訪問看護 フィジカルアセスメント

「うっ……胸が痛い…」胸痛を訴える利用者のフィジカルアセスメント

2022年9月16日

”訪問看護における”フィジカルアセスメントの事例集。

今回、想定するシチュエーションは、腹痛を訴える利用者に対するフィジカルアセスメントです。

今回想定するシチュエーション

「胸が痛い…」
胸痛を訴える利用者に対するフィジカルアセスメント

胸痛は生命に関わる疾患が原因である場合があるため、正確なアセスメントと適切な判断が必要となります。

特に訪問看護では心電図といった機器はないため、症状から原因を推察する力も必要となってきます。

この記事では、胸痛を訴える利用者に対するアセスメントの方法をお伝えするとともに、報告のポイントまでご紹介してまいります。

このような事例をもっと知りたい!という方は、記事の最後18事例をまとめたリンクを記載しておくので、ぜひ日々の業務にご活用ください。

胸痛を訴える利用者に対するアセスメントのポイント

胸痛を訴える利用者に対するアセスメントのポイントは、以下が考えられます。

アセスメントのポイント
・胸痛の原因
・他にはどのような症状が出ているか
・すぐに医師に報告するのが望ましいか(緊急性の有無)

一言で胸痛といっても、裏側には様々な疾患が潜んでいることがあります。

「この胸痛はどこからきているのか」、そして「緊急性が高い疾患なのか」という点は常に頭に入れてアセスメントするようにしましょう。

胸痛を訴える利用者に対するフィジカルアセスメントの方法

フィジカルアセスメントは、基本形(問診(主観的評価)→フィジカルイグザミネーション(客観的評価)→アセスメント(評価分析)→ケア・報告)に則って進めてまいります。

トコル
トコル

そもそもフィジカルアセスメントって何?どうやって進めていくの?と悩んでいる人は、まずはコチラの記事(訪問看護における"フィジカルアセスメントの目的と順番)を見てみよう!

"訪問看護における"フィジカルアセスメントの目的と順番【事例まとめ 】

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問診(主観的評価)

まずは問診をしていきましょう。

聞くべき内容は、以下が考えられます。

  • いつから痛みがあるのか
    (→何をしている時に起きたか、始まった時の様子など)
  • 痛い場所はどこか
  • どのように痛いのか
    (→圧迫される、縛られる、引き裂かれる、焼けるなど)
  • どのくらい痛いのか
    (→*VASなどで数値化をする)
  • どのくらい痛みが続いたか
    (→持続性を判断)
  • 痛みが楽になる姿勢はあるか
  • 他に痛いところはあるか
    (→放散痛の有無など)
  • 痛み以外の症状はあるか
    (→苦しい、吐き気、めまいなど)
  • いつもの内服薬は飲めているか
  • 日常生活はいつも通りできているか
    (→トイレに行けているか、食事はできているかなど)

*VASとは

VAS(Visual Analogue Scale):視覚的アナログスケール

10㎝の直線を引き、0㎝が全く痛みがない場合、10㎝が今まで経験した中で最も激しい痛みとして、現在の痛みを直線上にプロットさせる方法。

痛みの強さは0からの距離を測って評価する。

 

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これら問診をすることで、ある程度原因を予測することができます。

症状と疑われる疾患は以下の通りです。

症状疑われる疾患
15分以上続く強い胸痛
動悸、血圧低下、めまい、吐き気などを伴う
急性心筋梗塞
労作時に胸の中央〜左側にかけて締め付けられる痛みや圧迫感を生じる
首〜肩にかけての放散痛がみられることもある
数分で消失する
狭心症
急激な胸部の激痛
背部痛を伴う
大動脈解離
急な胸痛
深呼吸により痛みが増強する
気胸
急な胸痛
呼吸困難、咳、血痰などを伴う
肺血栓塞栓症
ピリピリとした激しい胸痛
体の片側に小さな水ぶくれが出現する
帯状疱疹
チクチクとした胸痛
体の片側に出現し、深呼吸や姿勢の変化で増強
肋間神経痛
嚥下障害や胸焼けを伴う逆流性食道炎
精神的負担がかかった時に生じる胸痛不安、過換気症候群など

この中でも、緊急度が高い疾患は、心筋梗塞を含む急性冠症候群、大動脈解離、肺血栓塞栓症、緊張性気胸です。

これらは死に至る胸痛=killer chest painと呼ばれています。

急に発症した激痛が見られた場合は、すぐに医師に連絡、もしくは救急要請を選択肢に入れましょう。

問診は大変重要ですが、胸痛を訴える利用者は、程度によっては会話も苦痛になることがあります。

状況に合わせて、必要最低限の問診にすることが望ましいでしょう。

本人から聞けない情報は、家族から聴取するようにしましょう。

フィジカルイグザミネーション(客観的評価)

問診の精度にかかわらず、フィジカルイグザミネーション(客観的評価)を行うことが重要です。

その際、共通して以下の点に留意をして評価していきましょう。

客観的評価をする時に気をつけること
・前回訪問時との変化
・左右差の有無
・できるだけ数値化をする

バイタルサイン・意識レベル

バイタルサインを測定し、緊急度の高さを推察します。

特に気をつけなければならないのは、killer chest painの大動脈解離です。

大動脈解離では血圧の左右差を認めます。

バイタルサインの正常値・基準値

血圧

収縮期血圧:〜120mmHg

拡張期血圧:〜80mmHg

脈拍

50~80回/分

体温

36.0度~36.9度

呼吸数

12~20回/分

 

胸痛がある利用者の場合、最も気をつけなければならないのがショック徴候です。

ショック徴候があれば、生命に直結する緊急度が高い状態であると判断できます。

ショック徴候(ショックの5P)

1.皮膚・顔面蒼白(Pallor)
2.発汗・冷汗(Perspiration)
3.虚脱(Prostration)
4.脈拍微弱・触知不能(Pulselessness)
5.呼吸不全(Pulmonary insufficiency)

意識レベルに変化がないかもあわせて評価しましょう。

意識レベルは「Japan coma scale(JCS)」「Glasgow coma scale(GCS)」といった標準化されたもので評価します。

Japan coma scale(JCS)の内容

Ⅰ.刺激しないでも覚醒している状態(1桁で表現)

delirium、confusion、senselessness

1.だいたい意識清明だが、今ひとつはっきりしない

2.見当識障害がある

3.自分の名前・生年月日が言えない

Ⅱ.刺激により覚醒、刺激をやめると眠り込む状態(2桁で表現)

stupor、lethargy、hypersomnia、somnolence、drowsiness

10.普通の呼びかけで容易に開眼する.

20.大きな声または体を揺さぶることにより開眼する.簡単な命令に応ずる.

30.痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すとかろうじて開眼する

Ⅲ.刺激をしても覚醒しない状態(3桁で表現)

deep coma、coma、semicoma

100.痛み刺激に対し、払いのけるような動作をする

200.痛み刺激で少し手足を動かしたり、顔をしかめる

300.痛み刺激に反応しない

覚醒状態により3群に分類、次に各群を各種刺激に対する反応で3段階に分類、全体で9段階に分類されています。

不穏状態があればR(restlessness)、失禁があればI(incontinence)、無動性無言があればA(akinetic mutism、apallic state)をそれぞれ数字の後につけます(100-I、20-RIなど)。

 

Glasgow coma scale(GCS)の内容

観察項目

反応

スコア

開眼 eye opening

自発的に開眼 spontaneous

4

音声により開眼 to speech

3

疼痛により開眼 to pain

2

開眼しない nil

1

最良言語反応 verbal response

見当識あり orientated

5

錯乱状態、会話混乱 confused conversation

4

不適当な言葉、言語混乱 inappropriate words

3

理解不能な声 incomprehensible sounds

2

発語しない nil

1

最良運動反応 motor response

命令に従う obeys

6

疼痛部認識可能 localises

5

四肢の逃避反応 flexes withdraws

4

四肢の異常屈曲反応 abnormal flexion

3

四肢の伸展反応 extends

2

全く動かない nil

1

言語や疼痛刺激に対する開眼反応・言語反応・運動反応の3項目について、その反応性をスコアの合計(E+V+M)により評価をします(15点満点、最低3点)。

 

視診

まず、全身の腫脹や発赤、発疹をみましょう。

感染や炎症を判断することができます。

緊急度が高い肺血栓塞栓症では深部静脈血栓を認めることから、片側の下肢の腫脹を認めることがあります。

肺血栓塞栓症が危険と言われる理由

また、消化器系に起因した胸痛や肺炎では、口腔内に吐物など異物がないかを確認することも重要になります。

触診

触診では、胸郭の動きに注目します。

正常な場合は胸郭に左右差は認めませんが、胸水や気胸、片側のみの肺炎がある場合は左右差を認めます。

打診

胸部を打診して、鼓音や濁音の有無を評価しましょう。

正常な打診音の特徴は以下にまとめておきます。

音の種類音の特徴臓器
鼓音太鼓がなるような音胃・腸
濁音詰まったような音心臓・肝臓
共鳴音響くような音
過共鳴音共鳴音よりも響く音肺(肺気腫)
無共鳴音響がない音筋肉

見逃してはならないのは、音の左右差です。

例えば、胸痛がある方の胸に鼓音を認めれば気胸であることが推察されます。

聴診

打診と同様、胸痛がある時の聴診では左右差の有無を確認することが重要です。

左右交互に聴診して左右差の有無を把握しましょう。

推奨される聴診の順番と呼吸音の特徴は以下の通りです。

正常音音調強さ
気管(支)音高い大きい
気管支肺胞音
肺胞音低い軟らか

まず、聴診をする際は「呼吸音が聞こえるか」「呼吸音は強いか・弱いか」をチェックします。

呼吸音疑うべき状態・疾患
聞こえない無気肺・呼吸停止など
強い過呼吸・肺炎・肺繊維症など
弱い無気肺・気胸・肺気腫・胸水貯留など

この時、正常ではない音があるかどうかも同時にチェックします。

正常ではない音を副雑音と言います。

副雑音の種類と特徴は以下の通りです。

音の特徴疑うべき疾患
いびき音(ブーブー)低くいびきのような音気管の狭窄など
笛音(ピーピー)高く笛を吹いているような音気管支喘息、気管支の炎症など
捻髪音(バリバリ)高く小さい音間質性肺炎、肺炎・心不全の初期など
水泡音(ボコボコ)沸騰しているような音肺炎、肺水腫、分泌物(痰)など
摩擦音(ギュッギュッ)雪道を歩くような音転移性がんなど

緊張性気胸の場合、呼吸音の左右差を認めます。

killer chest painの一つなので、見逃さないように注意しましょう。

呼吸音に異常がないのにSpO2の低下を認める場合は、同じくkiller chest painの肺血栓塞栓症が疑われます。

バイタルサインとの関連性にも注意してアセスメントすることが重要になります。

報告の方法・ポイント

一般的に、普段と違うことが起こったらケアマネジャー・主治医に報告します。

ケアマネジャーには、どのような些細なことであれ報告をしておくと後のトラブル回避に繋がります。

主治医にも報告をすることが望ましいですが、往診かその他か、または訪問看護との関係性によっても変わってくるかと思います。

基本的に、往診であれば些細なことでも報告した方が良いでしょう。

もちろん、緊急性が高い胸痛に関しては、その場で報告をして指示を仰ぎます。

緊急性が低いと判断した場合は、FAXで報告するのも良いでしょう。

報告の一例は以下の通りです。

  • 本日の訪問の様子
    (→例:本日訪問時、胸痛の訴えがありました。)
  • 評価した結果
    (→例:バイタルサインは正常、胸痛は安静時NRS2程度、深呼吸で4まで増強します。痛みは30秒ほどで消失しました。チクチクとしたような痛みが右側の肋間に沿って出現していたことから、肋間神経痛かと思われます。痛みが消失した後は昼食をいつも通り摂取され、日常生活も問題なく送れることを確認しております。)
  • その後の対応(→例:再び胸痛を認めた際は、弊社の緊急時連絡先に電話をするようお伝えしています。明日、往診の予定かと思いますので、ご高診のほどよろしくお願い申し上げます。)

報告をする際は状態を伝えるだけではなく、考えられる原因や対応したことなどをあわせると親切です。

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訪問看護におけるフィジカルアセスメント18事例まとめ

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今回ご紹介した事例以外にも、当サイトでは訪問看護におけるフィジカルアセスメントを18事例掲載しています。

どれも訪問看護ではあるあるの事例なので、ぜひ日々の業務にご活用ください!

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