”訪問看護における”フィジカルアセスメントの事例集。
今回、想定するシチュエーションは、嘔吐した利用者に対するフィジカルアセスメントです。
今回想定するシチュエーション
訪問したらいきなり吐いた!
嘔吐した利用者に対するフィジカルアセスメント
嘔吐は、緊急性が低い原因から生命に関わる原因まで、様々な原因によって誘発されます。
そのため、「なぜ嘔吐をしたのか」という部分をしっかりとアセスメントすることが重要になります
この記事では、嘔吐した利用者に対するアセスメントの方法をお伝えするとともに、報告のポイントまでご紹介してまいります。
このような事例をもっと知りたい!という方は、記事の最後に18事例をまとめたリンクを記載しておくので、ぜひ日々の業務にご活用ください。
嘔吐した利用者に対するアセスメントのポイント
嘔吐した利用者に対するアセスメントのポイントは、以下が考えられます。
- アセスメントのポイント
- ・バイタルサインの変化
・嘔吐した原因はなにか
・嘔吐する前、いつもと違う様子はなかったか
・すぐに医師に報告するのが望ましいか
このポイントを頭に入れながら、フィジカルアセスメントをしていきましょう。
嘔吐した利用者に対するフィジカルアセスメントの方法
フィジカルアセスメントは、基本形(問診(主観的評価)→フィジカルイグザミネーション(客観的評価)→アセスメント(評価分析)→ケア・報告)に則って進めてまいります。
そもそもフィジカルアセスメントって何?どうやって進めていくの?と悩んでいる人は、まずはコチラの記事(訪問看護における"フィジカルアセスメントの目的と順番)を見てみよう!
"訪問看護における"フィジカルアセスメントの目的と順番【事例まとめ 】
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問診(主観的評価)
フィジカルアセスメントの基本として、まずは問診をすることが望ましいのですが、嘔吐をした利用者は”それどころではない”可能性があります。
もし、会話ができる場合は以下の点を中心に聞きましょう。
- 今の気分はどうか
- 痛いところはあるか
- 苦しさはあるか
- 最近吐いたことはあるか
- なぜ吐き気が出たのか
- 食事の内容
- いつも通りトイレは行っているか(排便はあるか、下痢ではないか)
- いつもの内服薬は飲めているか
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嘔吐に随伴する症状を聞くだけで、原因となる疾患を推察することができます。
随伴症状 | 原因となる疾患の一例 |
腹痛がある | 胃炎、胃潰瘍、膵炎、肝炎など |
頭痛がある | くも膜下出血、髄膜炎など |
胸が痛い | 心筋梗塞、狭心症など |
めまいがする | 脳梗塞、脳出血、髄膜炎など |
下痢をしていた | 食中毒、胃腸炎など |
便秘をしていた | 腸閉塞など |
また、会話の中で構音障害の有無をチェックすることも重要です。
脳神経系の疾患が原因の場合は、いつもより呂律が回っていない様子や流涎を認める場合があります。
フィジカルイグザミネーション(客観的評価)
問診の精度にかかわらず、フィジカルイグザミネーション(客観的評価)を行うことが重要です。
その際、共通して以下の点に留意をして評価していきましょう。
- 客観的評価をする時に気をつけること
- ・前回訪問時との変化
・左右差の有無
・できるだけ数値化をする
バイタルサイン・意識レベル
嘔吐をしたら、すぐに誤嚥を防止する体位にして、バイタルサインの測定と意識レベルの確認をします。
バイタルサインや意識レベルによっては、すぐに救急要請をする必要があります。
特に以下の点には細心の注意を払いましょう。
- 呼吸数(増加しているか・減少しているか)
- 脈拍(徐脈か頻脈、不整脈の有無)
- 血圧(低下か上昇か)
- SpO2(低下していないか)
血圧 | 収縮期血圧:〜120mmHg |
拡張期血圧:〜80mmHg | |
脈拍 | 50~80回/分 |
体温 | 36.0度~36.9度 |
呼吸数 | 12~20回/分 |
意識レベルは「Japan coma scale(JCS)」や「Glasgow coma scale(GCS)」といった標準化されたもので評価しましょう。
Ⅰ.刺激しないでも覚醒している状態(1桁で表現) delirium、confusion、senselessness | 1.だいたい意識清明だが、今ひとつはっきりしない |
2.見当識障害がある | |
3.自分の名前・生年月日が言えない | |
Ⅱ.刺激により覚醒、刺激をやめると眠り込む状態(2桁で表現) stupor、lethargy、hypersomnia、somnolence、drowsiness | 10.普通の呼びかけで容易に開眼する. |
20.大きな声または体を揺さぶることにより開眼する.簡単な命令に応ずる. | |
30.痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すとかろうじて開眼する | |
Ⅲ.刺激をしても覚醒しない状態(3桁で表現) deep coma、coma、semicoma | 100.痛み刺激に対し、払いのけるような動作をする |
200.痛み刺激で少し手足を動かしたり、顔をしかめる | |
300.痛み刺激に反応しない |
覚醒状態により3群に分類、次に各群を各種刺激に対する反応で3段階に分類、全体で9段階に分類されています。
不穏状態があればR(restlessness)、失禁があればI(incontinence)、無動性無言があればA(akinetic mutism、apallic state)をそれぞれ数字の後につけます(100-I、20-RIなど)。
観察項目 | 反応 | スコア |
開眼 eye opening | 自発的に開眼 spontaneous | 4 |
音声により開眼 to speech | 3 | |
疼痛により開眼 to pain | 2 | |
開眼しない nil | 1 | |
最良言語反応 verbal response | 見当識あり orientated | 5 |
錯乱状態、会話混乱 confused conversation | 4 | |
不適当な言葉、言語混乱 inappropriate words | 3 | |
理解不能な声 incomprehensible sounds | 2 | |
発語しない nil | 1 | |
最良運動反応 motor response | 命令に従う obeys | 6 |
疼痛部認識可能 localises | 5 | |
四肢の逃避反応 flexes withdraws | 4 | |
四肢の異常屈曲反応 abnormal flexion | 3 | |
四肢の伸展反応 extends | 2 | |
全く動かない nil | 1 |
言語や疼痛刺激に対する開眼反応・言語反応・運動反応の3項目について、その反応性をスコアの合計(E+V+M)により評価をします(15点満点、最低3点)。
その他、瞳孔・対光反射やショック徴候がないかもチェックします。
特に、もともと食事・水分摂取量が少ない利用者の場合は、嘔吐を機に脱水となり、ショック状態になってしまうことも少なくありません。
基本的に、ショック状態では頻脈となりますが、嘔吐をしている際は交感神経を抑制していることがあり徐脈を示すこともあります。
①瞳孔径のサイズを測定して左右不同の有無などを確認します。
②眼の外側から内側に向かって光を当てます。
正常:瞳孔が迅速に縮瞳
異常:瞳孔の縮瞳が遅延、またはしない
*瞳孔の正常値:2.5~4.0㎜(5mm以上:散瞳、2mm以下:縮瞳)
1.皮膚・顔面蒼白(Pallor)
2.発汗・冷汗(Perspiration)
3.虚脱(Prostration)
4.脈拍微弱・触知不能(Pulselessness)
5.呼吸不全(Pulmonary insufficiency)
視診
視診では、四肢や口角の動きに左右差がないか、腹部膨満の有無を中心にみます。
突然嘔吐があった場合は、「頭蓋内圧亢進症」によるものか、「消化器系の障害」によるものかを考えるのが一般的です。
頭蓋内圧亢進症における嘔吐の場合は、脳出血や髄液の増加などが考えられるため、四肢や口角に麻痺が出現することがあります。
一目でわかるくらいに動きが悪ければ判定に迷うことはありませんが、私たちが見逃してはいけないのは「軽微な麻痺」です。
軽微な麻痺は、バレー徴候を用いて判断すると良いでしょう。
立位または座位で両上肢を手掌面を上に向けたまま肩関節90度前方挙上位に保持しておくように指示をします。
この時、麻痺側の上肢は下降しながら回内してきます。
腹臥位において両側の膝関節を45度屈曲位に保持しておくように指示をします。
この時、麻痺の下肢は落下してきます。
消化器系の障害の場合は、腸内にガスや便が貯留しているため、下から出ることができずに嘔吐として吐き出します。
腹部が膨満しているかどうかを視診するとともに、触診や打診、聴診もあわせて確認しましょう。
また、嘔吐物そのものの色からも原因がわかることがあります。
透明粘稠の液体 | 胃液 |
黄色〜緑色の液体 | 胆汁 |
褐色〜黒色でコーヒー残渣様 | 胃酸で変性した血液 |
触診
視診で腹部膨満が確認されたら、触診をして硬さを評価しましょう。
触診でも硬さを確認できたら、打診→聴診で精査していきます。
また、頭蓋内圧亢進症は頸部の硬さを触診することでも判定することができます。
首の後ろ側を触って硬さが見られている場合や、顎が胸につかない場合は、頭蓋内圧が亢進している可能性があります。
ただし、高齢者になると関節可動域は狭まるため、もともと出来ない人も多くいます。
普段の状態をチェックしておくことも大切でしょう。
打診
打診にてガス・便の貯留などを確認します。
腸に貯留物がない場合は、鼓音という太鼓がなるような音がします。
しかし、便の詰まりがあると、濁音という何かが詰まっているような音がします。
聴診
目的に合わせて聴診をしていきます。
例えば、消化器系の障害に起因する嘔吐と考えれば、腸を聴診して蠕動音の確認をします。
心疾患に起因すると考えれば、腹水の有無などを確認します。
また、嘔吐により誤嚥をしている可能性もあるため、肺音を聴診することも重要です。
肺炎が疑われる場合は、バリバリという捻髪音やボコボコという水泡音が確認できます。
詳しくは、こちらの記事(「ちょっと苦しい…」呼吸苦を訴える利用者のフィジカルアセスメント)で詳しく書いているので参考にしてください。
「ちょっと苦しい…」呼吸苦を訴える利用者のフィジカルアセスメント
続きを見る
日常生活動作・歩行
嘔吐後、状態が落ち着いていたら、いつもと変わらない日常生活動作や歩行ができるかを確認しましょう。
止まっている状態で何も問題がなさそうに見えても、粗大動作(大きな動作)をさせると症状が浮き彫りになることがあります。
「いつもよりふらつきが大きい」「トイレにいけなくなっている」
このような場合は、何かしらの影響が出ていると考えます。
病院の受診を促して精査をしたり、頻回に訪問をして状態観察していくことが望まれます。
報告の方法・ポイント
一般的に、普段と違うことが起こったらケアマネジャー・主治医に報告します。
ケアマネジャーには、どのような些細なことであれ報告をしておくと後のトラブル回避に繋がります。
主治医にも報告をすることが望ましいですが、往診かその他か、または訪問看護との関係性によっても変わってくるかと思います。
基本的に、往診であれば些細なことでも報告した方が良いでしょう。
もちろん、緊急性が高い場合は、訪問をしているその場で連絡を入れます。
電話するほどではないかな…という場合は、FAXで報告するのも一つです。
報告の際は、以下の点を踏まえると良いでしょう。
- 本日の訪問の様子
(→例:本日訪問時、嘔吐をされました。) - 評価した結果と対応したこと
(→例:5日間排便がないとのことで、腹部膨満とガス・便の貯留を認めました。摘便を実施し、お椀1杯分の排便を確認しております。) - その後の様子(→例:その後は気分不快が消失し、いつも通りの生活が送れることを確認しております。)
報告後は排便をしやすく薬が処方されるなどの調整をしてくれるかもしれません。
私たちには同じことを繰り返さないようにする任務があります。
薬はしっかりと飲めているか、なかなか排便がないようであれば訪問回数を増やして摘便をするかなど、未然に防ぐ関わりをしていきましょう。
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訪問看護におけるフィジカルアセスメント18事例まとめ
今回ご紹介した事例以外にも、当サイトでは訪問看護におけるフィジカルアセスメントを18事例掲載しています。
どれも訪問看護ではあるあるの事例なので、ぜひ日々の業務にご活用ください!
- 「昨日転んじゃってね…」転倒した利用者に対するフィジカルアセスメント
- 「あれ、言ってることがおかしい…」認知症が疑われる利用者のフィジカルアセスメント
- 「ちょっと苦しい…」呼吸苦を訴える利用者のフィジカルアセスメント
- 「うわ!むくみが強くなってる!」浮腫がある利用者に対するフィジカルアセスメント
- 「いきなり吐いた!」嘔吐した利用者のフィジカルアセスメント
- 「ぐるぐる回ってる感じがする…」めまいがある利用者のフィジカルアセスメント
- 「体温が高い!」発熱している利用者のフィジカルアセスメント
- 「お腹が痛い…」腹痛を訴える利用者のフィジカルアセスメント
- 「うっ……胸が痛い…」胸痛を訴える利用者のフィジカルアセスメント
- 「皮膚が赤くなってる!」褥瘡がある利用者のフィジカルアセスメント
- 「なんかぼんやりしてる…?」意識レベルが低い利用者のフィジカルアセスメント
- 「ん…?骨折れてない…?」骨折が疑われる利用者のフィジカルアセスメント
- *「なんかダルいんだよな…」倦怠感を訴える利用者のフィジカルアセスメント
- *「あれ?動きが悪い…」身体機能が低下した利用者のフィジカルアセスメント
- *「手がかじかむわね…」手指の冷感がある利用者のフィジカルアセスメント
- *「おしっこ出てない…」排尿がない利用者のフィジカルアセスメント
- *「ウンチが出ない…」排便がない利用者のフィジカルアセスメント
- *「血糖値が低い…!」低血糖の利用者に対するフィジカルアセスメント
*とあるコメディカル【premium】のみで公開
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