会員限定記事

「手がかじかむわね…」手指の冷感がある利用者のフィジカルアセスメント

”訪問看護における”フィジカルアセスメントの事例集。

今回、想定するシチュエーションは、手指の冷感がある利用者に対するフィジカルアセスメントです。

今回想定するシチュエーション

「手がかじかむ…」「指が冷たい…」
手指の冷感がある利用者に対するフィジカルアセスメント

特に冬場になると、手指の冷感を訴える利用者は多くなります。

多くは末梢循環不全によるものですが、もしかしたら重大な疾患が潜んでいる可能性も。

この記事では、手指の冷感がある利用者に対するアセスメントの方法をお伝えするとともに、報告のポイントまでご紹介してまいります。

手指の冷感がある利用者に対するアセスメントのポイント

手指の冷感がある利用者に対するアセスメントのポイントは、以下が考えられます。

アセスメントのポイント
・冷感の原因
・他にはどのような症状が出ているか
・すぐに医師に報告するのが望ましいか(緊急性の有無)

冷感は若年者でも見られる症状であるため、深刻に考えることは少ないかもしれません。

ただし、状態によっては重大な疾患を教えてくれるサインかもしれないのです。

「この冷感はどこからきているのか」、そして「緊急性が高い疾患なのか」という点は常に頭に入れてアセスメントするようにしましょう。

手指の冷感がある利用者に対するフィジカルアセスメントの方法

フィジカルアセスメントは、基本形(問診(主観的評価)→フィジカルイグザミネーション(客観的評価)→アセスメント(評価分析)→ケア・報告)に則って進めてまいります。

問診(主観的評価)

まずは問診をしていきましょう。

聞くべき内容は、以下が考えられます。

  • いつから冷感があるのか
    (→何をしている時に起きたか、始まった時の様子など)
  • どのような時に冷たくなるか
    (→何かキッカケはあるか、常に冷たいのか、治る時はあるのかなど)
  • 痛みは伴うか
    (→ピリピリする、縛られる、引き裂かれる、焼けるなど)
  • 痛みがある場合、どのくらい痛いのか
    (→*VASなどで数値化をする)
  • 手指以外にも症状はあるか
    (→足先も冷たい、首が痛いなど)
  • 冷感、痛み以外の症状はあるか
    (→苦しい、吐き気、めまいなど)
  • いつもの内服薬は飲めているか
  • 日常生活はいつも通りできているか
    (→トイレに行けているか、食事はできているかなど)

これら問診をすることで、ある程度原因を予測することができます。

手指の冷感を引き起こす原因は、「閉塞性動脈疾患」「機能性動脈疾患」「末梢動脈瘤」に分けられます。

閉塞性動脈疾患
末梢動脈の狭窄や閉塞により起こります。

・急性動脈血栓症
・動脈塞栓症
・急性大動脈解離
・外傷(骨折や捻挫など)
・閉塞性動脈硬化症
・閉塞性血栓血管炎
・膠原病
・大動脈炎症症候群

機能性動脈疾患
・レイノー病:原因不明、左右対称に四肢末梢の血流低下を引き起こす。40代女性に多い。

・レイノー症候群:発生機序はレイノー病と同じだが、年齢・性差はなく、必ずしも血流低下は認めない。

末梢動脈瘤
動脈硬化が主な原因。腹部大動脈瘤などの合併率が高い。

見ていただきわかる通り、大動脈解離など緊急度が高い疾患も含まれています。

緊急度が高い疾患が見られている場合は、すぐに医師に連絡、もしくは救急要請を選択肢に入れましょう。

フィジカルイグザミネーション(客観的評価)

問診の精度にかかわらず、フィジカルイグザミネーション(客観的評価)を行うことが重要です。

その際、共通して以下の点に留意をして評価していきましょう。

客観的評価をする時に気をつけること
・前回訪問時との変化
・左右差の有無
・できるだけ数値化をする

バイタルサイン・意識レベル

バイタルサインを測定して、いつもと変わりがないかを評価します。

ただし、手指の冷感がある場合はSpO2が正確に測定できない場合があります。

手指を温めてから測定をしたり、その他のバイタルサイン・評価から推察することも大切になります。

大動脈解離では血圧の左右差を認めるため、疑わしい場合は左右両方測定するようにしましょう。

この時、最も気をつけなければならないのがショック徴候です。

収縮期血圧が90mmHg以下、呼吸促迫(25回/分以上)であればショック状態である可能性が高まります。

ショック徴候があれば、生命に直結する緊急度が高い状態であると判断できます。

昨今は電動血圧計やサチュレーションモニターでも脈拍を測定することができますが、強さや不整脈は直接指で触った時の感覚も重要な評価になります。

末梢動脈閉塞部位の判断にも役立つため、指で脈拍を測る習慣をつけておきましょう。

閉塞しやすい動脈
大腿動脈、膝窩動脈、上腕動脈、腋窩動脈、鎖骨下動脈、腸骨動脈

意識レベルに変化がないかもあわせて評価しましょう。

意識レベルは「Japan coma scale(JCS)」「Glasgow coma scale(GCS)」といった標準化されたもので評価します。

視診

まずは、四肢末端の蒼白チアノーゼの有無を確認しましょう。

これらは心不全によるショック状態で確認されるため、認めた場合は緊急度が高いと推察されます。

特にチアノーゼは中心性に見られた場合、緊急度は高くなります。

  • 中心性チアノーゼ:くちびるが青っぽくなっている。心機能の低下で出現
  • 末梢性チアノーゼ:手足が青っぽくなっている。血管系の狭窄・閉塞で出現

また、急性心筋梗塞や大動脈解離を原因とする場合は、起座呼吸を認めます。

どのような姿勢をとっているか、いつもと違う姿勢をしていないかという視点も重要になります。

出血による冷感を認める場合は、全身に出血班打撲痕がないかを確認します。

転倒が疑われる場合は、骨折の有無もあわせて確認します。

骨折の場合は、骨の変形・転移・関節可動域の異常を認めます。

臥位で足を伸ばしてもらい、長さに差がある場合は大腿骨頸部骨折などが疑われます。

触診

問診で痛みがあった場合は、その部位を中心に触診していきます。

また、末梢循環不全を評価するため、毛細血管再充満時間(CRT)を確認することも重要です。

爪を5秒間圧迫した後に解除をすると、通常は2〜3秒以内にピンク色に戻りますが、末梢循環不全がある場合はそれ以上の時間を要します。

打診

胸部や腹部に痛みや打撲痕があった場合、打診をして鼓音や濁音の有無を評価しましょう。

正常な打診音の特徴は以下にまとめておきます。

音の種類音の特徴臓器
鼓音太鼓がなるような音胃・腸
濁音詰まったような音心臓・肝臓
共鳴音響くような音
過共鳴音共鳴音よりも響く音肺(肺気腫)
無共鳴音響がない音筋肉

通常、肺は共鳴音、腹部は鼓音がしますが、濁音を認める場合は出血の恐れが考えられます。

聴診

心疾患や循環器不全が疑われる場合、呼吸音を聴取しましょう。

推奨される聴診の順番と呼吸音の特徴は以下の通りです。

正常音音調強さ
気管(支)音高い大きい
気管支肺胞音
肺胞音低い軟らか

まず、聴診をする際は「呼吸音が聞こえるか」「呼吸音は強いか・弱いか」をチェックします。

呼吸音疑うべき状態・疾患
聞こえない無気肺・呼吸停止など
強い過呼吸・肺炎・肺繊維症など
弱い無気肺・気胸・肺気腫・胸水貯留など

この時、正常ではない音があるかどうかも同時にチェックします。

正常ではない音を副雑音と言います。

副雑音の種類と特徴は以下の通りです。

音の特徴疑うべき疾患
いびき音(ブーブー)低くいびきのような音気管の狭窄など
笛音(ピーピー)高く笛を吹いているような音気管支喘息、気管支の炎症など
捻髪音(バリバリ)高く小さい音間質性肺炎、肺炎・心不全の初期など
水泡音(ボコボコ)沸騰しているような音肺炎、肺水腫、分泌物(痰)など
摩擦音(ギュッギュッ)雪道を歩くような音転移性がんなど

呼吸音に異常がないのにSpO2の低下を認める場合は、肺血栓塞栓症が疑われます。

バイタルサインとの関連性にも注意してアセスメントすることが重要になります。

また、触診で脈拍を触知できなかった場合は、聴診器を使用して血流音を聴診しましょう。

報告の方法・ポイント

一般的に、普段と違うことが起こったらケアマネジャー・主治医に報告します。

ケアマネジャーには、どのような些細なことであれ報告をしておくと後のトラブル回避に繋がります。

主治医にも報告をすることが望ましいですが、往診かその他か、または訪問看護との関係性によっても変わってくるかと思います。

基本的に、往診であれば些細なことでも報告した方が良いでしょう。

もちろん、緊急性が高いと判断した場合は、その場で報告をして指示を仰ぎます。

緊急性が低いと判断した場合は、FAXで報告するのも良いでしょう。

報告の一例は以下の通りです。

  • 本日の訪問の様子
    (→例:本日訪問時、手指の冷感の訴えがありました。)
  • 評価した結果
    (→例:バイタルサインは正常、手指の冷え以外の症状はなく、いつも通りの生活は送れていました。)
  • その後の対応
    (→例:秋から冬にかけてのこの時期は毎年見られるとのことで、末梢循環不全によるものと考えます。緊急度は低いと考えますが、今後も症状に留意して介入してまいります。)

-会員限定記事

error: Content is protected !!