”訪問看護における”フィジカルアセスメントの事例集。
今回、想定するシチュエーションは、骨折が疑われる利用者に対するフィジカルアセスメントです。
今回想定するシチュエーション
「骨が折れてるかも…」
骨折が疑われる利用者に対するフィジカルアセスメント
高齢者は骨密度が低下していることが多く、少しの衝撃でも骨折をしてしまうことがあります。
「知らぬ間に骨折」という言葉がある通り、中には骨折に気付かない高齢者もいるので、私たちがしっかりと評価をして適切な対応をすることが望まれます。
この記事では、骨折が疑われる利用者に対するアセスメントの方法をお伝えするとともに、報告のポイントまでご紹介してまいります。
このような事例をもっと知りたい!という方は、記事の最後に18事例をまとめたリンクを記載しておくので、ぜひ日々の業務にご活用ください。
骨折が疑われる利用者に対するアセスメントのポイント
骨折が疑われる利用者に対するアセスメントのポイントは、以下が考えられます。
- アセスメントのポイント
- ・本当に骨折をしているか否か
・なぜ骨折をしたのか
・骨折の場所はどこか
・どのような症状が出ているか
・応急処置が必要か
・すぐに医師に報告するのが望ましいか(緊急性の有無)
骨折を疑う場合、原因と場所を特定し、必要であればその場所で応急処置をすることが望まれます。
骨折を契機に生命に関わってくることもあるので、迅速かつ慎重な対応をしていきましょう。
骨折が疑われる利用者に対するフィジカルアセスメントの方法
フィジカルアセスメントは、基本形(問診(主観的評価)→フィジカルイグザミネーション(客観的評価)→アセスメント(評価分析)→ケア・報告)に則って進めてまいります。
そもそもフィジカルアセスメントって何?どうやって進めていくの?と悩んでいる人は、まずはコチラの記事(訪問看護における"フィジカルアセスメントの目的と順番)を見てみよう!
"訪問看護における"フィジカルアセスメントの目的と順番【事例まとめ 】
続きを見る
問診(主観的評価)
まずは問診をしていきましょう。
聞くべき内容は、以下が考えられます。
- いつもとお変わりはありますか
(→本人が異常に気づいているか確認する) - 転倒をしたか
- 痛い場所はあるか
- どのくらい痛いのか
(→*VASなどで数値化をする) - 他に痛いところはあるか
(→放散痛の有無など) - 痛み以外の症状はあるか
(→苦しい、吐き気、めまいなど) - 日常生活はいつも通りできていたか
(→トイレに行けていたか、食事はできていたかなど)
VAS(Visual Analogue Scale):視覚的アナログスケール
10㎝の直線を引き、0㎝が全く痛みがない場合、10㎝が今まで経験した中で最も激しい痛みとして、現在の痛みを直線上にプロットさせる方法。
痛みの強さは0からの距離を測って評価する。
とあるコメディカル【premium】では、問診票をはじめとする、現場で必須な書類を300種類以上公開しています。
「無駄な作業を減らしたい!」という人は、ぜひチェックしてみてください!
300種類以上の書類がダウンロードし放題!
骨折は正確な問診ができれば、ある程度原因を推察することができます。
多くは転倒や転落が考えられますが、「どのように転んだか」まで聴取できれば骨折の部位もある程度推察することができます。
- 尻もちをついた→腰椎圧迫骨折か?
- 転ぶ時に手をついた→橈骨遠位端の骨折か?
- 横になるように倒れた→大腿骨頸部骨折か?
ただし、痛みが強い場合は、長引く問診は負担になってしまいます。
状況に合わせて、必要最低限の問診にすることが望ましいでしょう。
本人から聞けない情報は、家族から聴取するようにしましょう。
フィジカルイグザミネーション(客観的評価)
問診の精度にかかわらず、フィジカルイグザミネーション(客観的評価)を行うことが重要です。
その際、共通して以下の点に留意をして評価していきましょう。
- 客観的評価をする時に気をつけること
- ・前回訪問時との変化
・左右差の有無
・できるだけ数値化をする
バイタルサイン・意識レベル
骨折をしたことで出血が起こり、ショック状態になってしまうことも考えられます。
ショック徴候があれば、生命に直結する緊急度が高い状態であると判断できます。
すぐに医師に連絡、もしくは救急要請を選択肢に入れましょう。
1.皮膚・顔面蒼白(Pallor)
2.発汗・冷汗(Perspiration)
3.虚脱(Prostration)
4.脈拍微弱・触知不能(Pulselessness)
5.呼吸不全(Pulmonary insufficiency)
そのため、バイタルサインを測定して緊急度の高さを推察することが重要になります。
ただし、骨折が疑われる場所で血圧を測定するのは禁忌です(例:右上腕骨骨折が疑われる際に右上肢で血圧測定をするなど)。
血圧 | 収縮期血圧:〜120mmHg |
拡張期血圧:〜80mmHg | |
脈拍 | 50~80回/分 |
体温 | 36.0度~36.9度 |
呼吸数 | 12~20回/分 |
意識レベルに変化がないかもあわせて評価しましょう。
意識レベルは「Japan coma scale(JCS)」や「Glasgow coma scale(GCS)」といった標準化されたもので評価します。
Ⅰ.刺激しないでも覚醒している状態(1桁で表現) delirium、confusion、senselessness | 1.だいたい意識清明だが、今ひとつはっきりしない |
2.見当識障害がある | |
3.自分の名前・生年月日が言えない | |
Ⅱ.刺激により覚醒、刺激をやめると眠り込む状態(2桁で表現) stupor、lethargy、hypersomnia、somnolence、drowsiness | 10.普通の呼びかけで容易に開眼する. |
20.大きな声または体を揺さぶることにより開眼する.簡単な命令に応ずる. | |
30.痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すとかろうじて開眼する | |
Ⅲ.刺激をしても覚醒しない状態(3桁で表現) deep coma、coma、semicoma | 100.痛み刺激に対し、払いのけるような動作をする |
200.痛み刺激で少し手足を動かしたり、顔をしかめる | |
300.痛み刺激に反応しない |
覚醒状態により3群に分類、次に各群を各種刺激に対する反応で3段階に分類、全体で9段階に分類されています。
不穏状態があればR(restlessness)、失禁があればI(incontinence)、無動性無言があればA(akinetic mutism、apallic state)をそれぞれ数字の後につけます(100-I、20-RIなど)。
観察項目 | 反応 | スコア |
開眼 eye opening | 自発的に開眼 spontaneous | 4 |
音声により開眼 to speech | 3 | |
疼痛により開眼 to pain | 2 | |
開眼しない nil | 1 | |
最良言語反応 verbal response | 見当識あり orientated | 5 |
錯乱状態、会話混乱 confused conversation | 4 | |
不適当な言葉、言語混乱 inappropriate words | 3 | |
理解不能な声 incomprehensible sounds | 2 | |
発語しない nil | 1 | |
最良運動反応 motor response | 命令に従う obeys | 6 |
疼痛部認識可能 localises | 5 | |
四肢の逃避反応 flexes withdraws | 4 | |
四肢の異常屈曲反応 abnormal flexion | 3 | |
四肢の伸展反応 extends | 2 | |
全く動かない nil | 1 |
言語や疼痛刺激に対する開眼反応・言語反応・運動反応の3項目について、その反応性をスコアの合計(E+V+M)により評価をします(15点満点、最低3点)。
視診
おそらく、骨折を疑っている時点で、視診から何かしらの情報を得ているかと思います。
- 高齢者が骨折しやすい部位
- ・大腿骨頸部骨折
・脊椎圧迫骨折
・上腕骨外顆骨折
・橈骨遠位端骨折
骨折が疑われる部位は、腫脹や発赤を認めることが多いです。
骨折が強いと、骨がずれたり(転移)、曲がったりしている(変形)しているので、一目でわかる事が多いです。
ただし、圧迫骨折や不全骨折の場合は視診でわかることはほとんどないので、触診や打診をあわせて行う必要があります。
転倒でよく見られる大腿骨頸部骨折は、下肢の長さに左右差が見られる事があります。
触診
触診では、骨折が疑われる部位に熱を持っている場合があるので、手背で皮膚の温度を評価しましょう。
また、四肢に触れて知覚異常の有無を判断するのも効果的です。
脊椎圧迫骨折で神経症状が見られている場合は、デルマトームの図と比較をすると分かりやすいでしょう。
触診は大事ですが、骨折による変形が見られている場合は、無理に動かさず、そのままの状態で固定をして病院に受診をさせなければなりません。
「アセスメントをしなきゃ…」と、色々と触ってしまいがちですが、動かしすぎるのも良くないことは覚えておきましょう。
打診
骨折を疑う場合、一番困るのが「本当に折れているのか、単に打撲なのか」という点だと思います。
変形や転移が見られていた場合は骨折していると判断して良いでしょう。
それでもわからない場合は、打診をして判断します。
痛みがある部分を軽く指で叩くと、骨折では受傷部位まで響くように痛みが走りますが、打撲では響くことはありません。
しかし、正確な診断はX線でしかわからないことは押さえておきましょう。
聴診
もし、胸部に出血班を認めたり痛みがある場合は、呼吸状態を評価することも重要になります。
推奨される聴診の順番と呼吸音の特徴は以下の通りです。
正常音 | 音調 | 強さ |
気管(支)音 | 高い | 大きい |
気管支肺胞音 | 中 | 中 |
肺胞音 | 低い | 軟らか |
まず、聴診をする際は「呼吸音が聞こえるか」「呼吸音は強いか・弱いか」をチェックします。
呼吸音 | 疑うべき状態・疾患 |
聞こえない | 無気肺・呼吸停止など |
強い | 過呼吸・肺炎・肺繊維症など |
弱い | 無気肺・気胸・肺気腫・胸水貯留など |
この時、正常ではない音があるかどうかも同時にチェックします。
正常ではない音を副雑音と言います。
副雑音の種類と特徴は以下の通りです。
音 | 音の特徴 | 疑うべき疾患 |
いびき音(ブーブー) | 低くいびきのような音 | 気管の狭窄など |
笛音(ピーピー) | 高く笛を吹いているような音 | 気管支喘息、気管支の炎症など |
捻髪音(バリバリ) | 高く小さい音 | 間質性肺炎、肺炎・心不全の初期など |
水泡音(ボコボコ) | 沸騰しているような音 | 肺炎、肺水腫、分泌物(痰)など |
摩擦音(ギュッギュッ) | 雪道を歩くような音 | 転移性がんなど |
骨折をしていた利用者に対する応急処置
もし、骨折を確認した場合はすぐに病院を受診します。
その間、状態が悪化しないように応急処置を施すことも訪問看護の仕事といえるでしょう。
応急処置の基本には、「RICEの法則」というものがあります。
RICEの法則は、rest(安静)、ice(冷却)、compression(圧迫)、elevation(挙上)の頭文字をとったものです。
- RICEの法則
- ・rest(安静):出血や痛みの増強を引き起こさないため、安静を保ちます。
・ice(冷却):炎症を抑えるため、患部の冷却を行います。
・compression(圧迫):出血を伴う場合は、圧迫をして止血をします。
・elevation(挙上):患部は心臓より高く保つ事が基本です。
報告の方法・ポイント
一般的に、普段と違うことが起こったらケアマネジャー・主治医に報告します。
ケアマネジャーには、どのような些細なことであれ報告をしておくと後のトラブル回避に繋がります。
主治医にも報告をすることが望ましいですが、往診かその他か、または訪問看護との関係性によっても変わってくるかと思います。
ただし、骨折に関しては緊急度が高い事が多いと判断するので、その場で報告をして指示を仰ぐ事が求められます。
もし、緊急性が低いと判断した場合は、FAXで報告するのも良いでしょう。
報告の一例は以下の通りです(緊急性が高い状態で、訪問中に指示をいただいたと仮定をします)。
- 本日の訪問の様子
(→例:本日は〇〇様へのご指示ありがとうございました。
本日訪問時、股関節周囲の痛みの訴えがありました。) - 評価した結果
(→例:バイタルサインは正常、意識レベルは清明で会話可能。本日早朝に段差で転んだとのことでした。右股関節は安静時でもNSR8と強い痛みを認め、熱感と腫脹を認めています。他動運動・自動運動ともに痛みにより不可です。) - その後の対応
(→例:右大腿骨頸部骨折の疑いが強かったため、先生にご連絡させていただき、ご指示通り救急要請をしております。その後、ご家族様より〇〇病院に搬送され、右大腿骨頸部骨折にて入院したとご連絡をいただきました。手術を予定しているとのことです。)
緊急度が高い場合は、すぐに医師に連絡をするか救急要請をします。
利用者によって、まずは必ず医師に連絡をする、医師に連絡をせずにすぐ救急要請して良いなどの決め事がある場合があるので、必ず確認しておくようにしましょう。
とあるコメディカル【premium】では、医師・ケアマネへの報告文章を100例以上公開しています。
「どのように報告したら良いか分からない」「いつも緊張してしまう」という人は、ぜひ参考にしてみてください!
医師・ケアマネへの報告文章アイデアが100例以上!
整形外科疾患の利用者に対する訪問看護計画書・訪問看護報告書の記載例
整形外科疾患の利用者に対する訪問看護計画書・訪問看護報告書の記載例は、以下にまとめているのでぜひ参考にしてください。
【整形外科疾患】訪問看護計画書の記載例・文例集【コピペ可あり】
続きを見る
【整形外科疾患】訪問看護報告書の記載例・文例集【コピペ可あり】
続きを見る
訪問看護におけるフィジカルアセスメント18事例まとめ
今回ご紹介した事例以外にも、当サイトでは訪問看護におけるフィジカルアセスメントを18事例掲載しています。
どれも訪問看護ではあるあるの事例なので、ぜひ日々の業務にご活用ください!
- 「昨日転んじゃってね…」転倒した利用者に対するフィジカルアセスメント
- 「あれ、言ってることがおかしい…」認知症が疑われる利用者のフィジカルアセスメント
- 「ちょっと苦しい…」呼吸苦を訴える利用者のフィジカルアセスメント
- 「うわ!むくみが強くなってる!」浮腫がある利用者に対するフィジカルアセスメント
- 「いきなり吐いた!」嘔吐した利用者のフィジカルアセスメント
- 「ぐるぐる回ってる感じがする…」めまいがある利用者のフィジカルアセスメント
- 「体温が高い!」発熱している利用者のフィジカルアセスメント
- 「お腹が痛い…」腹痛を訴える利用者のフィジカルアセスメント
- 「うっ……胸が痛い…」胸痛を訴える利用者のフィジカルアセスメント
- 「皮膚が赤くなってる!」褥瘡がある利用者のフィジカルアセスメント
- 「なんかぼんやりしてる…?」意識レベルが低い利用者のフィジカルアセスメント
- 「ん…?骨折れてない…?」骨折が疑われる利用者のフィジカルアセスメント
- *「なんかダルいんだよな…」倦怠感を訴える利用者のフィジカルアセスメント
- *「あれ?動きが悪い…」身体機能が低下した利用者のフィジカルアセスメント
- *「手がかじかむわね…」手指の冷感がある利用者のフィジカルアセスメント
- *「おしっこ出てない…」排尿がない利用者のフィジカルアセスメント
- *「ウンチが出ない…」排便がない利用者のフィジカルアセスメント
- *「血糖値が低い…!」低血糖の利用者に対するフィジカルアセスメント
*とあるコメディカル【premium】のみで公開
また、「紙ベースで持ち歩きたい!」「困ったとき現場で見たい!」「お守りとしてカバンに入れておきたい!」という声を多くいただいたことから、フィジカルアセスメント集をまとめた印刷物も販売しております。
おかげさまで2,500冊以上の販売実績がある、大変ご好評いただいている販売物となっております。
興味がある方は、コチラの記事(訪問看護におけるフィジカルアセスメント集販売ページ【印刷物】)をぜひ参考にしてみてください。
訪問看護計画書・訪問看護報告書の記載例も大好評販売中です♪
訪問看護計画書・報告書の記載例・フィジカルアセスメント事例集販売ページ
続きを見る