悪い人は、代償をするように胸鎖乳突筋や腹筋といった呼吸補助筋の筋緊張が高まっています。
筋肉を触って、硬くなっているかどうかを確認しましょう。
起始:胸骨と鎖骨
停止:側頭骨(乳様突起)
筋緊張を評価する時の指標としては、「modified Ashworth Scale」が広く用いられています。
段階 | 内容 |
0 | 筋緊張の亢進はなし |
1 | 筋緊張の軽度亢進 折りたたみナイフ現象、ROMの最終域に最小の抵抗あり |
1+ | 段階1の内容に加え、ROM半分以下の範囲に最小の抵抗あり |
2 | ROMの大部分で明らかな抵抗あり 患部の屈曲は容易に可能 |
3 | 筋緊張亢進が著明で他動運動困難 |
4 | 患部の屈曲・伸展にこわばりあり |
打診
打診により臓器の位置や水・分泌物の有無などを調べることができます。
異常を知るには正常を知っておかなければならないため、スタッフ同士で練習すると良いでしょう。
正常な打診音の特徴は以下にまとめておきます。
音の種類 | 音の特徴 | 臓器 |
鼓音 | 太鼓がなるような音 | 胃・腸 |
濁音 | 詰まったような音 | 心臓・肝臓 |
共鳴音 | 響くような音 | 肺 |
過共鳴音 | 共鳴音よりも響く音 | 肺(肺気腫) |
無共鳴音 | 響がない音 | 筋肉 |
例えば、共鳴音がなるべき部分(肺)で濁音や無共鳴音がなれば、胸水や無気肺などの可能性が推察されます。
聴診
聴診は、フィジカルイグザミネーションでは最も重要と言っても過言ではありません。
正確に呼吸音を聴診することで、異常がある場所や疾患を推察することができます。
正確に呼吸音を聴診するポイントは、左右交互に聴診して左右差の有無を把握することです。
推奨される聴診の順番と呼吸音の特徴は以下の通りです。
音調 | 強さ | |
気管(支)音 | 高い | 大きい |
気管支肺胞音 | 中 | 中 |
肺胞音 | 低い | 軟らか |
まず、聴診をする際は「呼吸音が聞こえるか」「呼吸音は強いか・弱いか」をチェックします。
呼吸音 | 疑うべき状態・疾患 |
聞こえない | 無気肺・呼吸停止など |
強い | 過呼吸・肺炎・肺繊維症など |
弱い | 無気肺・気胸・肺気腫・胸水貯留など |
この時、正常ではない音があるかどうかも同時にチェックします。
正常ではない音を副雑音と言います。
副雑音の種類と特徴は以下の通りです。
音 | 音の特徴 | 疑うべき疾患 |
いびき音(ブーブー) | 低くいびきのような音 | 気管の狭窄など |
笛音(ピーピー) | 高く笛を吹いているような音 | 気管支喘息、気管支の炎症など |
捻髪音(バリバリ) | 高く小さい音 | 間質性肺炎、肺炎・心不全の初期など |
水泡音(ボコボコ) | 沸騰しているような音 | 肺炎、肺水腫、分泌物(痰)など |
摩擦音(ギュッギュッ) | 雪道を歩くような音 | 転移性がんなど |
日常生活動作・姿勢
日常生活や姿勢を確認し、いつもと違う部分がないかを確認することも重要です。
例えば、いつもは横になっている利用者が、「こっちの方が楽なんだよ…」と座位になっていたら、もしくは「夜は苦しくてずっと座っていたよ…」と言っていたら、起座呼吸の可能性があります。
*起座呼吸とは:臥位で呼吸困難が増強するために座位で呼吸をしている
座位になることで心臓の負担軽減、肺の換気スペースの確保してます。
左心不全などの肺うっ血、肺水腫、慢性閉塞性肺疾患などの疾患が考えられます。
報告の方法・ポイント
一般的に、普段と違うことが起こったらケアマネジャー・主治医に報告します。
ケアマネジャーには、どのような些細なことであれ報告をしておくと後のトラブル回避に繋がります。
主治医にも報告をすることが望ましいですが、往診かその他か、または訪問看護との関係性によっても変わってくるかと思います。
基本的に、往診であれば些細なことでも報告した方が良いでしょう。
特に呼吸器系の増悪は直接生命に関わるため、場合によっては訪問時に、その場で医師に報告をすることが求められます。
緊急度・重要度に合わせて判断しましょう。
電話するほどではないかな…という場合は、FAXで報告するのも一つです。
報告の際は、以下の点を踏まえると良いでしょう。
- 本日の訪問の様子
(→例:本日訪問時、呼吸苦の訴えがありました。昨日20時頃から出現していたようです。) - 評価した結果
(→例:バイタルサインは-------で、Sp02の低下、脈拍の上昇を認めました。聴診により上気道中心に痰の貯留を認めたため、吸引を実施しました。) - 対応したこと(→例:その後、SpO2は98%まで上昇し、呼吸苦は軽減しております。再度呼吸苦が出現した場合は、弊社の緊急時連絡先に電話をするようお伝えしています。)
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呼吸苦を訴える利用者に対する訪問看護計画書・訪問看護報告書の記載例
呼吸苦を含む内部障害を持つ利用者に対する訪問看護計画書・訪問看護報告書の記載例は、以下にまとめているのでぜひ参考にしてください。
【内部障害】訪問看護計画書の記載例・文例集【コピペ可あり】
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【内部障害】訪問看護報告書の記載例・文例集【コピペ可あり】
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訪問看護におけるフィジカルアセスメント18事例まとめ
今回ご紹介した事例以外にも、当サイトでは訪問看護におけるフィジカルアセスメントを18事例掲載しています。
どれも訪問看護ではあるあるの事例なので、ぜひ日々の業務にご活用ください!
- 「昨日転んじゃってね…」転倒した利用者に対するフィジカルアセスメント
- 「あれ、言ってることがおかしい…」認知症が疑われる利用者のフィジカルアセスメント
- 「ちょっと苦しい…」呼吸苦を訴える利用者のフィジカルアセスメント
- 「うわ!むくみが強くなってる!」浮腫がある利用者に対するフィジカルアセスメント
- 「いきなり吐いた!」嘔吐した利用者のフィジカルアセスメント
- 「ぐるぐる回ってる感じがする…」めまいがある利用者のフィジカルアセスメント
- 「体温が高い!」発熱している利用者のフィジカルアセスメント
- 「お腹が痛い…」腹痛を訴える利用者のフィジカルアセスメント
- 「うっ……胸が痛い…」胸痛を訴える利用者のフィジカルアセスメント
- 「皮膚が赤くなってる!」褥瘡がある利用者のフィジカルアセスメント
- 「なんかぼんやりしてる…?」意識レベルが低い利用者のフィジカルアセスメント
- 「ん…?骨折れてない…?」骨折が疑われる利用者のフィジカルアセスメント
- *「なんかダルいんだよな…」倦怠感を訴える利用者のフィジカルアセスメント
- *「あれ?動きが悪い…」身体機能が低下した利用者のフィジカルアセスメント
- *「手がかじかむわね…」手指の冷感がある利用者のフィジカルアセスメント
- *「おしっこ出てない…」排尿がない利用者のフィジカルアセスメント
- *「ウンチが出ない…」排便がない利用者のフィジカルアセスメント
- *「血糖値が低い…!」低血糖の利用者に対するフィジカルアセスメント
*とあるコメディカル【premium】のみで公開
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