訪問看護 フィジカルアセスメント

「なんかぼんやりしてる…?」意識レベルが低い利用者のフィジカルアセスメント

2022年9月19日

”訪問看護における”フィジカルアセスメントの事例集。

今回、想定するシチュエーションは、意識レベルが低い利用者に対するフィジカルアセスメントです。

今回想定するシチュエーション

「あれ?いつもよりぼんやりしてない…?」
意識レベルが低い利用者に対するフィジカルアセスメント

高齢者は様々な基礎疾患を有している場合が多く、意識障害を引き起こす原因は多岐に渡ります。

そのため、訪問中に意識レベルが低いこと、はたまた意識消失をしてしまうことも想定しなければなりません。

この記事では、意識レベルが低い利用者に対するアセスメントの方法をお伝えするとともに、報告のポイントまでご紹介してまいります。

このような事例をもっと知りたい!という方は、記事の最後18事例をまとめたリンクを記載しておくので、ぜひ日々の業務にご活用ください。

意識レベルが低い利用者に対するアセスメントのポイント

意識レベルが低い利用者に対するアセスメントのポイントは、以下が考えられます。

アセスメントのポイント
・意識レベルの低下か、消失か
・その他、どのような症状が出ているか
・なぜ意識レベルが低くなったのか
・急変対応が必要か
・すぐに医師に報告するのが望ましいか(緊急性の有無)

意識レベルの低下は、脳血管疾患だけではなく心疾患や腎疾患、代謝性疾患やショックなど全身に及びます。

まずは、なぜ意識レベルの低下を引き起こしているか探る事が重要になります。

意識障害を引き起こす疾患と状態は、「アイウエオチップス(AIUEOTIPS)」で覚えましょう。

AAlcoholアルコール
IInsulinインスリン
UUremia尿毒症
EEncephalopathy
Endocrine
Electrolytes
脳症
内分泌異常
電解質異常
OOxygen
Overdose
低酸素状態
急性薬物中毒
TTrauma
Temperature
頭部外傷
低体温/高体温
IInfection感染症
PPsychiatric精神疾患
SStroke
SAH
Shock
脳卒中
くも膜下出血
ショック状態

ただし、意識レベルは状態によっては評価よりも先に急変対応をしなければなりません(意識消失など)。

フィジカルアセスメントとともに、意識消失している利用者への急変対応も頭に入れておきましょう。

意識レベルが低い利用者に対するフィジカルアセスメントの方法

フィジカルアセスメントは、基本形(問診(主観的評価)→フィジカルイグザミネーション(客観的評価)→アセスメント(評価分析)→ケア・報告)に則って進めてまいります。

トコル
トコル

そもそもフィジカルアセスメントって何?どうやって進めていくの?と悩んでいる人は、まずはコチラの記事(訪問看護における"フィジカルアセスメントの目的と順番)を見てみよう!

"訪問看護における"フィジカルアセスメントの目的と順番【事例まとめ 】

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問診(主観的評価)

会話ができる場合、まずは問診をしていきましょう。

聞くべき内容は、以下が考えられます。

  • ボーッとする感じがするか
    (→自覚症状があるかを確認する)
  • いつからボーッとしているか
  • どのような感じか
    (→フラフラするような感じ、眠くなるような感じなど)
  • 転んでないか
  • ボーッとする以外の症状はあるか
    (→苦しい、吐き気、めまいなど)
  • 日常生活はいつも通りできていたか
    (→トイレに行けていたか、食事はできていたかなど)
  • 薬はいつも通り飲めていたか

ただし、意識レベルが低い人に長時間問診するのは望ましいものではありません。

状況に合わせて、必要最低限の問診にすることが望ましいでしょう。

本人から聞けない情報は、家族から聴取するようにしましょう。

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フィジカルイグザミネーション(客観的評価)

問診の精度にかかわらず、フィジカルイグザミネーション(客観的評価)を行うことが重要です。

その際、共通して以下の点に留意をして評価していきましょう。

客観的評価をする時に気をつけること
・前回訪問時との変化
・左右差の有無
・できるだけ数値化をする

バイタルサイン・意識レベル

まず、意識レベルを「Japan coma scale(JCS)」「Glasgow coma scale(GCS)」といった標準化されたもので評価します。

Japan coma scale(JCS)の内容

Ⅰ.刺激しないでも覚醒している状態(1桁で表現)

delirium、confusion、senselessness

1.だいたい意識清明だが、今ひとつはっきりしない

2.見当識障害がある

3.自分の名前・生年月日が言えない

Ⅱ.刺激により覚醒、刺激をやめると眠り込む状態(2桁で表現)

stupor、lethargy、hypersomnia、somnolence、drowsiness

10.普通の呼びかけで容易に開眼する.

20.大きな声または体を揺さぶることにより開眼する.簡単な命令に応ずる.

30.痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すとかろうじて開眼する

Ⅲ.刺激をしても覚醒しない状態(3桁で表現)

deep coma、coma、semicoma

100.痛み刺激に対し、払いのけるような動作をする

200.痛み刺激で少し手足を動かしたり、顔をしかめる

300.痛み刺激に反応しない

覚醒状態により3群に分類、次に各群を各種刺激に対する反応で3段階に分類、全体で9段階に分類されています。

不穏状態があればR(restlessness)、失禁があればI(incontinence)、無動性無言があればA(akinetic mutism、apallic state)をそれぞれ数字の後につけます(100-I、20-RIなど)。

 

Glasgow coma scale(GCS)の内容

観察項目

反応

スコア

開眼 eye opening

自発的に開眼 spontaneous

4

音声により開眼 to speech

3

疼痛により開眼 to pain

2

開眼しない nil

1

最良言語反応 verbal response

見当識あり orientated

5

錯乱状態、会話混乱 confused conversation

4

不適当な言葉、言語混乱 inappropriate words

3

理解不能な声 incomprehensible sounds

2

発語しない nil

1

最良運動反応 motor response

命令に従う obeys

6

疼痛部認識可能 localises

5

四肢の逃避反応 flexes withdraws

4

四肢の異常屈曲反応 abnormal flexion

3

四肢の伸展反応 extends

2

全く動かない nil

1

言語や疼痛刺激に対する開眼反応・言語反応・運動反応の3項目について、その反応性をスコアの合計(E+V+M)により評価をします(15点満点、最低3点)。

 

次にバイタルサインを測定し、いつもと変わりがないかを評価します。

バイタルサインの正常値・基準値

血圧

収縮期血圧:〜120mmHg

拡張期血圧:〜80mmHg

脈拍

50~80回/分

体温

36.0度~36.9度

呼吸数

12~20回/分

 

意識消失や意識レベルが悪化、バイタルサインが異常値を示している利用者は、この段階で医師に連絡、場合によっては救急要請をしましょう。

視診

意識レベルの低下は様々な原因が考えられるため、視診も全身をみていく必要があります。

視診でみるべきポイント
・顔色(蒼白、紅潮など)
・四肢の動き(麻痺や痙攣など)
・姿勢(起座呼吸など)
・呼吸パターン

まず、緊急度が高い状態かを判断する指標として、ショック徴候があります。

顔面をみて蒼白ではないか、発汗がないかは重要な判断基準です。

ショック徴候(ショックの5P)

1.皮膚・顔面蒼白(Pallor)
2.発汗・冷汗(Perspiration)
3.虚脱(Prostration)
4.脈拍微弱・触知不能(Pulselessness)
5.呼吸不全(Pulmonary insufficiency)

脳血管疾患による意識障害の場合は、四肢に麻痺や痙攣が見られる事があります。

両手をバンザイしてもらったり、手を握ってもらい握力に左右差があるかどうかをみます。

軽微な麻痺を評価するものとしてバレー徴候がありますが、意識レベルが低下している人には指示が入らない可能性があるので、正確性は乏しくなることを覚えておきましょう。

バレー徴候(上肢)の方法

立位または座位で両上肢を手掌面を上に向けたまま肩関節90度前方挙上位に保持しておくように指示をします。

この時、麻痺側の上肢は下降しながら回内してきます。

 

バレー徴候(下肢)の方法

腹臥位において両側の膝関節を45度屈曲位に保持しておくように指示をします。

この時、麻痺の下肢は落下してきます。

 

もし、意識レベルが低く指示が入らない場合は、痛み刺激を与えて動きに左右差があるかをみるのも効果的です(爪床刺激など)。

爪床刺激の方法

爪床刺激:ペンやハンマーの柄などを用いて、左右の手指または足趾の爪床を鈍的に強く圧迫する。

 

姿勢によっても原因を推察する事ができます。

例えば、起座呼吸をしていたら心疾患や循環不全を疑います。

この場合、呼吸パターン(呼吸回数やリズムなど)も評価しましょう。

  • 口すぼめ呼吸(口を閉じて鼻から息を吸い、口を細めて細く息を吐く呼吸)の有無
  • 鼻翼呼吸(息を吸うときに小鼻が開く呼吸)の有無
  • 奇異呼吸(吸気時に胸郭が収縮し、呼気時に拡張する呼吸)の有無
  • 死戦期呼吸(喘ぐような、不規則で途切れ途切れの呼吸)の有無

特に注意をしなければならないのが、死戦期呼吸です。

この状態は呼吸停止とみなすため、速やかに救急要請と急変対応をします。

触診

ショック状態の際は、皮膚の冷感や湿潤を伴います。

ただし、これらは低血糖でも認めるため、現病歴や既往歴を考慮して判断する事が求められます。

また、四肢を触ってみて、左右どちらかの上下肢が異常に筋緊張が高くなっていたり、逆にだら〜んと弛緩していたら脳血管障害を疑います。

打診

腹部を打診して、鼓音や濁音の有無を評価しましょう。

正常な打診音の特徴は以下にまとめておきます。

音の種類音の特徴臓器
鼓音太鼓がなるような音胃・腸
濁音詰まったような音心臓・肝臓
共鳴音響くような音
過共鳴音共鳴音よりも響く音肺(肺気腫)
無共鳴音響がない音筋肉

腹水がある場合、仰臥位だと側腹部で濁音、中央で鼓音を聴取することができます。

腹水に加えて黄疸がある場合は、肝性脳症による意識障害が疑われます。

聴診

起座呼吸を認めた場合や呼吸パターンの変調を認めた場合は、呼吸音を聴診します。

副雑音がある場合、意識障害によって誤嚥をしていることが推察されます。

副雑音の種類と特徴は以下の通りです。

音の特徴疑うべき疾患
いびき音(ブーブー)低くいびきのような音気管の狭窄など
笛音(ピーピー)高く笛を吹いているような音気管支喘息、気管支の炎症など
捻髪音(バリバリ)高く小さい音間質性肺炎、肺炎・心不全の初期など
水泡音(ボコボコ)沸騰しているような音肺炎、肺水腫、分泌物(痰)など
摩擦音(ギュッギュッ)雪道を歩くような音転移性がんなど

また、意識障害がある場合は舌根が沈下して気道が狭窄・閉塞している可能性があります。

気道が閉塞している場合は、上気道でストライダー音(呼気で聞こえる高音調の呼吸音)が聴診できます。

緊急度が高い状態なので、すぐに急変対応をする事が求められます。

意識消失している利用者への急変対応

意識消失している利用者への急変対応で一番重要なことは、気道の確保です。

舌根が沈下し、気道が狭窄・閉塞している可能性があるので、頭部後屈顎先挙上法をして気道確保をしましょう。

頭部後屈顎先挙上法の方法

頭を後屈させ、顎先を挙上させます。

 

もし、気道内の異物による閉塞であれば、異物をハイムリック法で取り除くことが求められます。

ハイムリック法の方法

①利用者の背後に回る

②片手で拳を作り、利用者の体に両手を回す

③拳を腹部(へその上あたり)に当て、もう片方の手を重ねる

④素早く上へ突き上げる

異物が吐き出されるまで続けます。

 

ただし、ハイムリック法はまだ意識がある場合に使える対応法です。

呼吸停止・心肺停止している場合は、速やかに救急要請し、救命処置を開始します。

バッグバルブマスクがある場合は使用して、呼吸の補助を行います。

胸部圧迫の方法

①左右の手を重ね、手の根元で胸の真ん中を押す

②胸が5cm沈み込む強さで圧迫をする

 

バッグバルブマスクの使用方法

①口と鼻にマスクを当て、漏れがないようにバッグを押す

②胸郭がやや挙上する程度、 間隔は5秒に1回程度とする

 

報告の方法・ポイント

一般的に、普段と違うことが起こったらケアマネジャー・主治医に報告します。

ケアマネジャーには、どのような些細なことであれ報告をしておくと後のトラブル回避に繋がります。

主治医にも報告をすることが望ましいですが、往診かその他か、または訪問看護との関係性によっても変わってくるかと思います。

基本的に、往診であれば些細なことでも報告した方が良いでしょう。

今回のような意識レベルの低下は緊急性が高い事が想定されるため、その場で報告をして指示を仰いだほうが良いでしょう。

緊急性が低いと判断した場合は、FAXで報告するのも良いです。

報告の一例は以下の通りです(緊急性が高い状態で、訪問中に指示をいただいたと仮定をします)。

  • 本日の訪問の様子
    (→例:本日は〇〇様へのご指示ありがとうございました。
    本日訪問時、意識レベルの低下を確認しました。)
  • 評価した結果
    (→例:意識レベルはJCSⅡ-30、痛み刺激に対してかろうじて開眼を認める程度でした。バイタルサインは-------で血圧上昇しています。痛み刺激にて右上下肢の動きはまったく見られず、脳血管疾患の疑いが強かったため、先生にご連絡させていただきました。)
  • 対応したこと
    (→例:先生のご指示通り、救急要請をしております。その後、ご家族様より〇〇病院に搬送され、左脳梗塞にて入院したとご連絡をいただきました。)

報告をする際は、必要な情報のみを的確に伝える事が望まれます。

そのためには、どのような原因が考えられるかといった知識が必要になるのは言うまでもありません。

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訪問看護におけるフィジカルアセスメント18事例まとめ

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今回ご紹介した事例以外にも、当サイトでは訪問看護におけるフィジカルアセスメントを18事例掲載しています。

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