※当サイトでは記事内にアフィリエイト広告を含む場合があります。
”訪問看護における”フィジカルアセスメントの事例集。
今回、想定するシチュエーションは、腹痛を訴える利用者に対するフィジカルアセスメントです。
今回想定するシチュエーション
「お腹が痛い…」
腹痛を訴える利用者に対するフィジカルアセスメント
腹痛は緊急性が低いものから、生命に関わるものまで原因は多岐に渡ります。
「冷やしたんでしょ〜」などと安易に考えず、しっかりと原因をアセスメントすることが求められます。
この記事では、腹痛を訴える利用者に対するアセスメントの方法をお伝えするとともに、報告のポイントまでご紹介してまいります。
このような事例をもっと知りたい!という方は、記事の最後に18事例をまとめたリンクを記載しておくので、ぜひ日々の業務にご活用ください。
腹痛を訴える利用者に対するアセスメントのポイント
腹痛を訴える利用者に対するアセスメントのポイントは、以下が考えられます。
- アセスメントのポイント
- ・腹痛の原因
・他にはどのような症状が出ているか
・すぐに医師に報告するのが望ましいか(緊急性の有無)
一言で腹痛といっても、裏側には様々な疾患が潜んでいることがあります。
「この腹痛はどこからきているのか」という点は常に頭に入れてアセスメントするようにしましょう。
腹痛は、痛みが生じている部位によって原因を推察することができます。
心窩部(みぞおち) | 狭心症、心筋梗塞、胃炎など |
臍部 | イレウス、腸炎、急性大動脈瘤解離など |
右上腹部 | 胆石発作、胆嚢炎、右腎疾患など |
左上腹部 | 脾梗塞、胸膜炎、左腎疾患など |
右下腹部 | 虫垂炎、右尿管結石、潰瘍性大腸炎など |
左下腹部 | S状結節軸捻転、過敏性大腸症候群、左尿管結石など |
下腹部全体 | 膀胱炎、骨盤腹膜炎など |
腹部全体 | イレウス、腹部大動脈瘤破裂、腸炎、膵炎など |
この中でも、緊急度が高い疾患は、心筋梗塞、急性大動脈解離、腹部大動脈解離です。
腹痛を訴える利用者に対するフィジカルアセスメントの方法
フィジカルアセスメントは、基本形(問診(主観的評価)→フィジカルイグザミネーション(客観的評価)→アセスメント(評価分析)→ケア・報告)に則って進めてまいります。
そもそもフィジカルアセスメントって何?どうやって進めていくの?と悩んでいる人は、まずはコチラの記事(訪問看護における"フィジカルアセスメントの目的と順番)を見てみよう!
"訪問看護における"フィジカルアセスメントの目的と順番【事例まとめ 】
続きを見る
問診(主観的評価)
まずは問診をしていきましょう。
聞くべき内容は、以下が考えられます。
- いつから痛みがあるのか
- 痛い場所はどこか
- どのように痛いのか
(→圧迫される、縛られる、引き裂かれる、焼けるなど) - どのくらい痛いのか
(→*VASなどで数値化をする) - 痛みが落ち着く時はあるか
(→持続性を判断) - 他に痛いところはあるか
(→放散痛の有無など) - 食事の内容
(→生モノを食べたかなど) - いつもの内服薬は飲めているか
- 日常生活はいつも通りできているか
(→トイレに行けているか、食事はできているかなど)
VAS(Visual Analogue Scale):視覚的アナログスケール
10㎝の直線を引き、0㎝が全く痛みがない場合、10㎝が今まで経験した中で最も激しい痛みとして、現在の痛みを直線上にプロットさせる方法。
痛みの強さは0からの距離を測って評価する。
とあるコメディカル【premium】では、問診票をはじめとする、現場で必須な書類を300種類以上公開しています。
「無駄な作業を減らしたい!」という人は、ぜひチェックしてみてください!
300種類以上の書類がダウンロードし放題!
特に以下のような症状が見られた場合は、緊急度が高い可能性があります。
- 突然の発症である
- 今までに経験したことのないような激痛である
- 痛みの部位が移動する
その他の評価次第ではありますが、このような状況が見られた場合はすぐに医師に連絡、もしくは救急要請を選択肢に入れましょう。
腹痛を訴える利用者は、程度によっては会話も苦痛になることがあります。
状況に合わせて、必要最低限の問診にすることが望ましいでしょう。
本人から聞けない情報は、家族から聴取するようにしましょう。
フィジカルイグザミネーション(客観的評価)
問診の精度にかかわらず、フィジカルイグザミネーション(客観的評価)を行うことが重要です。
その際、共通して以下の点に留意をして評価していきましょう。
- 客観的評価をする時に気をつけること
- ・前回訪問時との変化
・左右差の有無
・できるだけ数値化をする
バイタルサイン・意識レベル
バイタルサインを測定し、緊急度の高さを推察します。
血圧上昇または低下、徐脈や不整を認めたら緊急度が高いと判断します。
血圧 | 収縮期血圧:〜120mmHg |
拡張期血圧:〜80mmHg | |
脈拍 | 50~80回/分 |
体温 | 36.0度~36.9度 |
呼吸数 | 12~20回/分 |
腹痛がある利用者の場合、最も気をつけなければならないのがショック徴候です。
腹痛とともにショック徴候がある場合は、急性大動脈解離や腹部大動脈破裂といった生命に直結する可能性があります。
1.皮膚・顔面蒼白(Pallor)
2.発汗・冷汗(Perspiration)
3.虚脱(Prostration)
4.脈拍微弱・触知不能(Pulselessness)
5.呼吸不全(Pulmonary insufficiency)
意識レベルに変化がないかもあわせて評価しましょう。
意識レベルは「Japan coma scale(JCS)」や「Glasgow coma scale(GCS)」といった標準化されたもので評価します。
Ⅰ.刺激しないでも覚醒している状態(1桁で表現) delirium、confusion、senselessness | 1.だいたい意識清明だが、今ひとつはっきりしない |
2.見当識障害がある | |
3.自分の名前・生年月日が言えない | |
Ⅱ.刺激により覚醒、刺激をやめると眠り込む状態(2桁で表現) stupor、lethargy、hypersomnia、somnolence、drowsiness | 10.普通の呼びかけで容易に開眼する. |
20.大きな声または体を揺さぶることにより開眼する.簡単な命令に応ずる. | |
30.痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すとかろうじて開眼する | |
Ⅲ.刺激をしても覚醒しない状態(3桁で表現) deep coma、coma、semicoma | 100.痛み刺激に対し、払いのけるような動作をする |
200.痛み刺激で少し手足を動かしたり、顔をしかめる | |
300.痛み刺激に反応しない |
覚醒状態により3群に分類、次に各群を各種刺激に対する反応で3段階に分類、全体で9段階に分類されています。
不穏状態があればR(restlessness)、失禁があればI(incontinence)、無動性無言があればA(akinetic mutism、apallic state)をそれぞれ数字の後につけます(100-I、20-RIなど)。
観察項目 | 反応 | スコア |
開眼 eye opening | 自発的に開眼 spontaneous | 4 |
音声により開眼 to speech | 3 | |
疼痛により開眼 to pain | 2 | |
開眼しない nil | 1 | |
最良言語反応 verbal response | 見当識あり orientated | 5 |
錯乱状態、会話混乱 confused conversation | 4 | |
不適当な言葉、言語混乱 inappropriate words | 3 | |
理解不能な声 incomprehensible sounds | 2 | |
発語しない nil | 1 | |
最良運動反応 motor response | 命令に従う obeys | 6 |
疼痛部認識可能 localises | 5 | |
四肢の逃避反応 flexes withdraws | 4 | |
四肢の異常屈曲反応 abnormal flexion | 3 | |
四肢の伸展反応 extends | 2 | |
全く動かない nil | 1 |
言語や疼痛刺激に対する開眼反応・言語反応・運動反応の3項目について、その反応性をスコアの合計(E+V+M)により評価をします(15点満点、最低3点)。
視診
腹部の視診によって、ある程度疾患を推察することができます。
腹部の状態 | 疑うべき疾患 |
腹部膨隆がある | 腹水、宿便、腫瘍など |
鼠径部の膨隆がある | 鼠径ヘルニア |
臍周囲・側腹部が暗赤色 | 急性膵炎 |
腸の蠕動が見える | イレウス |
臍を中心に静脈怒張がある | 肝硬変 |
腹部膨隆では、「全体的」か「局所的」かに注意をして視診します。
膨隆が全体的に見られている場合は、以下のようなことが考えられます。
- 腸閉塞、便秘、消化管穿孔などによりガスが溜まっている状態
- 肝硬変、心不全、悪性腫瘍などにより腹水が溜まっている状態
局所的に見られている場合は、部位によっても疾患を予測することができます。
心窩部(みぞおち) | 肝疾患、膵疾患、腹壁ヘルニアなど |
右季肋部 | 肝がんなど |
左季肋部 | 脾腫、特発性門脈圧亢進症など |
側腹部 | 水腎症、嚢胞性腎疾患 |
下腹部 | 子宮腫瘍、卵巣腫瘍など |
また、腹部だけではなく利用者の表情や姿勢にも注意をします。
表情でも痛みの程度を推測できますし、姿勢(常に前かがみでいるなど)からもヒントを得ることができます。
触診
触診では、「圧迫をした時の痛みの変化」と「腹壁の硬さ」を中心にみましょう。
腹膜に炎症などが起こると、腹膜刺激症状を認めることがあります。
腹膜刺激症状の代表的なものに、ブルンベルグ徴候と筋性防御があります。
ブルンベルグ徴候とは:腹部を手のひらで徐々に圧迫していき、手を離すとはっきりとした痛みを生じる
筋性防御とは:腹部を手のひらで圧迫したとき、腹壁が固くなっているのを感じる
腹膜刺激症状は、確認された時点で全身状態が悪化している可能性があります。
また、虫垂炎の診断には、マックバーニー圧痛点やランツ圧痛点があります。
圧迫をして痛みがあるかどうかをチェックしましょう。
打診
腹部を打診して、鼓音や濁音の有無を評価しましょう。
ただし、腹部大動脈瘤破裂の疑いがある場合、打診は禁忌となります。
正常な打診音の特徴は以下にまとめておきます。
音の種類 | 音の特徴 | 臓器 |
鼓音 | 太鼓がなるような音 | 胃・腸 |
濁音 | 詰まったような音 | 心臓・肝臓 |
共鳴音 | 響くような音 | 肺 |
過共鳴音 | 共鳴音よりも響く音 | 肺(肺気腫) |
無共鳴音 | 響がない音 | 筋肉 |
例えば、腸に貯留物がない場合は鼓音がしますが、便の詰まりがあると濁音がします。
聴診
聴診では、主に「腸蠕動音」を評価します。
腸蠕動音は、消化管内をガスや便が移動するときに発生する音です。
通常、グルグル・ゴロゴロという音が5~15秒ごとに聴診できます。
腸蠕動音の異常により、疾患を予測することができます。
腸蠕動音 | 定義 | 考えられる疾患 |
消失 | 5分間音が聞こえない | イレウスなど |
亢進 | 1分間に35回以上聞こえる | 胃腸炎、下痢など |
減少 | 1分間音が聞こえない | 腹膜の炎症、便秘など |
その他 | 金属音などの異常 | 腸管の狭窄など |
また、血管雑音が聴診された場合は、腹部大動脈瘤破裂の疑いがあります。
聴診をする際は、聴診器の使い分けも重要になります。
基本的に蠕動音は「膜型(ダイアフラム面)」、血管音は「ベル型(ベル面)」で聴取します。
事務所で用意されている聴診器はベル面がないものが多く、しかも安価に済ませていることがあります。
これを機に、自分専用の聴診器を用意しておくのもありでしょう。
聴診器は、圧倒的に「リットマン」がオススメ!
「膜型(ダイアフラム面)」と「ベル型(ベル面)」が一体化されているものを選びましょう!
報告の方法・ポイント
一般的に、普段と違うことが起こったらケアマネジャー・主治医に報告します。
ケアマネジャーには、どのような些細なことであれ報告をしておくと後のトラブル回避に繋がります。
主治医にも報告をすることが望ましいですが、往診かその他か、または訪問看護との関係性によっても変わってくるかと思います。
基本的に、往診であれば些細なことでも報告した方が良いでしょう。
もちろん、緊急性が高い腹痛に関しては、その場で報告をして指示を仰ぎます。
緊急性が低いと判断した場合は、FAXで報告するのも良いでしょう。
報告の一例は以下の通りです。
- 本日の訪問の様子
(→例:本日訪問時、腹痛の訴えがありました。) - 評価した結果
(→例:バイタルサインは正常、腹痛はNRS3程度で日常生活は問題なく送れていました。腹部全体に膨隆を認め、聴診・打診にて便の貯留を認めました。5日間排便がなかった模様です。) - 対応したこと
(→例:摘便を実施し、片手一杯分の排便を認めました。その後は腹痛の症状は消失しております。)
報告をする際は状態を伝えるだけではなく、対応したことやその結果まであわせると親切です。
便に関する問題が頻発するようであれば、薬の調整などを提案する必要もあるでしょう。
とあるコメディカル【premium】では、医師・ケアマネへの報告文章を100例以上公開しています。
「どのように報告したら良いか分からない」「いつも緊張してしまう」という人は、ぜひ参考にしてみてください!
医師・ケアマネへの報告文章アイデアが100例以上!
訪問看護におけるフィジカルアセスメント18事例まとめ
今回ご紹介した事例以外にも、当サイトでは訪問看護におけるフィジカルアセスメントを18事例掲載しています。
どれも訪問看護ではあるあるの事例なので、ぜひ日々の業務にご活用ください!
- 「昨日転んじゃってね…」転倒した利用者に対するフィジカルアセスメント
- 「あれ、言ってることがおかしい…」認知症が疑われる利用者のフィジカルアセスメント
- 「ちょっと苦しい…」呼吸苦を訴える利用者のフィジカルアセスメント
- 「うわ!むくみが強くなってる!」浮腫がある利用者に対するフィジカルアセスメント
- 「いきなり吐いた!」嘔吐した利用者のフィジカルアセスメント
- 「ぐるぐる回ってる感じがする…」めまいがある利用者のフィジカルアセスメント
- 「体温が高い!」発熱している利用者のフィジカルアセスメント
- 「お腹が痛い…」腹痛を訴える利用者のフィジカルアセスメント
- 「うっ……胸が痛い…」胸痛を訴える利用者のフィジカルアセスメント
- 「皮膚が赤くなってる!」褥瘡がある利用者のフィジカルアセスメント
- 「なんかぼんやりしてる…?」意識レベルが低い利用者のフィジカルアセスメント
- 「ん…?骨折れてない…?」骨折が疑われる利用者のフィジカルアセスメント
- *「なんかダルいんだよな…」倦怠感を訴える利用者のフィジカルアセスメント
- *「あれ?動きが悪い…」身体機能が低下した利用者のフィジカルアセスメント
- *「手がかじかむわね…」手指の冷感がある利用者のフィジカルアセスメント
- *「おしっこ出てない…」排尿がない利用者のフィジカルアセスメント
- *「ウンチが出ない…」排便がない利用者のフィジカルアセスメント
- *「血糖値が低い…!」低血糖の利用者に対するフィジカルアセスメント
*とあるコメディカル【premium】のみで公開
また、「紙ベースで持ち歩きたい!」「困ったとき現場で見たい!」「お守りとしてカバンに入れておきたい!」という声を多くいただいたことから、フィジカルアセスメント集をまとめた印刷物も販売しております。
おかげさまで2,500冊以上の販売実績がある、大変ご好評いただいている販売物となっております。
興味がある方は、コチラの記事(訪問看護におけるフィジカルアセスメント集販売ページ【印刷物】)をぜひ参考にしてみてください。
訪問看護計画書・訪問看護報告書の記載例も大好評販売中です♪
訪問看護計画書・報告書の記載例・フィジカルアセスメント事例集販売ページ
続きを見る