この記事では、「精神科訪問看護指示書」の書き方を完全解説しています。
「訪問看護ステーションから指示書依頼がきたけどどう書けばいいの?」
「普通の訪問看護指示書と違うの?」
「記載例を教えて!」
このような疑問にお答えしてまいります。
特に令和6年(2024年)には、精神科訪問看護指示書のフォーマットが変更(「傷病名コード」項目の追加)となりました。
その点もあわせて解説してまいります。
最後には、精神科訪問看護指示書の記載例を多数紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください!
精神科訪問看護指示書とは
精神科訪問看護指示書とは、何らかの精神疾患を有する利用者に対して、訪問看護を行うことを指示する様式になります。
(普通)訪問看護指示書同様、精神科訪問看護指示書が発行されなければ訪問看護業務をすることはできません。
精神科訪問看護指示書は、精神科の医師が記載をします。
精神科訪問看護指示書のフォーマット
精神科訪問看護指示書のフォーマットです。
ダウンロードは無料です。
内容に大きな相違がなければ、独自のフォーマットを使用しても構いません。
手書きでもパソコンで作成しても構いません。
よくある質問で、「訪問看護ステーションからの依頼書の中に、指定の用紙が同封されていたんですがこの用紙に書かなければいけないんですか?」と聞かれます。
答えは「No」です。
もちろん、その用紙に記載しても構いませんが、独自のフォーマットを使用しても構いません。
ただ、その際は依頼先を書き忘れがちになるので気をつけましょう。
精神科訪問看護指示書の書き方
精神科訪問看護指示書は、大きく⑦つのブロックに分けることができます。
①指示期間
②基本情報
③主たる傷病名・傷病名コード
④現在の状況
⑤精神訪問看護に関する留意事項及び指示事項
⑥緊急時の連絡先など
⑦医療機関名(医師名)・依頼先
①指示期間
まずは、精神科訪問看護指示書の「指示期間」についてです。
精神科訪問看護指示書も、(普通)訪問看護指示書と同様に最長期間は6ヶ月と決められています。
その間でしたら、医師の判断で設定していただいて構いません。
考え方としては、
「この利用者は状態安定しているから、最長の6ヶ月でいいだろう」
「かなり状態が不安定だから1ヶ月にしよう」
このような感じで決めている医師が多いかと思います。
しかし、実際には6ヶ月を超えた期間を設定することが多々あります。
指示の開始日は、訪問看護ステーションから指定(お願い)があった場合は、ぜひそちらに従って欲しいと思います。
なぜなら、「利用者ができるだけ早く介入を望んでいる」、「うつ状態がひどくとても生活ができる状態ではない」など、実際の現場では早急な介入が必要になっていることがあるからです。
もし、開始日の指定(お願い)がなかった場合は、「医師が記載した日」を開始日に設定することが多いでしょう。
ちなみに、期限の記載がない場合は、指示日より1ヶ月が有効期間となります。
また、指示期間中でも状態などが変わった場合は、再度発行することが可能です。
②基本情報
この項目は「名前」や「住所」などなので、忠実に記載していただければ特にトラブルになることはないでしょう。
③主たる傷病名・傷病名コード
主たる傷病名を記載します。
(普通)訪問看護指示書では、傷病名によって介護保険になったり医療保険になったり分かりにくい部分がありましたが、精神科訪問看護指示書はどのような傷病名であれ、発行された時点で医療保険での介入となります。
一点、気をつけるべきことは、精神科訪問看護指示書を発行している以上、精神科の病名を記載するようにしましょう。
確かに、精神科訪問看護指示書が発行されている以上、精神科の訪問看護は可能ですが、監査が入った場合、「傷病名が精神疾患ではないけど、なぜ精神科訪問看護指示書が発行されてるの?」と指摘される可能性は大です。
もし、精神科の傷病名がない場合は、(普通)訪問看護指示書で記載をするようにしましょう。
また、2024年のトリプル改定以降、傷病名コードの記載が求められました。
これはオンライン請求に対応するためです。
傷病名コードがわからない場合は、厚生労働省が提供している「診療報酬情報提供サービス」をご活用ください。
認知症は精神科訪問看護指示書の適応ですか?
病名が認知症の場合は、介護保険の訪問看護(【普通】訪問看護指示書)が優先となります!
④現在の状況
精神科訪問看護指示書における現在の状況は、以下の7項目からなります。
- 精神科訪問看護指示書における現在の状況
- 病状・治療状況
投薬中の薬剤の用量・用法
病名告知
治療の受け入れ
複数名訪問の必要性
短時間訪問の必要性
日常生活自立度
病状・治療状況
この項目は特別なルールはありません。
病状とその治療状況を記載しましょう。
具体的な記載例は、この記事最後に紹介する「精神科訪問看護指示書の疾患別記載例」を参考にしてみてください。
投薬中の薬剤の用量・用法
投薬中の薬剤を記載します。
内服が多くて指示書の欄に書ききれない場合は、「*別紙参照」と記載の上、別紙に記載しても構いません。
病名告知
本人に対して病名を告知しているか否かを記載します。
「あり」または「なし」と記載をすれば構いません。
治療の受け入れ
現在の治療に対する受け入れ状況を記載します。
- 治療の受け入れ項目の記載例
- 「良好」
「病名は告知しているものの病識欠如による怠薬あり」
「解離性障害により治療を拒否する場面がしばしば見られる」
複数名訪問の必要性
複数名訪問とは、看護師(または作業療法士)が単独ではなく複数名で訪問することを指します。
複数名訪問の必要性を、「あり」または「なし」で記載します。
判断基準は以下の通りです。
- 複数名訪問を「あり」と判断する基準
- ・暴力行為、著しい迷惑行為、器物破損行為等が認められる者
・利用者の身体的理由により一人の看護師等による訪問看護が困難と認められる者
・利用者及びその家族それぞれへの支援が必要な者
その他の理由でも、医師が複数名訪問が必要と判断をすれば「あり」と記載して構いません。
短時間訪問の必要性
短時間訪問の必要性を、「あり」または「なし」で記載します。
基本的に、精神科訪問看護は30分以上となっていますが、利用者によっては「長居することが必ずしも良い方向に向かうとは限らない」状況もあるかと思います。
短時間訪問の必要性を「あり」と指示すれば、状況によっては30分未満で訪問を終了することが可能となります。
日常生活自立度
日常生活自立度(認知症の状況)を記載します。
ランク | 判断基準 | 症状・行動の例 |
---|---|---|
Ⅰ | 何らかの認知症の症状が見られるが、日常生活は家庭内及び社会的にほぼ自立している | |
Ⅱa | 家庭外において、日常生活に支障を来たすような症状・行動や意思疎通の困難さが多少見られているも、誰かが注意していれば自立できる。 | 道に迷う、買い物や金銭管理にミスが目立つなど |
Ⅱb | 家庭内において、日常生活に支障を来たすような症状・行動や意思疎通の困難さが多少見られているも、誰かが注意していれば自立できる。 | 服薬管理のミスが目立つ、電話の応対や訪問者の対応ができないなど |
Ⅲa | 日常生活に支障を来たすような症状・行動や意思疎通の困難さが見られ、介護を必要とする。(日中を中心) | 食事・排泄・着替えなど日常生活動作が上手にできない、時間がかかるなど 徘徊・失禁・奇声・火の不始末・不潔行為など |
Ⅲb | 日常生活に支障を来たすような症状・行動や意思疎通の困難さが見られ、介護を必要とする。(夜間を中心) | *ランクⅢaと同じ |
Ⅳ | 日常生活に支障を来たすような症状・行動や意思疎通の困難さが頻繁に見られ、常に介護を必要とする。 | *ランクⅢaと同じ |
M | 著しい精神症状や問題行動あるいは重篤な身体疾患が見られ、専門医療を必要とする。 | せん妄・妄想・自傷(他害)行為など精神症状や精神症状に起因する問題行動が継続する状態 |
*認知症の症状がない場合は、記載しなくてOKです。
⑤精神科訪問看護に関する留意事項及び指示事項
精神科訪問看護に関する留意事項及び指示事項は、以下の7項目からなります。
- 精神訪問看護に関する留意事項及び指示事項
- 1 生活リズムの確率
2 家事能力、社会技能等の獲得
3 対人関係の改善(家族含む)
4 社会資源活用の支援
5 薬物療法継続への援助
6 身体合併症の発症・悪化の防止
訪問看護で行って欲しい事項に○印、もしくは留意事項・指示事項を文章で記載しましょう。
一点、注意すべきこととして、精神科訪問看護指示書が発行されている利用者に対するリハビリは*作業療法士が行います。
*制度上、精神科訪問看護指示書が発行されている利用者に対しては作業療法士によるリハビリしか行えない(理学療法士・言語聴覚士は訪問できない)。
利用者に対してリハビリを行って欲しい場合、特別リハビリが必要である旨の記載義務はありませんが、「2 家事能力、社会技能等の獲得」欄や「6 身体合併症の発症・悪化の防止」欄に、一筆付け加えておくとトラブルが少なくなるでしょう。
- リハビリが必要である場合の記載例
- ・「2 家事能力、社会技能等の獲得」:簡単な調理ができるよう作業療法士による支援が必要。
・「6 身体合併症の発症・悪化の防止」:引きこもりがちのため廃用症候群の悪化が懸念される。作業療法士による支援が必要。
⑥緊急時・不在時の連絡先など
「緊急時の連絡先」は、訪問看護を行なっている時に緊急な事象が起こった際の連絡先を記載します。
「主治医との情報交換の手段」は、どのような手段で連絡を入れて欲しいかと記載します。
⑦医療機関名(医師名)・依頼先
指示書を記載した日付、医療機関名(住所・TEL・FAX含む)、医師名と医師の捺印を記載します。
最後の捺印が抜けてしまうことが多いので注意をしましょう。
捺印がないと、この精神科訪問看護指示書は使用できません。
後日、訪問看護ステーションから「医師の捺印がなかったので再発行をお願いします」と電話がかかってくることはあるあるです。
最後に依頼先(訪問看護ステーション名)を記載して終了です。
この依頼先を記載すれば、訪問看護ステーションから送られてきた指示書ではなく、各医療機関独自のフォーマットを使用しても構いません。
訪問看護指示書のあるあるトラブルと対処法を完全解説!
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精神科訪問看護指示書の疾患別記載例
それでは、精神科訪問看護指示書の記載例を疾患別にご紹介します。
あくまでも1例なので参考程度にお願いいたします。
*画像クリックで拡大します。
統合失調症
主たる傷病名 |
統合失調症 |
病状・治療状態 |
被害妄想・幻聴などの病的体験が突出する状態。怠薬多く、薬物療法の効果が得られにくい。 |
うつ病
主たる傷病名 |
うつ病 |
病状・治療状態 |
抑うつ気分・意欲低下・易疲労感があり閉居がちな状態である。薬物療法・作業療法士によるリハビリにて状態観察中。 |
(アルコール)依存症
主たる傷病名 |
アルコール依存症 |
病状・治療状態 |
現状、断酒を継続できている。薬物療法・作業療法士による運動療法を継続していく。 |
自閉症スペクトラム
主たる傷病名 |
自閉症スペクトラム |
病状・治療状態 |
内服を含む身辺の自己管理が困難。そのため定期的な内服は中止して訪問看護・作業療法のアプローチで状態観察中。 |
解離性人格障害
主たる傷病名 |
解離性人格障害 |
病状・治療状態 |
身体がピリピリするなど感覚異常様の訴えが慢性化している。過去にはヒステリー発作による入退院を繰り返していたが最近は鎮静化している。 |